四、五話
私の目の前で泣いている人達が童話に出てくる、ドワーフやノーム、又は小人なんだろう。
私は、目を疑った。この世界に来てまだ、数時間しか経っていなかったからなのかそれとも私以外の会話が通じる人種がいることに驚いているのだろうか。
背が低くくてベストとズボンを履いている髭を生やした筋骨隆々な人達。三角の帽子をかぶるカラフルな服を着た背の低い人達。そしてその人達の背に合わせて造られている家。屋根がカラフルだった。
この環境を見てますます、ファンタジーな夢な世界に私は来ているんだと悟った。
「お願いします、この女の子を生き返らせてください。私たちこの村の人たちはあなたにできるだけの力添えをいたします」
「実は悪い老婆に毒を盛られたんです」
きっとドワーフだと思しきおじいさんが女の人が入っている棺桶の方を指さした。
齧り掛けの歯形が付いた、紫色のリンゴが置いてあった。
確実に白雪姫じゃん。
お願いしますと全員が口をそろえて私に頼み込んだ。
嘘でしょ私、キスするの?ここで?しかも死人だよ?
「え・・・、ちょっとぉ」
私は渋る。これが白雪姫ならば・・・。
「あの、多分白馬に乗った王子様が来てくれると思うんで・・・」
「この村を囲む森や木々には人を迷わせる魔力があるのです。ですがたまにあなたやこの女性のようにここへ迷い込んでしまう時があります。それは運命を湾曲させられるほどの力の持ち主しか神ががったような運だったからなのです。だから人が来る確率は・・・」
本当にたまたまでしかここへは来れないらしい。じゃあ私が手を尽くすしか無いわけだ。
「あの、考えさせてください」
私は、カバンから物語を取り出す。ページを開いてどうにかできる指示を探す。
【私は、この村の長の炭鉱夫に懇願される。私にしかできないと任された。私には知恵がある。】
つまり、ここで私は何かしないといけないのね・・・。
この棺に入っている人、本当に顔の造形整っているなぁ。ドレスから出る手や首は真っ白で本当に白雪姫なんだろうな。
あれ、確かアニメだと王子様がキスをして目を覚ます。・・・だった。
私はグリム童話を思い出す。グリム兄弟の方とドイツ民話の方も思い出す。
これは現実だ。仮に死人にキスをしたとしてそれで生き返っても私が病気になればどうなる?ロマンチックな事になるがそれでは本末転倒だ。生きて帰るのが前提だ。だったら私は別の方法を考える。
「そうだ」
私は、棺の方へ戻る。彼女を起こして背中を殴る。ゴウンと骨の鈍い音がした。
周りから悲鳴が聞こえる。
「あの!何をしているんですか!?」
村長はきっと、助けてくれと皆は懇願しているというのに、希望の綱は死者の冒涜をしている。そんな風に見られているのだろう。
村の人々は、私の体を抑えつける。だが、力がこもっていなかった。
「何の罪もない無垢な少女をこれ以上を辛い目に合わせないでください。この世界には神がいます。あなたは神に似た体を持つ悪魔なんですか?」
駄目だ。じゃあ原初の方だこれ。皆さんごめんなさい。
私は棺の縁を掴んで揺する。どうか、お腹なのか喉なのか分からないけれど体内にある毒りんごを吐き出してください。
念仏のように私は唱えて棺を揺らす力を強める。腕の力を込める。
皆、阿鼻叫喚だった。
しばらくして、
「うっぐう、ぼぉぉ」
この女性はマナー的な面で発してはいけない声を出して永眠から目を覚ました。
リンゴの欠片が口から出てきた。
「私はどうやら深い眠りについてしまっていたようです。皆さん、おはようございます」
悲鳴から歓声に変わった。悲しみの涙が喜びの涙に変わっていた。これから祭りでも開かれそうな、そんなテンションの上がり方だった。
私に握手を求めてくる人も大勢いた。
私は、悪魔から神様にでもこれで昇格したのだろうかね。
とりあえずこれで指示書の通りにはいったんだろうな。