飛燕の剣
8.飛燕の剣
白竜の里を後にして早一ヶ月。オルア達は海峡を渡り、遥か東にある街ガンナイツを目差して旅を続けていた。その道中、不意にオルアが一同に問いかける。
「なあ、巫女さんの言ってた探し人って誰の事だろうな?」
「またそれかよ?とは言え確かに気にはなるが…だが俺は今探してる奴なんかいねえし、どうでもいいがな」
「でも、この中の誰かに縁があるって事は間違い無いわよね」
「その通りだギャ!でもオイラにも探し人はいないんだギャ!何しろ白竜はもう見つけたんだギャ!だからオイラ以外の誰かが探してる人なんだギャ!」
「…聖竜の言葉通り。だが、俺探し人、いない」
「そうなると…俺かミンクだな」
「えっ?…あ、そうか…そうか…会えたらいいなぁ」
「ああ、そうだな…会えたらいいな」
オルアはミンクにそう言うと同時に、自分にもそう言い聞かせていた。
ガンナイツへ向かう道中は険しい山岳地帯だったが、その中を切り通して街道が造られており、比較的容易に進む事が出来た。とは言え気になる事はあり…それは
「ねえ、また立て札があるわよ。今度は「馬賊を警戒しろ」だって。何か街に近付くにつれて具体的になって来てない?」
呆れた様にミンクが言うが、最早誰も気に止めていなかった。何しろガンナイツの領地に入ってからこれで立て札を見たのは既に軽く十回を越えていたのだった。それも最初の内は「一人旅注意」だとか「夜の通行危険」と言った注意を喚起する様な文句だったのが次第に「護衛の無い隊商は襲われる」や「金品は奪われる」等と具体的になって来たからだった。とは言え、最初に立て札を見てからここまで相当歩いて来たにも関わらず、馬賊など影も形も見えない。最初は警戒していた一行だが、こうも何事も無ければ気が抜けるのも無理も無い事だった。
「平地ならともかく、こんな山岳地帯で馬賊って事は無いだろう。まあ、両脇を断崖に挟まれたこの辺りで前後から挟み撃ちってんなら悪く無い手だが、俺達が相手じゃ何も奪えないだろ」
ガルがそう言って笑うと、つられてオルア達も笑い出す。すると、まるで申し合わせたかの様なタイミングで前後から物音がした。
「おいおい、ガルが余計な事言うから変な客が来ちまったぞ」
オルアが苦笑しながら剣を抜く。すると見る間に前後から馬に乗った怪しい集団が近付いてきた。どう見ても好意的とは思えないその様子を見て、ガルが前に進み出る。
「貴様等に警告する!それ以上の接近は敵対行動とみなし、攻撃を仕掛ける!」
谷間中に響き渡る声でガルが叫ぶ。迫って来た一団は一瞬躊躇するが…次の瞬間には一斉に拍車をかけた。
「ちっ、そう甘くはねえか」
舌打ちしながらガルも剣を抜くが、どうにも様子がおかしい。本当に山賊ならば獲物を襲うのに相手の命を気遣ったりはしない。にも関わらずこの相手はどうやら自分達を生け捕りする事に拘っている様に思えたからだった。オルアやイーロンも同様な違和感を覚えたらしく、その攻撃から次第に殺気が消えて行く。互いの攻撃が小康状態となったのを見計らってガルは刀を納めると、手をかざして敵意の無い事を示した。
「…ガル?」
怪訝な顔をするオルアだったが、ガルに促されてオルアも剣を納め、イーロンも拳を下ろした。
「アンタ方に言っておくが、俺達は馬賊じゃ無い。白竜の巫女のお告げに従ってこの地へ人を探しに来ただけだ。どうか剣を収め、先へ進ませて貰いたい」
「…何を言っている?こいつらが馬賊なんじゃないのか?」
オルアは怪訝な顔でガルを見上げるが、ガルは構わずに続けた。
「俺達が攻撃したのも、アンタ方を馬賊だと思ったからの事で他意は無い。どうか剣を収めて貰いたい。それによく見てくれ、四人と一匹に対して馬が二頭、しかもその内一頭は馬車に繋がれているんだ。どう見ても馬賊ではあるまい?」
その言葉に相手は互いに顔を見合わせて剣を収めた。とは言え警戒を解いた訳では無い為、周囲を囲まれたまま町まで護送される事になったのだが…
「まあ結果オーライだな。護衛について貰ったと思えばいいじゃねえか」
「まあ、そりゃそうなんだけど…どう見れば俺達を馬賊と間違えるんだ?」
「まあいいじゃない?誰も怪我しなかったんだし」
「そうだギャ!しかも町に着くまでかえって安心できるギャ!」
「…」
それぞれ思う所はあったものの、こうして一行は無事ガンナイツの町へと辿り着いた。
「これが…騎士の町」
無骨な城塞に囲まれた門の前で、オルアは呟く。しかし、傍らにいた騎士が笑いながら答える。
「いえいえ、ここは外壁ですよ。我等の都は外壁に覆われた平野の中央にあります。そうすれば仮に賊が外壁を突破しようとも、我が騎士団が撃滅するのに充分な広さがありますからね」
先頭を行く騎士の合図で城塞の門が開く。すると…目の前には果てし無く広がる肥沃な草原があった。
「おお…」
思わず絶句するオルア。同時に一同も感嘆の声を上げる。流石に誰も城塞の中に草原があるとは思わなかった様だった。
「見えますか?あそこが我等の都です」
先程の気さくな騎士が遥か遠くを指差す。その言葉に目を細めるオルア。すると、やや傾きかけた日に照らされて、遠くに石造りの街の姿が映った。更に街に近付いた所でミンクが町の中心に立つ物見櫓を指差す。
「ねえ、あの上にいる人、物凄く大きな弓でこっちを狙ってるよ」
その言葉と同時に、オルアの足元に凄まじい勢いで矢が突き刺さった。咄嗟に飛び下がったオルアだったが…
「…あれ、前にもこんな事無かったっけ?」
そんな事を思いながら町へ入ると、聞き覚えのある声がオルア達を迎えた。
「よう、我が友我が好敵手!」
懐かしい声に顔を向けたオルアは、声の主を見てポカンと口を開けた。ミンクとガルも同様に驚きの表情で声の主を見つめると、揃って声を上げた。
「スティング!」
暫くして…スティングの館に招かれた一同は手厚いもてなしを受けていた。
「いやはや、こんな所でオルアに会うとは驚いたが、それ以上に驚いたのは…御頭がご同行されていたとは」
グラスを傾けながらスティングは陽気に笑う。そして更に続けた。
「そう言えば、カントの闘技場で無敵のJJを破った大男が現れたと噂で聞いたのですが…もしや」
「ああ、俺だ」
「やはりそうでしたか!流石は御頭!いや、愉快!さあさあ、酒も食い物も幾らでも用意させております!今夜は心ゆくまで旅の疲れを癒して下さい!そら、お嬢さんもそれでは飲み足りないでしょう?こちらをお使いなさるが宜しかろう!」
スティングはそう言ってミンクには特大のジョッキを、ガルにはそれに加えて特大の皿に乗った豪勢な料理を用意させた。オルアにもガルに劣らぬ程の大皿料理と、更にはバーンにも希望通りの山海の珍味盛り合わせ、イーロンにはこれまた希望に沿って穀物と野菜のみ、とは言え料理人が精魂込めて作り上げたご馳走の数々を用意させた。
