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任せろなんて簡単に言うものではない13

「ダ、ダットさん、知っていますか。最近、すろーらいふというものが流行っているそうなのですよぅ」


「すろーらいふか、どういう意味だ」


「はい。平和的にのんびりと生きていくことらしいのですよぅ。いずれ私もすろーらいふがしたいのです。ですが、一人ですろーらいふはさびしいので……ダットさんも一緒にすろーらいふしましょう」


「……俺は元々、平和主義、散財も嫌いだ。緑に囲まれた場所でのんびりと過ごすのは悪くなさそうだな。だが、トオル……今の生活はすろーらいふとは真逆だぞ」


「はっ、はっ、はっ……っ、二人ともなんでそんな余裕なのさ。状況を考えようよ。後ろから来てるんだよ!」


今、俺達は後ろから迫り来る巨大な顔から必死に逃げていた。

正確には顔の形をした岩、転がってくるのではなく迫ってくるのだ、恐ろしい。


スラウが仲間に加わり一週間が経ち、問題なく過ごした。

トオルは知識、俺は武術をスラウに教え込む日々。

教わっている際にスラウが驚いていたことは、トオルが想像以上にすごかったことらしい。


スラウも独学で実家を出る前、それなりに勉学に励んでいたようだが、トオルは別格だとか。

正直、トオルに少しぬけている所があるのではないかと疑っていたようだ。


しかし、いざ修行を受けてみるとそんな疑いはすぐに無くなったみたいだ。

魔法、歴史、数学、医術、サバイバル……色々と幅広い知識を持ち、浅くもなく深い知識を持っている。


国際遺跡探索許可証を持っているくらいだ、トオルの優秀さについてはもう驚かない。


それで、武術はというとまだまだといった所だ。

体を鍛えてはいたらしいが足りん、食わせて鍛練をして体作りをしないと。


また、戦闘は魔法を中心にしているようだが、接近戦も覚えないといざとなったら対処が出来ない。

従って、スラウの身の丈に合わせ、短剣術を仕込んでいる最中だ。


もちろん、遺跡探索も行っており今日もサイト湖の遺跡に来ていたんだが。


「誰ですか、罠を作動させたのは。あとで反省会ですよぅ」


「俺は見ていたぞ、半魚人がレバーを下ろす姿をな。この中に犯人はいない。運が悪かっただけだろう」


「そうなんですか。なら、反省会は無しですね」


「だから、何でそんなに余裕!? このままだと反省会が出来るかどうかすら不安なのに」


スラウもそれだけ喋れるのならば、まだ元気な証拠だと思う。

しかし、下手をしたら潰される状況だ。

横からはダットさん、おんぶしてくださいと要求まで出ている。


リュックが重いのではないかと心配なんだが。

まあ、おぶって走るよりも後ろから迫ってくる岩を破壊した方が早い。

俺は走るのを止めて振り向き、槍を構える。


「ちょ、ダットさん! 何をしているのですかぁ。止まったらぺちゃんこですよぅ」


「そうだよ、死んじゃうよ」


後ろから二人の声が聞こえる、安心しろ、俺は死なない。

槍の穂先に力を込める、岩に刺した瞬間、その力を一気に解放し爆散させる。


槍でこの技を使うのは久しぶりだな、愛剣の突き技として使っていたから。

俺は眼前に迫り来る顔型の岩、呼吸を整え……槍を突き刺した。


「砕けろっ!」


技は成功し、岩は砕け散った。

ぱらぱらと岩の破片が飛んで来る……破片が大きいな、充分に力を込められなかったか。

俺もまたまだということだ。


「ふう……」


俺は一息ついて槍を下ろす、すると、いきなり後ろから抱きつかれ、勢いを殺せず潰された。


「ダットさん、すごいのですよぅ。ここまで出来るなんて知らなかったのです。かっこよかったのです。槍であの岩が木っ端微塵に吹き飛んだのですよぅ。気分爽快、ダットさん最強!」


