第12話 破壊魔法
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「はぁあっ!」
「………!」
ゴーレムの拳が迫り来る。それをギリギリで見切って何とか躱しながら距離を詰めようとするが、ゴーレムはこちらに近づけさせまいと一定の距離を保ちながら攻撃を繰り返す。
(拳での攻撃なのにリーチは向こうが上なんてずるいだろ!ゴーレムの癖に自分が絶対優位に立つような間合いをずーっと保ってきやがって… なら!)
幻想魔法で俺の幻を二つ作り、状況の打破を狙う…が、予想と反してゴーレムは本物の俺のみを狙って攻撃してくる。
ゴーレムは幻想魔法で生み出した幻などまるで居ないかのように無視を決め込んで本体である俺のみを狙う。
(俺の幻に全く反応してない?まじかよ…ほんの僅かでもいいから何かしらの反応はして欲しかった。
なら一応ダメもとで…)
「ならこれならどうだ、死への誘い(デスイリュージョン)」
リザードマンですらも廃人にさせた「死への誘い」。
廃人にまではいかなくともある程度の隙くらいは出来るだろう、それくらいに自信のある魔法だったのだが……
だがゴーレムが魔法にかかる気配は一向に無い。そのままこっちに向かって突っ込んでくる。
「おいおい、これも効かないのかよ!何となく予想はついてたけど…ってやば!グハァッ!」
魔法の発動によって生じた隙を突かれて、ゴーレムの推進力の乗った蹴りが吸い込まれるように襲いかかる。
避けられないと悟った俺は咄嗟に剣を盾がわりにし、少しでもダメージを減らすために地面を思いっきり蹴り飛ばして少しでも後方へ下がる事を試みた。
しかしそれでもゴーレムの攻撃は恐ろしく重く、盾がわりにした木剣は小枝の如く容易にへし折られ、蹴りの勢いを弱める事すら出来なかった。
そのまま思いっきり吹き飛ばされ、大車輪のように地面を転がり続ける。やがて背部に激しい衝撃を感じた所で何とか止まる事が出来た。
なるほど、蹴られた勢いで壁に打ち付けられたのか。あと、全身がバッキバキなんだけど…ちょっとでも動かそうとすると涙が出てくる。
ぐにゃりと歪む視界の中で、再びこちらに向けて歩みを進めてくるゴーレムを確認する。
(こっちは幻想魔法は効かない、時空間魔法は封じられてて使えない。ついでに剣も砕かれた。それに対し向こうは傷の一つもない…か。状況的に俺かなりピンチじゃん…しょうがない、まだ使いこなせてないけど使うしかないか。持ってくれよ俺の身体!)
ふぅ…と、大きく深呼吸して心を落ち着かせる。呼吸の度に全身が悲鳴を上げるが気合いで黙らせる。
初めはゆっくり破壊の魔力を練り上げていく。徐々に徐々に練り上げる量を増やしていく。と同時にゴリゴリゴリと心の奥底が削られるような不気味な痛みを覚え、身体がこれ以上の破壊の魔力の生成を拒絶するかのようにブルブルと震え出す。
それを無視して限界まで練り上げた破壊の魔力を、前のめりになりながら殴りかかってきたゴーレムの拳目掛けて放つ。
「……破壊!」
ゴーレムの拳と俺の破壊のエネルギーがぶつかる。
破壊の魔力の凝縮された球体は、ゴーレムの拳と衝突したのにもかかわらず何の音すら立てる事なくゴーレムの右腕を黒い粒子へと変換。破壊の魔力はそのままゴーレムの肩まで到達した後、黒い粒子とともに跡形もなく消し去っていった。
右腕が突如として消え去ったゴーレムはバランスを崩し、地面を揺らしながら壁に衝突する。
…いやいや、破壊魔法つっっっよ!
え、なにこんなにあっさりとゴーレムの右腕って消し飛ばせんの?
この魔法使えばこのゴーレムも楽勝じゃね?
