第2話 終わりの始まり
特にこれといった特徴の無い平凡な男、安定した職に就き、平凡な生活を送るだけのつまらない人生。
自慢できる事といえば自宅PCに存在する数多の秘蔵のボクっ娘美少女画像フォルダくらい。
毎週エステにも通ってるしジムにも行ってる。身嗜みも最低限は整えている、決して使い古してヨレヨレのシャツやズボンなどは来ていない!
な、の、に、だ!俺は全くモテない。
顔か!顔がダメなのか!いや、俺的所見では1000人いればもしかしたら1人か2人くらいはチョコっと二度見するかもしれない程度にはいいはずなのだ!…0.1%の確率で俺はモテるのだ。
……はっはっは、言ってて悲しくなるな。やめよう。
大学を出て職を転々としながら最終的にこの会社に勤めるようになって約10年。
今年で40、アラフォーのおっさんだ。残念なことにまだ結婚はしていない。…彼女もいない。
俺の童貞は風俗で捨てた…正直負けな気はしたがつい出来心で足を運んでしまったのだ。魔法使いになんてなりたくなかったのだ、察してくれ。おっと、この話はかなりの黒歴史なのでこれ以上は語るまい。
それに今は正直仕事も忙しく、彼女どころでは無いのだ。
親に散々急かされるがそれどころではないのだ!仕事が忙しいのだ!…本当だよ、嘘ついてないよ?
そ・れ・に!俺は画面の女の子といっぱい結婚(仮)しまくってハーレム作ってるんで間に合ってます。
そう、それが俺、…俺レンジェル。…違う。佐藤拓海だ。誰だレンジェルって?なぜ一瞬名前を忘れていたのだろう。そんな名前、もしかしてどっかのゲームやってた時に出てたっけなあ?
「ぶちょー、お待たせしてすみませーん。」
自分語りはこれくらいにして…
彼女は俺の部下の飯島ちゃん。かなりの美人で少し天然の混じった行動が目立つ今年で2年目の俺の部下。うちの部署問わず会社で噂されるほど人気の女の子だ。低い身長にほんわかした雰囲気の美女とか…たまらないね!
先程感じていた変な違和感はすでにどこかへ押しやられていた。もうすっかりゴミ箱行きだ。
そんな事よりだ!最近密かにファンクラブができたとか何とか。さすが飯島ちゃんである。
そして彼女はまだ独身らしい。つまりは俺もわんちゃんあるのではないか?…いや、年の差が流石にありすぎか。
「 ごめん拓海、急に呼び出して。待った? 」
こいつはビジネスパートナーでもある黒崎。大学卒業後直ぐにこの会社に就職。因みに俺と同期で今年で30を迎える。結婚はしていない!もう一度言おう、結婚はしていない!
容姿はそこそこ整っていて、みんなをぐいぐい引っ張っていく行動派。顔でも行動力でも俺より上というハイスペック系男子だ。そんな彼がまだ結婚していないのだ、俺が結婚できていなくてもしょうがないな!
しょうがないと言え。
そんな黒崎とはよく飲みに行っては愚痴を言い合う俺の数少ない友人の一人だ。
「おぅ、俺もさっき来たばっかだから気にすんな。で今日はどうしたんだ?それに飯島ちゃんもいるなんて珍しいな 」
こう見ると2人はカップルに見えなくもないな。うん、なかなかお似合いだ。
あれか、今日は俺に「実は俺たち付き合ってるんです」報告かな?
「 実は僕たち、晴れて結婚することになりました! 」
ほーらなぁ、やっぱり……てちょっと待て!
「け、ケッコン!?それって血の痕と書く…」
「 …それは血痕だよ。そっちじゃなくて夫婦になる方の結婚 」
「 お、おぅ。そうか、それはおめでとう… 」
やっぱり聞き間違いじゃ無かったのか。しかもお付き合いを超えた結婚だと!?
一体いつからだ?いつから付き合い始めたんだ?
くそ、そんな素振りなんて一つも見せなかったぞ!本当に全然分からなかった。
おのれ黒崎め!羨ましすぎるぅー!
俺らのアイドル、飯島ちゃんをお前は掻っ攫うと言うのか…許すまじ黒崎…みんなに呪われて死ね!
