第一話 【邂逅】
後悔しても読んでね?それでは楽しんでいきましょう(雅ちゃん)
ここから急ですが、第二章に突入です。長ったらしくも話も薄いし広がりもしない小説ですが読んでいただけたら光栄です。
灯死火編 第一話 邂逅
空気中に霧散する火薬の臭い。打ち止められた花火。俺の耳の中で爆発音だけが鳴り続けている。先刻、辺り一面の暗闇を取り払うように彩り豊かな花火が咲き乱れていた。
花火を打ち上げていた彼は阿本常盤と名乗った。阿本は俺たちに近づいてくる。俺は一歩前に立って、腕を彗の前に出す。
フィルターギリギリまで燃えているタバコをポケットから携帯灰皿を取り出して消し炭にした。
警戒する素振りをした。一般的な人のパーソナルスペースを侵害しない程度の距離にまで彼は到達すると
「こんな所で何も持たずにいるのは危険ですよ」
「時期外れに花火する人を危険視しているだけですよ」
「信用に足りる分だけの判断材料もないしそれは仕方がありませんよね。ただね」
にかりと笑う。彗の前に出していた腕を下ろしてしまった。得体の知れない不信感をこの人は出していない。信用していいのかダメなのかはいまだに決められないが、明らかな敵ではなさそうだった。はっぴの袖から出ている二の腕には小さな斑点模様の傷の跡が無数に刻まれている。いかにもな花火職人という印象をこの人に抱いた。この人から悪い人というイメージが払拭された。
「こんなど田舎な町でもいるんですよ。危険人物が」
ペアレントのせいで日本の国家体制が崩壊し法律での制限がなくなったことで人は狂い始めた。いや、法律という抑制がなくなったことで何をしても良くなった。
あの晩を思い出す。彼らの目は無欲で塗れていた。ゾンビのように群れて俺が住む街では逆賊がたった一日でここまで人間は豹変するのかと恐ろしかった。
「ところで帰るなら送っていくけどどうする?」
「それは遠慮させていただきます。さっき来た道を辿れば帰れるので何とかなると思います」
阿本さんは怪訝な表情をする。
「うーんあまり賛同できないかなぁ。
入れば朝と夜、行きと帰りで山の見え方は変わってくるから高確率で迷うよ。それにあそこは熊こそはいないけどが月明かりしか頼れるものもない。
なんなら傾斜の少ないこの山でだって足元が見えなくて転んで骨折だってする。その可能性を考慮したら車で送ったほうが無事に帰れるのは明らかだよ」
それに、と付け加えて阿本さんは
「まぁさっき会った人にこんな提案をされても警戒するのは当たり前だよね・・・」
阿本さんが言うようにご厚意自体は有難いが初めて会った人をすんなり信用できるわけにはいかなかった。そうして自分の尻ポケットを弄り、彼は何かを手にした。それは彼の顔写真が載っている警察手帳だった。街灯のライトが菊のマークを反射していた。
「警察官だったんですか。っていうかそれ本物ですか?」
彗が初めて彼に口を利いた。その反応から、ただ食いついただけではなくて、彼女自身の身に根強く何かが引っかかるポイントがあったようなそんな注意深く訊く応対の仕方だった。
「うん一応本物。日本国家が崩壊する前まではね勤めてたよ。でもこんなご時世だとこれ一枚あったところでそう疑われても無理はないわね。法律の下、警察の体制も崩壊すれば機能が失われるんだから。それでも長らくこの仕事をしてれば染みついちゃうんだ。市民を守る義務感みたいなのが」
彼の真摯な対応と言葉の重みに演技くささはなく、不審な点も見当たらない。
どうすればいいかと悩んでみて、森を振り返ってみる。森を抜けた先、今からだと入り口。葉ずれの音からはまるで不気味な生き物が口を開けて俺たちを待ち構えているようだった。怖さから鳥肌で背筋が震える。生きは花火の光を目印にして真っ直ぐに続く道を歩いていたから簡単にたどり着けたが帰りは都合よくは進めないようだ。
「彗ちゃんどうする?」
彼女も振り返る。もし、ここで阿本さんの車に乗らない選択を取るならば俺は腹を括ってやる勢いだ。
「それなら・・・・・・お願いします」
阿本さんに彗はお辞儀をした。俺は緊張から上がった肩が安心して降りた。
無事に帰れるのならと彗に合わせて頭を下げた。ただで送ってもらうのも忍びなく、俺は花火に使う機材を車の荷台に搬入をする手伝いをすることにした。
車に置いてある軍手を一束貸してもらい四本ある筒の内、二つを俺が運んだ。持つとまだ熱くて内部から鉄の焦げる臭いがした。重量はそこまでなくスムーズに帰れそうだった。
「手伝ってくれてありがとな」
花火の燃え殻が入ってあるバケツも車に入れさせてもらえた。
そういえばと思い出したかのように花火を二人で楽しんでいた時から水を飲んでいないことに気がついた。宿泊施設から出るときに持ってきていた水筒でのどを潤す。ふと、彼女に目をやると首筋から汗を垂らしていた。この子はいつから水分を摂取していないのだろう?そう思うと今朝、介抱してくれたことを思い出した。
「彗ちゃんも飲む?」
「ありがとうございます」
一拍も間を置かずに俺の差し出した水に手を付けた。
俺が口をつけた所に彼女の唇が触れた。月の純朴な白い光と街頭のLEDの白灯。二種類の照明が重なる点に彼女の白い肌に反射される。
幻覚でも眺めているのか、妖美な艶めかしさ、みたいな比喩が簡単に語彙の引き出しから出てくる。月の美しさがスポットライトとなって彗という女性を煌びやかに仕立て上げてくれた。俺の目が意図せずにゆっくりと見開く。
たったの【数秒】を目に焼きつけていた。走馬灯を観る時に再生される動画を脳が記録している。
同タイミングで朝陽は現実で流れる時間と同等の間を寸秒の内に追体験する。
−−−−輝く太陽の下、浜辺で溌剌と笑うほんの少し幼い彗の顔を思い出した。だがそれはすぐに削除されることとなった。
Fgulian1203 拡散してね