第3話 転生
あぁ、眠いなぁ……ここはいったい何処だろう。
えぇと…俺は確かトラックに轢かれて……鉄骨に押し潰されて………死んだ?
そうだそうだ、思い出したぞ!いや〜死んじゃったかぁ、そっかそっか………
はぁ死んじゃったのかぁ…死んだのかぁ………はぁ。
______(あのー、さっきから話しかけているのだけど気がついてる?)_______
実際に死んでみて思ったけど死ぬ直前って痛いってよりも眠いって感じの方が強かったなぁ。あれかな、痛みってのは人に危機感を与えるために存在しているとか聞いたことあるから、死ぬ直前とかだともう危機感もクソも無いから最期くらいは安らかに死んでいこう!とか脳が思ったりしてくれたのかな?
もしそうだったら人の脳って凄いな!まじリスペクトっす!
______(やっぱり聞こえてないみたいね…今までこんな事なかったのだけれど。召還する方法に何か手違いでもあったのかしら?もういっそのこと、今回の召喚は失敗だったという事にしてこの魂は廃棄してしまおうかしら。でもこの魂、なかなかに優秀なスペックなのよねぇ…捨てるにはもったいないのよ。どうしようかしら?)_______
今考えてみるとあんなボクっ娘ケモ耳画像を集めてる時間があったならもっと他の事に時間を費やせばよかったなぁ…
_____(あぁそうだわ!今回はこの魂の転移先だけ設定しておいてスキルの選択は私の声が届いていないみたいだから自動設定にしておけば良いのよ!どうせ転移先は勇者が欲しくて欲しくてしょうがない連中のところなのだから、いつもみたいに私が説明しなくてもきっとそいつらが説明してくれるでしょう。その後はどうせ場の雰囲気に呑まれて結局は勇者として行動せざる得なくなるでしょうし。そうしたら他の連中みたいにあの醜い魔族共を蹴散らしてくれるでしょう。あら、そう考えると案外悪くも無いわね)_______
いやいや、決してあの素晴らしいボクっ娘ケモ耳達に出会えたあの時間が無駄だったというわけじゃないんだよ!ボクっ娘ケモ耳好きの俺にとってのあの時間は凄く充実していたんだけどさ……もっとアクティブに生きてみてもよかったんじゃないかなぁとかも思ったりするんだよね。
_____(……ここをこうして…よしできた。これで設定もお終いね。さてと、新しい神託でも誰かに授けようかしら。……魔族の屑供がまた勢いを増してきているわね、今度こそ完璧に駆逐してやるわ!そうと決まれば早速神託を誰に授けるか検討しなきゃ )________
一度くらい南極とかヨーロッパとか…どうせなら世界一周とかしてみたかったな!ま、どうせそんな長い休暇なんて取れなかっただろうけどさ。それでも俺って日本にずっと引きこもってたからなぁ、一度くらいは海外に行っておきたかったなあ。どこでもドアとかが開発されてればなぁ〜、時間も掛からずにお手軽に世界中を旅できるとか最高じゃないか!科学者さんもっと頑張ってくれ!
《了、願いをスキルに具現化します…「空間魔法」を獲得しまし___時空神の干渉を確認……「時空間魔法」を獲得しました》
うお!?なんだ!急に機械音声っぽい声が聞こえてきた…怖いんだけど。
キョロキョロと周囲を見渡すが周りには何もない。地平線の向こうまで見渡せるくらい何もない、真っ白な空間が続いている。
というか足元も真っ白なので今俺ははたして立っているのかふわふわと浮いているのかすら判断できない。怖い怖い怖い!!!
というかここは何処だよ。ほんと今更だけどマジでここ何処!天国か?地獄か?それとも夢?わからないけど取り敢えずさっき聞こえた声は何!?誰かいるのか!
…いや、もしかしたら閻魔様的ポジションの御方かもしれないしな。
よし、ここはビシッと社会人らしくしっかりとした挨拶をしておくべきだろう!第一印象は重要だからな。
もしかしたらこれで俺の天国行きが決まるかもしれないのだから。
初めまして、私はさ_____
《願いを言ってください》
………取り敢えず願いを言えばいいらしい。俺の自己紹介は聞く価値も無いと言わんばかりに遮られてしまった。
え?何、結局この声は閻魔様なのか?
