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灯死火編 第三話 【出口のない宵闇】

世界は廻る。キリキリと時計の針は終着地点まで列車は停まらない。

 


 阿本さんが車を停めた。俺も彗も前の席に身を乗り出してフロントガラス越しから宿泊施設を見た。俺たちがそこを出るときは戸締りと明かりを落としておいたはずだった。



が、カーテンは敷いているものの底から光が漏れていた。誰かがいるとということだ。



「これは・・・引き返すしかないな・・・」



阿本さんの提案だった。



「いえここは一言言って追い返してきますよ!」



 ドアを開けようとする。すると阿本さんが俺の肩を握ってきた。片手なのに強い力で俺の行動を静止する。俺を睨む。押し潰してきそうな眼圧だった。肺の空気が口から抜くと俺はゆっくりと椅子にお尻をつける。




「やめておけ、法律が存在しない今は口でどうこう言ったところで訊く耳持ってくれるわけがないだろ。何もしないで戻ろう」



一言一句に冷淡な重みが宿った説得をおれにする。



「そうなったら俺たち二人はどこに住めばいいんですか?食べ物も生活に必要なものも移動手段もない。ペアレントから逃げる手段も生きていく道具だってないんですよ」




 反対に自分は冷静さを欠いてしまっていた。この人にこれ以上迷惑をかけられない。プレッシャーに自分を見失っていた。




「でも今怪我されるよりずっとマシだよ朝陽君」




彗も俺の腕を握っていた。首を振って今にも泣きそうな顔をしていた。




「だったら俺の家に住めばいいさ。ちょうど部屋が空いてるしここで野宿するのも気が気でないでしょ」




「ありがとうございます・・・」




俺は頭を深く下げた。そして坂道を降りた。坂道を登るときの重たい静けさが今では心地よくなっていた。



 心臓の躍動も血管の昂りも静かに下降しているのが体温の下がり具合でわかった。さっきは血の気が多くなっていた。今は物騒なことは考えなくなっていてそのことに気がつき、自分が人を殺める恐怖にゾッとしていた。それもこの二人に救われたのだった。



森の静けさ、星の煌びやかさ、エンジンが蒸す音。



阿本さんが独り苦い言葉を吐いた。



「おいおい、マジかよ」



 車がゆっくりと停まる。それを耳にして俺たちは再度、前席に前のめりになる。阿本さんのナイトライトに照らされた先に、男が四人、立っていた。坂道と平な路面の接合部に車を側面に向くように停めている。意地汚く左車線に車を置いて完全に片方にのみ進めるよう道を塞いでいた。




「あれは・・・」



彗が絶句する。



「さっきすれ違った輩だな」



「でもどうして」



「おおかた君たちが下山して荷物をさらに持ってくると踏んでここで待ち構えてるのさ」



俺の質問に苛立ちながら答えてくれた。客観的にそう判断するのが妥当だろう。



 俺の車のフレームにのしかかってタバコを吸っている男たちはこちらを出迎えていた。ギラギラと光る視線が四つ。車のライトに反射される。手には鉄パイプやバットを所持している。これは明らかに意思の疎通はできそうにない。俺たちは襲われるのだろう。お腹がみるみる熱くなってきた。全身が昂り、胸焼けしそうだ。



 どうしたらいいのか分からないでいるまま頭が真っ白になる。手が震える。彗だけは守らないといけないのに最善の策が見つからない。元警察官の阿本さんならなんとかしてくれるはずだ。そうすがるしか俺の脳みそが鐘を打つ。



阿本さんは唇を真横にして息を吐いて両肩の力を抜く。



「俺以外に運転できるやついる?時間がない。運転席座ってくれ」



「は、はい!」


阿本さんが助手席に場所を換える。


 おれは這って前席の間を通る。シフトレバーにお腹が当たって痛かった。




「よし、それじゃあマニュアル車の運転できるか?」




 ウィーンと窓を全開し俺に質問をする。奴らを睨む目には本職だった頃の名残だろうか、阿本さんからは強い威圧感を感じた。彼は肩で息をしている。




「ま、まぁ一応は」



「じゃあ俺が合図したら右車線に入ってくれ」



「わかりました」



 俺は深く深呼吸しながらエンジンを熱く蒸す。指示からは轢けと言っている訳じゃない。ここから逃がしてくれるのは明白だ。だがこんな現場に遭遇する回数はないためやり切れるか分からない。そんな未知数な恐怖だった。



「彗ちゃん、帰ろう」



彼女に言ったが比重では自分に言い聞かせているだけだった。お腹に力を入れる。



 奴らがこちらに歩み寄ってくる。ニヤりと汚い笑みをする。4人のうち、先鋒を務める男。そいつは一際深く口角を上げていた。あちらの車のライトから後部座席に座る彗に視線が釘付けだった。



ジリジリと奴らはこちらに近づいてくる。




 手には鈍器、大の男が束になる。戦局はこちらが不利。俺は、唾を飲み込んだ。ウィンカーの一拍の拍子音が心音とシンクロする。



 眼の端が闇と同化する。1秒ですら呆れるほど長く感じる。突如、雷鳴が助手席から響いた。男たちは一歩後退りをした。


 車の中で火薬の匂いが立ち込める。自分も一瞬たじろぐ。音量は花火を間近で見た時よりも小さかったが不自然な高音に理解しようとする沼にはまる。思考が減速してゆく。



「出せっ!」



 阿本さんの激昂する声が間髪入れずに再度言われ、我に帰った。



 外にいる男達に警戒として稲妻が二度落ちた。音が空に轟く。それが阿本さんが発放したのだと知った。



 頷いて、アクセルをベタ踏みした。車が前進する。ぶつかりそうになる直前で男たちは慌てながら散ってくれた。その勢いで左車線にハンドルを切って坂を降りた。



 フロントガラス越しに男たちが俺と目が合ってしまった。奴らの目には今死んでしまうことの恐怖がそこに書かれていた。もしもそのまま死傷を負わせていたら。想像すると殺人者に俺は後一歩手前までいっていたのだろう。ゾッとした。


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