第14話 神の使徒
「かかか、神様ぁあ!?…はっ、し、失礼しました。あまりのことに取り乱してしまいました、無礼をお許しくだちゃい」
ヤッベ、最後舌噛んだ…痛え。大丈夫かな罰とか下されないかな?にしても…ユグドラシルってあのユグドラシル?
かの有名な北欧神話に登場する、世界を支える存在として描かれていたユグドラシル!?てことは背中の木はやっぱり世界樹だよな!たぶん。
ユグドラシルがいるって事は他にもユグドラシルに関連する神様も存在するのか?
「そなた我を知っておるのか?…あぁそなたは転生者であったか。我はホクオウシンワとやらは知らぬが…まぁそんな事はどうでもよい、それよりもお主も名を名乗るがよい」
というかやっぱり俺の心の声とか普通に聞こえるんだな…まぁそれくらいじゃ驚かないが、だって神様だし。
てか普通に俺が転生者であることも知ってるんだな…さすが神様。
「 はっ!私はレンジェルと申します。本日はこの私の為にユグドラシル様の貴重な時間を割いてまでいらっしゃっていただいた事、誠に感謝いたしーー 」
「そんなに畏るでない、そのような言葉づかいは回りくどくて話の本筋を話すのに時間がかかりとても非効率である。敬うのは心の中でだけで良い、分かったな?これは命令だレンジェルよ」
「は、はい…わ、分かりました」
「そうだ、それでよい」
ほっ、何とか機嫌を損ねずに済んだようだ。
「ところでユグドラシル様、お尋ねしたいのですが…ここは一体何処なのですか?私は洞窟の中に居たはずなんですが。しかも身体の傷も綺麗さっぱり無くなっているのも不思議です」
「ふむ…少々面倒ではあるがこれも規定のうちだ。まずレンジェルはエンシェントリザードマンを倒し洞窟に入り、その後エンシェントガーディアンを倒した。ここまではよいか?」
「はい、しっかりと覚えています」
あ、何とかエンシェントガーディアンに俺は勝ったのか。最後の方全く覚えてないんだけど…ギリギリ勝った?のかな。まぁ次やって勝てるかと言われたら否と言わせてもらうが。
「洞窟内にいたエンシェントガーディアンは戦う相手よりも必ず強くなるように設定されている。そのエンシェントガーディアンを突破する事が我の聖域への門を通る事ができる。しかしお主は試練には打ち勝ったものの、全身ぼろぼろ、満身創痍、死ぬ寸前までのダメージを追った。放っておいても1分も経たぬうちに命の灯火は消えるであろうところだった」
「…まじかぁ」
「でだ、折角我の試練を乗り越えた者がこのまま死んでしまうのはつまらないのでな、お主の治療を行ったのだ。しかしお主の身体の損傷具合はあまりにもひどく治療できないレベルだった。特に心の臓が完璧に潰れておって機能しておらんかった。だから新たな“心臓”の役割を果たす代換品が必要だったのでな」
「………(何か嫌な予感がする)」
「スライムエンペラーの核がちょうど手元にあったのでな。それを心臓の代わりに使用してお主は無事助かったのである」
「っはぁぁぁぁああ!!??スライムの核だってぇぇえええ!!??」
「何を驚いておる。死ぬよりかはマシであろう?」
「そ、それは…まぁそうなんですけども…でもいきなり魔物の核を心臓にされたと言われても…ん?魔物の核を心臓?ってことは…俺ってもしかして魔物になっちゃった!?」
「定義で分類するなら魔物であろうな。身体を再生するにあたってスライムエンペラーの核と融合する都合上、魔物化は避けられない。そんなこと些細なことだ」
「当事者としては全然些細なことではないんですけど…」
「なんだ不服か?ならばお主に埋め込んだ核を今すぐ取り除いてやってもよいぞ?」
「いえいえ!命を助けて頂きました事誠に感謝しております!」
「さて、長話はおしまいだ。そろそろ始めるとしよう」
「は、始めるって何をですか?」
「お主に埋め込んだスライムエンペラーの核、今はただの心臓の代わりだけの機能しか働いておらんのでな。本来の性能を取り戻さねばいかん」
「えっ……」
「レンジェル、お主は試練を突破した者、つまりは我の使徒となるに相応しい者であるのだ。であれば我の使徒たり得るよう育成するのも我の務めよ」
「いや……あの……」
「安心しろ。お主の家族には我が説明しておいてやろう。お主はただスライムエンペラーの核の能力を引き出すことにだけ意識を割いていればよい」
「え…いや…あの……」
やばい、この神様俺の話を全く聞いてくれない。何か勝手に俺の育成?が決定したんだが…
あと何使徒ってなに?あのゴーレムがこの聖域に来るための条件?この神様、完全に自己完結しててヤバいんだが!?
「さて、そうと決まれば早速だが修行を始めるぞ。お主は我の使徒として働いて貰わなければだからな。そう長くは付き合ってはられん、精々2、3年といったところだ。その間に最低限の能力だけは身につけてもらわねばならん」
「は、はぁ…」
「では、まずはスライム特有の自己再生能力だ。スライムというのは___ 」
以後、しばらくの間神様によるスライムとは何なのか説明会が開催されたのだが、詳細は省かせてもらう。違う、決して説明が長くて聞いてなかったとかそんなんじゃない……
「と、とりあえずはスライムの再生能力を身に付ければ良いのですかね?」
「最低限それだけこなせるようになれば及第点といったところだ…再生能力を戻すのに一番効率的な手法は…」
と言い終えると早速神様は俺の右腕をスパッと切り落とした。
……
……え?
いやいや、え?今俺腕切り落とされた?
地面に落ちた腕と、切り落とされた右腕を交互にみつめる…そして今の状況を理解した途端。
「いだいだいだいいっっだぁぁあい!!!いやいや、唐突に何なんだよ!!!っぁぁああ!おいふざけんな!どうしてくれてんだよ!」
のっそりと後からやってきた痛みの激流に呑み込まれた俺は、相手が神様だろうと関係なかった。
というかいきなり腕切り落としてくる神様って何なん!頭沸いてんだろ!
「こうして実際に再生させられるようになるよう傷つける事だ。痛いのであろう?ならば早く再生させれば良い。それが無理なら、落ちた腕を拾って傷口に当てて結合させても良いぞ」
「いや急にそんな事言われても無理ですって!」
「ほれ、早くしないと死んでしまうぞ?」
「だーかーらー!」
…あぁ、すっごくヤバいやつに目つけられてしまったよ。そしてこの日から、地獄のレンジェル育成計画が始動したのだった。