《願いを言ってください》
本当に会話すらしてくれなさそうだ。
素直に従って置いた方が良いのか?閻魔様だったらここで機嫌を損ねて「はい地獄行き」とか言われたら嫌だし。
とりあえず何か願い…か。前世でやり残したものでも探してみるかな。
えぇと………あ!美味しいものたくさん食べたかったな!良くテレビで料理番組とか見てたけど、どれも食べてみたいなぁとか思ってたんだよな、まぁそんな高級レストランとか行く勇気は俺には無かったけどな。
いや、こんな俺だよ!絶対に場違い感半端ないから。
人生の成功者達が集う店の中に1人だけサラリーマン…あぁ、考えただけで恐ろしい!
《了、願いをスキルに具現化します。………「ドレイン」を獲得しました》
お?何か貰ったぞ。「ドレイン」?ポ◯モンの草タイプの技か何かか?
てか何、俺ってばポ◯ットモンスターの世界のモンスターの世界に今から飛び込むわけ!?人じゃなくてポ◯モンの方に。
「いけ、チコリ◯タ!」とか言われたら意気揚々とボールから飛び出さなきゃいけないの?
めんどくさ!
《………貴方はこれからドーラという世界に勇者として召喚されます。説明は以上です。願いを言ってください》
…は?勇者だって?とうとう俺の頭も逝かれたか。ラノベ読みすぎたかー。
《願いを言ってください》
ああもう!何だよさっきから!ああそうですか、なら言ってやるよ!
めっっっっっっちゃ美人のお姉さんと結婚させろよ!ケモ耳娘でもいいぞ!ボクっ娘ならなお歓迎だね!
ほら、願いを言ってやったぞ!ここに今俺が妄想してるかわい子ちゃんを目の前に出せー!!!今すぐ結婚してやるから!
……言ってて虚しくなってきた。
《貴方をドーラに召喚する際に得られる能力をここで授けます。ここで得た能力はドーラに召喚される貴方に付与されます。今貴方が考えている者をここに召喚する事はできません。他の願いを言ってください》
……え?まって、本当に異世界転移しちゃうの俺?俺の妄想とかじゃなくて?
ラノベの読み過ぎで脳内おかしくなったとかじゃなくて?
ほう、そうかそうか……な、ら、ば!叶うんじゃないか!美女達とのハーレムイチャイチャ生活!もし本当に異世界に行くならば是非「モテる系」のスキルを私にお恵みください!
ラノベ主人公みたいなハーレムを自力で作れるようなスペックは俺には存在しない。
現実はそう甘くはないのはもうお腹いっぱいなくらい学んできた。
だったらどうするか!無いならば、せっかくくれるって言うスキルに頼っちゃいましょう!俺ってあったま良い!
コミュニケーション能力なくたって!幾ら前世でモテなかったからって!スキルの前にはみな無力なのだ!
…たぶん。
そうと決まれば…あぁ神様仏様、私は燃えるような恋がしたいです!沢山の女性からの愛をこの俺一身に!
美女とのハーレム生活がしたい!
そして!特に、と・く・に!ボクっ娘にモテたいです!もう一度言います!ボクっ娘にモテるようなスキルをください!お願いします!お願いします!俺の夢なんです!
《………ふっ、願いをスキルに具現化します。………「幻想魔法」を獲得しました》
おいゴラッ!!!あぁん!?喧嘩売ってんのか?な〜にが幻想魔法だ!それはお前の妄想だ。とでも言いたいのか!
いやいや、願いをスキルに具現化するんじゃないのかよ!かんっぜんに私情が入ってるだろ!悪意こもってるでしょ!
そして俺は聞き逃さなかったぞ!おまえ、最初少し「………ふっ」て笑っただろ!俺の耳はな、地獄耳なんだぞ!そしてメンタルはうっすーいガラスで出来たハートなんだからな!
はい、もう今ので俺の心はもう完全に粉々になりましたー。木っ端微塵に砕け散りました!もう再起不能ですー。
異世界行って世界救うとかもう絶対に出来ないくらい俺のハートには深〜い傷を負ったからな。
ねぇ知ってる?心の傷ってね、一生残るんだよ!心って凄く繊細なものなんだよ?そこんとこ理解してる?
《了、願いをスキルに具現化します。………「塵砕」…スペックが不足しています。記憶の一部を消去しエネルギーに変換し不足分を補いました。……スペックが不足しています。記憶の更に記憶の一部を消去します。十分なスペックの確保に成功しました、スキル「塵砕」を獲得しました。続いてスキル「傷身者」…スペックが不足しています。記憶の一部を消去しエネルギーに変換し不足分ののスペックを補います……不足……不足……不足……十分なスペックの確保に成功しました。スキル「傷身者」を獲得しました。》
おい!なんだよ塵砕って!あれか、俺の心は砕けて塵になったってか!?それに「傷身者」って何!?わかんないんだけど!