「 ふっふっふ、やっと僕にも婚期が来たようだよ 」
「 …いや、お前は元からモテてたけどな。わりと女性ファンもいたぞ 」
「 ファ、ファン!?あれ、僕はいつのまにかアイドルに職業が変わっていた!? 」
「 ま、とりあえずおめでとさん。そして地獄に落ちろ! 」
となりの飯島ちゃんが頬を赤らめて恥ずかしそうにしてなければおめでとうの意味を込めて、顔面に俺の熱い気持ちのこもった一発をぶち込んでやるとこだった。
「 それよりも飯島ちゃん、こいつで本当にいいのか?飯島ちゃんは若いし可愛いんだから…こんなおっさん結婚相手で本当にいいの? 」
「 ちょっと酷くない!?まだ30!僕はまだ30だよ! 」
「 うるさい、お前は一旦黙ってよっか 。次喋ったら口に要らない書類丸めて突っ込むからな」
「 扱い酷くない!? 」
「 で、本当にこんなやつでいいの? 」
「……… 」
「 はい!…その私は、僕っ子おじさんが昔から好きだったので全然問題ありません! 」
「 お、おう…納得してるならまぁいいのか? 」
「 お、おじさん……僕っこおじさん……」
やはり飯島ちゃんは天然だった。
そして黒崎はおじさんという言葉で精神に大ダメージを受けたらしい、ざまぁみろ黒崎!
「 で、やっと納得してくれたかな?ほんと疑い深いやつだなぁ拓海は 」
どうやら先程の精神的ダメージは回復したらしい。立ち直りの早い事。
「 くーーー、黒崎が結婚するなんてな!ムカつくけどあれだ!結婚祝いに今日は飯奢ってやるわ!もう死ぬくらい食わせ飲ませてやるから覚悟しとけ!そして食べ物喉に詰まらせてそのまま死ね! 」
「 あっはっはー、今日は宴だー。拓海の財布をすっからかんにしてやるぞー!」
「 ぶちょー、ありがとーございますぅ 」
俺は悔し涙を流しながら店へと向かっていった…
***
道中、俺は2人が付き合うまでの事、プロポーズの言葉、飯島ちゃんの可愛さについてひたすらに黒崎に聞かされた。
…こいつ絶対わざとだ、俺の反応見て楽しんでやがる。
そしてあれだ、口から砂糖を吐き出したいと言う人の気持ちが今ならよく分かる、本当によく分かる。
黒崎、一発殴らせろ!いや、その顔、原型がなくなるまで殴らせろ!いやまじで。
飯島ちゃんが照れて顔を真っ赤にしてなければぶん殴ってミンチにしてたところだ。
運のいいやつめ。
そんなこんなで3人で歩いていると、
「「「キャーーーーーーーーーーー!」」」
な、何が起こったんだ!?有名人でも街中に現れたのか!?いや、今聞こえた悲鳴はどちらかというと怖いものを見たときの悲鳴に聞こえたが…
「 お前さんたち、すぐにそこから離れろーーー!!!轢かれちまうぞー!」
え?何だって?轢かれる?
慌てて周囲を見渡すともの凄いスピードでこっちへまっすぐ突っ込んでくるトラックを見つけた。ここ歩道だよ運転手さん!
おいおい、よく見りゃ居眠り運転じゃねえかコラ!
(クソ…もう目の前じゃんか!)
3人一緒にお陀仏か…ざまぁ黒崎、俺に自慢しまくったのがいけなかったな。仲良く一緒に死のうじゃないか!
そして俺はとっさに黒崎と飯島ちゃんを思いっきり突き飛ばした。
そして次の瞬間、俺の目の前にまで迫ってきていたトラックが俺めがけて突っ込んできて……
ドガァン!!!
2人は俺がとっさに思いっきり突き飛ばしたから少し怪我はしたくらいだが大丈夫そうだ。良かった良かった。
え?俺?轢かれて死んだのかって?ふふふ、残念だったな!2人を突き飛ばした衝撃で少しだけ身体が後ろに逸れたおかげで足はそれはもう見事にトラックに轢かれて大丈夫じゃないくらい痛いのだが上半身は運良く難を逃れたのだ。作用反作用の法則まじで神だわ。
俺はそう簡単には死なんぞ!ふははは!
全世界のリア充が滅亡するまで我は死なぬのだー、はーっはっはっは。言ってて悲しくなってきた…
軽口でも叩いてないと痛みで死にそうなんだよ!コン畜生め!
それは兎も角として何とかトラックに轢かれて御陀仏というどこぞのラノベですか展開は防ぐことが出来たのだ、良かっ____
ギィ……
それよりもほんと足痛い!足痛くて死にそう!痛い痛い!誰か救急車!
因みにトラックはどうなったんだ?すぐ後ろの工事中のビルに突っ込んでらあ。
トラックの運転手、死ぬんじゃないのか?まぁ居眠りしてたのが悪いんだ。きっと天罰が下ったんだ、天罰が。
まぁ今回は何とか助かったな、あとで黒崎にお酒でも奢って貰えれば頑張った甲斐があった_____
ん?なんか急に棒みたいな影が…
「 そこのおっさん、上!上! 」
誰がおっさんだゴラァ!俺はまだピチピチの40だ!え?それはもう十分おっさんだって?あ、そう。
にしても上に何があるってんだよ………上を向いてみると
___あぁなんだか上からでっかい鉄パイプやら鉄骨やらが降ってきてる。
今日の天気は晴れ時々鉄パイプってか?
