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任せろなんて簡単に言うものではない2

「お金請求しても良いですかぁ」


「……すまなかった」


「わかります、わかりますよぉ。瓦礫の中に埋もれて死ぬ直前だったんです。助かって感極まるのは仕方ないです。でも、私が男性恐怖症だったらやばかったですよ、もぅ」


「本当にすまなかった。助けてもらって……迷惑ばかりかけている」


「う、私が悪者みたい。……あー、じゃあ今のは無しにしましょう。誰も見ていなかったことですし。そちらの事情はわかりますから……これでお金貰って、それ以上のことを要求されても困りますからね」


それ以上のこととはどういうことなのか。

金さえ払えば何でもすると思われたくないということか。

この女も、自分が出来ることにも限度があると伝えたかったのだろうな。


有料とはいえ、俺を掘り出し治療までしてくれたのだ。

抱き締めてしまったこともお咎め無しにしてくれるようだし……もうこれ以上は望めないな。


「安心しろ。これ以上迷惑はかけない。薬のおかげで体も動きそうだ。家に帰ればまとまった金がある。きちんと謝礼をしよう」


「あまりにさらっと受け流されて、女として自信を無くしましたよぅ、私」


がっくりと項垂れている女。

誓いをしたそばからこれか、俺は何をしているんだ。


「……早速、迷惑をかけてしまったか」


「いいえ、私の話ですよぅ。それで、金……じゃなかった、家は何処に?」


「俺はアークナルに住んでいる」


「ほぇー、国の首都じゃないですかぁ。金持ち、ですよねぇ」


「……散財は趣味じゃない」


住めれば良いのだ、無駄な広さも調度品も、使用人もいらない。

親戚はこぞってさっさと嫁を取れとか、屋敷に住めとか五月蝿かったが。

肘で脇をつついてくるこの女も例外では無さそうだ。


「さあ、行きましょう。傷ついた体です。こんな床の上じゃなくふかふかなベットの上の方がよっぽどすやすや眠れますから」


「……安心しろ、約束は果す。だから、お前もふかふかのベットはもう少し待ってくれ」


「あ、気づいちゃいましたか。実は野宿して見張ってたので疲れがありまして」


「……急ぐか」


俺は体に鞭打って立ち上がる。

そもそも、ここは魔王城だ、長居するのは良くない。

完全に安全が保証されない以上、移動した方が良い。


「動くのに問題ないほど回復はした。行こう」


「わかりましたぁ。ところで、私の名前、知らなくても大丈夫ですかぁ?」


「……俺の名はダットレウズだ」


「知ってますよぅ」


「名を聞く時はまず、自分から名乗るのが筋だろう」


「細かいんですねぇ。私はトオルです。男みたいな名前ですが、気にしないで下さいね。ちゃんとした、女ですから」


「……知っている」


女に見せかけて男、男に見せかけた女。

騎士をやっていれば、そんな、身分や性別、年を誤魔化して犯罪を行う輩を何人も見てきて捕まえた経験がある。


自分が培った経験値は嘘をつかない、目の前にいるトオルは……紛れもない女だ。


「あー、さっき抱き締めてくれましたからね。そりゃあ、わかりますよねぇ」


「……好きに言ってろ」


構うと慰謝料を請求されてしまいそうだ。


「冗談ですよぅ。ちなみに私、年は十七ですから」


「……何!?」


俺の見立てでは二十代前半ぐらいだと思っていた。

女ではなく、少女と言った方が正しかったようだ。

行動力や言動を冷静に分析したはずだったんだが。


「おやおやぁ、それは私のことを年増だと思っていましたねぇ。全く失礼な話です。まだまだ私はピチピチですよぅ、ピチピチ。自分が三十くらいだからって、若い子に嫉妬しすぎですよぅ」


「……俺は十九だが」


「あ、あっはは。ダメですよぅ、ダットレウズ様。そんな、わかりやすい冗談。え、マジですか」


最初は笑っていたのに、後半無表情になったぞ。

……まあ、老け顔なのは仕方ない、言われるのはいつものことだ。


お互いに相手の年を理解出来ていなかったということなら、それで良い。


「これで言い合いをする必要はないな。勘違いしていたのはお互い様だ」


だから、金を請求するなと言いそうになり、慌てて口を閉じる。

いくらなんでも、そこまで守銭奴ではないだろう。

命の恩人に対して失礼過ぎる。


「あ、あはは、そ、そうですねぇ、……ちっ」


「……」


目が泳いでいるし、気づかれないように舌打ちもしたな。

何かを要求するつもりだったのか……この女の前では口に気を付けた方が良さそうだ。


「あ、そ、そうだ。私のことは気軽にトオルと呼んで下さい。ダットレウズ様から名を呼んでいただけるなんて、光栄なこと滅多に体験できないので」


「……俺はそんなに有名ではないが、わかった。なら、俺のことも気軽にダットレウズと呼んでくれ。様づけで呼ばれるほど、偉くない」


「はい、わかりました。ダットレウズさん。……長いですねぇ、ダットさんと呼びます」


「……好きにしろ」


呼び方も決まった俺とトオルは魔王城を出た。

久しぶりに外の空気を吸い、俺は本当に生還出来たのだと実感する。

見上げると青い空が広がっている、もう見れないと思っていたな……。


「そんなに空を見つめてたどうしたんですかぁ。お金が降ってきているわけでもありませんし」


「トオルといると、財布のヒモがちゃんとしまっているか確認しないとならないな」


「やだなぁ、私はお金を盗んだりはしませんよ。……盗みはね」


トオルの笑みが邪悪だ。

盗りはしないが取るということか、油断のならない女である。


アークナルまでの道のりは長い、かかる費用は全て俺負担と考えた方が賢明か。

トオルの財布のヒモは固そうだしな、会って間もないのに決めつけるのは良くないかもしれないが。


「移動はどうする。馬車か徒歩か」


「ダットさんはか弱い乙女にアークナルまで歩けなんて言うんですかぁ?」


頬に片手を当て、乙女の部分を強調して言ってきた。

野宿して張っていたのだ、乙女はともかくか弱い……か。

俺はそっと、優しくトオルの手首を持ち上げる。


「や、やですねぇ。ダットさん。こんなところで……ダメですよぅ」


「……綺麗な指輪だな」


俺の一言にトオルの笑顔にほころびが生じる。



「あ、あはは、ありがとうございます。お気に入りでして」


「仕込んでいるな?」


「ま、まあ、その護身用として重宝していますよぅ」


指輪からピアノ線伸ばし、誤魔化すようにえへへ、と笑っている。

今度は胸元の銀のペンダントに目を向けた。


「ダットさん、視線がやらしいですねぇ、やっぱり……」


「仕込んでいるな」


「え、えっと……」


ペンダントを開くと中から強烈な光が放たれる。

目眩まし用だな、胸元を覗いてくる暴漢に効果がありそうだ。


「そのブローチ」


「こ、これは観光した時に露店商で買った土産物で」


「仕込んでいるな」


「……」


右胸付近に飾られた三日月のブローチから風属性の魔法による衝撃波。


「か弱い乙女……か」


俺はトオルから思いっきり顔を逸らし、遠い目で空を見る。


「ぐぬぬ」


後ろからは悔しそうな歯軋りの音とうなり声が聞こえた。

油断ならない女、その認識は間違い無さそうだ。







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