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任せろなんて簡単に言うものではない7

「美味しい、美味しいのです。ここのご飯は大満足なのですよぅ」


「そうか、そうか。良かったな」


飯屋で美味しそうにパンやシチュー、サラダを頬張るトオルはどこにでもいそうな、町娘と何ら変わらない。

ぺろりと口についたシチューを舐めて、ご満悦の表情だ。


客がこんなに美味い、美味いと言ってくれるのだから、作った料理人も本望だろう。

このアークナルの中心街から少し外れた穴場的な飯屋は俺の行きつけだったからな。


魔王が倒され、アークナルは今、活気に満ち溢れている。

この店の素晴らしさに気付くものも、出てくるはずだ。

今は穴場的なこともあり、常連客がぽつりぽつりといる程度だが、大繁盛するのは確実だな。


「嬢ちゃん、良い食いっぷりねぇ。これ、サービスだよ」


気前の良い女将さんが飯屋特製の薫製を持ってきた。

ここの女将さんは始めて来た客の中で、気に入った人にこうしてサービスをしてくれるのだ。


もちろん、常連にもくれたりするが……薫製のサービスだなんて相当トオルも気に入られたな。

早速、食いついている……そんなに腹が減っていたのか。


「二人は兄妹かい」


「いや、違うが」


「そうかい、そうかい。じゃあ……兄ちゃんが随分、変わった格好をしているから、何処かの国の騎士様かい」


この格好はやはり、そういう目で見られているようだ。

女将さんも珍しい話を聞くのが好きだからな、こうして客に絡むのだ……俺も良くからまれたし。


「俺は……トオルの用心棒さ」


「へぇ、かっこいいじゃないのさ。しばらくこの町にいるなら顔を見せておくれよ。ごひいきにしてくれていた常連さんが亡くなっちまってね、寂しく思ってたとこさ」


じゃあ、ゆっくりしていくんだよと言い残し、女将さんは厨房へと戻っていった。

亡くなった常連……まさか、な。


「もが、もが……ダットしゃん」


「口に物を入れたまま喋るな。行儀が悪いぞ」


「んぐっ……ごくん、はぁー、ダットさんは一人じゃなかったのです。ちゃんと、寂しく思ってくれる人がいたのですよぅ」


「……俺のことかどうかはわからんさ」


「ダットさん、ひねくれているのです。そんなダットさんのために私が女将さんに聞いてきてあげるのですよぅ」


トオルが椅子から立ち上がる、俺は両肩を押し込んで再び椅子に座らせる。

一連の流れがとてもスムーズに行われたためか、食事中だった客たちが笑い出した。


始めから打ち合わせをしていたんじゃねーのかと声が上がるが、そんなことはしていない。

俺はトオルの動きを察知し、身体の力を上手く使いこなして大人しく座らせただけである。


トオルは笑われて恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしプルプルと震えているが。


「く、屈辱ですよぅ。私は美少女です。頭も良いです、貯金だってたくさんしてます。そうだ、国際的な資格も持っているのですよぅ。こうなったら……」


「おい、待て。あれはこういう時に使う物ではないぞ」


俺はぎゃーぎゃー喚くトオルを押さえつける。

あの証明書は自分の地位を見せつけるために使う物ではないのだ。


「ふぁぁぁあ、ダットさん、離せなのですよぅ」


トオルも俺の力には勝てないらしく、じたばたともがいている。

仕込みアクセサリーを使われたら面倒だ、このまま説得をしよう。


「大人しく飯を食うか?」


「ぬぐぐ……こうなったら、やけ食いなのです」


山盛りの特製ポテトのチーズ焼きを注文したトオルは一人でたいらげてしまった。

食うことに走ってもらえて助かったが、一口もらおうとしたら、フシャーっと猫のように警戒された。


笑ったり、微笑ましい視線を送ってきたりと客達は俺達を見ていて飽きなかったと店を出る時に言われたが。


「ダットさんがピエロを演じていたからですよぅ」


「演じていた覚えは全くないな」


飯屋を出て、宿へと向かう。

泊まる場所はトオルに任せることにした。

理由は飯屋は俺、宿はトオルが決めるという方針になったからだ。

……まあ、俺は寝れれば何処でも良いのだが。


「宿は二部屋なのです。男女別です」


「……それはそうだろう」


「がっかりとかないのですか。ダットさんは相変わらずなのですよぅ。けっ、女の魅力がない私はやさぐれてやります」


また、良くわからない理由でトオルがすねだした。

女の魅力がないのと、部屋を男女別にすることは関係がないだろうに。

日も大分暮れてきている、さっさと宿を決めないと部屋が埋まるぞ……または。


「嬢ちゃん、可愛いじゃねぇか。どうだ、これから俺達と一杯やらねぇか」


こういう輩に絡まれてしまうのだ。

活気があり、人が集まると馬鹿なことを考える者も出てくる。

