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yellLight  作者: 白咲・名誉
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十話



私の人生史上最大の事は今から神様に会う事だった。でも、ビーチには、日焼けを嗜む男が寝ているだけだった。


「私、海なんて見たことないんです。だからとてもワクワクしているんです」



 ふふふふと笑っていた。彼女のドレスのスカートの裾を膝までまくり上げる。



 海に足を付けた。冷たかったのか、スノーは身震いをした。バシャバシャ、足にまとわりつく水をかき分けて歩く。はしゃぐ。



半透明な浜の海に混ざってしまいそうなスノーの白くて細い足。



 私もチノパンをひざ下まで上げた。陸上をしていたころはボンレスハムといわれても仕方がないくらい太ももが膨らんでいた。今は当時よりは萎んだがまだ海で脱げるまでは細くはないので正直、スノーが羨ましかった。



 今日も大いに晴れていた。朝焼けに負けない程の白い日光が青い海に反射してきらきらと光っていた。暑い暑いと森や村で散々私は言っていたのに、海に着いた途端、海の涼しさで暑いと感じなくなった。



なぜか海という場所に来ると、過去の悩み事なんてどうでもよくなるんだろうか。




 私の後ろで、ドワーフ達がいた。私たちが先に海にまで来てしまったのに何も言わないという事は、普段から危険視をするような動物は出てこないんだろうか。



 きっとファンタジーの世界だからクマも丸いフォルムをしているんだろし人間に友好的なんだろう。はちみつ大好きとか言っていそう。



私も自分のジーンズをまくり上げて海の浅瀬に足を踏み込んだ。



炎天下、ただただ暑い。それを打ち消すほどにひんやりと冷たい海水。



 海の色は、青色といイメージとして定まっているがあんな鮮やかな青色はしていない。群青色の表記が正しい。その群青色の海が私のジーパンを濡らして、同じような色になった。



 賑やかにうるさく聞こえる人の喧騒なんかない。波が打ち、戻る。その音と私とスノーの笑い声だけだった。


 スノーホワイトとは昨日今日の仲なのに遠慮無く一緒にいられた。そして手で海水を掬い、お互いにかけ合ったりもしていた。不思議とスノーが醸し出す、雰囲気に飲み込まれ、楽しくはしゃいだ。彼女は悪人じゃない。そう彼女の笑顔をみて私は悟った。


 私と同じくらいの背丈で顔つきも皺が少なく、かといって幼すぎてもいない。きっと一つか二つ年下なんだろう。あの村では今私が見ているような砕けた笑みはしていなかった。


 結構な時間を二人は海に費やした。楽しくて楽しくてしょうがなかった。私も久しぶりに笑ったような気がした。


 ただ浜の周りをかけ回ったり水を掛け合ったりしているだけなのに、朝、森を歩いていた時に感じた疲れはいつの間にか吹っ飛んでいた。


そういえばドワーフ達は、と言えば皆自分が手にしている武器の整備をしていた。


 刃を研いだり、弓の弦を巻いたり、森に落ちている木の枝を拾ってきてそれを矢に加工してたりしていた。


 そして遊んでいた私たちもお腹がすき、ドワーフ達のもとへ向かった。できるだけはぐれないように私は、武器整備をしている皆を視界に入れながら遊んでいた。裸族の男は、両の手を頭に置いて眠っていた。



「もう遊び終わりましたかい?楽しかったですか?」


 大柄の小人のガンが聞いてきた。朝ごはんしか食べてないんだと言ってガンは、バスケットからチーズとパンを出して渡してくれた。


この二つに関しては正直、日本の物の方が美味しいと思った。


「ねえスノー」


 私はふと、隣で美味しそうにパンをかじる彼女を見て勝手に口が開いてしまった。ん?と顎を出して応えた。



「ねえ日焼けしないの?」



「えぇ、しないわよ。だって私はスノーホワイトだもの。死んでしまったお母さまが言っていた。私は、雪のように白く、どんな色にも染まらないってね。だから太陽も私の色素には敵わないようね」


 私の質問に目を見開いて驚いていたが、自分の経歴を喜んで話してくれた。きっと彼女の唯一誇れる身の上話なんだろう。



 またスノーは笑った。白い肌が日光の反射でもっと白くなった。彼女の歯や四肢、凡てが本当に真っ白だった。


 いいな。私は中学でずっと雨の日以外は外で走っていたから、やめた今でも肌は小麦色だった。対照的なんて言葉よく似合っていた。



「あのさ、あそこにいるおじさんさ、脱水症状とか大丈夫なの?」


 私はカバンから日焼け止めクリームを今更顔や首に塗りながら、ティンに日光浴をしているおじさんの方を指さした。


その瞬間から、皆怖い顔をし出した。



「あ、あの、旅の人。言ってなかったんだけどな・・・・・・、私らが住むあの森に人が迷い込む可能性ってk、極めて低いんですよ・・・・・・」



「え、うん。それは最初聞きましたけど、どうしたんですか」


 なぜか村の人たちは慌てていた。汗がだらだら零す人だっていた。尋常じゃない。暑さ故の量じゃなかった。


「いや、あの・・・ですね、ここって神が住まう世界なんですよ。・・・・・・私たちの村はその世界から間借りしている感じなんです」



「—————まあつまりは、あんたが指さした人は神様ってことだよ」


 私の後ろから声がした。頭を上げると私を覆い被すように、さっきの黒い人がいた。その神様がにやにやしていた。


「あぁあぁぁあ」


 皆、一同に、一斉に悲鳴を上げた。さっきまで遠くで寝そべっていたのに、いたはずなのに、そう認識していたのに、今後ろにいる。


「そんなに驚くなよ。心外だな」



「俺の名前はプロテウス。初めまして、古登平真子さん。旅の準備はもうできてるぜ」



雲一つない空で生まれる無音と、波の音と、鳥の鳴き声。



 私に周りにいる人たちは、一瞬、時が停まった。そして私は、自分の腕に塗っていたクリームを落とした。



私の中の‟神様”っていう存在に多少のずれが生まれた。

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