「さあ、まずは腹ごしらえだ!話はそれからでいいだろう!」
スティングに促されるまでも無く、オルアとバーンは物凄い勢いで食べ始めた。
「やれやれ、品の無い奴等だ。とは言え正直俺も腹ペコだ。そんな訳で、乾杯!」
「そうね、かんぱーい!」
ガルとミンクも勢い良くジョッキをぶつけ合うと一気にそれを飲み干し、ガルは早速食べ始め、ミンクはすかさずおかわりをする。そして、イーロンは一人黙々と箸を運ぶ。
食事をしながら談笑している内に、オルア達は互いに近況を話し合った。
「しかし、御頭がオルアと一緒に行動していたとは思いませんでしたよ。その上聖竜や白竜の拳士まで一緒とは、もう驚くしかありませんね」
そう言って笑うスティングに、それ以上に豪快な笑いと共にガルが言葉を返す。
「何言ってやがるんだ?てっきり俺の後を次ぐと思っていたのに、さっさとアジトを抜け出してこんな所まで来ていやがるとは。その上自慢の剣技と弓術を売り込みに使って早くも護衛隊の隊長様だと?相変らず抜け目の無い奴だぜ!」
「抜け目の無さだけは、御頭の技を盗みましたからね」
「何?それじゃあ相当なモンだな!」
互いに大声で笑い、再会の宴は賑やかに過ぎ、瞬く間に夜は更けていった。
翌朝、目を覚ましたスティングの眼に入ったのは…
「あ、お目覚め?とてもいい天気よ!」
優雅にお茶を飲みながら、相変らずの笑みを浮かべたミンクのすがただった。
「あ…ああ、おはよう」
スティングは軽く頭を振りながら辺りを見回す。どうやら目を覚ましているのは自分の他はミンクだけで、ガルも含め他の連中はいまだに眠りこけていた。もっとも、バーンとイーロンの姿は既に見当たらなかったが。
「ところでスティングさん、馬賊ってどんな人達なの?」
唐突にミンクが尋ねた。スティングは差し出されたお茶を一口飲むと
「うむ、相変らず目覚めの一杯としては申し分無い。流石はエルフの王…おっと、これ以上は言わぬが花。それはそうと、馬賊についてでしたか…よろしい、お話しましょう」
「実は、私がこの町の護衛隊長を勤めるきっかけとなったのも奴等なんだが…まあ早い話が以前の我等ですよ。金目の物を持っている連中を片っ端から襲って金品を略奪する盗賊団。しかもどいつもこいつも馬術に長けていて、戦闘力も逃げ足も相当な物ときている。特にその首領たるや、御頭とは全くタイプが違うものの相当な使い手。見た目は細身で小柄な剣士なのだが…遠距離からの不思議な攻撃には正直舌を巻く。何しろ…剣が光ったと思った瞬間には手傷を負わされているのだから。懐に飛び込めれば何とかなるかもしれんが、はっきり言って私一人ではどうにもなりません。そこで…」
そう言ってスティングはいまだ眠りこけているオルアとガルに目を向けた。
「成程、三人でかかれば何とかなるって…でもねえ」
「まぁ、あの二人の性格からして間違っても魔物退治でもないのに三対一の闘いなんてしないでしょう。とすると後は相性の問題になるのですが…」
「どっちなら勝てそう?」
「うむ、まあどちらでも勝率は五分でしょうね。オルアの剣技ならば奴の不思議な暫撃をかわせるかもしれんし、御頭ならば岩をも切り裂く奴の暫撃にも耐えられるかもしれん。だが、それはあくまでも私が今まで見た奴の力が全力だったと仮定した場合の話。もしも奴がいまだ力を隠していたとしたら…後は時の運。とりあえず、二人が目を覚ましたら話してみましょう」
「…そうね、どっちにしろその話を聞いたら二人共闘わずにはいられないでしょうから」
二人はそう話をまとめると、ゆったりとしたお茶の時間を過ごした。
すっかり日も昇った頃、目を覚ましたオルア達はスティングの案内で町中を見物していた。大通りは活気のある店で溢れていたが、中には立派な店構えにも関わらず死んだ様に静かな店もあった。その様子に首を傾げるオルア。するとスティングが溜息をついて説明する。
「この店もそうだが、他にも幾つか馬賊の被害にあって休業状態…あるいは閉店に追い込まれた店がある。俺が来てから若干そのペースは落ちては来たものの、このままでは町の活気は失われ、街中全てがこうなってしまうだろう」
そう言って足を止めるスティング。
「ここは…」
思わず声を上げるオルア。その目の前には巨大な石造りの商店があった。しかし既にそこは閉店しており、手入れもされていない石壁は所々崩れかかっていた。
「この店にしても、たった一年前は相当な賑わいだったらしい。俺が来た時にはすでにこの状態だったが…そんな店が今でも増え続けているのが現状だ。そこで…」
スティングが言うより早くオルアは振り返ると、力強く叫ぶ。
「そんな奴等、俺がぶっ飛ばしてやる!」
「ああ、そいつは俺も同感だが…そいつらの頭は俺が頂くぜ」
「いや、先に言ったのは俺だ。だから俺がそいつと戦う」
「そうはいかねえ、俺も元は盗賊の首領だ。面子にかけても…」
更に続きそうなやりとりにミンクが割り込んだ。
「あのねえ、そんなのはどっちでもいいの!むしろこの場合は皆で力をあわせて馬賊退治するって事の方が大事でしょ!それに…探し人の事もあるんだし、遊んでる場合じゃないわ」
その言葉にオルア達は顔を見合わせる。
「そうだったな、探し人ってのが馬賊の中にいたとしたら慎重にいかないとな」
頭を掻きながらオルアが言うと
「ああ、すっかり忘れてたぜ」
思い出した様にガルも軽く額を打った。
「全く…二人ともしっかりしてよね」
呆れた様に呟くミンクに、スティングは思わず苦笑した。
一同は町長の館に招かれ、町長や町の有力者達も交えて会議に参加させられていた。その様子を見る限りスティングのこの町での信頼度はかなり高いらしく、数多くの有力者達が笑顔で挨拶をしていた。その中にはオルア達と同行した気さくな若い騎士の姿もあり、オルア達に気付くと笑顔で頭を下げた。参加者が揃ったのを見計らい町長が皆に挨拶をして、早速スティングを促した。スティングは立ち上がると、早速オルア達に注がれる視線に答える。
「まずは皆様、お忙しい中お集まり頂き恐縮です。しかし、私がこの町の護衛隊長を勤める以前からの懸案事項であった例の馬賊に対する朗報が入りましたので、一刻も早く皆様にそれをお伝え致したくお集まり頂いた次第でございます」
スティングの言葉に一瞬ざわめきがおこるが、次の瞬間には再びオルア達に視線が注がれる。
「その朗報とは…皆様がその紹介を今か今かと待ち焦がれているこちらの方々に他なりません」
