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SWORD  作者: ろんぱん
12/20

永遠の命 最愛の人

一二.永遠の命 最愛の人


 凍りついた時間…それはほんの数秒の出来事だったのだが、周りで見ている者達にはいつ終わるとも思えない一瞬だった。

「ぬうっ…これはいかんな」

 咄嗟の事とは言え、修行をつけるはずの相手に致命傷を負わせてしまった。ガイルーシャはその事を考えていたが、それも全てはオルアの剣が予想以上に危険だったからに他ならない。しかもガイルーシャの見立てでは確実にいずれ自分をも超える力を秘めた若者、それをこんな所で殺すわけにはいかない。とは言えこの部屋の決まりは最早自分でも変える事は出来ない。つまりはオルアが息絶える前に外へ出る手助けは出来ないのだった。

「かくなる上は…おい小僧!まだ生きているな?」

 オルアは無言で虚ろな視線を返す。

「そうか、ではすまんがお前には更なる苦痛を与える事になるが、これ以外の手が我には思いつかん。くれぐれも気絶するな」

 ガイルーシャはそう言いながらオルアの腹に足を当てると

「ふんっ!」

 あろう事かオルアを足蹴にしながら剣を引き抜き抜いた。

「ぶぐぅっ!」

 呻きながら飛ばされるオルア。しかし、その体は部屋の出口まであと僅かと言う所でうつ伏せに倒れてしまった。

「オルアっ!」

「待て!」

 たまらず駆け寄ろうとするミンクをガルが抑える。

「気持ちは解るが、今はオルアを信じろ!俺達が手を貸せば、それこそオルアは死んじまうんだぞ!」

「だって!だってオルアが…オルアがっ!」

「んギャ!ミンク、慌てちゃ駄目だギャ!オルアはまだ大丈夫だギャ!だからミンクはオルアを信じるんだギャ!手は貸せないけど、力を与える事は出来るんだギャ!」

「…?」

「オルアを元気付けるんだギャ!」

「えっ?…そうか、解ったわ。バーン、有難う!貴方最高ね!」

「そうだギャ!オイラは最高だギャ!でもミンクも、それにオルアも最高なんだギャ!」

「ええ!」

 そしてミンクは歌い始める。その声は意識の遠のきかけたオルアにも届いたのか、オルアの体がピクリと動き、全身から血を流しながらも徐々にはいずりだした。

「オルア!」

 皆が声を揃えてその名を呼ぶ。オルアはそれに応えるかの様に、全身を震わせながらも少しずつ、それでも確実に出口へと近付く。

「そうだ、頑張るのだ!」

 もどかしそうにガイルーシャが叫ぶ。同時に差し出しそうになった手を慌てて止め、ミンクに視線を注ぐ。ミンクはその意味を理解すると、より一層歌に力を込め…オルアは何とか部屋の外へ這い出た。瞬時に傷は塞がり出血は止まる。ミンクはすぐさまその体を抱き寄せるが、その顔色が変る。

「オルア?ねえ、どうしたの?」

「どうした?傷は塞がったんだろ?」

「オルア!オルアっ!お願い、目を覚ましてよ!貴方は自力で部屋を出たの!もう怪我は治ったのよ!ねえお願い、目を覚まして!」

 必死に叫ぶミンク。しかし、オルアが目を覚ます事は無かった。


 小部屋に移されたオルアは横たわったままピクリとも動かない。その傍らでは、祈る様な表情を浮べながらミンクが、そして窓際ではバーンが、心配そうな表情でその顔を覗き込んでいた。


