十七話
日射が熱い。海がひんやりと冷たい。どちらとも心地が良い。そして両方の体感に脳みその処理が追い付けず、結局気持ちが悪い。
気を失っている間にいつのまにか浜に辿り着いてしまったようだ。
目が覚めたら白い砂間に私は横たわっていた。陽が照り付け、砂が熱くなっている。海水に服が浸っていて、鉛のように重たくなり、起き上がるのもがルい。
穴が作る渦で藻掻いていた、までは覚えている。視界が狭まっていて一緒に船から落とされたはずのスノーが見当たらない。
まだ体がある感覚はある。どこも欠損はしていない。五体満足で無事なのは理解した。でも、指先を動かす気力がわかない。
意識が鋭くなってきたら、殴られたような鈍い痛みの頭痛が襲ってきた。そりゃそうか、渦の中で私は、好き放題かき混ぜられていたんだ。脳みそだって上下左右に頭蓋骨の中で荒くシェイクされているはずだ。すごく痛い。血管が細くなっていて凝縮して血が走っていないのではないのかと思う。
例えるなら、万力で頭蓋骨を絞められている感じ。きっとあの時感じなかった痛みのツケを今、払わされているんだろう。
しばらくは考えようとしても痛みで遮られるのだろうな。
—————スノーはどこだろう?見当たらないのはさっきから分かっていた。だが、唐突にスノーが心配になってきた。私は歯を食いしばって、掌を砂に押し付けて腕に力を込めて、立ち上がろうとした。身体は今横になっているから重たく感じているだけで、立て上がれば軽くなるはずだ。
やれる。そう思って私は立ち上がった。
スノーに対して良からぬ想像をしてしまう。あの娘は優しいからどこかではぐれて誰かに売り飛ばされたら・・・?怖い男に連れ去れてしまったら?ここは西暦六世紀だ。法律なんて定まっていないんだ。悪い奴を取り仕切る組織だって、現代よりも機能はしていないだろうね。強いてやっているのは魔女狩りっていう名前のレイプくらいだ。
私の時代なら警察がいるから、そこに相談して探し出すこともできる。でもこの時代は信用も頼りにもならない。だから私が動かないと・・・いけないんだ。
「あぁ頭いた」
脳みそから蝉の羽音が聴こえる。体感は二日酔いに近い。まだ齢18歳にしてお酒なんて口にしたことはないのに先に二日酔いに遭うとは、思ってもいなかった。
いや、ラオグラフィアのせいで私はロキに弄ばれてるんだ。思ってもないことの連続でもうそんな些細な事には、驚けないや。
「スノー――――!」
私は浜で大声を上げる。この砂浜、アスガルドのほうがきれいだな。枝とか小石とかが落ちている。
砂浜を散策する。
これからどうしよう。食糧や寝床、衣服の洗濯。私はもうすでに喉が渇いている。海に落とされた時に海水を飲んでしまったんだろう。しかも、目が覚めた時はまだ服は濡れていたのに、もう上下で五割くらいは乾いてきたほど気温が高い。二重苦で辛い。
穴の中心に辿り着く前に船の上から樽が二つほど落としている所を見かけた気がするんだが、それもどこかで漂着していないだろうか?あの樽の中に今後の冒険をするために必要な食糧や水が詰め込まれていたりしないどうか?どうかそうであってくれと私は
希望的観測が現実であってくれと願う。
私の手元にはきちんとラオグラフィアがある。気を失っている間も右手で律儀に握りしめていた。まだページをめくっていない。めくるのが少し私は怖かった。
ドワーフと小人の村では指示が突然消えていた。そして、穴を私が目視したとたんにラオグラフィアは光り出して、消えて読めなくなっていた指示が浮かび上がった。謎でしかない。
イレギュラーばかりだ。次の指示をきちんとこなせれるのだろうか?
砂の上を歩く。ざっざっ。砂を踏む音。
ざあざあ。波の音。
汗が粒で長い髪の毛からにじみ出てくる。
私は何度目かの
「スノー―――」
名前を呼ぶ。
暑い。
「まこーー」
どこからか私の名前を呼ぶ声が聴こえる。良かった。すぐに会えた。不安は杞憂で終わってくれた。
下ネタが好きな作者は主人公の名前がどうも18禁ワードに聞こえてしまう…