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任せろなんて簡単に言うものではない6

「私ですかぁ。……何に見えます?」


「第一印象は盗賊だったな」


魔王城で会った時、危険を侵してまで金品を漁りに来るなど度胸のある女盗賊だなと。

俺がそんなことを思い出していると、トオルは膨れっ面になり怒り始めた。


「私は盗りはしないって言ったじゃないですかぁ」


「第一印象だ、仕方ない。今は、そうだな。商人か」


「ぶっぶー、はずれですよぅ」


トオルは腕でばつ印を作り、間違えた俺を見て笑っている。

交渉術と金銭管理や計算を得意としているようだったので、商人と思ったのだが。


まさか、冒険者というわけでもないだろう。

魔物討伐、護衛に採取、そういった仕事はトオルのイメージとはかけ離れている。


待てよ、確かトオルは様々な護身用の武器を揃えていたな。

アクセサリーとして身に付けていた……ということは。


「……暗殺者か」


「ちょっと、勝手に私を殺し屋にしないで下さい!」


「あれか、男専門の……」


「ふざけんじゃないですよぅ」


冗談が過ぎたか、言葉遣いが荒くなってきた。

これ以上、的外れな発言をしたらまた金を請求されそうだ。


「……冗談だ。だが、商人じゃないなら、なんだ。トオルの能力が存分に活かしている仕事だろう。悪いが、商人以外に思い付かないぞ」


「ふっふーん、しょうがないですねぇ、正解を発表しましょう。私の職業はこれなのですよぅ」


自慢気にトオルが一枚の紙を見せてきた。

判子が押されていて、トオルの名が書いてある……何かの許可証のようだ。


「国際遺跡探索許可証……何!?」


俺は驚きを隠せず、目を見開き、大声をあげてしまう。

トオルは俺の反応に満足いったのか、勝ち誇った顔をしてへっへーんと言っている。


国際遺跡探索許可証、国境を超えた許可証だ。

どの国の遺跡にも立ち入ることが許可される……国々で発行されている物とは訳が違うぞ。


発行されるには、遺跡探索による功績や厳しい試験があると聞いた。

一年に一度しか試験は行われず、合格者も少ないと言われているのを耳にしたことがある。


「……まさか、トオルがこんなにすごい人物だったとは」


「ふっ、私を嘗めるなですよぅ」


「ああ、すごい、すごいぞ。トオル!」


年齢だってまだ、一七歳。

最近、この資格を取ったとしても若い部類に入るだろう

俺はトオルを誉めた、興奮が押さえられない。


元村民、こういった資格を持った人物は昔から憧れていたのだ。

気が付くと俺はトオルの手を握っていた、聡明な人物と会うとつい……テンションが上がるのが、俺の悪い癖。

腕をブンブンと振って子どものようにはしゃいでしまった。


「……すまない、取り乱した」


「いえ、ダットさんの貴重な一面を見れたので、逆に良かったですよぅ」


もう、落ち着いたのでトオルとは普通に接している。

しかし、トオルが……止めよう、また、自分を見失うことになる。


「もう、あのような姿はたまにしか見せない」


「たまには見せるんですねぇ」


「……悪い癖なんだ」


「悪くはないと思いますよぅ。私も価値が高そうな物を見つけたら……えへへ」


まだ見ぬ宝を想像したのか、目から金色の輝きが……これがトオルの癖だな、覚えておこう。


「また、輝やいているぞ」


「治すから待って欲しいのですよぅ」


「……撫でられたら治らないか」


我ながら何故、そうなると思ったがすでに行動に移してしまった。

金銭関連のことを考えるから、こうなるのだ。

別のことに意識を向かわせられれば……結果、輝きは消えたが変わりに顔が赤くなった。


「失敗か」


「ダットさん……」


「はっ、セクハラによる料金請求が発生したか」


頭を撫でる行為はセクハラだとトオルは言っていたな、迂闊だった。

急いで撫でる行為を止めると、時すでに遅し。

トオルが不満そうに俺を睨んできた。


「ダットさんに撫でられるの、嫌いじゃないかもですよぅ」


「だが、セクハラだと」


「用心棒なのに、依頼主のお願い聞いてくれないなんて、減給しちゃいます」


「……俺にどうしろと」


撫でたらセクハラで料金請求、撫でなければ減給ときたものだ。

どちらにしろ、俺の金が減る。

迷った挙げ句、何もしてないのに減給とは納得出来ないので、撫でることにした。


ただ、セクハラと言われたくもない。

頭が駄目ならセーフゾーンをと考慮した……結果。


「これは撫でると言わないのですよぅ」


「……撫でている」


背中を優しく撫でる、いや、さすっている。

これなら、周りから見ても俺がセクハラを働いているようには見えないはずだ。

トオルの希望もこれで叶ったな。


「私は腰を痛めたおばあちゃんではないのです……」


トオルの満足度はいまいちだったらしい、何故だ。

結局、減給を言い渡されたが、考えてみたら給料の話をしていていない。


「おい、用心棒の給料はどれくらい出すんだ」


「あ、えっと。出来高で!」


「……俺の借金はいつになれば全額返済出来るのやら」


「そうですねぇ、金貨五千枚ですから」


「おい!」


そんなに俺の借金は増えていたのか、元々金貨十枚だった。

それが五百倍に増えている、どういう計算をしたらそうなる!?


「冗談ですよぅ」


「ああ、そうか。冗談か」


結局、給料の件に関してはごまかされた。

肝心なことなので、いつまでもごまかされるわけにはいかないが、今日は色々と疲れた。


飯を食ってゆっくり休みたい、ふかふかのベッドに寝転がりたい。

アークナルには旨い飯屋がたくさんある、トオルがそういった店に詳しいか知らないが、今回は俺のオススメの店に案内しよう。


墓場を出る時、俺は振り返り自分の墓石を見た。

俺はまだ死んでない、あそこに俺はいない。

トオルと共に俺は歩き出した、今日から俺は勇者パーティーの一人でも、騎士でもない……ただの用心棒だ。


「……ところで、名前はどうしようか」


「名前なんて、ダットさんで良いじゃないですか。ダットさんはダットさんです」


「いや、そうだが」


「堂々と俺はダットだって名乗れば良いんですよ。不安ならこれ貸します」


トオルがリュックから取り出した物は眼鏡だ。

ただ、レンズの部分が黒いし、そもそも俺は目が悪くないんだが。


「これはサングラスというものでして、ある国では要人護衛を勤める人は皆、これをかけているそうなのです。ダットさんも似合いますよぅ」


「ふむ……」


俺はサングラスとやらをかけてみた、そこまで視界の妨げにはならない、すぐに慣れることが出来そうだ。


「似合ってます、最高ですよぅ」


「似合うか……悪くない」


装備も髪型も違うし、サングラスのおかげで顔もよく見えなくなった。

誰も俺を死んだダットレウズだと思うものはいないだろう。

今の俺は借金抱えた用心棒のダットだ。


「飯がまだだ。食いに行こう」


「値段交渉は任せるですよぅ」


「……飯屋で値切るなよ」


一応、釘を刺しておいた。

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