スティングは言葉と同時にオルア達にその手を向ける。驚きと納得の入り混じったざわめきが起こるが、そんな中で例の若い騎士が声を上げる。
「では、その方々は我らと共に戦って頂けるのですか?」
嬉しそうなその声にスティングは思わず笑みを浮べつつも首を振る。
「いや、君には悪いのだが…この方々には私と行動を共にして頂く。残念ながら騎馬戦よりは市街戦を得意とする方々なのでな」
「そうですか…それはとても残念です」
そう言いながら寂しげにうつむく若い騎士を見て、ガルが小声で呟く。
「おい、俺は馬上でも問題ねえぞ」
「それは重々承知しております。しかし、外で騎馬戦となれば馬賊の首領と戦う機会は無くなりますが」
「うん?じゃあお前の言う通りにしよう」
その様子にミンクは苦笑するが、同時に思い付いた考えを告げる。
「ねえ、だったら私が騎士団のお手伝いしましょうか?私なら馬とも話できるし、夜でも遠くまで見渡せるわよ」
突然の申し出にうろたえるスティングだったが
「ああ、お前はよく知らないだろうがこの譲ちゃんはそりゃあ大したもんだ。冗談抜きでミンク抜きにはここまで来られなかったと思うぜ。なあオルア?」
「…あまりおだてると調子に乗りそうだから言いたくは無いが、その通りだ」
ガルとオルアの言葉を聞き、感心した様な顔でミンクの顔を覗き込んだ。ミンクはその視線に笑顔で答えると同時に、スティングに声をかける。
「ねえ…私達はいつになったら紹介して頂けるのかしら?」
「お?これは失礼した!皆様、遅ればせながら異国の地よりの戦士を紹介させて頂きましょう!」
スティングはそう言うと同時に、オルア達に手振りで起立を促す。若干戸惑った一同だったが、その意を介して立ち上がる。そしてスティングがオルアとミンク、そしてガルを紹介した所で言葉に詰まる。
「え…っと。残りのお二方は実は私もよくは存じ上げておりません。なのでこの一行のリーダーであるオルア殿に紹介を引き継いで頂きましょう」
「は?…俺が?」
「スティングさん、オルアには無理そうだから私が紹介してもいかしら?」
戸惑うオルアの様子を見てミンクがすかさず助け舟を出すと、スティングは苦笑しながら頷き、ミンクが立ち上がった。
ミンクの、オルアではとても真似出来ない様な解り易く無駄の無い説明は一同を充分に納得させ、その響きの良い言葉は一同を心地良い気分にさせた。更にオルア達に対しての一同の簡単な紹介も済んだ所で作戦会議が次第に熱を帯び始める。
「皆様ご存知の通り奴等は夜目が利く。それ故、次の襲撃は恐らく新月となる三日後の晩だろう。その前に今の作戦を完璧に実行出来る様各々が尽力して頂きたい」
三時間以上続いた会議がスティングの言葉で締め括られ、オルア達もやっと外へ出る事が出来た。
「しっかし、座ったままで話を聞いてるってのはキツイな!」
開口一番ガルが叫ぶと
「…同感」
オルアもぐったりとした顔で同意した。
「二人とも駄目ねえ、スティングさんはずっと会議を仕切っていたのに全然平気そうよ」
呆れ顔でミンクは言うが
「…そりゃそうだ、アイツは俺より数倍頭がいい。俺の部下だった時も面倒事は全部任アイツ任せだったしな!」
ガルが全く意に介した様子も無く豪快に笑うと、ミンクは軽く溜息をつき当時のスティングの事を考えて少し同情した。
そんな事はさておき、スティングの予測した新月の晩は既に今夜の事となったその日、オルア達はスティングの館で昼食をとっていた。大量に用意されていた山海の珍味を胃に片付けた所で、ガルが満足そうな笑みと共に口を開く。
「一応確認しておくが、俺とオルアはとりあえずお前と一緒にいりゃあいい訳だな?」
「はい、そうして頂けると大変助かります。私の読みでは今夜奴等は夕刻に町へ入る予定の隊商を襲う…というのがこちらの罠と知りつつもそれを実行するでしょう。そしてこちらが打って出た所で、既に侵入していた仲間が活動を始める…と、私は読んでいます。ただ奴等の首領は私以上に頭が切れる。恐らくは私のこの読みも上回る策を用意しているかもしれません…が」
「が、そいつらを蹴散らすしか無いって事だな?」
「はい」
「そりゃあ解り易くていいぜ!ミンクが外で奴等の本隊を陽動して、俺とオルアが奴等の首領を叩く!そんでもってバーンとイーロンは状況に応じて動く遊撃隊って訳だ!それでいいんだろ?」
「ええ、その通りです。ただ、今回は敵が魔物ではないので、申し訳ないがバーン殿には上空での偵察及び支援をお願いしたい。そしてイーロン殿は…こればかりはその時にならないと解らないが、敵の勢力が集中している所に随時移動して頂いた上で、敵戦力の削減に勤めて頂きたい」
「んギャ、オイラも人を傷付けるのは気が引けるから、それでいいギャ!」
バーンは元気良く叫び、イーロンは無言で頷いた。
瞬く間に日は傾き、馬賊と戦う為の準備で町中が慌しく動き始める。既に囮の隊商は町へ向かっており、流石にミンクの顔にも緊張の色がうかがえた。
「よう、ガラにも無く緊張してんのか?」
騎士団に混ざって既に騎乗していたミンクに、半ばからかう様な調子でオルアが言うが
「あら、オルアこそこんな所で遊んでいていいのかしら?お目当ての相手をガルに抜け駆けされるわよ」
「へっ、それだけ言えりゃ問題無いな。せいぜい皆の足を引っ張らない様にしろよ」
「大丈夫よ。私とこの子の相性の良さは貴方が一番良く知っているでしょう?」
そう言ってミンクが愛馬の首をさすると、マルスは嬉しそうに嘶く。
「そうだな、まあ気を付けろ」
オルアはそう言い残し立ち去り、ミンクは笑顔で見送った。その顔には既に緊張の色は無く笑みさえ浮かんでいたのを見て、例の若い騎士が笑う。
「…どうしたの?」
突然笑い出した騎士にミンクが怪訝な顔をすると、騎士は笑ったまま答える。
「いえ、羨ましい程の信頼関係だなと思い、ついつい笑みが…」
そこまで言うと騎士は真顔に戻り
「ですから、その信頼に応える為にも我々は全力を尽くし、皆で無事に戻りましょう!」
力強く言い放つ。
「ええ、勿論よ!」
ミンクも負けずに力強く言うと同時に、騎士団出発の角笛が鳴り響く。
「さあ、出撃ですよ」
「ええ!…あ、そう言えば私大事な事忘れていたわ!」
「…何でしょうか?」
「まだ伺って無かったわ。お名前、教えて下さる?」
「ええ、私はファイラス。若輩ながら騎士団長の補佐を勤めさせて頂いております。今日は作戦行動を共に出来て光栄です、麗しきミンク殿!」
「ええ、私も光栄ですわ。若き騎士ファイラス様」
そう言って笑いあう二人。同時に門が開かれ、騎士団は草原へと歩を進めた。目の前には既に黄昏時を迎えた薄暗い草原が広がり、背後からは燃える様な夕陽がその背中を赤々と照らす。
