任せろなんて簡単に言うものではない17
「さあーって、今日で遺跡探索は終了の予定です。終わればお金が入ります、私の財布にチャリーンが連呼します、確実ですよぅ」
遺跡に着くなり、トオルは妙に気合いが入っていた。
今日で終わるという達成感……ではなく財布に入る金のことを考えると全身から力が湧き出るようだ。
「トオルさんて清々しいくらい、お金に貪欲だよね」
スラウもトオルに慣れてきたのか、直球な意見が多くなってきた。
個人に対してしっかりと意見を述べられるというのはパーティーとして良い兆候だ。
「あって困るものではないのですよぅ。そうだ、以前、やりそびれた特別講義をしてあげましょう。全ての講義が終わる頃、きっとスラウくんには新しい世界が見えるようなります。講義代はパーティーメンバーなので、無料ですよぅ」
パーティーメンバーではなければ代金を取ると。
しかも、終われば新しい世界が見える……というのは危険な香りがするぞ。
「トオル……それは洗脳というやつじゃないのか」
流石にツッコミを入れざるを得なかった。
会話がスムーズに行われている中、横やりはあまり入れたくないが、聞き流すには無理がある。
俺がトオルに疑いの眼差しを向けると、そんなことはないという意思表示か、ちっちっちと人指し指を横に振る。
「何を失礼なことを言うのですか、ダットさん。私はただ、スラウくんに素晴らしい教えを施そうとしただけですよぅ。魔王が倒されたとはいえ、何が起こるかわからないのが現実というものです。そんな世知辛い世の中で寿命を全うするには、潤沢な財産が……」
「よしよし、そろそろ止めようか。それ以上は現実的過ぎて聞くのが悲しくなってくるからな」
頭を撫でて強制終了の合図を送る。
案の定、油断していたトオルはふぇっ、という声を出して持論を中断した。
「いきなり撫でるのは卑怯なのです。セクハ……むぅっ!?」
持ってきていた携帯食料である干し肉をトオルの口に放り込んだ。
大きめの干し肉で噛めば噛むほど旨味が口に広がる値段が高めな高級干し肉だ。
「ダットさん……」
「さて、遺跡探索を始めようか。もう出発しないと最深部にたどり着けずに今日で終わらない可能性が出てくるぞ」
「うん、わかったよ。でも、いいの。トオルさんがすごく睨んでいるように見えるけど」
スラウの言う通り、もぐもぐ……いや、もがもが言いながら俺を睨み付けるトオルの姿。
愛用のメモ帳に殴り書きをして、覚えていろですよぅという文字を見せてきた。
まだ、遺跡の入口だ、トラップや原住民との戦闘等危険は少ない。
機嫌が治るまで頭を撫でることにするか。
「トオルさんとダットさんて本当に仲が良いよね……」
呟いたスラウにまたしてもメモ帳に殴り書きをしたトオル。
メモ帳にはケッ、という二文字のみが書かれていた。
「ふんっ!!」
敵意向きだしでこちらに向かってきた半魚人を俺は槍で凪ぎ払う。
三匹まとめて吹き飛ばし、まだ息のある者には槍を突き刺してとどめを刺していく。
最後尾で周囲の警戒をするように任せているスラウは感嘆の声をあげている。
……これくらい、感心しなくて修行をしっかりつめばスラウでも出来るようになるんだがな。
「ふむふむ、このペンダントやブレスネットはどこから持ち出したのやら。この遺跡にあった物でしょうか。半魚人にもセンスがありますねぇ、遠慮なく回収しましょう」
トオルは嬉々として死体漁り……戦闘後の報酬を集めている。
「もうかなり奥まで来たよね。前回の最終到達地点はとっくの昔に過ぎたし」
「ああ、トオルの話だとそろそろらしい。半魚人ともあまり出会わなくなってきた。この先を生息圏に出来ない何かがあるのか……入口から遠いからか……」
「考えたりするのは私の仕事ですよぅ。それは進んでいけばわかるはずです。さあ、行きましょう。えへへ……」
「ダットさん、トオルさんがまた将来設計をし出したよ! 屋敷とか城とか言ってる」
