第19話 旅立ち
「ふむ、ここまで制御が出来れば十分であろう」
俺の師であるユグドラシル様は満足そうに(表情は一切変わりないが)そう言い放つ。
俺レンジェルはユグドラシル様のところで修行という名の暴行、虐待をされていた。
いや、別に修行自体はとてもためになるし、日に日に強く、そしてスライムとしての制御が上手く出来るようになっていくのを感じる。
感じるのだが修行の内容がいかんせんイカれていた……
最初はスライムの核を移植されて得た能力である再生をモノにするための修行だった。
この再生は核が砕かれない限り、幾ら傷を受けても魔力を消費する事で身体を再構築して再生してしまうというとんでもない能力だった。
別に消費する魔力もとんでもない程多くはないし、魔力はそこそこある俺にとっては数回再生したくらいじゃ魔力消費は痛くはない。
魔力消費は痛くないが、普通に傷付くと痛いし当然恐怖も感じる。
だからまずは痛みに慣れよう!って感じで俺が痛がらなくなるまで、恐怖を感じなくなるまで永遠と腕やら足やらを切り落とされた。
本当に痛いからやめて!って泣いて頼んでもユグドラシル様の返事は切断だったし…慈悲も容赦もなかった。
しかも何か途中から「お主は我の使徒となって世界の均衡を保ってもらう」とか何か壮大な使命を授けられたし。
使徒ってのは要はユグドラシル様公認の弟子みたいな感じらしい。
んで、ユグドラシル様は調停神としてこの世界のバランスを保たなきゃいけないらしく、使徒の俺も当然その責務が課せられる。
急にそんなこと言われても…とは思ったけど、神様には逆らえんよな。それにユグドラシル様に助けて貰った恩もあるし。
そんなこんなで2年くらい毎日ひたすら切られまくって、ようやく痛みに動じなくなったし、ほぼ無意識で再生できるようになった。
できるようになってしまった……
その時初めて、俺ってもう人間じゃないのかって実感が湧いたよ。
その後は無意識下で常に行われている体内の魔力循環の精度を向上させてより魔法の精度をあげたり体術の練習をしたりというメニューも追加で行って1年を過ごした。
本当はスライムエンペラーの権能も使用出来るようにしたかったとか言っていたが、まあ習得は出来なかった。
何でも今の俺では、まだスライムの核との融合率が不完全らしく本来の性能を引き出せていないらしい。
首切られても再生できるようになっただけでもすごいと思うんだけどな……
とにかく俺は血の滲むような、というか血が滲もうが腕が切り落とされようがお構いなしにぶった斬られる訓練を3年間を何とか生き抜いた!
そして俺は遂に12歳となり、ようやく家族の元へと帰る許可をもらえた!
やっとこの地獄のような訓練から解放される!自由の身だ!
使徒としての責務を果たすために、ユグドラシル様と何時でも連絡(こちらからは連絡出来ないらしいが…)が取れるようになってるが。でも指示がない時は自由にしてていいらしい。やったね!
