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任せろなんて簡単に言うものではない14

「散策に行って何かあったのか」


「うん。ちょっとね。うわぁ、あの量の料理を全部食べたんだ……無理したでしょ」


苦笑しつつ、席に座るスラウ、別に無理などしておらずトオルに感謝の気持ちでいっぱいなんだが。


「いや、久々に腹たらふく食わせて貰ったぞ。俺は食うんだ、結構な。……で、本題に入ろう。急いで来たってことは、それなりに理由があるんだろ」


「そうだね。僕が店が出ていってからの話だよ。ふらふらしてたら、知らない男二人組に話しかけられたんだ。話の内容が面白いんだよ。第一声があの二人の役に立ちたくないかだってさ。脈絡がなくて、驚いたよ」


「あの二人……俺とトオルのことか」


三人で活動しているからな、町で何度も見かければチームを組んでいることも分かる。


「そいつら、取って付けたような紳士的な態度でさ。僕に言うんだよ。この時間帯の遺跡なら良いものが見つかる、あの二人のために動くべき、僕がすごい物を発掘すればあの二人も大助かり……笑かすよね」


「……言ったのがスラウにだしな」


男二人組はスラウの年齢を勘違いしていたな。

こいつのことを甘い言葉をささやけば簡単に動く、子どもとでもおもっていたんだろう。

実際は外見も武器にして、油断を誘う計算高い奴なのだ。


スラウも騎士団の諜報員に向いてるな、潜入捜査とか軽々とこなせそうだ。

……今では騎士団の連中を気にかける必要もあまりないな。


「そうそう。でも、僕って優しいからさ。上手い話に乗ったふりはしてあげたんだよ。……え、本当に! すぐに僕行く、ありがとう、親切なおじさん達って言ってね。町から飛び出して追っ手がないことを確認してから、別の入り口から町に戻ったってわけ」



「それで俺の所に来たと……」


わざわざ遺跡に誘導しようとした辺りが企みの鍵を握っているな。

スラウを遺跡に行かせて何をさせようとしていたのか。

スラウを誘拐するなら、その場で犯行を行っても良かったはずだ。


となると、奴等の狙いは無許可でスラウを遺跡に入らせようとしたことか。


「おそらくだが、スラウを遺跡へ無許可探索をさせようとしたんだろう。俺達はトオルの許可証のおかげで入れている。トオルがいないとなると、無許可探索だ」


勝手に遺跡で探索するのは基本、禁じられている。

トオルの国際遺跡探索許可証はどの国の遺跡でも探索出来るから良いが、通常は逐一、国に許可を貰わないとならない。


しかも、今までの遺跡探索による功績や以前はどの国で活動をしていたか等、手続きも時間がかかる。

おまけに一度、別の国で活動をし、出戻りをしても、同様の手続きをしなければいけないのだ。


「ふーん、僕を犯罪者にしようとしていたってわけか。……でも、そんなんで、なんのメリットがあるんだろ?」


「スラウに恨みを持った奴という可能性は低いだろう。……そんな回りくどいやり方はしない。遺跡を利用し、嵌めようしてきたんだ。……同業者の意見を聞いてみよう。こういうことはトオルも得意そうだしな」


金回りの事に関する頭の回転の良さと、遺跡関連だけでなく、多方面の豊富な知識を持っている。

トオルならば、何かしら良い読みを見せてくれるだろうな。


俺がトオルへ期待していると、スラウがにやにやとこちらを見ていた。


「どうした。俺の顔に何かついているか」


「いや、ついてないよ。ただ、ダットさんてトオルさんのことすごく信頼しているなーと思ってさ。本当にどんな関係なのさ」


「前にも言ったろう。トオルは雇用主で俺は用心棒だ。行くぞ」


俺は席を立ち、トオルのいる宿へと向かった。

料金はトオルが先払いしてくれたので、美味かったと女将に言葉を残して、飯屋を出る。


「絶対、トオルさんは意識している気がするんだけど。ダットさん、頭が固いっていうか……脳筋なのかな」


スラウのため息交じりの呟きは俺に聞こえなかった。





「ちっ、あの野郎の仕業でしょうねぇ。全くもって、不快なのですよぅ」


宿に着くなり、トオルの部屋へと直行した俺とスラウはこれまでの経緯を説明した。

最初は難しい表情をしていたのが、遺跡が関わっているとわかってから表情が一変。


眉間にしわを寄せて舌打ちを繰り返し、話が終わる頃にはわなわなと震えながら握り拳作っていた。


「あの野郎ってこの前トオルを勧誘してきた男か、確かライゼイとかいう。スラウを遺跡に入り込ませて何を」


「あの野郎は私のチームの一員であるスラウくんが問題を起こしたとか難癖をつけようとしていたんでしょう。遺跡にはライゼイの部下が待機していたと思います。スラウくんを直接捕まえて、私に恩を着せるとか、そんな魂胆でしょうね」


