第20話 王都へ
街に出発する準備を着々と進める事1週間、おおよその引越しの準備は完了した。
既に居住する予定の街は見つけており、身分証も所持していた。家も賃貸だが決まっているという…
話を聞くと、俺が修行している間に三人は行商人をとして街へ何度も行っており、資金を集めていたというではないか。
山で狩った獲物の毛皮や骨、薬草なんかは中々の値段で売れるとか言っていた。俺のインベントリの中にも死蔵された魔物の死骸の山あるけど足しになるかな?
そんな話を聞きながら準備仕度も終え、俺たちは街へ向けて出発する事になった。幼少期を過ごしたこの小さくてみすぼらしい家が好きだった俺は、この家を捨ててしまうのは非常に悲しい気持ちになる。
…そうだ!アイテムボックスに収納して持って行けばいいじゃないかと少し考えた後に思い、家と地面を固定していた柱を切り取って、家を収納!
ちょっと入るか不安だったけど全然問題なかった。普通にするっと入った。満足した俺は笑顔で三人のところへ行った。
なかなか家を離れたがらない俺を三人は微笑ましい表情をしながら見守っていたはずなのだが、俺が家を閉まった光景を目の当たりにして流石に顔が引きつっていた。
…だってこの家を捨てるなんて勿体無いじゃん!せっかくの能力、使えるところではしっかりと使っていきたいのだ。ようは周りにバレなきゃいいだけだ、今なら何の問題があるだろうか?いや、何もない!つまりセーフ。
そんなこんながありながら、俺達は12年間お世話になった森を離れたのだった。
…時々魔物が俺たちに近づいてきたが、ホネホネが襲い来る魔物をリンチしていた。
ホネホネつっよ!こいつらってこんなに戦えたんだな…
因みに野営は俺が持ってきた家のおかげでいつも通りの暮らしが出来た。うん、やっぱり我が家は落ち着く!持ってきて正解だった。
☆彡
「 うわー、きれい… 」
眼下に広がる草原の景色に俺は思わず呟いてしまった。森を進む事約2週間、ついに俺達は鬱蒼とした森を抜けたのだ!
見渡す限りの草原、そこに轢かれた街道と思われし道、遠くからでも確認出来る草原に佇む王城、周囲の山々、それらが絶妙に混ざり合い一種の芸術品のような雰囲気を醸し出している。
RPGに登場しそうな美しい景色が今、俺の目の前に広がっているのだ!
その景色はまるでゲームの中に入り込んでしまったのではという錯覚を俺にもたらせたほどだ。
「ふふ、綺麗な景色でしょレンジェル?私もこの景色は好きよ」
「うむ、やはりいつ見ても絶景だな」
「流石のレンジェルもこの景色には驚いたか」
これから俺がこの世界で生きていくのかと考えるとワクワクと興奮が止まらない。
やっと本格的に異世界生活が始まるんだなぁ、俺の胸は期待と希望で満ち溢れていた。
冒険者になって世界中を見て回るのもいいかも知れないな!未知なる高級食材を巡って旅をするのも良いかもしれない。
あれこれと考えるうちに俺の足は勝手に王都の方へと向かっていく。
「早く行こー!」
今までの不安など遥か彼方へと置き去りにし、俺は草原を駆けていく。
その姿を見て三人は苦笑しながら追いかけるのであった。
草原でも何度か魔物に襲われたが森にいた魔物と比べると月とスッポンだ。
息をするようにサクッと殺せる、弱すぎて相手にならない。むしろこんなに弱くて生きていけてるのか心配になってしまうぞ…
しばらく進むと街道にぶつかった。今までの草原とは違い、表面が綺麗に整えられた石が敷き詰めてあってとても歩きやすい。
街道には何故か魔物が近寄ってこなかった、が……なんだこの道。なんか歩いてて気持ち悪いんだが。
「レンジェル体調悪いの?少し休む?」
「いや、大丈夫だよ。ちょっとはしゃいだせいかな、少しだけ身体が重たいんだ」
「…あー、なるほどな。もしかしたらレンジェルはこの道に使用されている吸魔石の影響を受けているのかもしれないな」
