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任せろなんて簡単に言うものではない15

単独行動は避け団体行動を心がけ、活動しようと決めて早二週間。

こちらの警戒がばれているのか、次にどう行動するか決まっていないのか知らないが、怪しい動き等はなかった。


食事中、遺跡探索時、町散策時、宿へ入る時と人目につきそうな時は常に周囲に気を向けていたのだが、こちらを伺うような視線は感じられない。


遺跡探索は概ね順調、発掘品は見つかり、遺跡の深部までもう少しという所まで来ていた。

このまま何も起こらなければそれはそれで良いのだが……。


「ダットさん、食事中くらい目を鋭くしなくても良いのですよぅ。こんな人目につく場所で何かをやらかす程、相手は間抜けではないのです。ほらほら、このガイバードの丸焼き美味しいですよぅ」


「ん、ああ。ガイバードか……」


現地調達な野宿の際によく狩っては焼いて食べた記憶がある。

鳥形の魔物で、他の魔物を持ち前の二枚目で誘惑するという魔物だ。


魔物としては初級者でも狩れるので安心……とはいかない。

ガイバードの厄介な所は自分よりも位の高い魔物も誘惑すること。

よって……誘惑された雌の魔物から報復が来たりすることもあるので注意が必要。

俺にも何度か報復に来た魔物がいた、懐かしい思い出だ。

丸焼きを口に運ぶ、うむ、懐かしい味でもあるな。


「実際問題、何も起こっていないよね。遺跡探索も怖いくらい順調だしさ」


「ふふん。もっと私を誉め称えるのです」


「いや、トオルさんもすごいけどね。僕が言いたいことはそういうことじゃなくて……」


スラウもこの不気味な感じには気づいているようだ。

トオルも胸を張ってえっへんと言い、鼻を長くしているが、警戒は解いていない、むしろ、強化している。


心に油断が出来た時が一番危険だ、相手もそれを狙っているのかもしれん。

全てが杞憂ならばそれはそれで良い。


「明日の進み具合によっては最深部まで行けそうですねぇ。そこまで行けば、あの遺跡の探索は終わりですよぅ。私が探索結果をまとめあげて、この国の研究機関に提出すれば終わりです」


「ふーん。それで何か手に入ったりするの?」


「後日、研究機関の者が調査をして、私がまとめあげた報告書通りかどうか確かめます。私の報告書の内容が間違っていないかの確認が終われば、その施設、発掘物などの価値によって報酬が出ます。歴史的大発見だと、名前が出たりしますよぅ。有名になれれば、探索の依頼が来たりするかもですね」