「おい、何故オルアは目を覚まさない!傷は治ってるじゃねえか!」

 別室でガルはガイルーシャに食い掛かる。しかし、ガイルーシャは激昂するガルを軽くいなすと、冷静な口調で告げる。

「案ずるな…小僧は生きている」

「何っ?」

 思わずガルは叫び、一同の視線もガイルーシャに集中する。

「まあ…それは肉体に限っての事だが」

「どう言う事だ?」

「心、帰る事、拒んでいる」

 不意にイーロンが言葉を発し、視線はイーロンに集中した。

「オルア、真の力、目覚めつつあった。だが剣神の力、それを凌駕した。そして、心に大きな傷…負った」

「成程、つまりは…目覚めた力が全く通用しなかった事に絶望し、心が死んでいる…そう言った事でござろうか?」

「うむ、そう考えるのが妥当だな」

 イーロンと半蔵、そしてフレアが顔を見合わせ頷きあう。

「心がだと?じゃあどうやってオルアを起こすんだよ?第一俺は…」

「まあ落ち着け。剣神は既に何か手を打とうとしている様だ」

アグラに止められてガルは再びガイルーシャに視線を向けるが…

「あれ…どこに行った?」

既にそこには影も形も無かった。

「剣神には剣神なりの考えがあるんだろう。俺達に出来る事は今は何も無い。酒でも飲みながら待つとしよう」

 アグラはそう言って無理やりガルを座らせると、特大の瓢箪を差し出した。

「クソっ…そうするしかねえか」

 栓を抜くとガルは勢い良く飲み始め…

「ぅっかー!やっぱイラつく時は酒だな!」

 鬱憤を発散するかの様に声を上げた。アグラと半蔵、更にはイーロンも共に杯を傾けあうが

「私は今は気分じゃない。様子を見て来る」

そう言って部屋を出るフレア。

「ああ…頼む」

 ガルは力無くその背中に声をかけた。


「様子はどうかな?」

 突然背後から声をかけられ、ミンクは驚いて顔を上げるが、ガイルーシャは気にする様子も無く部屋へ足を踏み入れ、オルアの顔を覗き込んだ。

「うむ、放っといて気が付けば儲けもんだと思ったのだが…やはりエルフ王家の血を引くそなたの力が必要だな」

 そう言って振り返るガイルーシャ。ミンクは一瞬驚きの表情を浮べるが、言葉の真意を理解しかねて首を傾げる。しかしすぐにその顔には決意の表情が現われた。

「あの…私の力があれば、オルアは?」

「うむ、蘇生は可能だな。だが、その為にはそなたの持つ不死の命を捧げねばならんが…それでも構わぬか?」

「勿論よ!」

 間髪入れずに答えるミンク。躊躇すると思っていたガイルーシャは面食らった様にミンクを見つめるが

「ふーむ、どうやら勢いだけで言った訳ではなさそうだな。しかし何故だ?何故エルフ王家の血筋が、人間の為に命を賭ける?」

「それは…それは…私が…」

「ミンクとオルアは相思相愛なんだギャ!口には出さないけど傍で見ているオイラ達にはまる解り何だギャ!」

 今まで様子を見守っていたバーンが突然口を開いた。そしてその言葉にミンクは赤面する。

「ちょっ…バーンいきなり何を…」

「でも間違ってないと思うんだギャ!」

「え?あの…それは」

 赤面したままミンクはうつむいて両手の人差指をクルクルと回す。その様子にガイルーシャは笑みを浮べた。

「成程、それなら話は早い。不死の命を捧げるとは言ったが、何もそれは今この場で死ぬと言う訳では無い。無限とも言えるそなたのその命、それが有限になるだけの事。そなたがその小僧を愛しているのならば、むしろ好都合かもしれんな」

「え?」

「ふっ、いかにそなたがその小僧を愛していようとも、その寿命には大きな隔たりがあろう?最愛の人を亡くす事は何よりも辛い。それを考えれば、愛する者と共に逝けるのはこの上なく幸せな事と言えるかもしれんぞ」