とか思っていた矢先、破壊魔法の行使による体内の魔力の急激な消費による魔力欠乏症や倦怠感、吐気、目眩、頭痛。そして全身にウジが湧いたような非常に不愉快な瘙痒感と、内側から抉られるような耐えがたい痛みが一気に襲ってくる。
気持ち悪いとか痛いとかそんなレベルじゃない!内側から何かに食い散らかされてるような、そんな感じがする!
思わず俺はその場にしゃがみこみ、おぇえと胃液を地面にぶちまけた。痛いとかそんなのもお構いなしに爪を立てて全身を引き裂くように掻きむしる。痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い!
やがて全身の至る所から掻きむしった所為で血が流れ出し、視界は真っ赤に染まってしまい何も見えなくなった。目を擦ろうとするも腕からの出血も激しく一向に視界を確保できない。
まずいまずい、痒い痒い!何だこれ!破壊魔法ってこんなにもやばかったっけ!?もう何も考えられない、死んでしまいたい!痒い痒い痒い痒い痒い!
そんな風に悶えている間に、ゴーレムは体勢を立て直し再びこちらに向かって飛びかかってくる。
(やばいやばいやばいやばい。どうにかしなきゃ…)
心ではそう理解しているものの、激しい嘔気と全身を襲う瘙痒感に意識が持っていかれ何も考えられない。
それらに抗って何とか起き上がろうと立ち上がるが、体勢を整えたゴーレムが問答無用で豪快な回し蹴りを俺の腹部に打ち付ける。
そのままくの字に折れ曲がったまま一直線に飛んでいき、壁に大きなヒビを刻み込む。
「かはっ…!」
一気に体内の空気が叩き出され、頭の中が真っ白になり思考が一瞬停止する。
このまま気を失ってしまいそうだったが、ゴーレムからヒシヒシと伝わってくる無言の威圧と俺の生物としての危機反応がそれを許してはくれない。
かなりの勢いで吹き飛ばされたお陰か、目を覆っていた血液が幾分かなくなっている。急いで周囲の状況を把握しようと目を凝らし……ゆらゆらとゴーレムの目が妖しく輝いている!?
まずい!
危機を感じて咄嗟に俺は今あるだけの魔力全てを込めてゴーレムの目を目掛けて破壊魔法を行使した。
その直後にキュピーンと甲高い音と共にゴーレムの目から紫紺のレーザーが射出される。
俺の放った破壊魔法はゴーレムのレーザーを完全に無効化してそのままゴーレム顔面を消滅させた。
あ、危ない。破壊魔法でレーザーを打ち消せなかったら……
______________ぁ。
あ?ぁぁぁあああ!!!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
唐突に襲ってきた心臓を握りつぶされるような痛み。
そのまま心臓を体外に引っこ抜かれていくかのような感覚が襲いくる。
助けて痛い痛い痛い痛い!
俺がいくら助けを乞いても痛みは言うことを聞いてくれず全く止むことはない。
___モゾモゾ、モゾモゾモゾモゾ
ぁぁぁあああ!痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い!
全身の臓器からウジが湧き上がってくる。心臓から湧き出たそれは肺、胃、食道から喉の奥にまで。
鼻、耳…目……そして脳内へと。。。
ああああああ!!!!!やめてやめてやめてやめてやめてやめて!!!無我夢中で全身を掻きむしり、それだけでは済まず知らず知らずのうちに無い魔力をかき集めて何かの魔法を行使。それは俺の身体を容赦なく切り刻んでいくが、それでもなお痒みと不快感は増し続けるばかりである。
……ズシン……ズシン……ズシン
そんな俺の事などお構いなしに、頭部と右腕を失ったゴーレムが再び動き出しこちらへと迫ってくる。
……まじかよ!あれでもまだ動くのかよ!