「吸魔石?」
「あぁ、魔物は魔石を持っているだろ。魔物は主に魔石から生命維持に必要な魔力を産み出しているのは分かるよな?」
「リューマ兄、バカにしないで!それくらい俺にも分かるよ……」
「吸魔石はその魔石での魔力生成を抑える働きと、生成した魔力を吸収する働きがあるんだ。ただ、魔族以外でも魔力を生成する器官が人には備わっているんだ。どこだか分かるか?」
「えーっと…し、心臓とか?」
「答えはな、全身の筋肉だ。脳の指令によって人も筋肉から身体を動かすエネルギーと共に魔力を作ってるんだ。ただ、この魔力を作る量ってのは人によってまちまちでな。当然多い人もいればほぼ作られないひともいる」
「じゃあ俺は?」
「レンジェルは恐らくかなり作られる量は多いんじゃないかな。そして、吸魔石には二つの働きがある事を説明したな」
「うん、魔石から魔力を作るのを阻害するのと、作った魔力を吸収するだったよね?」
「そうだ、説明書にもそう書いてある。だがこれは最近の研究でわかってきた事なんだけどな、魔力生成量がある程度以上になると筋肉での魔力生成を阻害するんじゃないかってのも言われるようになったんだ」
「へぇ〜」
「でだ、魔力量が多い人はみんな吸魔石を毛嫌いする傾向がある事は前々から知られてはいた。そして彼らは皆共通して倦怠感、悪心嘔吐とかそう言った症状を訴えてくるケースが多かったんだ。この理由は長らく不明だったんだが、最近ようやく筋肉での魔力生成を測定する装置を開発したらしくてな。これはもう大ニュースだったんだ、それで早速吸魔石を用いた筋力の魔力生成量を測定する実験が始まってだな…」
「…う、うん」
「おいリューマ、もうちょいわかりやすく説明してあげろ。そして段々と早口になってるぞ、聞き取りづらい」
「おっと、ごめんよレンジェル。そうだな、とにかく今までも魔法使いの中には吸魔石があると体調が悪くなる人がちらほらいたんだ。で、その原因がようやく吸魔石による筋肉での魔力生成を邪魔するって事が分かったんだ」
「…なるほど!つまり俺もそうなのかもって事だよね!」
「そうだ、レンジェルも気持ち悪かったりだるさとか感じなかったか?」
「感じてるよ、身体が結構重いんだよね…」
「そっかそっか、ならレンジェルにはあの街中は辛いかもね…街の中はほぼ全て吸魔石でできてるから」
「そんなぁ…」
「ただそう悲観する事はないよレンジェル。この吸魔石で体調悪くする人ってほとんど高位の魔法使いとか魔法のスペシャリストなんだ、レンジェルはきっと将来大物になるぞ〜」
ごめん、リューマ兄。俺ガッツリ魔物なんです!にしてもこれは…しんどいな。視界がぐにゃりと曲がっていって…っておっと危ない、気を引き締めないとぶっ倒れそうだ。
にしてもそんな便利な物が存在するんだなぁ…さすが異世界といったところか。
そして、街道に出た時にアイテムボックスから荷車を出して少量の魔物を荷に載せて歩いた。一応俺たちは商人として王都に入るからね。ついでに俺の体調もじわじわと悪化していったため、荷車に乗って休ませてもらっている。
う…めっちゃ気持ち悪い。船酔いしたみたいな感じがずっと続いてるよ…吐きそう。そりゃ魔物はこんなとこに近づきたくないわな、身をもって実感したよ。
荷車を押して歩くため今までよりも移動速度が落ちてしまったが、今の俺は走るのも歩くのもしんどいのでとっても助かった。
さて、2、3日もすればさすがにこの気持ち悪さにも少しは慣れた。身体に力が入りにくいものの、走れないとかそんな事はない。早くも順応し始めてるな!いい事だ。
さてさて、俺が今向かっている街は『王都マナリス』或いは『独立都市マナリス』『自由都市マナリス』『冒険者の国マナリス』などと呼ばれているらしい…いや呼び名多いな。
王都なのか、都市なのかはっきりしろよ!