同刻、囮の隊商内にざわめきが起きる。草原を囲む城塞に穿たれた抜け穴を通り侵入した馬賊が襲って来る。そこまでは予想通りだった。しかし…
「お…おい、こんな大群どうするんだよ?」
積荷にまぎれて隠れていた兵士が呟いた。何しろ、たかだか二十人にも満たない一団を五百は下らない馬賊が取り囲んでいたのだから。仮に今すぐ増援が来た所で、かろうじて相手の三分の一に足りるかどうか、そう考えた兵士達が玉砕覚悟で先手を打とうとしたその時、夕暮れ迫る草原に角笛の音が響いた。
新手の出現に馬賊は慌てて音のした方へ顔を向けたものの、その数はどう見ても百に満たない。その顔からは一瞬にして驚きの色は消え、笑みが浮かぶ。同時にその中の半分以上が騎士団を迎え撃とうと馬を駆けさせ、鬨の声と共に武器を振りかざした。
一方、騎士団にも猛然と突っ込んで来る馬賊の姿が目に入り、その戦力差にうろたえる者も多数見られた。しかし、先頭を走る団長の号令は一切の躊躇を掻き消す。
「全軍楔の陣形!中央突破―っ!」
若干の乱れがあった隊列も一瞬にして陣形を整え、数で上回る相手を圧倒する程の喚声を上げて襲い掛かる。
怒号と共にぶつかり合う両軍。しかし散開した馬賊を騎士団はあっさりと両断する。そのまま突進した騎士団は隊商を囲んでいた馬賊を蹴散らすと、荷物に紛れていた兵士達と共に円陣を組む。非常に鮮やかな手並みだったが、その様子にも馬賊の長らしき人物は全く動じた様子も見せない。
「ファイラス、エメス、ガドルト、見ての通り我等は圧倒的に数で劣る。とは言え我等の目的は敵の殲滅では無い。少しでも敵軍の足を止め、スティング殿の率いる護衛隊の負担を減らす事にある。それ故、敵を迎え撃とうと思わず町へ入ろうとする者だけを討ち取るのだ!」
騎士団長の簡潔だが的確な指示に、ミンクは感心した様にその顔をみつめるが…
「何か…変だわ」
同時に馬賊の動きに不審な何かを感じて呟く。しかし、ミンクが目を凝らした瞬間に馬賊が動き出した。
「挑発に乗るな!町に近付く者だけを追い払え!」
騎士団長の指示で三人の団長補佐がそれぞれの一団を率いて、町へ近付く馬賊を追い払う。何度かそのやりとりが繰り返され、騎士団は遂に只の一人も侵入を許さなかった。しかし、そのあまりの手応えの無さに騎士団の誰もが怪訝な顔をしたその瞬間、騎士団長はハッとした様に馬賊を睨みつける。
「小癪な…図りおったか!」
騎士団長は叫ぶと同時に馬首を返して町へと疾走する。慌てて後を追うファイラス。ミンクはその隣へ馬を寄せると、先程気付いた不審な点をファイラスに話した。
「ファイラスさん気付いた?あの馬賊の半分以上は人が乗っていなかったわ」
「何ですって?」
「黄昏時なんで判り辛かったと思うけど、殆どが人に見えそうな荷物を積んだだけだったの。昼間だったらありえない手だけど、一番人の目が信用ならない時間帯を突いた単純だけど効果的な手ね。それにしても団長さんは流石ね、私が気付いた時にはあの人ももう気付いていたみたい」
「そりゃあまあ、あの人は普通じゃありませんから…それより何で奴等はそんな事を?」
「そりゃあ、町へ主力を投入するならなるべくこちらへ目を向けさせたいって事でしょうね」
「そりゃあ大変だ!急ぎましょう!」
「大丈夫。馬賊の首領がどんな人か知らないけど、私の連れはちょっと凄いんだから!」
緊迫した表情のファイラスと対照的にミンクは笑みを浮べる。そして
「結局、私達は役立たずだったわね」
そう言いながらファイラスと顔を見合わせると、二人揃って苦笑するしかなかった。
ガルと共に町の大門に待機していたオルアは黙って夕陽を見つめていた。しかし、それもやがて山に隠れて夕闇が訪れる。するとオルアは町の外をじっと見つめるが、遥か遠くに灯火に照らされつつぼんやりと動く影の様な物しか見えなかった。
「どうした?何か見えるのか?」
ガルに声をかけられたオルアは振り返ると軽く首を振る。
「まあ、ミンクなら心配無いさ、何しろ馬と話が出来るんだ。危なくなったら敵の馬を説得するだろ」
「確かにその通りだけど…心配なんかする必要あるのか?この間みたいに悪魔が相手って事なら話は別だけど」
その言葉にガルは一瞬目を丸くするが
「ちげえねえ」
そう言ってガルは大きな声で笑った。そしておもむろに立ち上がると、不意に町の中へ目を向ける。
「何か…匂うな」
ガルがそう呟いた瞬間、数箇所から同時に叫び声が上がる。咄嗟にオルアは町の東に、ガルは西に視線を向けると、そこへバーンが飛んで来た。
「大変だギャ!町のあちこちで火の手が上がってるギャ!イーロンとスティングががもう三十人はやっつけたけど、まだ全然人手が足りないギャ!奴等は周りから放火、略奪をしながら町の中央へ向かってるみたいだギャ!二人とも急ぐんだギャ!」
バーンは急いでそう叫ぶと、元来た方へと飛んで行く。オルアとガルも顔を見合わせて頷くと全速力でバーンの後を追った。
「こりゃあ凄えな、いつの間に入り込んだんだ?」
町の中心部の有様に、ガルは思わず呟く。そこにはどう見ても二百は下らない数の馬賊が狼藉を働いていた。とは言え、今は馬に乗っている者は半数にも満たなかったが。そして更に目を凝らすと、周りを取り囲む賊を手当たり次第にぶちのめすイーロンの姿が目に入った。
「感心している場合じゃ無い!イーロンに加勢するぞ!」
「おお、腕が鳴るぜ!」
二人は暴れまわる馬賊の中心に突撃すると同時に、イーロンに負けじと周りを囲む敵を次々と打ちのめし始めた。
「何だコイツ等、歯応えが無さすぎだぜ!」
ガルは剣も抜かずに豪腕で馬賊を薙ぎ倒すが、全く手応えを感じないでいた。それはオルアもイーロンも同様で、三人は思わず顔を見合わせる。
「嫌な感じだぜ、奴等何かたくらんで…いやそれよりも、スティングの言っていた奴等の首領とやらが見当たらん。そんな強い奴なら見りゃ解ると思うんだが」
ガルは腕組みしたままで周りを囲む連中を睨みつけるが、それらしい相手は見当たらない。オルアも、そしてイーロンですらも強敵の気配は感じなかった。
「アイツに聞くか」
ガルがそう言って物見櫓にいるスティングに声をかけようと振り返った瞬間
「御頭!」
逆にスティングが叫んだ。同時に殺気を感じたガルは咄嗟に屈み、その瞬間「何か」がガルの頭上を通り過ぎ、目の前の立て看板を真っ二つに切り裂いた。
「何だっ?」
オルアはすかさず「何か」が飛んで来た方向へ視線を向け、イーロンは斬られた看板を手に取る。切り口は鋭利な刃物のそれだったが、そこには刃物はおろか金属の欠片すら見当たらなかった。
「スティング!何か見えたか?」