辛うじて残ってる意識で、ゴーレムがこちらに向かっているのを感じる。しかし、破壊されてもなお速度を落とすことなく突っ込んでくるゴーレムに対処できる程の余力などない。
巨大な鉄球の砲弾がぶつかったかのような、痒みすら吹き飛ぶ脳内が白紙になる重い一撃をくらう。思いっきり吹き飛ばされて地面を二転三転してもなお、転がる勢いは止まらない。
やっと回転が収まったと思ったら、タックルしてきた勢いのまま身体を上空に浮かせて器用に一回転しながらかかと落としを決めにくる。
避けなければと分かってはいるが、思うように身体が動かない。ヨロヨロと身体を拗らせて攻撃を受ける面を減らすことが精一杯だ。
ズドォンと、激しい蹴りの衝撃で壁際まで吹き飛ばされる。あまりの衝撃で宙に浮かび上がる俺の身体。
ベチャっと音を立てて落ちた身体に右半身はすでに存在しておらず、右半身だったであろう踏み潰された肉塊のみが俺のそばに存在する。
そんな状態なのに全く痛みを感じていないのだから、不思議でしょうがない。
こんな事になるなら、好奇心でこんな所に来るんじゃなかった。言われた通りに一緒に街の散策に付き合えばよかった。
ある程度は強くなったと、そう思っていた。確かにまだ夜に徘徊している魔物には勝てないし、父様にもリューマ兄にも勝てはしない。
それでも、俺は心のどこかで俺は強くなったと思っていた。ちょっとのことでは死なないくらいの実力はあると思っていた。
それがどうだ、身体は潰れ、魔力は使い果たしてからっきし。それでいて相手はまだまだ倒れる様子はない。
慢心した結果が、これか。この世界に来て最初に感じたはずなのに!強者こそ全てのこの世界。
俺は自分が強くなったと思っていた。夜の森の魔物には勝てないにしろ、父様達の背は未だ遠いものの、それでもそこそこ強くなった。ちょっとくらい冒険しても許されるくらいには強くなったと、そう思っていた。
……井の中の蛙だったってことか。
ちくしょう!……ちくしょうちくしょうちくしょう!
確かに俺が悪かった、それは認めよう。だからといって、何で死ななきゃいけないんだよ!ふざけんな!やだ、まだ死にたくない。こんなところで死んでたまるか!
幾らもがこうとも身体はぴくりとも反応せず。ただただ涙のみが地面に滲みを作り出す事しか出来ない…
ちくしょう…ちくしょうちくしょうちくしょう……
_____フハハハ、いいぞ。その生への執着心、気に入った。ほれ、俺の手を取れ。力を貸してやろう____
ぐちゃぐちゃになった思考の中、ふと脳内に男性の渋い声が響き渡った。
____どうした、要らんのか?このままここで死ぬか?惨めにゴーレムに踏み潰されて死ぬのがお望みか?嫌だろ?俺が力を貸してやるって言ってるんだ。ほら、早くしろ____
なんかムカつくなコイツ。上から目線で何様だよ…まぁ今はそんなことはどうでもいい。
おい、誰だか知らんが力を貸してくれるんだよな?悪魔でも何でもいい!あのゴーレムを倒す力を俺にくれ!
____そうだ、それでいい。フハハハハハハ____
うるさい高笑いの声と共に、ゴリゴリゴリッと俺の何かが削り取られていくような不快感を感じる。この感じ…破壊魔法?しかしそれとともに、今の今まで枯渇していた魔力が再び蘇り活性化しだす。
全ての魔力を破壊のエネルギーに変換、残った左腕に破壊の魔力を収集、凝縮していく。
抑えきれない荒れ狂う破壊の魔力が、黒いモヤとなって俺の左腕を覆っている。
この力を放出するにはただ一言。
「破壊」
唱えると共に限界まで凝縮された破壊の魔力がまるで獲物を捉えた大蛇の如く、渦を描きながらゴーレムに襲いかかる。
そのままゴーレムを呑み込んで、それでも魔力が尽きることはなく。次の獲物を求めるかのように部屋の中を暴れ回る。
破壊の魔力が尽きる頃には、部屋一面に存在していた蔦は一本たりとも残っておらず。剥き出しの岩壁が顕になっている。
_____また魔力が必要になったら作ってやる。対価は…お前だ。フハハハハハハ____
それまで閉じていた奥のドアが、ゆっくりと開いていっているような気がしたが…
それをしっかり確認する前に俺は意識を手放した。