何でも何年か前に、今の王様が独立を宣言したらしい。王様すごいな、独立するってすごく大変なイメージあるんだけど。反対とかなかったのかな。
それにしても、王都マナリス…だんだんと大きくなってきたなぁ。そこが俺がこれから住む初めての街かぁと考えるともう興奮が止まらないね!
そして街道で野営をしながら王都を目指して進んでいく。
野営の時についつい家を出そうとしたら慌てて止められた。能力がバレるぞ!とキツイお説教を受けた。
癖でついつい出そうとしてしまったことに反省しました…確かに気が緩んでいたのは認めるし反省する。が、やはりテントは寝心地が悪かった。
家でゆっくりと寝たいと思った、我体調悪いのだ。お家の布団でゆっくり寝たい…
そんなこんなで5日ほど街道を進んだところで王都を囲む大きな壁の目の前まできた。
高さは15メートル程だろうか?そのくらいの壁がぐるーっと街を囲むように続いている。
目の前で見ると、その重圧感といい大きさといい凄く圧を感じる。
まぁ俺ならこんな壁サクッと登れそうだなと思ったが、ここら辺で見かけた魔物じゃ到底この壁は登れないだろうし、森で見かけた魔物が攻撃してもちょっとやそっとじゃ壊れなそうなくらい頑丈そうだ。
そして何より…これ、全部吸魔石でできてるだろ。ヤバいんだが!?せっかく慣れてきたってのにまーた気持ち悪くなってるんだけど!?
再びグロッキー状態となった俺を乗せた荷車は、壁伝いにグルーっと回って正門を目指して進んでいき、およそ2時間程で遂に俺たちは正門へたどり着いた。
「お、ピューリアさん達じゃないですか。今回もなかなかの獲物を狩って来たんですね、もういっそのこと騎士団にでも入団したらどうですかね。推薦状なら俺が出しますから」
「ふふ、騎士団よりもこうやってのびのび暮らす方が私は好きなのよ。ごめんなさいね」
もう何度か来ているだけあって門兵とも仲が良いようだ。
「いえいえ…はい、身分証の確認も大丈夫です。特に危険物も積んではいないようですね。っておや?そちらのぐったりしている子は?」
「私たちの子供ですよ、大きくなったのでそろそろ私達と共に行動してもいい頃と思って今回連れてきたのですよ」
「…初めまして。レンジェルと言います…よろしくお願いします…うぅぅ」
「だ、大丈夫かい?失礼ですが何か病気でも?」
「いや、レンジェルはどうやら吸魔石で体調を崩してしまったらしい」
「なるほど!ならこの子は将来有望ですね」
「そうなのよ!あなたはいい感性をお持ちね、それはそれはレンジェルは素晴らしいのですよ!もう見た目は言うまでもなく、性格も礼儀正しくて物覚えも良くて、それでいてとても逞しく育ったのですよ!この間は森に入っていったレンジェルがーーー 」
「ピューリアよ、このまま語り続けると後ろが詰まってしまうぞ…門兵には後で非番な時にでもゆっくりと語ってやれば良いではないか」
「あら、私としたことが…申し訳ございません」
「は、ははは…大丈夫ですよ」
あぁ門兵さんが困ってる、ごめんなさい門兵さん。
そして多分本当に母様は後で俺の自慢をしに行く気がする…気をつけて門兵さん。
「おほんっ、それでは…ようこそ我らがマナリスへ!」
そうして俺たちはマナリスへと入っていった。
運命の歯車が静かに動き出した…