第17話 神の意向
人型をした植物の魔物…?幾つか候補は思い浮かぶものの、どれもこんな見た目はしていない。
木を削って誰かが人型っぽく彫ったものが魔物化したのか?と思ってしまうほどにこの魔物は良く出来ている。
そして…どうやら今の風で俺達の家は完全に崩壊してしまったようだ。
レンジェルはいなさそうだな…くそ、無駄足だったって事か。
それより……この後、どうすればいい?俺達3人は、完全にあの魔物の視野に入ってしまっている。
下手に動いた瞬間殺されてしまうかもしれない。
ちらりと視線をマーチェス様に向けてみるが、その目は動くな!と強く訴えているような気がする。
再び無言が世界を支配しかけた時、
『我は調停神ユグドラシル。今日はお前達に伝える事があってこの場に来た』
調停神?ユグドラシル……!?
待て待て、え!?
突然放たれた言葉に理解が追いつかない。
『狼狽えるでない、話が進まん。黙って聞いてろ』
そう放たれた一言で、何故だか今まで騒ついていた思考がクリアになっていく。
『お前らの子レンジェルは我が預かった。我があいつをお前らに返すまで、そのまま普段通りに生活していればいい』
ほぉ、レンジェルはユグドラシル様が暫く預かってくれるのか。
『レンジェルがおよそ12になる頃には返す予定だ。それまでにお前達が近くの街で学校…だったか?それに入学する手続きを済ませておくがいい』
なるほど、確かに12になれば学校に通える年齢になっているな。本当なら9歳からの方の学校にも通わせてあげたかったが、それはもう今更だ。しょうがない。
「お、お前は!う……ぅぅう!ああぁぁあ!!!」
と、突然ピューリア様が頭を抱えて何か叫んでいる。大丈夫だろうか?
『ふむ、そうか…お主はメイリーの宿主であったか。不完全とはいえ、神をその身に封じているとは。まぁいい、我から伝える事は以上だ。準備を進めておくように』
そう言い残すと、人型を模した人形はそのまま小さな木へと変化した後、ボロボロと枯れていき風に吹かれて散っていった。
俺とマーチェス様は急いで倒れたピューリア様の元へと駆けつけ、ただ気絶しているだけだと分かってほっとした。
さて、これから忙しくなるぞ〜。
レンジェルとあの街に住むために家を借りたり、学校を探したり、あと俺達の職も考えないといけないか。
他にも色々やらなければならない事はあるが……そうだな、まずは壊れた家を建て直す事から始めるか。
レンジェルが帰ってきた時にここにあった家が無かったら悲しむだろうしな!
***
『おいメイリー、聞こえてるか』
『はいはい聞こえてますわよ〜。いやぁ驚いたわよ、ユグドラシルが動き出すなんてどういう風の吹き回しかしら?』
『そろそろ魔族の数が減りすぎてきてバランスが崩壊しかけている』
『あぁ〜、そういう事ね。最近フレイヤったら魔族なんて滅んでしまえー!って意気込んじゃってるのよね』
『そこでレンジェルを我が使徒にしてしまおうと思ってな、我の使徒として人族の数を減らしてもらおうと思っておる。お前にも手を貸してほしい』
『お誘いのお話だったのね、そうねえ…どれどれ。あら、レンジェルちゃんってとっても可愛い子じゃない!そうねそうね、じゃあこうしましょ!レンジェルちゃんが死んだらその魂と肉体は私にちょうだい!くれるんだったら協力してあげるわよ』
『ふむ…まぁ我は別に構わんが』
『やったぁ!取り引き成立ね!あ、言っておくけどレンジェルちゃんの肉体は丁寧に扱ってよね!ボロッボロの状態で渡してきたら許さないからね?』
『…それは善処しよう』
『絶対よ!……てまぁ!どうやらレンジェルちゃんってあのサタンに目つけられてるみたいだわ。ユグドラシル、肉体と魂は私が売約済みって事ちゃんと伝えておいてよね!』
『あぁ、伝えておこう』
『じゃあ何か用事があったらまた呼んでね。ばいばーい』
『……面倒事が増えた。まぁ仕方あるまい、世界の調和を保つためだ。これくらいは我慢するか』
『さて、まずはレンジェルを鍛えてやらんとな…あのままでは全く役に立たんからな。面倒だが我の使徒となるに相応しいように作り替えねばなるまい。他の神へ話を付けるのはその後でも遅くはないであろう』
〜第一章END〜