しかもだよ!俺の耳は聞き逃さなかったぞ!さらっと何勝手に記憶を消去してるんだよ!本人の許可取れよ!
しかも理由がスペック不足って…悪かったな!スペック悪くてよっ!
はぁ、異世界での知識チート人生送るのはこの際諦めてやるとしよう。だが!だが!女の子にモテるスキルを寄越せ!もう俺の記憶を全部持って行ってもいいから。だからお願いだよ、俺は前世で本当にモテなかったんだよ、来世こそ俺はモテたいんだよ……パソコンの画面の女の子だけじゃなくて、リアルの女の子ともきゃっきゃうふふしたいんだよ…
こんなに頼んでるんだからさ、ちょうだいよ…………
《願いをスキルに具現化します。……スペックが不足しています。記憶の一部を消去して不足分を補います。スキル「鑑定眼」を獲得しました 》
ねえ、多分馬鹿にしてるよね?意地でも俺にハーレム系スキル渡さないつもりだよね?どっからどう読み解けばそうなるわけ?
そしてさらっと記憶を消去するな!そろそろ泣きわめくぞ…
《以上でスキルの付与を終了します。スキルの使用方法は転移後脳内にインプットされます。転移の準備が完了しました。これより術式構築を開始します》
あ、本当に転移とかするの?これって俺の妄想とかじゃなかったの?いやこれも妄想か?
あれ?また意識が遠くなって…あぁ転移物なら俺は無双系勇者物が好きだな…
そして俺の意識は再び闇に呑まれていった。
***
_____やっと開いたぞ!おいこらクソ女神!お前、また異世界から勇者を連れ込むつもりか!?いい加減にしろよ!
こちとらそれで散々迷惑かかって………ってあれ。あのクソ女神が居ないぞ?うん?でも確かに召還魔法を使った魔力は感じたんだけどな。
ん?あの魂は何だ?まさか召還の最中か!クソッ!!!まだ間に合うか!こうして………駄目だ、召還は封じられないな。
ならば…よし、転移を転生に変てて…場所指定もランダムに変更と。せめてもの嫌がらせだ!
いや、いっそのこと魔族側こっちがわに引き込めないか?転生先を魔族側に変更出来れば…ってクソったれ!もう時間がないじゃないか!
しょうがない、ならあいつの加護を消してそこに俺の加護を詰め込んでやる!頑張れ俺!俺なら行ける。
…………よーし間に合ったぁぁあ!
ふははっ、ふははははははははははははは。ざまぁクソ女神ぃ!ふははははははは_______
《術式の変更を確認しました。これより再構築を開始します……再構築完了しました。続いて、転生の術式構築を開始します》
_____何かこっちから嫌な気配が………ってちょっと!?クソみたいな魔の気配がするから戻って見れば!サタン!なんであんたがここに居るのよ!あーーー!何勝手に私の召還した魂を弄っているのよ!今すぐ元に戻しなさいよ!_______
_____ふん!持ち場を離れたお前が悪いんですー!それにもう魔法陣が完全に出来上がったから俺にももう手をつけられません〜。残念でした〜。ふははははははははは!それじゃこの辺で失礼するよクソ女神!_______
_____ちょっと!………クソ!どうしてあいつはいつもいつも私の邪魔ばかり!あームカつく!あぁもう本当に術式出来上がっちゃってるじゃない!もう手直し出来ないじゃない……あぁーーー!しかもあいつちゃっかり私の加護を壊してくれて。はぁ、これじゃあ勇者としてはもう使えないわね。せっかくの逸材だったのに…また新しい魂探さなきゃ。予定日まで時間ないから、魂の調整とか間に合うか不安ね…______
《「勝利の女神フレイヤの寵愛」が消失しました。それにより恒常スキル「言語理解」「魔族特攻(特大)」「人族魅了(特大)」「魔族嫌悪(特大)」「女神の束縛(特大)」が消失しました》
《続いて「魔神サタンの加護」を獲得しました。パッシブスキル「魔核路」「魔力操作(小)」を獲得しました。魔神の加護の影響により、人族から嫌悪されやすくなります。また、聖属性の攻撃に対して受けるダメージ量が増加します。スキル塵砕が「破壊魔法」に進化しました》
《術式構築が完了しました、これより魂の転生を開始します》