個人依頼……世間の信用を得ないと来そうにない話。

国際遺跡探索許可証を持っていたら、それだけで個人依頼なんて来そうな物だが、そうでもないらしい。


「有名になるまでどれだけかかるのやら。僕は強くなれれば良いけどね。将来的に色々な道を選べるじゃない」


持ってるフォークをくるくると回しながら、自分の人生設計を始めるスラウ。

まだまだ幼さの残る顔をして、どんな野望を持っているのやら。


知識も武力もまだまだだが、スラウの向上心は目を見張るものがある。

俺やトオルの教えたことをどのように活かしていくのか。


強さだけを見つめて独りよがりな人生は歩んでほしくない、自分の失敗を話すつもりはない。

スラウは俺と違って聡明な人物になりそうなので、そこまで心配する必要もないがな。


「まだまだ、スラウくんは若いですからね。悩むと良いのですよぅ。取り返しのつく年齢です。沢山、沢山、悩み抜くのです」


「トオルさん、僕とそこまで年齢変わらないじゃない……」


「私はもう立派な淑女なのですよぅ」


「……ふっ」


胸を張るのは良いが、もっと慎ましやかな方が立派な淑女らしさが出ると思うがな。

俺には頑張って背伸びをしている子どもに見えてしまう。


だが、笑ってしまったのは良くなかった。

トオルの耳にはばっちりと聞こえていたようで、首がこちらへと向いてくる


「ダットさーん。私を笑いましたねぇ。酷いです、私は……あぐっ!?」


開いていた口に女将特製のナッツロールを放り込んだ。

どうせ出てくる言葉はいつもと同じだからな、食事に専念してもらおう。

ナッツロールはスラウの拳くらいの大きさのパン、口をもがもがと動かし、ゆっくりと咀嚼している。


「ダットさんとトオルさんて本当に仲が良いよね……」


「スラウも、もう慣れてきたろうに。このパーティーの雰囲気をな」


「んぐんぐ……ごくっ。……ダットさーん? 話の最中に……っんくぅ」


また、ナッツロールを放り込んだ。

恨めしそうな目でこちらを見ながら、ナッツロールを咀嚼している。

次も同じことをやったら、手が出てきそうだな。


スラウはこちらを見て苦笑しながらも、自分の食事を進めていた。

俺も片手でガイバードの丸焼きを食べている、もう片手は次に放り込むナッツロールを準備していたり。


何があるかわからないのだから、警戒すべきだと考えていたのに、緊張感もなく、笑っている自分がいる。

勇者パーティーとして旅をしていた時、こんな風に仲間の皆と笑い合ったことはあったか。


皆が笑っている思い出はあるが、はたしてその中に自分はいただろうか……いや、いい。

少なくとも自然と笑みがこぼれたということは、今の生活がそれなりに気に入っているのだろう。

楽しいと……思っているんだ。


「ごくっ。……ダットさーん、もう食べさせられませんよぅ。こんなことを延々と続けていたら、太ってしまいます」


「安心しろ。その時は俺が責任を取ってやる」


「せ、責任!? 随分と男らしい発言なのですよぅ。それなら、太るのも悪くないかもと、一瞬思ってしまいました」


「いやいやいや、ダットさんのことだから……ダットさん、責任てどういう責任?」


「ん……。俺がトオルに余分な食事を摂取させたんだ。トオルが元の体型になるまで、運動や食事の管理をだな……」


「そんなこったろうと思ったのですよぅ!」


けっとトオルはすっかりやさぐれてしまい、乱暴に串焼きを食いちぎった。

……怒っているらしい、理由は俺の対応か。

どうすれば……と考えている時間が惜しい、気づけばトオルの串焼きは八刀流になっている。

このまま、やさぐれたままだとガイバードの丸焼きを一匹丸々なんてことも起きかねない。


「ダットさんはトオルさんに恋愛感情とかはないの? 本当にただの雇用主としてしか見てない? こんなこと直接聞くのどうかと思うけどさ」


荒れているトオルを目にしながら、ひそひそ話を始めるスラウ。

恋愛感情……目の前で八刀流を披露するトオルをぼんやりと見つめる。

打算ばりばりとはいえ、俺を助けだし、自棄になった俺に色々と請求をしてきた。


金の話になるとえへへ……と口角が上がり目が金色に輝き、か弱い乙女には似つかわしくない、防衛用アクセを多数身に付けている。


以上、俺が確認しているトオルの特長、思い出だ。

正直、家族に結婚しろ、家庭を持てと口酸っぱく言われ過ぎたせいか、恋愛や結婚には前向きになれない。


だからとはいえ、トオルに何の感情も持っていないかと言えば嘘になる。


「わからん」


「えー、ダットさん。それは逃げじゃないの。トオルさんに好印象であることは違いないんでしょ」


「ああ。トオルは魅力的な女性だと認識しているが……好意とはまた別のものだろう」


「頭固いなぁ、この人……」


スラウは頭を抱え出した、またしても俺が原因か。

トオルのやけ食いも俺が原因だし、今日の俺は迷惑をかけてばかりだな。


スラウが悩んでおり会話が途切れたので、頬杖をつく。

ぼんやりと串八刀流を披露しているトオルを見つめた。


そんなに一度に頬張って喉に詰まらせないのか、万が一の時のための飲料は用意しているか、食べ過ぎてお腹を壊さないか。

だんだんと思考が親のそれになっていき、何故か笑っている自分がいた。


恋愛感情かどうかはわからないが……トオルと一緒にいるのは飽きない……出来れば、ずっと。


「なーにをじっと見ていやがるのですかぁ、ダットさん。この串焼きは私のものですよぅ、一口足りとも渡さないのです」


「安心しろ、そんなに美味しそうに食っている相手から食い物は奪わん。それに串焼きを見ていたわけではないぞ。美味そうに串焼きを頬張るトオルを見ていたんだ」


「ごふっ!? ダットさんは相変わらず不意打ちが得意なのですよぅ。でも、今回は耐えました。私の勝ちですよぅ」


何を耐えてどうしてトオルの勝ちなのやら……ん、トオルの目の前の皿に串焼きの肉が落ちている。

串八刀流なんていう豪快な食べ方をしているんだ、串からこぼれ落ちたのだろう。


俺は食事を残すのは嫌いな性分、こぼれ落ちたものとはいえ見過ごせない。

だが、串焼きはトオルのもの、こぼれ落ちた肉であれど然り。

俺はフォークで肉を刺して、そのままトオルの口へと持っていき、食べさせた。


「串の肉が皿に落ちていたみたいでな、残すのは勿体ない……どうかしたのか、トオル」


「ぐ、ぐぐ……ダットさんはずるいのですよぅ。私の負け、なのです」


トオルはあんなに美味しそうに食べていた串焼きを手離し、両手で顔を覆っている。

……せっかく美味しそうに串焼きを食べていたのに、食うのを止めるとは。

俺がずるい、俺のせいか、俺の勿体ない精神がいけなかったのか。


「ダットさん、今のって素? わざと? ……いや、ダットさんが考えてやったとは思えない。素なんだよねぇ、絶対」


「スラウ、俺は何がいけなかった」


「食べさせたこと」


「食べさせたことがいけないのか。昔はよく馬に干し草をやったりしていたぞ」


「私を馬と一緒にするなですよぅ!!」


その後、またトオルが不機嫌になり大変だった。

店の人達に迷惑をかけることはなかったが、騒がしくし過ぎたと思い、女将さんに詫びを入れるも、気にしておらず。


曰く、こんなに店が賑やかになったのは店を開いて始めてのことだと。

楽しい思いをさせてもらった、また、来てくれという話になったのである。


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