開幕ベル
よんで
指示書に新たな文字が刻まれた。
【指示を読まない君へ。君の大事な存在を消す。】
あの世界で最後に目にしたのがこの文字だった。
気が付くと私は、図書館に戻っていた。
《《やっと戻れたんだ》》
私は深く呼吸をして心から安堵した。
突然、ミサイルの爆撃音がした。
館内が小刻みに揺れて微かに天井から埃が降ってきた。連単で響くソニック音が天井から聞こえてくる。
私は急いで図書館から出た。丘の上では風が強く吹いていて私の背中を押す。
上空に目を向けると、青い空を埋め尽くすほど無数のドラゴンの群れが飛んでいる。そして、爆炎が広がる戦闘機。野太い断末魔も聞こえる。
蝶々の羽が生えた全身淡い緑色の精霊が私の鼻を突寝る。何か言っているようだったけれど声が高すぎて言葉として聞き取れなかった。
他にも沢山の本の中の生物が今、現実に溢れ出している。
私が握る右手のスマホからはハザードアラートがバイブレーションの振動とセットでけ
たたましく鳴っている。
母さんや父さん、友達から数えきれないほど大丈夫?というメッセージが送られてくる。
でも杏《あんず》からは一通も来ていなかった。私のスマホのデータに杏はいなかった。
私は、ロキが仕組んだ指示に従わなくて友達を失った。
「どうして!」
強くスマホを握ったまま膝を落とした。
ラオグラフィアに記された文字の意味を理解した。私はこの世界に戻ってくるのと引き換えに杏という存在が抹消された。
呼吸が次第に荒くなる。車のクラクションや人の叫び声が町の方から丘の上まで聞こえてきた。
私は、世界を今、狂わせてしまったようだった・・・。