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第五話 【玉ねぎの芽】


「ごちそうさまでした」



合掌して小さな声で感謝を壁の向こうへ送る。胃袋に温かいものを食べたおかげで体が軽くなった。



 寝室のドアを足でスライドさせて開けると彗はシンクの前に立っていた。狭い調理場の中で立っていた。自分の左手を見つめている。黄昏た顔で左手の向こうにある記憶を掘り起こしている最中に右手でマグカップを口へあてて啜っていた。


 水うけの中には鍋と釜、俺と同じ食器が入っていた。俺が食べた物を食べたと推測ができる。そして食べ終わったから皿を洗ったのだろう。息抜きをしている中で水をさしてしまった。それに気がついた時にはもう遅かった。


 彼女は俺を見て目をまん丸にして驚いた様子だった。右手で握るコップを背中に隠す。まるで蛇に睨まれて動けないでいるフェレットのようだった。



「ーーーーーあれ?まだ寝ていた方が良かったんじゃないですか」



 一拍の無音の後に、なにごともなかったように言葉を発された。正面にいる彗は口元を左手の甲で拭う仕草を取って、顎を引いて俺の目線へと視線を高く揚げる。



「もう治ったからいいんだ。それよりもご飯ありがとう。本当に美味しかったよ。洗い物は俺がしておくからゆっくりソファに座っててよ」



「わかりました」



彗は弱々しい声で了承する。入れ替わりで俺がシンクに行き、彗が窓辺にあるソファへと場所を移す。



「あ、あの・・・」



 俺が両腕の裾を捲り上げていたとき、とっくに腰をかけているのだと思っていた彗が立った状態で声をかけてきた。



「どうしたの?」


彼女の顔を見ずにスポンジに食器用洗剤をかけていた。きっと味の評価とかだろうと思っていた。



「勝手に君の家のものを使ってしまってごめんなさい」



 彗の一言でその手が停まる。彼女の声は震えを隠すようにわざと抑揚を消そうと心がけているようだった。俺は言葉を作れなかった。「あ」と「う」の羅列を口の中で繰り返してしまうほど、事態が受け止められなかった。些細なワードのチョイスじゃないから拾って受け流さないでいる。



一瞬にして思考エンジンが



 普通の生き方をしていればただの日常だと気にも留めない内容で謝った。モデルタイプのような生き方をしていない人生観を持っていたということ。


彼女が学んだ常識について疑わないといけない世界で生きていたのを言葉を呈して表していると割り出した。




「ううん、なんでもない」



 彗は首を振ると恐る恐るお尻をクッションへと乗せる。朝陽は知らない。彼女の首筋からは炎天下とは関係のないタイプの冷たい汗を流していたのを。



俺は水道の蛇口の口を閉める。



「俺は毎朝、すぐに引くけど熱を出すんだ。平日だと仕事があるから無理にでも体を起こして布団から出る。

何も食べずに出社するんだ。でも久しぶりに誰かの手料理を食べれた。なんかさ色恋沙汰は一切なくてね、うれしかった。だから君が作ってくれなかったら近々息の根止まっていたかもね。改めてありがとね」



 喜んでもらいたいなんて気はなかった。ただ無視するのも違う。例えば居間に深刻そうな雰囲氣が50漂っていたとしてだ。俺はそれをかき消したに過ぎない。



ここから先は彼女が話の続きを話さなければ俺からも掘り起こさないと心に決めた。



 彼女の座るソファの前には足の低いテーブルが置いてある。左には台座があり、窓ガラスが設置されていた。施錠はされておらず五センチ開いている。涼しい風が彼女の頬を撫でてから狭い部屋を一周した。



 三枚の皿を洗い終わると、スポンジについた泡を落とした。そして乾いた布で皿を拭う。沈黙で五分は簡単に経った。



 透明な風は俺が使うシャンプーの匂いが鼻に入り込んだ。無心で作業をしていたらふわりと優しく、無意識に彼女の存在を意識してしまう。男臭いのを無くしたいから爽快感だけがウリの石鹸なはず。彗の後ろ髪から強いメンソールの香りがするのにどんな女よりも魅力的に感じてしまう。


皿に触れる手が止まる。食器から指先が離れる。



 彼女のうなじが月並みな表現だが、色ぽく見えた。背もたれでブラは隠れていたが襟首には汗のしみが滲んでいたのを発見した。




「あのさ」



棚に皿を戻しながら俺は彗に話しかけた。



「ん?」



気の抜けた返事が聞こえてきた。



「服、これから買いに行こっか」



昨日は準備もさせずに勢いで家に連れ込んでしまったと今、俺は気がついた。



「ごめんね、おれさ君のこと全く考えてなくて着替えとかのこと考えてなかった・・・」



「あーいいですよ。これから実家に帰って取りに行こうと思います」



「それなら車出すよ」



彼女は立ち上がって頭を下に落とした。



「私自身が服を多くは持ちあわせていないので荷物には問題がなくて・・・。ただ家の朝陽君を人に会わせたくないんです。だからお気持ちだけで大丈夫です。ごめんなさい」




 俺は鼻で小さく笑った。そりゃほぼ誘拐のようなもんだしな。親からすれば可愛い娘が帰ってきていきなり結婚の挨拶で男が来る。ナンパで婚約しました。なんて報告、運が悪ければ後ろから刺されるのだろう。そら行かないほうがいいな



「ならここで待ってるよ。でも気をつけてね。何があるか分からないしさ」



彼女は俺の瞳を潤んだ目で見つめていた。クリンと丸い目。まつ毛は長い方。女の子らしくて可愛かった。




「心配ありがとうございます。交通面では動いていると思われますし問題はありませんね。でも急いで帰ってきますよ・・・」



「そうだね、治安は不安だね」



「韻踏むの下手ですね」



 玄関のドア側で彼女を見送った。振り返ることもせずドアを開けると躊躇とセットで跡形もなくこの家を去った。残ったのは漂う彼女の温度だけだった。すぐに外気と同化し、跡形もなくいなくなったような気がした。この家に誰かが存在するのが夢だったように思えるほど、外に出ていった。



 構築はされていない信頼関係だがなんとなくまた戻ってきてくれそうで、これが心が見えるってことなのかなぁ。

山田彗 CV湯屋敦子


朝陽  CV塩谷翼



 私は海外の俳優ですとジャック・ブラックさんという俳優が好きです。塩谷翼さんはよくこの俳優の声を当てられたりします。脳内でアテレコをする遊びをします。なので勝手に配役しました。スミマセヌ。


 声優と俳優とのイメージのおかげでもしかしたら朝陽の声はニアマッチかもしれませんがもしも「あと一年で」がアニメ化とかシーエムとかになったら起用されたらいいなとは思っております。笑

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