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任せろなんて簡単に言うものではない11

「兄ちゃん、兄ちゃん!」


「ん?」


目をつぶり、トオルを待っていたら声が聞こえた。

反射的に目を開けると目の前にには昨日出会った少年の姿があった。

俺に何か用だろうか。


「どうした、俺に何か用か」


「なあ、兄ちゃんてさ、強いの?」


用を聞いたらこの質問である。

少年の問いにどう答えようか迷ってしまった。

自慢ではないが、これでも魔王城で幹部と死闘を繰り広げた身だ。


その辺に騎士に劣ることはない、純粋な力ならばある。

ただそれだけだ、本当の強さとは……腕っぷしだけではない。


「……さあな」


「自分のことじゃんよ。……さあな、じゃないよ。かっこつけちゃって」


少年は全く納得出来ない……さらにかっこつけているとも言われてしまった。

考えてみたら、子ども相手に強いか強くないかの質問で深く考えすぎだ。


「まあ、強いぞ」


「じゃあさ、俺を強くしてよ!」


「……唐突だな」


こんな時間帯に昨日会ったばかりの少年から強くしてくれと頼まれ事をされるとは。


「ひゃっほう、期待以上なのですよぅ。今夜もごはんを美味しく食べられるのです」


スキップ混じりでご機嫌なトオルが建物から出てきた。

タイミングが良いのか悪いのか。

まあ、トオルの様子を見ると満足いく結果だったらしいので、俺も安心したが。


「ダットさん、やったのです。一日目にしては幸先が良いですよぅ。この勢いで明日も……あれれ、君は昨日、ぶつかってきた少年ではないですか」


「あっ、姉ちゃん。ねえねえ、姉ちゃんて強い?」


俺にした質問をトオルにもぶつけている。

トオルに強いかどうかを聞くか……何となくトオルがどう返すか分かるな、おそらくだが……。


「そんな、私はか弱い乙女ですよぅ」


「やっぱりな」


そう言うと思ったぞ。


「な、なんですか、ダットさん。文句があるのですか。あるならかかってこいです。上等ですよぅ、私の黄金を握りしめる予定の左腕が火を吹くのです」


「そういうことをか弱い乙女は言わん」


あと、シュッシュッと口で言いながら殴る準備もしないからな。

ほら見ろ、少年が羨望の眼差しを向けているぞ。

か弱い乙女を見る目ではない、ファイターを見る目だ。


「姉ちゃんも強いのか……姉御って呼んで良い」


「あ、姉御……」


「姉御か、たくましい響きだ。良かったな、トオル」


「良くないですよぅ。私はそんなたくましい感じではないのです。それで、結局君は何か用事があって来たのでしょうか。それとも偶然に出会ったのですか」


「俺……強くなりたくて兄ちゃんと姉ちゃんを訪ねに来た!」


突拍子のないことを言い出した少年。

頼るにしても何故、俺達なのかという疑問があるが、強くなりたいならギルドに行けば良い。


冒険者ギルドでは訓練の場を設けており、剣術指南なども受けられるようになっている。

代金はかかるが、初心者が受ける戦闘指南はそこまで高い料金ではない。

少年はギルドで戦闘指南を受けられること知らないのか。


「成る程、嫌です」


「うっ、や、やっぱりか」


「話くらいは聞きましょう、まだ、ご飯がまだですので、食事をしながらですよぅ。ふっふっふ……」


少年が逃げられないように腕を掴み、飯屋へ連行していく。

……あれは獲物を見つけたウルフの目だ。

少年の年齢はまだ十歳を越えているかどうかというところか。


トオルがやばい話をし出したら止めないとなるまい。

今日はゆっくりと飯を食うことは出来なさそうだ。





「さあ、座るのですよぅ。商だ……話を聞きましょう」


飯屋に入ってテーブルにつくなり、早速か。

商談と言いかけているので、やはりそういう意味合いの話をする気だな。


「おい、トオル。こんな少年から金を取ろうと画策しているのか。さすがに俺も止めさせてもらうぞ」


トオルにそっと耳打ちをする。


「ダットさん、気づかなかったのですか。彼はおそらく、そこそこ良いとこのお坊ちゃんですよぅ。服を見ればわかります。汚れていますが、糸の解れがあまり見えませんし、生地がそこまで傷んでないです。あれは、わざと汚して新品の服を中古品に偽装してます」


「何……」


さりげなく少年の衣類を観察するとトオルの言う通りだった。

だが、それだけで決めつけるのはどうだろう。

たまたま、綺麗な服が中古で売っていただけかもしれないぞ。


「あと、話し方もぎこちないのですよぅ。あれはキャラを作っていますね、間違いありません。私が言うのですから」


「トオルが言うと説得力があるな」


「……否定出来ないのが悔しいですよぅ」


「姉ちゃん、兄ちゃん話し声聞こえてるよ」


少年を見ると苦笑しつつ、俺とトオルを交互に見ていた。

雰囲気が会った時とは異なっている、トオルの予想は正しかったな。


「まあ、ばれちゃったみたいだから話すよ。……僕は地方貴族の五男坊さ。最近、家を出たんだ。言っとくけど権力なんて全然ないから」


「名前は」


「スラウ・クエイドル」


「クエイドルか……」


確か南を領地とする貴族だったか、爵位は男爵だったような。

そういう面には疎いので確実ではない。

トオルなら博識だし、知っていそうだが。


「家を出たと言っていましたねぇ。その年齢で家を出される程、君の家は経済的に不味いのでしょうか」


「ああ、それ聞くよね、やっぱり。僕、こんなんだけど、年は十五だから」


「……本当か」


スラウの見た目はどう見ても十五には見えない。

十二くらいだろう思うくらいの容姿だ。

背も低く、筋肉もそれなり、顔つきも幼く全体的に細い。


「全く、どうしてか体の成長が止まっちゃってね。鍛えてもごりごりにならないし。声も高くていやになるよ」


「……羨ましいのですよぅ。私は最近、プニプニしてきたので困っているのです」


「安心しろ、まだトオルは平均的な体型だ」


「さらっと女の子にそういうこと言うの失礼ですよぅ」


「……話が進まなくなるから、後でゆっくりと聞く。それで、家を出たスラウが俺達に近づいてきた目的はなんだ」


身分を隠してまで俺達に近づいた理由、強くして欲しいと言っていたのは口実だろう。

危険性はあまり考えられないが、警戒を解きはしない。


「そんなに警戒しないで欲しいな。僕が来た理由は言ったでしょ。強くなりたいってさ」


「商談なら聞きますよぅ」


「……家を出た時、いくらかの資金を貰った。これでどう?」


ジャラリとお金の詰まった袋がテーブルの上に置かれた。

トオルは目を輝かせて中身を確認している、おいおい、値段次第では商談成立になるぞ。


俺達に近づいてきた目的は分かったが、何故俺達なのかという理由を聞いていない。

トオルはお金を数えるのに夢中、俺が聞き出すしかない。


「ねぇねぇ、僕は名乗ったのに、二人は名乗らないの。兄ちゃん、姉ちゃんってもう呼ぶのはちょっとね……」


「俺はダット、こっちがトオルだ」


「ダットさんにトオルさんね、覚えたよ」


「そうか、じゃあ、聞かせて貰うぞ。俺達を選んだ理由をな」


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