「奴等の誤算は僕が素直で純粋な子どもじゃなかったってことだよ。今頃、僕が遺跡に来るのを待っているんだろうね」


「そうですねぇ、スラウくん大手柄なのですよぅ。まぬけな顔を想像するだけで笑いが込み上げます。ばーか、ばーかですよぅ」


二人は口を抑えもせずに大笑い、トオルの推測の信憑性は高そうだが……そうだとしたら厄介だ。

今回の失敗で手を引いてくれれば良い、しかし、相手がそこまで優しいかどうか。


「トオル、明日は探索を休みにしないか。少し調べたいことがある」


「そうですねぇ……私も今晩だけではこれまでの探索結果をまとめられそうにないので良いですよぅ」


「よし、スラウ。明日は俺に付き合ってくれ。お前を遺跡に誘導しようとした輩を探すぞ」


「良いよ、顔や体格は覚えてるからね」


スラウは任せろと自信ありげ、頼りになりそうでなによりである。


「それじゃあ、俺とスラウは出ていかせて貰おうか……大変そうだしな。無理をするなよ」


部屋には大量の本、発掘品、メモ紙で埋め尽くされている。

徹夜でもする気なのかと心配なので、忠告はしておいた。

体調を崩すまで疲労をためるのは良くない、トオルは遺跡探索のリーダーなのだから、倒れられたら困る。


「分かっていますよぅ。それじゃあ、早く出ていくのです。いつまでも乙女の部屋に野郎がいるものではないですよぅ」


「ああ、行くぞ、スラウ」


「うん、トオルさん無理せずにね」


俺とスラウは部屋を出て、その日はお開きとなった。

翌日、遺跡探索の途中経過をまとめることに忙殺しているトオルを残し、スラウと共に町を散策する。


そろそろ勇者パーティー帰還による町の活性も落ち着きを見せ始め、お祭り気分が消えようとしていた。

人が少なくなった分、探しやすくはなったはずだが……目的の二人組が見つからない。


たまたまなのか、人が集まりそうな酒場、物騒な輩や貧しい者が住むスラム街、発想を変えて活気のある市場も歩いたが、それらしき人物の目撃情報すらない始末。


「……全然、見つからないね」


「ああ。探す場所が悪いのか……アークナルにはもういないかもしれないな。スラウを遺跡に誘導させることに失敗した時点でその二人組はきられたんだ」


「きられたって?」


「用済みということだ。俺達がこうやって探して見つけるとする。相手にもよるが……吐かれたら困る情報だってあるんだ。……不安の芽を摘んだんだろう」


スラウによると二人組の格好はそこそこみすぼらしかったようだし、金だけで雇われただけの可能性大だ。

さらに……町から消えても問題なさそうな奴を選んだと。


「深読みし過ぎじゃないかな。そこまでする必要があるの、全部推測でしかないんだよ。トオルさんの言うライゼイって人の仕業かどうかだってわからないし」


「……確証が出ないよう、慎重に行動しているとも限らんさ。どちらにせよ、警戒するにこしたことはない。しばらく単独行動は避けた方が良い。作戦に失敗した相手が次にどう出るかわからん、もっと直接的な行動を取るかもしれない」


「はぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだろ。トオルさんがモテるせいかな」


あははとスラウの冗談混じりの笑いを見せる。

面倒な輩に目をつけられるのもどうかと思う、トオルは魅力があり過ぎるのも罪ですねぇとか言いそうだ。


「……護衛からすると大変なんだがな」


それなりに苦労がある……ただ、今の日常を保つために必要なことなら頑張れる。

俺は剣だけを見て生きてきたが、ようやく違う道を見つけられたのかもしれない。

苦労するだけの価値があると……感じていた。

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