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崩壊


「なんで、そんなこと言うの?」

「だって、私、キノコにされちゃったって言うんだよ?!お父さんもお母さんも、しゃべれない大きなキノコに変えちゃって……私はどうしたらいいって言うのよ?このまま生きていたら、もっと色んな人をキノコに変えちゃうかもしれないって言うのに、のうのうと生きているなんて、そんなことできっこない!」

 ミキはまくし立てるようにそういった。

 そうだ、ミキは両親をキノコに変えてしまっているのだ。

 そしてこのままでは、私の両親も、学校のみんなも、キノコに変わってしまうかもしれない。

 先ほどの噴出で、家の外にまで大量の胞子が流れ出してしまっている。被害はさらに広がっているかもしれなかった。

「で、でも……」

「僕はもったいないと思うけどなぁ」

 私が返しに困っていると、ゴーストが半ばかぶせ気味に話し出す。

「せっかく、キノコになっても自我を残してるんだから、君にしか出来ないないことだってあるはずなのに、死んじゃうなんてもったいないと思うけど」

「私にしか出来ない事ってなに?あんたはキノコだから、同じ仲間を増やす私を殺したくないだけなんじゃないの?」

「でも、本当は死にたくなんかないんでしょう?」

 ゴーストがそういうと、ミキは黙り込んだ。

 そりゃそうだ、本当に死にたいはずなんかない。

 昨日まで普通に過ごしていて、突然こんなことになって、それを飲み込める女子高生なんているわけ無いんだ。

「昨日、あの大きなキノコがあった場所に行ってみない?あれのせいでこんなことになったんだし、何か分かることがあるかも」

「私が、私が外に出たら、また被害が広がっちゃうんじゃ……」

「ここにいてもきっと何も変わらない。行動しなきゃ、ずっとこのまま悩み続けて手遅れになっちゃうよ。それに、そろそろキノコに押しつぶされそうだし」

 白いキノコが、もう既に太ももの高さまで伸びてしまっていた。

 これ以上成長が進んだら、キノコをちぎりながら外に出ないと行けなくなってしまう。

 私はなぜか、それはさけなければならないと思っていた。


 ミキを連れて外に出ると、家の庭はキノコで覆い尽くされていた。

 あたりまえのように、家の側面からもキノコが生え、地面から生えてきたキノコと合体して、奇形になっている。

 家の前の道路からは、アスファルトを破っていくつかのキノコが頭を出していて、ぼこぼこと膨らみがいくつも出来ていた。

 バスケットゴールのある公園も、細かいキノコが伸び始めていて、もう、歩く場所がない。

「ひどい……これ、全部私のせい」

「違うよ、ミキのせいじゃない。キノコが悪いんだ」

「その悪いキノコの中に僕は含まれるのかな」

「含まれるよ」

「それは光栄だね」

 好奇心でバス停のキノコに近づいて、あのキノコの胞子を浴びたのだから、ミキが悪い部分も大いにあることは理解していたけれど、今それを言ってもミキの心を壊してしまうだろうと思い言葉にすることはなかった。

 私とミキは、ぼこぼことうねるアスファルトの上を走って行く。

 ミキが通る後から後から、アスファルトを破ってキノコが生えてくるけれど、立ち止まることは出来なかった。

 私の家の前を通り過ぎ、雑木林に挟まれた、昨日のバス停のある通りに向かっていると、背後で大きな音がした。

 走りながら振り返ると、ミキの家があったところから噴煙が上がっている。

 大きな何かが崩れる音。そして白い噴煙。砂煙。

 遠くで人々が騒ぐ声が徐々に大きくなってくる。各所で悲鳴も聞こえてきていた。

「私の家が、崩れちゃったのかな」

 そういうミキの声はどこか感情のない、諦めたような抑揚だった。

 私は走る足を止めること無く、「大丈夫、私が付いているよ」と声をかける。

 手をつないだ。冷たい手だった。

 ミキを見ると、目から大粒の涙が止めどなく流れていて……。

 その雫が落ちるところから、次々に大きなキノコが生えていた。

 私も泣きたかったけれど、泣いていても何かが変わるとは思えなかった。

 泣かないでいたからといって、私に何かが出来るとは到底思えなかったけれど、それでもミキの力にはなりたかった。

 つないだ手をぎゅっと、ミキが握り返してくる。


「あんまり強く握ると、僕が潰れちゃうよ」と、ゴーストが苦しそうに言う。


 なんてことない距離のはずなのに、永遠に走り続けなければならないかと思うほど、バス停は遠く感じた。

 背後の住み慣れた街から聞こえる喧噪を背負いながら、とてつもない罪悪感を噛みしめている。

 でも、こうするしかなかった。あのまま家の中にいても、私たちは崩れる家に押しつぶされるだけ。

 振り返らないようにしたけれど、耐えきれずもう一度後ろを見た。

 ミキの家の場所に、周りの家よりも一回り大きな、巨大な白いキノコが生えていた。


 遠く、バス停が見え始めてくる。

 ミキと手をつないだまま、やっと見えてきた目的地に安堵しつつも、そこに昨日会ったキノコの姿が見えないことに不安になった。


 そこにはキノコの代わりに、白い傘を差し、真っ白なワンピースを着た、白い長髪の女性が座っていたのだ。


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