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任せろなんて簡単に言うものではない18

頼りにされた手前、あとには退けないし退く気もなかった。


「やはり不味いものが出たのですよぅ。退避です、退避しましょう。今なら間に合います」


「そうだよ、ダットさん。これの相手はきついって、無理だよ、無理」


後ろでは脱出を促す声が聞こえるが、俺は構えている槍を下ろす気はない。

目の前には俺を見下ろす、巨大な石像。

その巨体に似合ったハルバードを手にし、光る眼は俺に向いている。


今なら間に合う、そうかもしれないが、ここまできたならやるしかないだろう。

二人の制止を無視して俺は走り出した。


「あわわわ、こうなればダットさんを信じるしかないのですよぅ。やっちゃって下さい、ダットさん」


「嘘だよね、あれと戦うなんて。いくらなんでも無理だよ!」


石像のハルバード、俺の槍がぶつかり合う。

歯を食い縛り、全身の力を使った渾身の薙ぎ払いが交差した結果は、相討ち。

お互いの武器が弾かれて俺はのけ反るが、少し下がった体勢を整えて向かっていく。


「嘘……あんなの相手に互角だなんて」


「ふふん、あれがダットさんなのですよぅ。私の自慢の用心棒です。……まあ、私も驚いているんですけど」


二人が何か言っているようだが、気にする暇がない。

石像は俺に向かって、ハルバードを薙ぎ、突き、降り下ろしてくるのだ。

まともに受けていたらやられるので回避し、受け流し隙を見つけて攻撃するが堅い。


避けながらの攻撃では威力が出ないな、おもいきり突っ込むか、力を溜めてから突くかだ。

考えている時間はあまりない、相手は石像、体力切れなんて都合の良いものはあまり望めない。


俺も体力に自信はあるが、何で動いているか不確かな石像に勝てるかと聞かれたら否である。

体力がある内に勝負を仕掛けた方が良いだろう。


一旦距離をとって呼吸を整える。

ゆっくりと重い足取りでこちらに向かってくる石像、後ろにいる二人の悲鳴が聞こえてくる。


「ダ、ダットさーん逃げますよぅ。さながら脱兎の如く、トンズラするのです。今なら間に合うのでーすよーうぅぅぅ!」


「ダットさん、トオルさんのしょーもない冗談はともかく、本当にやばいって!」


「安心しろ……俺は負けん」


それだけ言って俺は石像に向かって走り出した。

槍の先端での突撃、石像の持つハルバードとぶつかり合い……相手の武器を破壊した。

俺も突撃時に勢いを殺されているので、石像の懐に入り回転する。


回転の力を利用した突きは石像の右足に直撃し、ピシリという音と共に亀裂が走る。

槍を抜くとガラガラと音を立てて石像の右足は崩壊していった。


そこからは武器と機動力を失った石像は俺の相手ではなく、適度にダメージを与えて、胸に強烈な一撃を与えると、石像は動かなくなった。


「うぉぉぉぉぉお! ダットさん、すごいのです。さすがです。超人です。大好きです」


「ちょ、トオルさん。最後おかしくなかった?」


「細かいことは気にしては駄目なのですよぅ。こういう時は勝利の喜びを皆で分かち合うものです」


「今の勝利の喜びだったの!?」


後ろが騒がしい中、俺は息を吐いてその場に座り込んでいた。

決して楽な戦いではなかった、たが、勝つことはできたな。

槍の扱いもようやく様になってきたか。


「ひゃっほーう。ボス戦終わればお宝の時間なのです。へっへっへ、戦利品、戦利品」


「トオルさん……少しはダットさんを労おうよ。こんな怪物を一人で倒したんだからさ」


「おっと、そうでしたねぇ。ダットさんにはかなりの分け前を渡さないとなりません。さあ、お宝ー!」


トオルはスキップで部屋の奥へと進んでいく。

俺は激戦の後なので、あいにくそんな元気はない。


「ダットさん、お疲れ様。大丈夫?」


「ああ……干し肉と乾パン、果実水を飲めばすぐに元気になるから心配するな」


