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任せろなんて簡単に言うものではない16

「じゃあ、行ってくる」


今日はトオルが明日で探索を終了させるために鋭気を養うのですよぅ、と言ったので休み。

のんびりと宿屋で過ごすなりするのも悪くないが、俺としては動いていないと落ち着かない。


町に出れば何か情報が得られるかも……と思ったので休みと言われたが動く。

スラウは適度に自己鍛練を積むということで留守番。

めきめきと実力はついてきている、その向上心を大切にして、鍛練を継続していって欲しい。


「わかったよ、気を付けてね。ダットさんならよっぽどのことがない限り大事にならないと思うけどさ。静かすぎて不気味、いつ誰が何処で何をされるかわからないからさ」


「ああ、本来一人で行動するのは危険なんだが、だからといってトオルを宿に一人残していくのも躊躇われる。宿屋で何かを起こすとは考えられないが……頼んだぞ、スラウ」


「僕の方がトオルさんに守られそうな気がするよ。情けない話だけど」


「……それを言うな」


トオルが襲われそうになれば、至るところから仕込みアクセサリーによる攻撃を受けるからな。

俺が確認していないような箇所にも隠しているだろうし……トオルと戦ってみるのも面白いかもしれないな。


本人に申し込んでも、か弱い乙女は模擬戦なんてしないですよぅ、と断られることは目に見えているが。


「あはは……頼りになる男になれるように頑張るよ。それじゃあ、ダットさん、あまり遅くならないようにね」


「わかってる」


俺は見送るスラウに手を振り、部屋を出た。

隣はトオルの部屋、挨拶していくべきか、否か。

部屋の中で一人、集中して遺跡関連の情報をまとめている可能性もある。


下手に干渉して集中していたところを切らすのも悪いが……勝手に出ていくのもどうだろうか。

少し悩み所だが……帰ってきてどうして挨拶もなくいなくなったのかと追求されてもな。


それに俺はトオルの用心棒、雇用主にはしっかり声をかけねばなるまい。


「トオル、いるか?」


しっかりとノックをしてから、訪ねる。

もちろん、扉は開けていない、返事も返ってきていないのに開けるなんて失礼なまねは絶対にしない。

案の定、ばたばたと部屋の中から音が聞こえる。


「ダ、ダットさんですか。ちょっと待ってください。今、着替えるのですよぅ。良いと言うまで、絶対に開けてはいけないのです」


「ん、ああ、悪い、間が悪かった。大したことじゃないから、扉越しで良いだろう。ただ、外に出ると言いたかっただけだ」


「そ、そうですか。焦りましたよぅ。鋭気を養うと言ったので、二度寝をしようと寝間着に着替えたばかりだったので、開けられたらどうしようかと」


扉越しに聞こえるトオルの声から安堵していることが伺えるが……そんな無防備な状態になっているのか。

軽く扉を開けようとすると……鍵がかかっていない、普通に扉が開きそうになった。


「あ、ちょっと、何、部屋の中に入ろうとしているんですか。ま、まさか、ダットさんが……そんなわけないですよぅ。鍵はかけ忘れてました、すみません、不注意です」


「気を付けろ」


「ううう……申し訳ないのですよぅ」


「……俺は町に行くからな。眠るならしっかり鍵をかけて……トオルなら軽くトラップを仕込めるだろう。念のために仕掛けておくと良い。トオルなら盗賊顔負けのトラップを仕掛けられる」


扉を開けた瞬間、ナイフが振ってくるとか、天井にいくつものワイヤートラップをはるとかな。

俺はこの程度しか浮かばないが、トオルならばもっとえげつないトラップを考えられる。


「それは誉め言葉として受け取って良いものか……わかりましたよぅ。気を付けるのです。何かあったら嫌なので、何もなく帰ってくるのですよぅ」


「……心配しなくても、ちゃんと帰ってくるから安心して二度寝しろ」


「では、心配事もなくなったのでしっかりと準備をしてから二度寝するのですよぅ」


ふんふんふーんと機嫌良さそうな鼻唄が聞こえる。

……寝る前なのにテンション高いな、寝れるからか?