ガルの叫びにスティングは頷いて、火の付いた矢を弓につがえて引き絞る。そしてオルア達の後方の闇めがけて矢を放った。するとその矢はオルア達の頭上を通り過ぎた所で打ち落とされる。
「そこだっ!」
ガルが同じ方向に短剣を投げ、それも再び見えない何かに打ち落とされた。同時にオルアが突撃する。
「バカ!止めろっ!」
思わずガルが叫ぶと同時に、オルアの身体が吹っ飛ばされてガルの腕に抱えられる。
「よう、お早いお帰りで」
「…おはずかしいったらありゃしない」
抱えられながらオルアは頭を掻く。何となく呑気な二人とは対照的にイーロンが表情を険しくした。
「…来る」
そう言って身構えるイーロンの目の前に、ガル程では無いにしろかなりの巨漢と、その肩に乗った小男が現れた。二人の発する気にオルアとガルも表情を変える。巨漢が見た目通りに強そうなのも感じられたが、それ以上に肩に乗った小男。恐らくはそいつが先程火矢と短剣を打ち落とした不思議な技の使い手なのだろう。それをを考えるとこれこそがスティングの警戒していた馬賊の首領に間違いない。そう確信した二人は同時に突進するが
「またかーっ!」
「うおおっ?」
オルアはともかくとして、ガルまでもが派手に吹っ飛ばされた。かろうじて踏み止まるガルだったが
「…油断…大敵」
「本当…おはずかしいったらありゃしない」
オルアはさっきとまるっきり同じ格好でイーロンに抱えられていた。
「どうやらふざけてて勝てる相手じゃ無さそうだ。本気で相手をさせて貰おう」
そう言いながらガルは剣を抜き、イーロンはオルアを投げ捨てて身構えた。
「おい…もうちょっと丁寧に扱え!」
オルアは喚きながら立ち上がると、剣を抜いて同様に身構え…た所で固まる。見ると既に闘いは始まっていて、ガルはお返しとばかりに巨漢と、イーロンはちゃっかりと小男を相手に激しい戦いを繰り広げていた。
「お…おい!そいつは俺の相手だぞ!イーロン!」
そんなオルアの叫びもどこ吹く風。二人の気持ちは既に相手だけに向けられていた。
「…クソッたれ」
完璧に出遅れたオルアは舌打ちしながらもそれぞれの戦況を見守っていた。しかし、ガルの相手は確かにすさまじいまでの腕力を持ってはいたがそれ以外には何も無く、本気になったガルの相手では無かった。
「惜しいな、これが試合なら俺も正面からお前と力比べといきたい所だが、今はそんな状況じゃねえ。悪いがカタつけさせて貰う!」
ガルが大刀を振り抜き、相手は一瞬にして視界の外へ吹っ飛んで行った。
「なっ?」
小男が驚いてそちらに目を向けた瞬間
「…余所見…危険」
イーロンが強烈な一撃を叩き込み、小男も同様に視界から消え去った。
「まあ、こんなモンだろ」
納刀しながらガルが笑う。その顔には若干物足りなさも見えたが、快勝と言ってもいい闘いにそこそこ満足している様だった。その様子を窺っていた周りの連中も先を争って逃げ出す。
「すっかり出遅れたよ。それよりさっさと吹っ飛ばした奴等を捕まえに行こう」
「おお、そうだったな。勢い余って町の外まで飛ばしたかもしれん」
そう言って歩き出すガル。オルアも後を追うが、イーロンは行きかけた所で立ち止まって振り返る。
「…どうした?」
オルアが声をかけると、イーロンはスティングのいる櫓と、その周りを窺っていた。そして何かに気付いたイーロンが駆け出すと同時にスティングも矢をつがえる。しかし、それより一瞬早く櫓は根元から切り倒された。
突然の事に呆気に取られる一同。そして
「スティーーーング!」
ガルの咆哮が周りの喧騒に掻き消されていく中で、オルア達はスティングの元へと全力で走った。
「スティング!」
崩れた櫓の前でガルが叫ぶ。すると
「ふう、もう少しで櫓の倒壊に巻き込まれる所でした」
埃を払いながら、スティングは何事も無かったかの様に姿を現した。
「…お前」
呆然とするガル。しかしスティングが剣を抜いて前方を指し示した。
「何だ?」
振り返るガル。同時にまたもや見えない何かが飛んで来たが、その威力は比べ物にならない程凄まじい物だった。
「避けろ!」
思わず叫ぶスティング。しかしガルは不敵な笑みを浮べると
「面白えじゃねえか!」
叫ぶと同時に大刀を振り下ろしてそれを吹き飛ばした。
「おい、いつまでも隠れてねえでとっとと出て来やがれ!俺様につまらねえ小細工は効かねえぞ!」
闇に向かってガルが叫ぶと…
「流石だな、北の盗賊団首領…ガル」
そう答えながら、白銀の鎧に身を包んだ痩身の剣士が姿を現した。しかも、まるで先程の再現の様にその身体は巨漢の肩に乗っていた。とは言え…そこから発する気は先程の相手とは比べ物にならない。オルアも、そして普段表情一つ変えないイーロンまでもが険しい顔付きになるが、ガルは一人笑みを浮べていた。
「さて、首領とやらは…どっちだ?」
ガルはそう言いながら目の前の二人を順に睨みつける。
「どっちも強そうだが…そっちのちっこい方は凄え闘気を抑えてるだろう?隠しても俺には判る」
ガルは痩身の剣士に視線を向ける。同時に剣士は巨漢の肩から飛び降り
「全力でかかれ、今までに無い相手だ」
簡潔に指示を出した。同時に巨漢はガルの前に進み出る。ガルは一瞬不満気な顔になるが
「おい、アンタの名はこの地までも届いている。だから俺は言われるまでもなく全力でかかるぜ!」
そう言ってガルに匹敵する程の大剣を構えた相手、そこから感じられる気にガルの顔には喜色が浮かぶ。
「嬉しいねえ。俺様程の大男になると、同じ位でかくて強い相手にはそうそう巡り会えねえんだ。それがここ最近は立て続けにそんな奴等が出てきやがる。さっきの奴は拍子抜けだったが…お前はどうだ?」
「それは、試せば解る!」
その叫びと同時に二人の大刀と大剣が火花を散らした。そして次の瞬間には二人揃って後ろへ弾け飛んだ、と思った瞬間に再びぶつかり合う。およそ闘いの駆け引き等とは言えない正面切ってのぶつかり合いが続く中、オルアはその闘いに見入ってしまう。しかし、二人が間を取って一息ついた瞬間…
「あれ、イーロン?」
イーロンはいつの間にか姿を消していた。更には
「オルア、不味い事になった」
スティングも声を上げた。見ると、いつの間にか馬賊の首領も姿を消している。
「ふむ、流石は馬賊の首領。我々に気取られずに姿を消すとは。しかしあの拳士…イーロンだったな。彼はそれに気付いて奴を追った様だ。ここは私に任せ、オルアは彼を追え」
「ああ、とは言えイーロンは…」
オルアが周りを見回したその時
「こっちだギャ!付いてくるギャ!」
上空でバーンの声がした。見上げたオルアにバーンが声をかける。
「オイラに付いて来るギャ!イーロンは敵が集まってる所に向かったギャ!雑魚だけなら問題無いと思うギャ!でも不思議な技を使った敵の首領がいるギャ!だからオルア、急ぐんだギャ!」