「さて、ここを旅立つ我が使徒に一つアドバイスをしてやろう。レンジェルよ、お主は強くなった、純粋な力だけでなら人間の中でも上位に部類されるだろう。だがこれだけは覚えておけ。慢心、傲慢、油断、ほんの些細なことで身を滅ぼした英雄と呼ばれた者達は幾人もおる。お主もそれだけは気をつけるのだな」
「はい、肝に銘じておきます。でも正直この再生能力を得た身体ならよっぽどの事がない限り負けないと思うんですけどね」
「お主がどう思うかは勝手だ。さて、我が使徒にはいつもこれを授けているのでな。お主にも渡しておく」
そう言って一本の棒切れ…いや、木刀を取り出した。
「こ、これは?」
「これは我が背に生える世界樹の枝を使用して作った木刀だ」
世界樹!?てかやっぱりあれは世界樹だったのか。
「そんな高価なもの…貰ってもいいのですか?」
「構わぬ、どうせ手入れした時に出てきた枝で作ったものだ。それよりもその木刀に魔力を流して見るがよい」
「魔力を流す?分かりました。…わっ!刀身が伸びた!?」
「その木刀は魔力を流すことによってある程度伸縮に融通が利くようになっておる。便利であろう?」
「ありがとうございますユグドラシル様!大事に使わせて頂きます」
そう言ってインベントリに収納しようとして___
「後一つ、あまり人前で時空間魔法は使わぬ方がいい」
「…やっぱり珍しいからですか?」
「そうだな、時空間魔法と空間魔法はアイテムボックスと呼ばれる収納袋を作成できる。昔は時空神のやつが加護を授ける事で世界で幾人か存在しておった。しかしいつだったかは覚えておらぬが、突如時空神のやつが姿を眩ませてな。当然それ以降時空神の加護を授かる奴もいなくなる」
「………」
「人の生は短いからな、月日が経つごとにアイテムボックスを作れる奴は減っていく。今だとかなりの高値で取引されておったはずだ。レンジェルが空間魔法持ちだとバレれば国レベルで動き出すであろうな」
「わかりました!時空間魔法は極力使わないように気をつけます」
「それで良い。我が使徒が命尽きるまで傀儡にされるのは流石に我も不快だ。後はその再生だが、それも人前で使うのは辞めておいた方がいい。魔物認定されるかもしれぬ。レンジェルは実際魔物であるのを知っている我にとっては至極どうでもいいことなのだが」
「はい!気をつけます!魔物認定されるのは嫌なので!」
あんだけ再生能力を鍛えておいて、いざ実際に使ったら魔物認定されるって?いやふざけんなよ!
…って思ってしまった俺は悪くないと思う。
「そうか、ならば精々バレぬように努力するのだな…さて、そろそろ時間だ。さっさと行くがよい 」
「はい、3年間お世話になりました、ユグドラシル様のおかげでかなり強くなれました。次会うときにはもっと強くなっておきます!お元気で!」
そう言って俺は時空間魔法を使って家へと向かっていった。
「さてと…レンジェルを暫しあの街で過ごさせるような算段は整っている。レンジェルの面倒見てる奴らの記憶の方も問題なさそうだ。後は事が起きるのを待つだけだ…が、レンジェルの側にはメイリーがおったはず。我が言うまでもなく動くだろうが、今脱落されては面倒だ。一応面倒を見るよう伝えておくか」
***
「とーうちゃーっく!いや〜久々の我が家だ!家だ!あぁこの感じ懐かしい!このアットホーム感最高だわ〜」
時空間魔法を使ったので帰路は一瞬だったが、3年ぶりの我が家に帰ってきて俺はテンションが上がっていた。
「周囲にユグドラシル様の気配無し!やったーあの地獄の日々を俺はようやく乗り越えたんだぁあ!」
今までが地獄だったから、我が家という落ち着いた空間に思わず感動してしまった…
「な!?だ、誰だ…ってレ、レンジェル!?レンジェルなのか?目の前にいきなり成長したレンジェル…夢か?これは夢なのか!?ってやっべ…」
のもつかの間、転移した目の前では丁度リューマ兄が薪を割っている最中だったらしく…突然のことに驚いたリューマ兄はバランスを崩して背負っていた薪を盛大にぶちまけてしまった。
***
以下、レンジェルの所持する能力です。参考程度に。
レンジェル…半粘族
「幻想魔法」「時空間魔法」「ドレイン」「破壊魔法」「鑑定眼」「傷身者」「魔核路」「魔力操作」「自己再生」
加護;「破壊神サタンの加護」「調停神ユグドラシルの加護」「時kウ#∩ノ3Ⅱン滓」
状態;破壊魔法による精神侵蝕、調停神の使徒
自己再生
…魔力を消費して自身の傷を修復する能力。レンジェルは無意識に使用するレベルにまで極めた。
調停神ユグドラシルの加護
…調停神ユグドラシルから授かった加護。精神干渉系の攻撃に対する耐性が上昇すると共に、自身の感情の振れ幅が減少する。
破壊神サタンの加護
…破壊魔法の使用によって魔神サタンの加護から昇格。破壊魔法に必要な魔力量が少し減少する。