それとも本人だけが楽しいトラップ作りに励んでいるのかも……。


せっかくの休日だ、本人が楽しければいいか、俺はさっさと町に繰り出すことにしよう。





町を歩く、ひたすらに、目的地はない、目的はある。

こうして歩くだけで情報は入ってくる、世間話でも馬鹿には出来ない。

噂程度と思って話していることが、時には重大な事件を解明する手がかりになったりもする。


人が最も集まる市場を三、四周した所で今度は酒場に向かった。

ここでも良い事が聞けたりする、酒に酔った勢いで口が滑る……なんてことで悪事がばれたってやつもいる。


実際、騎士をやっていた頃、それが決め手となり捕まったやつがいたからな。

酒は飲んでも程々に、悪事を働いているなら、尚のことだ。


俺はカウンター席に座り、適当なつまみを頼む。

ちびちびと飲みながら、聞き耳を立てて情報を集めていると、見たことある顔がいた。


トオルの天敵、ライゼイだ。

仲間数人とテーブル席に座って、何か話している。

あちら側は俺に気付いていないのか、会ったのは一度とはいえ……いや、あいつらが何かを企んでいるとしたら俺のことは知っているはず。


スラウが狙われたんだ、俺のことは知らないなんてことはないだろう。

あいつらが関与していない可能性もあるが、油断はしない。


「くそっ、どうして上手くいかねえんだ」


「仕方がありませんよ。慎重に行くべきです。……こちらとしても損害は出したくありません」


「でも、ライゼイさん、このままってわけには……!」


「なあに、目星は幾つかつけています。一つに固執することはないでしょう。最悪、撤退します。時間を無駄にしたくありませんからね。私としては非常に残念ですが」


遺跡探索が上手くいってないのか、何やら今後の方針について揉めているようだ。

トオルがいれば好い気味だと笑っていることだろう。

このまま相手が気付かずに情報を漏らし続けてくれれば助かる。


そう思っていたら、俺の後ろで盛大にやらかした音が聞こえた。

お盆やらジョッキ、皿の破片が地面に落ちている。


「大変申し訳ございません、お客様!」


一番近くにいたのは俺だった、飲み物や食べ物も跳ねてないし、破片による怪我もない。

やらかした店員が何度も頭を下げ謝ってくるので、逆に俺が申し訳なくなってくる。


他の店員が応援にかけつけたので片付けも手早く終わった。

しかし、今の騒ぎで注目を浴びたな、ライゼイ一派がこちらを凝視している。

本当に俺がいることを知らなかったのか。


ここでライゼイ一派とにらみ合いをするのは得策じゃない、俺はカウンターを向いてつまみを食べる。

意識していたことがばれたら面倒だ、一杯飲み終わったら直ぐに出よう。


「やあ、確か君はトオルくんと一緒にいたよね。こんな所で会うとは奇遇だな。以前、一度だけ会ったと思うんだが、覚えているかい」


空いていた隣の席にライゼイが座ってきた。

相手から近付いてくるとは予想外だ。

人の良さそうな笑みを浮かべているが……それが本心からの笑みなのか。


「……ああ、覚えている。トオルが話してくれたからな。ライゼイ……という者だな」


「ほう、トオルくんが僕の話をねぇ。それは嬉しい限りだよ。いやぁ、嬉しいなぁ」


「良い話ではなかったがな」


きっぱりと言い切る、本当のことだしこのままニヤニヤされたままだと、トオルを侮辱されているようで腹立たしかった。

……ダメだ、冷静にならないと、相手のペースに乗ってしまってはな。


「ふふ、そうかい。まあ、自覚はあるけどね、トオルくんには何度も声をかけているわけだし、鬱陶しがられるのもある程度は仕方ないさ。ただ、勘違いしないでもらいたいのは、それだけトオルくんの能力をかっているということなんだよ」


「トオルは今のままで良いと言っている。無理強いはよしてくれ」


「そうなんだよ、トオルくんは頑なに仲間を作らなかった。許可証を得る前もだ。国にいちいち申請して一人で黙々と遺跡探索をしていた、誰も誘うことなく、誰からの誘いを蹴ってだ。……そんな中、君が現れた。君は何者だ、噂だと結構な実力の持ち主だそうじゃないか。トオルくんにそんな知り合い、僕の記憶にはいないはずだ」


「……俺はただのトオルの用心棒だ。トオルの過去がどうだろうと、どんな人物だったろうと、その関係は変わらない。雇用主のトオルを守る、それだけだ」


つまみも食べ終わり、飲み物も飲み終えた、情報も掴んだ。

これ以上長居する必要はないとテーブルに代金を置いて立ち上がる。


「帰るのかい、トオルくんによろしくね」


「……ああ」


ライゼイは最後まで笑みを崩さなかった。

酒場を出てつけられていないことを確認した所で一気に力を抜く。

ああいうタイプの人間は何を考えているのかわからず、読みづらい。

トオルも厄介な相手に好かれているものだ。


だが、どんな相手だろうと関係ない。

俺は用心棒、雇用主は守る。

……用心棒としてではなく、ダットとして守りたいモノでもあるんだ。

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