言い終わると同時にバーンは風の様に飛び去る。
「おい待て!ちょっと待てー!」
オルアは叫びながらその後を追った。
その頃、イーロンは馬賊の首領を追って再び町の中心へと戻っていた。相変らず数多くの馬賊がいたが、それはイーロンにとってはいないのも同然。徒歩の者騎馬の者あわせて五十人はぶちのめした所で、イーロンの視線は只一人、最早闘気を隠そうともしない馬賊の首領に向けられていた。
「…成程、貴様か」
荷台に積み上げられた財宝の上で首領が見下ろす。更に無数の手下がかかろうとするが
「無駄だ」
手を上げて制すると同時に、イーロンに声をかける。
「貴様の事は良く知っているぞ、白竜の拳士イーロン」
意外な言葉にもイーロンは顔色一つ変えずに歩を進める。首領は更に話を続けた。
「白竜の里史上最強の拳士にしてカントの武術大会ベスト4。更には悪魔族の生き残りまでをも消し去ったその腕前。正直恐るべき相手だ。しかし…闘いには相性がある。残念ながら私にとって、貴様は敵では無い」
首領はそう言うと同時に剣の柄に手をかけた。そして
「草薙!」
抜刀した様子すら見えないのに、叫ぶと同時に衝撃波が発生して地平を薙ぎ払う。しかし
「…無駄」
イーロンは軽々と跳躍してそれをかわす。
「まぁ当然か、だがこれはどうする?」
上空へ飛び上がったイーロンに対し、首領は再び柄に手をかけた。そして
「昇竜!」
今度も衝撃波が発生し、空中のイーロンに襲い掛かる。自由に動けない状態を狙われたにも関わらずイーロンは全く動じず、気合一閃それを弾き飛ばした。イーロンはそのまま着地すると、大きく息をして相手を睨みつけ
「…勝負」
呟くと同時に疾風の速さで突進した。
「面白い!」
首領は再び柄に手をかけると、イーロンを注視する。そして…
「飛燕!」
再び叫んだ。しかし今度発生したのは衝撃波では無く、恐るべき速さで宙を舞う光の矢だった。
流石のイーロンも、一瞬険しい顔になったものの、目前まで引き付けた所で間一髪それをかわす。
「…これは恐れ入った。必殺の剣をかわされてはもう打つ手無しだ」
首領が諦め気味に声を上げると、イーロンは立ち止まって何か言おうとする。しかし殺気を感じて振り返ったその瞬間
「…!」
「オルア、こっちだギャ!」
「おい、俺は飛べないんだぞ!ちょっとはスピード落せ!」
「その必要は無いギャ!もう目の前…」
目的地を目の前にバーンは絶句した。
「おい、どうした?」
バーンに続き町の中央に戻ったオルアは、目の前の光景に目を見開く。
「…イーロン」
呆然と呟くオルア。その目の前では両手両足からおびただしい血を流し、それでも尚戦い続けようとするイーロンの姿があった。
「イーロン!」
思わず叫ぶオルア。それに気付いた首領は
「おや、助っ人が来た様だ。どうする、代わってもらうか?」
小馬鹿にした様に声をかけるが、当然イーロンは応じない。更に攻撃をしかけようとするイーロンだったが、既に大怪我をしている足で満足に動けるはずもなく、一方的に攻め立てられていた。しかしその顔は時たまオルアに向けられ、それでいて助けを求める様子は微塵も感じられない。暫くその状態が続いても全く倒れる様子の無いイーロンに、とうとう首領は痺れを切らす。
「しつこい相手だ、ならば…」
首領は今まで手をかけなかったもう一本の剣の柄にも手をかけた。そして
「秘剣…双飛燕!」
その声と同時に光の矢が二つ、燕の様に宙を舞いイーロンに襲い掛かかった。
「イーロン!」
叫ぶオルアの前でイーロンは倒れた。しかし倒れるほんの一瞬の間イーロンはオルアに顔を向け、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。
「イーロン…まさか?」
オルアは何かに気付いた様にハッとする。しかし
「オルア!イーロンを助けるギャ!」
バーンの声に促されてイーロンに駆け寄るが、意外にも首領はそれを妨げようとはしなかった。
「…大丈夫だ。かなりひどい怪我だけど、死にはしない。バーン、外はどうなった?」
「んギャ?オイラさっきからこの辺飛んでたギャ、だから外の様子は知らないギャ!」
「じゃあ、外はどうでもいいから今すぐミンクを連れて来い!大急ぎだ!」
一瞬怪訝な顔をするバーンだったが、すぐにその意味を理解すると
「わかったギャ!だからオルアも無理するなギャ!」
言うが早いか風の様な速さで飛び去った。オルアは手持ちの気付け薬と血止めをイーロンに与えると、そのままイーロンを離れた場所に運ぶ。そして周りを睨みつけると
「いいか、こいつは俺の仲間だ!指一本触れやがったらその場で叩っ斬る!」
周り中に響く大声で叫んだ。少年とは思えないその迫力に、冷かしていた周りの馬賊達も固まってしまう。そして首領の前に進もうとするオルアに、イーロンが声をかける。
「…見たか?なら…お前…奴…倒せる」
そう言って拳を突き出すイーロン。オルアは自分の拳を軽く合わせると
「後は任せろ。すぐにミンクが来るから、それまでゆっくり休んでろ!」
力強く言い放った。
「お前か、俺の仲間にこんな事しやがったのは!」
再び首領の前に立ったオルアは、両眉を吊り上げて叫んだ。
「…面白い、敵討ちのつもりならばいつでもかかって来い」
首領もオルアに応じ、両者は対峙する。言い様の無い緊張が弾けた瞬間、オルアは矢の様に飛び出した。
一方その頃…
「おりゃあああーっ!」
「ぬおおおおーっ!」
ガルとその相手はいまだに正面からのぶつかり合いを続けていた。駆け引きなど全く考えてもいないその闘いは確実に両者の体力を消耗させていく。互いに息が上がってきてはいたものの、スタミナの面では流石に激戦をかいくぐってきたガルに分がある様だった。
相手は既に肩で息をしており、自慢の大剣を持つ手も小刻みに震えている。
「…どうする、まだ続けるのか?」
相手の消耗具合を見たガルは、大刀を肩に担いで問いかける。すると
「舐めるんじゃねえ!」
大剣を大上段に振りかざすと、相手は全身を震わせながらガルに突進した。
「うおおおおおーっ!」
「いいねえ、やっぱ闘いはシンプルなのが一番だ!」
ガルは嬉しそうに叫びながら大刀をなぎ払い…勝負は一瞬で決した。
「ふう、流石に無傷って訳にはいかなかったか」
斬られた肩口に目をやりながら、ガルはそう呟く。そして
「まあ、峰打ちだ。アバラの何本かは折れたかもしれんが、死にゃあせんだろ。それよりオルアは…お?」
不意に顔を上げたガル。その上空を今まさにバーンが通り過ぎようとする所だった。
「おーい、何慌ててるんだ?」
「んギャ?勝負は終わりかギャ?」
「おお、快勝だぜ!」