「……夢を持つことは良いと思う。ほら、最後尾は警戒だ。トオルも戻ってこい」
くすぐりに苦手意識があるトオル、しかし直接触れるとセクハラだと言われる。
そのために道具を買っておいた、ライゼイと会った酒場から出た帰りに。
伸縮性のある植物の茎の先端に動物系魔物の毛をつけた物。
店主の話だと魔物使いを仕事とする者が相棒である魔物とスキンシップを取る際に使われるものらしい。
まだ見ぬ多大な財産を夢見るトオルの喉元に容赦なく、毛の部分を擦り付けた。
「うひゃあっ!?」
素早く道具を隠して先に進む、意識を取り戻すためにやったことだ。
本来の使用目的はスキンシップを取るための物だが……時間は有限。
俺は今の自分が出来る最善の行動をするまで。
「い、一体私に何をしたのです。何か、私の喉元にふかふかした何かが!」
「先を急ごう。目的地である最深部はもうすぐかもしれん」
「いやいやいや! まず、目の前の謎を解明しないとなりません。ダットさんがまたセクハラをしたことはわかっているのですよぅ」
「勝手に俺をセクハラ常習犯にしないで欲しい。……トオルがまた自分の世界に入りこんだから、これを使った」
懐からスキンシップ用の道具を取り出す。
「……何なのですか、これは?」
「魔物使いが自分の相棒である魔物とスキンシップを取る際に使われる道具だ」
「成る程、ダットさんはまた私のことを馬と同じ扱いにしているのですねぇ。道具なんか買って準備までしてきて。ここは遺跡内だから、私が引きます。但し、遺跡から出たら覚えておくといいです。私の黄金を握る予定の右腕が輝くのですよぅ」
「これでトオルも平常に戻ったな。行くぞ、スラウ」
「……これで良いんだもんね」
無理矢理納得をした様子のスラウと空中に向かって軽く拳を放つトオルを連れて先に進む。
段々奥へ行くと、ほぼ一本道になっていき、道の両端に置かれる石像が目立つようになってきた。
顔の部分は崩れたりしていた、何の石像かはわからんが、武人であることはわかる。
筋肉質な身体に槍や剣、斧などの武器を持っているからだ。
トオルは歩きながら興味ありげに石像を注視し、メモ帳にペンを走らせた。
石像の特徴を記しているのだろう、今は忙しそうなので、後程トオルの意見を聞いてみるか。
半魚人は一本道に入った辺りから姿を現しておらず、不気味になるくらい順調に探索は進んでいく。
「トオルさん、プロとしてどう? 何かわかったこととかあったりしないの。ほら、予測というか、憶測みたいな」
「そうですねぇ、この石像が続いている感じ。いかにも奥の部屋には重要な何かが隠されていると示している気がしてなりません。ずばり、お宝……と言いたいところですが。私はこの遺跡がそんな単純なものだとは思えません。何かの施設だったと見ています」
「何かの施設、宿屋とかそういうこと?」
「ええ、まあ……でも、その何かというのはなんとも……」
「おい、最終地点が見えたぞ」
先頭を歩く俺には大きな石造りの扉が見える。
扉を守護するように置かれた剣を持った戦士の石像二体もな。
トオルは興奮気味に石像を調べ、俺とスラウは周囲を見張る。
「ダットさん、このいかにもって感じの扉の先には何があるんだろうね」
「さあな」
「さあなって……素っ気ないなぁ、もう」
「実際にこういう場所の最終地点なんて録なことないぞ。これは経験談だ」
財宝もあったりするが、罠かボスと相場は決まっている。
従って俺は最悪の場合に向けて備えねばならない、干し肉を食べよう。
「ダットさーん……中に入るの危険かもしれませんよぅ。残念ながら、この先には嫌な予感しかしないです。何かあるのは確実ですが……」
「やはりか。入ってやばそうだったら退散するというのはどうだろう。ここまで来て帰る……なんてこと、トオルには似合わないと思うんだが」
「……さすが、ダットさん。たくましいのです。頼りにしていますからね」