「僕も驚いたよ。あの巨大な岩を槍で爆散させるなんて……ダットさんてもしかして、とんでもなく強い人? そもそも何者なのさ」


「……二人とも、とりあえず下りてくれ」


潰されたまま話を聞くのは嫌だ。

二人はすぐにどいてくれた、当たり前か。


「ああ、疲れた。……あれをやるとな、少しだるくなるんだ、すまない」


「少しって……ああいう武器を使った技って相当な鍛練を積まないと使えないやつだよね」


「まあな。俺も習得には苦労をした」


一度コツさえ掴めば楽なんだが、それが難しい。


「……僕ってすごい人達に修行をつけて貰っているんだね」


「そうですよぅ。スラウくんも頑張って下さいね。お宝をたくさん探せるように」


「僕は遺跡探索者を目指しているわけじゃないんだけどな」


「将来何をしても良いですが、今、スラウくんは遺跡探索者なのですよぅ。何か成果を出さないと今夜の晩御飯が貧しくなります」


「はいはい。」


「返事は一回ですよぅ」


トオルの叱責を受けて、スラウも慎重に隠し扉や宝探している。

俺は破壊した顔型の岩の残骸を漁ってみた。

目の部分に光る物が埋め込まれていたような気がしたのだ。


俺の見間違いでなければあるはずと、探してみると見つかった。

ただのガラス玉かもしれないが、トオルに報告し鑑定して貰うことになった。


そして、遺跡探索終了の時間がやって来る。

スラウも何か見つけることが出来たのだが、十体くらいの兵士の人形。


各々、様々な武器を持っている人形があるが、顔がないという共通点がある。

スラウが持ってきた時は不気味な物を見つけたなと思ったが、トオルは結構喜んでいた。


そういった特殊な置物は時代や住んでいた種族について分かることがあるのだとか。

この遺跡が昔はどんな施設だったかも、もしかしたら判明するかもしれないとのこと。


もし分かればそれなりの報酬が出るらしい、何処から出るのかと聞いたら、遺跡のある国からだったり、許可証を発行している機関からだったりと時と場合によるとか。


重大で価値が高い程、報酬の額が上がると、目を光らせて語っていた。

……将来、でかい謎を解き明かしてお金ざっくざくなのでよぅ、とか考えていたのだろう。


トオルの思考が分かってきたのは良いことなのか、どうなのか。

まあ、雇用主のことを理解し補助するのも用心棒の勤めだな。


「さあ、さあ。今日はダットさん、大活躍だったのです。たくさん食べるのですよぅ。私が奮発したのですからね」


「ダットさんのおかげで僕も便乗してご馳走にありつける。感謝するよ」


テーブル上はトオルが頼んだ料理で埋め尽くされている。

三人で食べられる量なのか、これは。

二人は笑顔で料理を口に運んでいる、まだまだ余裕そうだ、なら大丈夫だな。


俺は特にペースを上げることなく、普段と同等の早さで食事をする。

すると、前半とばし過ぎたのか、目に見えて分かるくらい二人の食事ペースが失速してきた。


「ぐふっ、ちょ、調子にのり過ぎたのですよぅ……」


「ぼ、僕も限界かな」


ついに二人のフォークとナイフを握る手が止まった。

料理はまだ半分近く残っている、残すのは勿体無い。


「全く、食える分だけ注文をしろ。スラウ、もっと食わないと体が成長しないぞ。お前はまだまだ成長が期待できる年だ。無理してでも食え」


「ダ、ダットさん余裕そうですね」


「食える時に食っておかないと、戦場ではいつまともな補給を受けられるか」


「僕達は戦場に行ってるわけじゃないよ」


「私は女性的事情を考慮した結果、これ以上無理をするのは不味いと判断したので、お先に宿に帰りますよぅ。それに、今まで集めた発掘した物、壁に掘られていた文字、内部構造などをまとめなくてはなりませんから。二人はごゆっくりですよぅ」


懐からお金を取りだして、テーブルの上に置きトオルは店を出ていった。

残ったのはテーブル上の料理と俺達二人。


「ダットさん、僕も町を散策してくるよ。……兄ちゃん、あとはよろしく」


スラウも席を立って店を出ていく、こういう時に幼い子ども演じるのはどうなんだ……。

俺一人でこの山盛りの料理を片付けろと。


「お客さん、無理しなくて良いからね。宴会なんかで料理が残るなんて良くあることだから」


お世話になってる女将もこう言ってくれてはいるが、残すなんてとんでもない。

ましてや、財布のひもが硬いトオルの奢りだ、こんな機会はあまりないと見る。


「いいや、全て食う」


「これを全部かい!? 無理はしないでおくれよ。店前で吐かれるのは勘弁してもらいたいからね」


「任せてくれ」


有言実行と言わんばかりに目の前の料理を平らげていく。

今回ばかりは任せろと自信を持って言える。

気が付けば俺の食いっぷりに周りの客達が目を丸くしていたが、視線など構わずに食い続ける。


ペースを崩さずに黙々と食事をしていると、気が付けば料理の乗った皿は残り一枚となっていた。


「ふう、最後の一皿か。こんなに食ったのは久々だったな。トオルにあとでお礼を言わないと」


「あ……まだいた。ダットさん」


「ん?」


店の入り口から名を呼ぶ声が聞こえたので、振り向くと息を切らしたスラウがいた。


「どうした、何かあったのか」


「うん、なんかさ。僕達、面倒な奴等に目をつけられてるかもしれない」

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