「流石だギャ!でもオイラは急いでミンクを呼びに行く所ギャ!イーロンが大怪我して大変なんだギャ!だからガルも動けるなら中央広場に行って欲しいんだギャ!ではまた後でだギャー!」
バーンはそう言いながら飛び去った。
「アイツが大怪我…あの首領の仕業か?だったらそれを見ない手はねえな!」
ガルはそう言うと、バーンにも負けない程の速さでその場を走り去った。
その頃、オルアは首領の剣技に苦戦していた。最初のうちこそ圧倒的な突進で相手を驚かせたものの、やはり怒りに任せての剣は見慣れればかわすのは容易い。次第に近付けばかわされ、遠間ではイーロンを苦しめた厄介な技で防戦一方となる。次第に焦りの色が見えたオルアに、イーロンが声をかける。
「焦る…よくない…相手…よく…見る」
「イーロン?」
言葉の意味を理解しかねてオルアは怪訝な顔をする。しかし相手は熟考する暇を与えてはくれなかった。
「草薙!」
今度は地を這う衝撃波。再びオルアは猛攻に防戦一方となる。しかも
「お前達、この少年は私が相手をする。その拳士が何かしようとしたら、躊躇無く殺せ」
首領は冷たくそう言い放った。たまらずオルアは叫ぶ。
「汚えぞ!イーロンはもう動けないんだ、手を出すな!」
「ああ、大人しくしているなら手は出させないよ。但し、また何かつまらない事を言えば保証はできないが」
「本当だな?」
「ああ、本当だとも」
「よし…イーロン、俺なら大丈夫だ。後は任せてゆっくり休んでろ」
無言で頷くイーロン。オルアも一呼吸置いたおかげで冷静さを取り戻し、イーロンの言葉を頭の中で繰り返した。
「つまりは…俺が近付ければ勝機はあるって事か?って俺はどうやってアイツに近づいたっけ?…相手に隙があった?アイツにか?それは一体いつだ?…うおっと!」
考えながらも相手の動きを見ていたオルアは、何とか隙を見て近付こうと目を凝らす。すると、何故か相手は剣を納める時とそうでない時がある事に気付いた。
「衝撃波を飛ばす前には必ず剣を納める…何でだ?あの鞘に何かあるのか…」
実はオルアの読み通り首領の持つ鞘には魔力を持った装飾がなされていたのだが、今のオルアにはそれはどうでもよかった。剣を納めた後には必ず衝撃波が来る、それが判っただけでもオルアには接近のチャンスが産まれた。慎重に隙を窺いながら、オルアは気付かれない様徐々に間合いを詰めていく。そして
「今だっ!」
相手が剣を納めた瞬間に猛然と突っ込む。同時に衝撃波がオルアを襲うが、それを読んでいたオルアはギリギリの高さで跳躍してそれをかわす。更に着地と同時に一瞬で首領の目の前に飛び出したオルアは、目にも止まらぬ速さで剣を振り下ろした。
「ちっ!」
肩口に傷を負った首領はたまらず飛び下がろうとするが、オルアはしつこく食い下がり決して離れようとしない。
「離れちゃ分が悪いからな、悪いけどこのままくっつかせて貰う!」
「調子に乗るなっ!」
首領は鋭い剣を返すが、オルアはガルとも渡り合うほどの怪力の持ち主。流石にその剛剣を受け続けてはあっと言う間に腕が痺れてしまう。その上間を取ろうにもオルアの脚力はそれを許さない。
「仕方無い」
首領はそう呟くと、周りの部下達に合図をしようと辺りを見回し…愕然とした。
「奴は…」
その視線の先には、こちらへ向かって疾走するガルの姿が目に入った。これでは部下にイーロンを襲わせた所でガルに邪魔される。そう考えた首領は、不意に微笑を浮べる。
「ふっ…やはりそんな手はいけないな」
そう言って首領は再び剣を納める。予想外の行動にオルアも一瞬手を止めるが
「何を考えてる?降参か?」
そう言いながら剣を相手の喉元に突き付けた。しかし、首領は微笑を笑い声に変えてオルアを挑発する。
「見事な腕前だな、少年!この私の剣をかいくぐりここまで私を追い詰めるとは!だが勝った気でいるのならそれは間違いだ!嘘だと思うのなら、その剣をそのまま私に突き刺すがいい!」
首領は両手を上げて演説するかの様にオルアに告げ、その目は天を見上げオルアを見ていなかった。
「ふざけるな!本当に死にたいのか!」
叫ぶオルアに対し、首領は冷たい目を向けながら呟く。
「私は…まだ死なないさ」
「なっ?」
相手の異様な態度にオルアは一瞬硬直し、その瞬間首領の目が怪しく光る。そしてあろう事か首領は自らの喉元を剣に押し付ける。
「ばっ、何を!」
驚きの余りオルアは剣を引いてしまう。その瞬間
「甘いな…坊や」
その言葉と同時に首領はオルアを蹴り飛ばし、同時に後方と大きく跳躍した。
「しまった!」
苦心して近付いた相手にあっさりと距離を取られ、オルアは呆然とする。しかし本当にオルアを呆然とさせたのは、相手の異常とも思える行動だった。そんなオルアをあざ笑うかの様に再び猛攻が始まる。
「くそっ!またやり直しか!」
オルアは思わず舌打ちするが、先程の方法で近付こうと冷静に相手の様子を窺う。そして、何度目かの攻撃の後再び首領は剣を納めた。同時にオルアは突進し、再び衝撃波がオルアを襲う。それをギリギリの高さでかわして着地…する直前に光の矢がオルアに襲いかかった。
「あっ…ぶねえ!」
間一髪でそれをかわしたオルア。同時に首領も目の色を変える。
「ふう、さっき見てなきゃ喰らってたな」
飛び去った光の矢を眺めながらオルアは呟き、再び首領に向き直る。そして
「今度こそ決めるっ!」
オルアが矢の様な速さで飛び出した。
「うりゃあああーっ!」
叫び声と同時に攻防は逆転し、今度は首領が防戦一方となる。
「恐るべき剛力…だが、何か忘れているぞ」
オルアの剣を受けながら首領がそういった瞬間
「ぐはっ!」
オルアの背後から光の矢が襲いかかった。たまらず崩れ落ちるオルアに、首領が見下ろしながら言葉をかける。
「我が秘剣、飛燕は自在に宙を舞い確実に相手を捕らえる。かわしたからと言って油断しない事だ」
首領は余裕で背中を向けると、数歩歩いて再び間を取った。そして
「だが、君は正直油断ならない強敵だ。先程の拳士は幸い私にとって相性が良かったが、君は事によると彼以上に厄介だ。もう少し楽しみたいとも思うが…終わりにしよう。場合によってはもう一人相手をしなければならない様だからな」
そう言って首領は視線を移した。つられてそちらを見たオルアは、いつの間にかガルが観戦していた事を知る。
「どうする、手伝って貰うか?」
首領が顎をしゃくりながら言うが、オルアは不敵な笑みを浮べる。
「バカ言うんじゃねえ!イーロンは正々堂々一人で戦った、俺だけそんな真似できるかってんだ!」
そう言ってオルアは再び剣を構えると、遠くで見ていたガルも思わず頷いた。
「よかろう。その意気に応じ…先程の拳士にも見せなかった秘奥義をお目にかけよう!」