ソラ○ローの天気予報も当たらないもんだなぁ…今日は快晴の予報だったのに。
バカヤロー!そんな事考えてる場合か!逃げ……あ、足が動かない。
ドドドドン!ガランガラン………
流石にこれは避けられませんでした。俺はそれは見事に鉄パイプの雨に直撃しました。
もう痛いとかそんなのわかんないや。
効果は抜群だ弱点特攻の4倍ダメージ!拓海のHPは0になった!………てか?
にしても工事中の建物に突っ込むなよな…というかトラック突っ込んで崩れる鉄骨て明らかに建築としてあかんやろがい…
マジで怒るよ…あぁ意識が薄れてく。
「おい拓海!拓海!大丈夫か!今救急車呼んだから!だからもう少しだけ踏ん張って! 」
「 ぶちょー、ぶちょーーーー!!!あ、頭から血が…… 」
「 お前らは巻き込まれなかったのか…そうか、巻き込まれなかったか……よかったな………ごふっ! 」
あー、ヤベェ。口からも血が出てんじゃん。
「 喋っちゃダメだよ!本当に死んじゃうよ! 」
「 くそ……死ぬ前に俺も結婚したかったな………黒崎、飯島ちゃんを悲しませるなよ?………ゴホッゴホッ………悲しませたら許さないぞ。呪って枕もとに出るからな?」
「 だから喋っちゃダメだよ!わかったから!絶対に幸せにさせるって約束するから!お願いだからこれ以上喋らないでよ…また一緒に馬鹿な愚痴言い合って楽しくお酒飲もうよ!一緒に馬鹿なことして社長に頭下げようよ!それにまだ飯奢って貰って無いよ!結婚祝いも貰ってないし今死んだら披露宴にも呼べないよ…自慢したこと謝るから!さっきまでのうざい僕の態度のことなら謝るから!だからお願いだから死なないでくれよぅ……… 」
「 ははっ……まさかお前の泣く姿が見られるなんてな………ゴホッゴホッ………お天道様にいい土産話ができたな…あ、そうだ結婚祝いに俺の秘蔵のボクっ娘美少女画像のファイルをあげるよ……俺の宝物だぞ……大事にしろよな………………俺の鞄の中の手帳にロックナンバーが 」
「そんな馬鹿なこと言ってないで黙っててよ!本当に死んじゃうから!あとそんな変なファイルもらっても嬉しくないから!おい!救急車!救急車はまだなのか!早くしてくれ!このままじゃ拓海が!拓海が死んじゃうよぉ… 」
そんな泣きながら怒鳴らないでくれ、こっちの方が泣きたいんだ。あと目の前で怒鳴られると怪我に響いて痛いからやめてくれ…
あぁ、もうダメだ。意識が薄れていく。まぶたが重いなあ。
あ!最後にこれだけは言っておかなくては…
「 く…ろ…さき……… 」
「 おい…顔が真っ青だぞ!これ以上喋ったら本当に死ぬから!黙っててくれよ… 」
どうしてもこれだけはどうしても伝えなければ…
「俺…が死ん……だら…俺の会社の…PC…データ消しといて……バレたら…社会的に死ぬ…ものたくさんある…から…パスワードはズボンの右ポケットに…ある手帳に………あと、俺のタンスの一番下にエロ本が詰まってる…それ、焼いて……燃やし、て」
「馬鹿野郎!何が社会的に死ぬだよ!なんなら今なら物理的な死ももれなくついて来ちゃうから!あ!やっと救急車が来やがった!おーーいこっちだ!怪我人が!怪我人がここにいるんだ!早く助けて!!! 」
こちとら必至に伝えたのに…あの画像はダメなんだよ!獣耳っ娘がにゃんにゃんしてる画像とかロリ巨乳のお兄ちゃんっ娘がきゃっきゃうふふしてる画像やら沢山あるんだからな。会社のPCマジで頼んだぞ?家のタンスも。
「 おい!た………み………しっか………し……じゃ……め………だ……… 」
あぁ黒崎が何か言っているが全然聞こえない。
声が、意識がだんだん遠ざかっていく…
あぁ死ぬのか、俺……
どうせなら天国行って可愛い天使ちゃんを一度は拝んでみたいなぁ…
そんなどうでもいい事を考えながら俺の意識は完全に闇に呑まれていった。