任せろなんて簡単に言うものではない12
「選んだ理由か。まず、僕がどうしてギルドの訓練場を選ばなかったかなんだけど」
「知っていたのか」
「当然。でも、僕この容姿でしょ。ギルドに行ったら嘗められるわ、年齢疑われるわでもう……それがイラっとしちゃってさ。見た目で判断するなんて、僕のこと何も知らないくせに」
まあ、スラウの見た目ではとても十五には見えないからな。
ギルドは年齢は問わずで登録出きる、ただ、死んでもギルドは一切の保証をしないので、幼すぎると親の承認が必要になったりもするからな。
孤児だと言ってごまかすことも出来る。
しかし、登録出来てもスラウの見た目だ、周囲から度重なる冷やかしを受けたのだろう。
ギルドの話をするだけで、嫌悪感が出ているようなので相当だな。
だから、スラウの中身を見て欲しいという主張は分かるのだが。
「俺達もスラウのことはあまり知らんぞ」
「それを今から話すんだってば……本当は勇者様達に取り入ろうかなって思ってたんだ、駄目元でね。それで勇者様達の凱旋パレード中、隙を見て接触出来ないかなって考えていたのさ。それで勇者様達にさりげなく近づこうと画策しながら、走り回っている時にダットさんとトオルさんに会ったってわけ」
「あの時は幼い少年の振りをしていたな。さっさと通りすぎたかったからだな」
「うん。そのまま素通りして勇者様達の所へ行きたかったからね。そしたら、トオルさんが僕に対しての説教が始まった」
「えへへ……あ、呼びましたか」
袋の中身を数えることに夢中になっていたのか、今までの話を聞いていないな。
目から金色の光が出たままだ。
「いや、続けてて良いぞ」
「わかりました」
この話にトオルはあまり関与しなくても良いだろうと判断し、袋の中身確認を続行させる。
嬉々として金勘定をするトオルを見て、スラウがどう思うかだな。
「あ、ははは。まあ、ぶつかったとはいえ、見知らぬ子どもにああいう風に言えるトオルさんに好印象を持ったんだ。それで駄目元な勇者様達より、二人に鍛えて貰った方が現実的だと思ったってわけさ」
「話は分かったが……早計じゃないのか。俺達が絡んだのはあのぶつかった時だけだぞ。一度だけの接触で持ち金まで出して……信用し過ぎじゃないか」
「ダットさんが悪い人ならそんな忠告はしないでしょ。……これでも人を見る目には自信あるよ。この見た目活かして、情報収集とかしてた。体のハンデがあるからさ、身に合った武器も使ってるよ」
自分のことを理解しての選択も出来ていると。
成る程、実力はわからないが今聞いた話が本当ならば、スラウは良い人材かもしれないな。
俺としては賛成……しばらく警戒はする形でだが、問題はトオルだ。俺は用心棒、リーダーはトオルだ、決定権は俺にない。
まあ、袋の中身をえへへ……笑いながら数えているトオルを見る限りでは賛成しそうだが、そろそろ戻ってきてもらおうか。
「トオル、スラウをどうするか決めろ」
「はっ、話は終わってしまいましたか」
「安心しろ、俺が聞いておいた。俺としては問題ないと思うがどうする」
「そうですねぇ、ダットさんが良いなら、良いです……と言いたい所なのですが。スラウくんでしたね、私達はギルドの冒険者でなければ、商人でも、旅人でもありません。私は遺跡探索者、ダットさんは用心棒兼助手です。私達に着いてくるならば、遺跡にも来てもらいますが……大丈夫ですか」
トオルなりに忠告をしているのだろう、遺跡での危険を知っているから確認だな。
俺は修羅場をそこそこ経験しているからな、スラウはおそらくそんな経験はない。
「遺跡探索、面白そうじゃんよ。僕に出来ることならなんなりとやるからさ。トオルさんのチームに入れてよ」
スラウはあっさりと承諾した、ある程度の危険は元々承知の上だったか。
「やったのですよぅ、これでチームが出来たのです、コンビではありません。あの野郎も三人なら諦めるはずですよぅ」
「……気にしていたんだな」
三人ならチームと言える……か。
スラウのことは少しの間、警戒をさせて貰うがな、用心棒として雇用主を守らないとならん。
雇用主のトオルが腕を上げて喜んでいるので、口には出さないが。
スラウも希望が叶ったからか、嬉しさが表情に出ている。
……その笑顔が信用出来る様になるまで、時間がかからなければ良いのだが、判断までどれだけかかるか。
「ダットさん、トオルさん。これからよろしくお願いします」
やはり、地方とはいえ貴族だな、礼儀を怠らないのが素なのだろう。
……相手の礼儀には答えないとな。
俺はスラウと固く握手を交わす、その後トオルは袋から何枚かの金を取り出しスラウに返していた。
「契約金はこれで充分ですよぅ。しっかりとダットさんがスラウくんを鍛えますからね」
「僕、トオルさんなら全部持っていくと思ったよ」
「ふっふっふ、私はチームに仲間が増えてルンルン気分なのですよぅ。スラウくんは運が良かったですね。……で、ダットさん、何故そんなに驚いているのですか、スラウくん以上に」
「……すまない」
金関係では文字通り目を光らせていたので、契約金を下げる行為には……な。
顔に出さないようにしたつもりだったのだが、出てしまったか。
「すまないじゃないですよぅ。ダットさんは私のことどう思っているんですかぁ。言うのですよぅ、今すぐに!」
胸ぐらを掴んできそうな勢いである。
はてさて、何と答えればトオルの怒りは収まるのやら。
「撫でたって無駄なのですよぅ、ごまかされないです」
「あ、つい無意識に」
「無意識で頭を撫でるなんて、ダットさんとトオルさんてどういう関係なの……」
スラウが俺達を探るような目線で見てくる。
俺達の関係か……トオルは俺の恩人で俺はトオルの用心棒。
……それ以上でもそれ以下でもない。
しかし、この回答で二人が納得してくれるのか、疑問だ。
トオルなんて、特に不満を口に出しそうである。
待て、どういう関係かではなく、どう思っているかだったな。
それなら自分の思うことを正直に話せば良い、難しく考えすぎていた。
「トオルには恩義を感じている。また、トオルの用心棒をやっているのには理由があるんだが……俺は金銭だけでトオルの側にいるわけではない、トオルのことは嫌いではないからな、一緒にいるのは楽しい。……従ってだ、俺はトオルと繋がりが持てて良かったと思っている」
ふむ、少々長くなってしまったか、思っていることを上手く口にするのは存外難しい。
さて、二人が何も言わないところを見ると納得してくれたか。
そもそも、納得が出来ないと言われても困るがな、俺は嘘をついているわけでもなく、本心を隠しているわけでもないのだから。
「二人とも、そろそろ何か注文しないか。そうだ、トオル。思った以上に鑑定の結果が良かったと言っていたな。スラウの歓迎の意味を込めて、少しだけ豪勢に……トオル、どうした」
「へっ、あ、そうですねぇ。スラウくんのチーム加入を祝して食べる、食べるのですよぅ。女将さーん」
トオルは椅子から立ち上がり、厨房へと走っていった。
わざわざ行く必要はないと思うのだが。
「……僕、二人の関係がなんとなく分かったよ」
「そうか、なら良かった。時々、騒がしいがよろしく頼む」
「ははは……僕、二人の所に来て良かったよ」
退屈しないで済みそうだとスラウは小さく呟いた。