三話
「はぁ、はぁ・・・。はぁ」
緑の葉が生い茂る木々の隙間から零れて光る日射が眩しい。
暑い。植物園の中のようにぬめっとする空気が気持ち悪い。
私はこの本の指示通り花畑からずっと歩き続けている。あたり一面咲いていた花畑からいきなり森に変わったのに私は驚いた。
私はこの道を二時間くらい歩いているが終わりが見えない。指示にはそのうち着くみたいなニュアンスで書いてあるので絶対に前に進み続けないといけない。
大丈夫、登山家は今の私の倍以上の時間、長い道のりをかけて山を登っているんだから。私も何とかなるはずだ。
部活に入っていた時から言い続けている大丈夫を今も使って自分を鼓舞する。
勝手に何も知らない場所に飛ばされて、縋る物はこの本のみだ。孤独に押しつぶされそうになるのを何としても振り払わないといけない。私は家に帰りたい。この思いだけを希望にして常に帰れる方法を考える。
本の世界やゲームの世界に入ってみたかったなんて子供のころ皆思うがまさかこんな形でファンタジーの世界の世界に入れるとは思ってもいなかった。
まあファンタジーの世界だからと思っても喉は乾くし、お腹も空く。
川が流れる音がするからきっと近くに行けば川があるのかもしれない。
だけど森や山で流れ出る水には寄生虫が潜んでいるしく、私は川で喉を潤すことはしなかった。
だからもしも水分で限界を迎えそうになった時だけ、カバンの中にある水の入ったペットボトルが私の命綱だ。
それまでは歩き続けて、少し木陰で休憩をする。そのサイクルを繰り返しして体力を温存を図っている。
一応、元陸上部だったし普通の人よりは体力はあるほうだし限界にはそうそう達しないだろう。そうであってほしい。
ちなみに私のカバンの中の荷物は、小型のウォークマンとスマートフォン、手で持ちながら歩きたくないから絡まったイヤホン、日焼け止めと足の痛み止め、メイプル味のカロリーメイトと水だけだった。
備えって大切だなと今噛み締めている。ウォークマンとスマホは元の世界に帰れるまではきっとそんなに役に立つことはないだろうから電源を切っておいた。
スマホの機能でコンパスがあるから物は試しにと北がどこなのか調べようとしたが、画面の中の針が縦横無尽に回っていて止まる気配がなかった。この世界で電子機器を活用するのは諦めた。
私は、サバイバル術の本を一度読んだことがあるのだが森で遭難した時に一番気を付けないといけないのがクマに遭遇することだ。
理由はまあ襲われたらひとたまりもなく食べられるからだろう。
都会暮らしの私からしたらクマに遭う事も非現実的に感じる。ただそれよりも虫やヒルに遭遇するのが一番の嫌だな。
今、何時なんだろう?
図書館で勉強をしていた時は十時くらいだった。そこからこの森を二時間ほど歩いている。計算してみると大体午後十二時くらいにはなっていると思う。
日本時間で陽が落ちるのは大体、夕方六時過ぎ。目測だがここの世界の太陽も同じように傾いているから、きっと日本時間と同じ時間帯で陽が沈むのだろう。
しかしここで発生する問題は夜をどう過ごすのか、だった。
私は、火の起こし方が分からないしマッチもライターも持っていない。だから残りの六時間弱にこの本の内容通りにしないといけない。
さっき木陰で休んでいた時に本のページをめくって指示を読んだ。ロキ?に飛ばされた時は何も考えられなかったが、考える時間が出来て冷静になれた。
今はこの指示の意味と私がやるべきことを読み解くのが優先だと思う。
【私は花畑から森に進む。ずっと固い土を歩くと足の裏が痛くなる。
この森を抜けた先で炭鉱夫や建築士達が住む村で泣きながら女の子の死を悲しんだ。私は知恵を絞り、皆の涙を拭う】
これがこの道を進んだ先にある指示であった。私の浅い18年の経験でどうしたらいいんだ・・・。
私は獣道なのか明らかに人の足で踏み均ならされている平坦な大地を進む指針にして歩いている。
まだ足は痛んでいない。ペットボトルの水も温存しながら飲んでいるからまだ半分はある。太陽も沈みそうにない。
虫の騒めきや時折する獣の鳴き声。ここは現代じゃない。ファンタジーの世界だ。想像もつかない生き物だっているんだ。私は身を守る物を持っていないから食い殺されないようにしないといけない。気を張り詰める。
そうやって歩いていた。ずっと進んでいた。風呂に入りたい。誰かに会いたい。
そして、奥から声が聞こえた。音が遠くてなんて発語しているのかは分からない。が人の声はした。やっと大課題をクリアしたのだろう。私は走れないから、早歩きで地を踏む。
そこは、確かに村であって背の低い男や女が泣いていたのだった。皆、棺桶を中心に輪を作って祈る者や悔しそうに泣いている背の低い人がいた。
「あっ、あなた様は、もしかして旅の薬師ですか?どうかこの娘を生き返らせてください。毒を盛られて息をしていないんです」
私の事を目に入った耳がとがった背の低いおじいさんが私に泣きながら願った。
おじさんに手を握られて棺桶のほうまで連れてかれた。
「おお・・・」と周りの人が私を見て驚いていた。
私は紅い漆が塗られた木の桶を除く。たくさんの種類の花が置かれていた。
「いや白雪姫じゃん」
青と白のドレスを着た、童話で語られる白雪姫が手を組んでそこで青ざめた表情で眠っていた。