首領はそう言って柄に手をかけると
「はあああああああ…」
全身全霊をもって闘気を集中し始めた。オルアにもそれは感じられ、背筋に冷たい汗が流れる。にもかかわらずオルアはそれを止めようという気は起きなかった。ガルも笑みを浮べながら
「アイツも、やっぱバカだなぁ」
そんな事を呟いた。
「待たせたな少年…では行くぞ」
そう言いながら首領は左右の剣を握り締める。オルアも、そしてガルも唾を飲み込んだ次の瞬間
「飛燕…乱舞!」
一瞬朝日が昇ったかと思われる程無数の輝く光の矢が飛び散り、それぞれがまるで意思を持つ生き物の様に宙を舞う。
「これは…」
驚いた顔でそれを見つめるオルア。しかし見ている内に宙を舞っていた光が次々とオルアに襲い掛かって来た。慌ててかわすオルアだったが、何しろ数が多い。しかもその全てがオルアに向けて集まり始めた。
「仕方無い、覚悟を決めるか!」
オルアはそう言って歯を食いしばると、側面や背後は無視して前だけに目を向ける。
「行くぜーっ!」
前方から迫り来る無数の光。それらをあるいは弾き、あるいはかわし、更にはまともに体に受けながらもオルアは止まらない。
「やっぱりな、ここまで力をバラ撒いたらそれぞれの力は大した事ねえ!」
オルアは体中に裂傷を作りながらも首領まであと数歩の所まで近付くが…その目の前では首領が待ち構えていた。
「読み通りって訳か!だったら…」
オルアは勢いを止めずに突進する。同時に首領が叫び声と共に凄まじい突きを放ち、そこから発した輝く剣がオルアに襲い掛かる。
「!」
オルアは本能的に危険を感じた。これを喰らっては間違い無く致命傷に繋がる。そう感じた瞬間、オルアの頭の中はスパークした。
「どうする?どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうスルドウスルどうスる!」
心に呟くオルア。その体は無意識の内に剣を両手持ちに構え、剣先に闘気の全てを集中させる。そして
「うっ…りゃああああーーーーっ!」
渾身の叫びと共に、輝く剣めがけて剣を振り下ろした。するとそこからは白銀に輝く鋭い刃が現れ、目前に迫った光を切り裂く。更に突き進む白銀の刃は、驚きの顔でオルアを見つめる首領を直撃した。
「ぐああっ!」
頭部に直撃を受けた首領は大きく吹き飛ばされ宙を舞うと…派手な音を立てて地面に激突した。
「やっ…たぜ」
全身全霊を使い果たしたのか、オルアはその場にへたり込んだ。ガルは駆け寄ると、すかさずいつもの調子で声をかける。
「よう、頑張ったじゃねえか。ショーネン」
「…その呼び方はヤメロ」
「あっはっは!それだけ言い返せりゃ上等。どうだ、立てるか?」
「ああ、何とか」
そう言って立ち上がったオルアは、若干よろめきながらも歩き出す。すると
「お、あれは…」
視線の先に白銀の冑を捉えたオルアは、少し急ぎ足でそれに近付いて手に取る。驚く程軽く丈夫な冑にオルアが感心していると、背後からガルが覗き込んだ。
「ほう、奴の冑か?」
「ああ…って事は」
「実は俺も気になっていた。早速素顔を拝ませて貰うとしよう!」
「まさか、誰かさんみたいに角なんか生えてないだろうな」
「それなら尚更早く見ないとな!」
ガルは言うが早いか倒れている首領の元へ駆け出した。オルアも疲れた体に鞭打ち慌てて後を追う。
「…これは」
「…まさか」
二人は未だ気を失っている首領の顔を覗き込むと、互いに顔を見合わせた。そして、思った事を同時に口走る。
「女?」
互いに相手も同じ事を思った事で、二人はその考えを確信した。ガルは手袋を外すと、そっとその顔に触れてみる。
「お、おい…」
「大丈夫だ、息はある」
「そうか、良かった…ってのも変だけど、いくら敵でも女を殺したくはないからな」
その言葉に苦笑したガルは、改めて首領の顔を見つめる。そして
「しかし…美人だよな」
独り言の様に呟いた。
「おーい、お待たせー!」
不意にミンクの声が響く。振り返る二人の前に現れたミンクは、既に事情を聞いていたのか早速イーロンの治療を始めた。とりあえずの応急処置をすませると、そのまま顔だけを上げてオルア達に声をかける。
「そっちはどうだったの?…ってまあその様子を見れば大体解るけど」
「おお、ショーネンの必殺技で見事馬賊の首領を撃退したぜ」
「ショー…ネン?え、オルアの事?」
「ガル!」
「あっはっは!いや、さっき奴がオルアの事をそう呼んでたからつい、な」
「へー、そうなんだ。で、その首領さんってどんな凄い人なの?」
「うん?」
「ああ、それは…えーっと」
「何よ、変なの」
言葉を濁す二人に首を傾げるミンク。するとそこにバーンが戻って来た。
「町の外はもう大丈夫だギャ!それに中にいた馬賊もどんどん外に逃げて行ってるギャ!一体何があったのかギャ!」
戻る早々バーンは騒がしく飛び回る。
「ミンク、間に合ったかギャ?イーロンは大丈夫なのかギャ?」
「ええ、もう大丈夫。後は安静にしていれば問題ないわ」
「それは良かったギャ!ん?あれは敵の首領かギャ!じゃあオルアが勝ったんだギャ!オルア凄いギャ!」
バーンはそのまま首領の傍に降りると、まじまじとその顔を覗き込む。そしてまたもや騒ぎ出した。
「んギャ!物凄く綺麗な顔をしているギャ!気を失う程のダメージなのに、顔には傷一つ負わせないなんて、オルアは凄いギャ!もしかして相手が美人だと知っていたのかも知れないギャ!」
「美人?女の人なの?」
不意に目の色を変えるミンク。
「イーロン、ちょっとゴメンね」
ミンクはそう言ってイーロンをそっと膝から降ろし、首領の所へ駆け寄った。
「やっぱマズかったんじゃないのか?女ぶちのめしたのは」
「いや…多分そのせいじゃないと思うけど」
そう言いながら二人もミンクの後を追う。
「あのな…一応言っとくけど、女だってのはついさっき知ったんだ。な?」
「おお、オルアが最後の一撃で冑を吹っ飛ばした。それで解った」
「いや、吹っ飛ばしたってのは大袈裟で、あれはその…」
「そうじゃないの」
「え?」
ミンクは優しく首領の身体を抱えると、優しくその顔を撫でた。そしてその顔を懐かしそうに見つめる。
「ねえオルア…私前に言ったわよね、探してる人がいるって」
「ん?ああ、確かそんな事言って………え?まさかお前、その…」
「そうよ…この人がそう。私が捜し求めていた人」
そう言いながらミンクは首領を抱きしめて涙を流した。
「フレア…会いたかった」
遂に探し人と出会えたミンク。しかしその再会は決して喜ばしいものではなく、むしろ最悪とも言える状況だった。念願の再会を果たしたミンクとフレア。その後の展開や如何に?