俺は荷物から食料を取り出して口に入れていく。

腹に詰めれば体力は回復する、傷をつけられてはいないので、直ぐに動けるようになるだろう。


しかし、トオルは大丈夫か……俺が門番のような存在を倒したとはいえ、ここは何が起こるかわからない遺跡だ。

トオルがいかに優秀とはいえ、無防備過ぎやしないか。


そんな、俺の心配はトオルの帰還と共に杞憂へと変わる。

とぼとぼと悲しげな足取り、期待していたお宝には巡り会えなかったようだ。


「ううっ……手に入ったのはこの良くわからない石ころだけですよぅ。明らかに価値が低そうです、無念なのです」


「ちょっと、トオルさん。激戦を繰り広げたダットさんの前でそれは失礼だって!」


「だって……だって……こんな水中遺跡なんて滅多に発見されないのです。罠もたくさんあったのに、最後の部屋にたどり着いてラスボス倒したら、手に入れたのは良くわからない石ころなんて……納得できるわけがないのです」


ふがーっ、とトオルはやりきれない気持ちを押さえられずに叫んでいる。

叫んだところで現実は変わらない、宝が降ってくるわけでもない。

俺に出来ることはこれくらいか。


「……なんですかぁ、ダットさん」


「頭を撫でている」


「そんなことはわかります。何故、今、私の頭を撫でているのかを聞いてるのですよぅ」


「俺なりに労っているつもりだが」


「労いでは財布は膨らまないのですよぅ!」


「労われる立場はダットさんのはずなんだけどね……」



スラウのため息混じりの呟きはトオルの声により、かき消される。

結局、最深部まで来たものの手に入ったのは良くわからない石だけ。

トオルは項垂れたまま遺跡を出たのであった。


「……げっ!」


遺跡から出るとトオルが渋い顔になり、嫌いなものを見たような声をあげる。

どうしたのか……ああ、なるほどな。

視線の先にこちらを見てにやにやするライゼイの姿があった。


「こんにちは、トオルくん。遺跡探索は順調かな?」


「ええ、頼りになる仲間とチームを組んでいますので、順調ですね。一人ではこのペースでの探索は無理だったでしょう。仲間とは良いものですね。助言をくださったライゼイさんには感謝致します」


「それは良かった。チームを組むことの利便性を理解して貰えたみたいだね。……だが、理解してくれたなら、手を組むことも考えて貰いたい。チームと言っても三人では……ね」



「お誘い頂けるのは嬉しいのですが、私もようやくチームを組み始めたばかりです。連携等の大切を彼らともう少し学ぼうと考えておりますので、お気持ちだけ頂きますね」


「それは残念だ。また、後日。色好い返事を期待しているよ」


ライゼイはそう言い残し、仲間と共に去っていく。


「ああ、そうだ。私のチームなんだがね。ようやく、ここの遺跡を探索する許可が出そうなんだ。遺跡探索中に会うかもしれないが、その時はよろしく頼むよ」


にやりと含み笑いを残して去っていく。

トオルは外様の顔を最後まで貫いたのだが、ライゼイの後ろ姿を見つめる

慈愛の笑みを浮かべながら、中指を立てていた。


「それでは、ダットさん、スラウ。私達も参りましょうか。今日の探索の疲れを癒すとしましょう」


「ト、トオルさん。キャラが戻ってないよ……」


「スラウ、そっとして置こう。今日、トオルに不都合なことが二つも起きている。怒るのも無理はない。俺でも宥めるのは不可能だ。トオルの気が済むまでやらせてやれ」


「うふふ、お腹がとても空きましたね。ダットさん、私を美味しい食堂まで案内して下さる?」


「わかった。……今日は沢山食べろ」


俺は不気味なものを見るようなスラウの表情がトオルに見えないように気を配って食堂に案内した。

その日のトオルの食べっぷりは俺と良い勝負をしており、スラウだけがいち早く夕食から脱落したのであった。

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