騎士達まで騒いでいるのか、全く、しっかりと取り締まって欲しい。


相手は男三人、全員酔っ払い。

大方、嵌めを外し過ぎたため正常な判断が出来ていないのだろう。

身なりからして冒険者みたいだが。


「見てください、ダットさん。やはり私は女として魅力があります。美少女なのですよぅ。どうだ、参ったか」


誘われたことが嬉しかったらしく、トオルは俺に対して得意気だ。

……良かったな、とは言わない。

こんな奴等にほいほいと着いていったらどんな目に合うかなどわかりきっている。


「追い払うぞ。用心棒として見逃せん」


「ああ、勿体ないのです。ただ飯のチャンスなのですよぅ」


「さっきあれほど食べただろう。あと……自分の危機管理能力を向上させた方が良いぞ」


トオルを俺の後ろに下がらせて、男達に詰め寄る。

こいつらは酔っ払っているだけだ、しかも、悪酔い。

一度、酔いを覚ましてやろう。


「なんだぁ、お前。俺達は嬢ちゃんに用……」


「悪いが消えてくれ、宿を探している。このままではせっかくアークナルに着いたのに、野宿することになってしまう」


「へっ、そんなことか。安心しな、兄ちゃん。そこに嬢ちゃんの寝床は俺達が用意してやっからよ。まあ、兄ちゃんの寝床は……ここになりそうだがな」


男達がナイフを取り出した、俺を痛め付けトオルを無理矢理拐おうと考えたか。

ただの酔っ払いではなかったか、こいつら常習犯だな。

そうと決まれば話は別、元騎士として許せん。


「へっ、大人しくすれば殴られるだけで」


「遅い!」


正面の男の顎に掌底を決める、気絶して二人目が来た。

ナイフが迫るが振り方がなっていない、ナイフを持っている手を締め上げ落とさせる。


三人目が迫ってきたので、掴んでいた男を突飛ばした。

そして、二人まとめて蹴りを入れ、地面に倒れさせる。


「……まだ、やるならこちらも武器を使わせてもらうが」


槍を手に取り、軽く振り回す。

使い慣れているぞという意味を込めた脅し。

男達は悲鳴をあげて、降参した。


それから、巡回していた騎士二人に事情を説明して三人を引き渡した。

……巡回していた騎士二人は元同僚、何度か酒場に行ったこともある。

二人共俺には全く気付いておらず、複雑な気持ちになった。


「ダットさん、用心棒としての役割、百点ですよぅ」


「……あの程度、造作もない。それよりも、だ」


俺はトオルを威圧するように、仁王立ちする。

身長差もあってか、トオルを見下ろす形になった。


「な、何ですか、ダットさん。ゴゴゴゴ……って文字が後ろから出ているのですよぅ」


「ああいう輩に喜んで着いていこうとするな。自分の体を大切にだな……」


「そ、そんなことは分かっているのです。ただ、その、ですねぇ」


言いづそうな感じで、俺と目線を合わせようとしない。

どう誤魔化そうか考えているようだ。

……仕方ない、俺は握りこぶしをトオルのこめかみに当てた。

トオルから冷や汗、何をされるか察知したようだ。


「あ、あはは。実は着いていってただ飯確保。襲われたらぎりぎりまで粘って仕込みアクセサリーを使い、現行犯で捕まえて、慰謝料請きゅ……痛い痛い痛い痛い。痛いのですよぅー!」


「自分を、もっと、大切に、しろ!」


俺のこめかみぐりぐりにより、しっかりと反省させた。


「美少女虐待反対なのです。雇用主に用心棒が牙を向いたのです。減給なのです」


涙目で訴えてきたので、頭を撫でてみた。

これでセクハラです、さらに減給と言われたらどうしようもないが……機嫌がそこそこ回復。

気が付けば目が金色に輝いており、いつものトオルに戻っていた。


「明日はあそこに行けるのです。ダットさんに頑張ってもらいますよ」


「……ああ」


「パンツ一枚になってもらいますから」


「え!?」


パンツ一枚、トオルは俺に何をさせる気なのか。


「宿に着いたらゆっくり寝ておいた方が良いですよ。明日は体力使いますからね」


「体力を……使うか」


頑張って欲しいとのことなので、激しい動きが求められると。

俺は用心棒として対人、対魔物との戦闘で並の相手なら退けることは出来ると自負している。


だが、パンツ一枚となると装備に不安が残る……しかし、雇用主の依頼なら仕方ない。

確か、残っていた装備で船に乗った時に買ったパンツがある。

あれをはいてなら外で歩いても大丈夫だ。


「……任せろ」


「さすが、ダットさんなのです。頼もしいですよぅ。もう今日は遅いので、詳しい話は明日にしましょう。ふかふかのベッドが待っています」


トオルと共に宿へと無事到着。

念願のふかふかベッドなのですよぅと嬉々として部屋に入っていった。

元気だなと思いつつ、俺も部屋に入り就寝した……もちろん、部屋は別だ。


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