「それは…そうなのかもしれません。私はどうすればいいのでしょう?」

「ふむ、少々そなたの血を貰えれば、後は我が何とかしよう。さあ、覚悟が出来ているのならば手を出すのだ」

「えっ?あ…はい」

 言われるままに手を差し出すミンク。ガイルーシャはその手を取ると、おもむろに掌に短剣を沿わせる。

「ちょっと痛いが我慢しろ、すぐに終わる」

「はい」

 ガイルーシャの言葉通り、一瞬にして短剣の先に血が滴る。

「さあ、これで準備は出来た」

 ガイルーシャはそう言って、怪しげな壷に短剣を浸す。そして振り返ると血に染まったミンクの手に息を吹きかける。途端に出血は止まり、傷口も塞がった。

「どうだ、まだ痛むか?」

「いえ…全然」

 呆気に取られて掌を見つめるミンクをよそに、ガイルーシャは話を続ける。

「では、寝たままの小僧に活を入れるとしようか」

 ガイルーシャはそう言いながらおもむろに壷を持ち上げると、その中身を短剣でかき混ぜる。そして、オルアの口をこじ開けて怪しげな液体を流し込んだ。

「さて、これで下準備は済んだ。後はそなたが小僧を起こせ」

「えっ?起こせって…どうやって」

「それはそなたにしか解らん。あの聖竜の言った通り、小僧もそなたを愛しているのならば、きっとその呼びかけに答えるだろう」

「え?」

「何も飾った言葉はいらん。そなたの心からの呼びかけ、それだけが小僧を目覚めさせる唯一の手段だ」

「私の…心からの…」

「さて、最早我等は只の邪魔者だ。席を外すぞ」

「んギャ?オイラはここで」

「いいから来い!」

「んギャーっ!ミンク、オルア、頑張るんだギャーっ!」

 二人きりになった部屋の中、ミンクは改めてオルアの顔をみつめる。心なしか先程と比べて血色が良くなった様に見えるその顔に向けて、ミンクは囁く様に言葉をかけ始めた。

「ねえ、覚えてる?私達が初めて会った時の事」

 オルアは寝たままで返事をしないが、一瞬頷いたかの様にその頭がかすかに動く。ミンクはクスッと笑うと、言葉を続けた。

「貴方は、私が水辺でくつろいでいた所に流れ着いたのよね…思えばそれからの旅は色々楽しかったり大変だったり。最初に道連れになったのは…カシムさんか。結局長い間一緒にいてもらったのよね。元気にしているかしら?それにハイネンさんやアスラン王。とても気さくな人達だったわね。そしてガルと…その前に貴方はスティングさんとも戦ったのよね。凄く強くて…いい人だったよね。ガルと戦う貴方を気遣ってくれた。まあ結局貴方はガルも倒して、今では大事な仲間になったんだけど。お城に報告しに行った時の王様とハイネンさんの嬉しそうな顔、それと…何て言ったかしら?あの陰険そうなひと。あの人が悔しがってプルプルしてたのは今思い出してもおかしいわね。あ、その後なのよね、私がジー君と再会したのは!あれは嬉しかったなあ。ちょっとだけ老けちゃったけど、その内面は昔と何一つ変わってなくて…うん、元気でいてくれて本当に嬉しかった。そう言えばその後なのよね、貴方がハーンの末裔だって知ったのは。一見只の少年なのに、異常なまでの強さの秘密を知った時、私は何となくだけど納得したわ。それから…そうだ、バーンに会ったのよね。可愛らしい竜の子供かと思いきや、まさかあの聖竜の末裔とは驚いたわよね。伝説の英雄と聖竜、その末裔に立て続けに会うんだもの、そりゃあ驚くのも無理ないわよね?」

 一息つきながらミンクはオルアの顔を見つめる。

「ねえ、私ばっかり喋ってるよ。まだ起きないの?じゃあもうちょっと独り言続けるからね?」

 ミンクはオルアの額に手を乗せると、再び口を開く。

「ねえ、そう言えばバーンのいた廃墟で変なのと戦ったわよね?あれって一体何だったのかしらね?あ、そうそう!そう言えばカントの町で武闘大会有ったじゃない?あの時JJさんの相手するはずだったパークスって人、あの黒い騎士と雰囲気似てるわよね?何で今まで気付かなかったんだろう?今思うとあの二人、間違い無く人間じゃない気がするの。ってまあ…だったら何なんだって聞かれても答えられないんだけど…考えても解らない事は放って置きましょう。その後はイーロンの故郷へ行ったのよね。巫女さんは凄く可愛らしかったし、生まれたての白竜はとても愛おしかったけど…カーズには正直二度と会いたく無いわね。まあ、会う事は無いでしょうけど。でも悪魔がいまだに生き残っていたって事は、あの怪しい二人も悪魔…でも雰囲気は違うし、本当に何者なのかしら?オルアだって気になるでしょう?だから早く起きなさいよ。私さっきから待ってるんだよ?それに独り言だってそろそろフレアとの再会の場面になるし、それが終わったら話のタネが尽きちゃうじゃない。だから早く…起きてよ」

 ミンクは優しくオルアの額を撫で、思いを込めて手を握る。

「フレアに会えたのは…凄く嬉しかった。本当に巫女さんの言う通りだったわ。本当は一緒にゆっくりしたかったんだけど、その後すぐに長い船旅に出て…またとんでもない敵と戦う破目になったのよね。まさか、神話で聞いた神の生き残りと戦う事になるとは思わなかったわよ。しかも一緒に戦う仲間が海賊達の王様でしょう?おまけにその海賊王がガルと昔なじみって言うのだから驚いた…あ、そう言えばあの人達ずっと船の上で私達を待ってるのよね?早く戻らなくっちゃ。だからオルア、早く目を覚ましなさいよ!」

 そう言いながらミンクはオルアの手を強く握り締める。オルアは相変らず目を覚まさないものの、ミンクの呼び掛けが続くにつれてその顔には赤みが増した様にも見える。

「…オルア」

 呼び掛けが無意味で無い事を確信したミンクは、更に強い思いを込めて口を開く。

「ねえ、貴方は…このままでいいの?確かに剣神はとても強かった。でも、でもね、貴方も凄く強かったよ。私が見た限り、剣神との差は本当に紙一重だった。だから目を覚まして、もう一度頑張ろう?…だって、それが貴方がお父様に…そうよ、剣神は貴方のお父様の事を知っているんでしょう?だったら目を覚まして今度は剣神に勝って見せなくっちゃ駄目じゃない?」

「んん…っ」

 オルアは呻くような声を上げて寝返りを打ち、その顔がミンクの方へ向き直る。

「オルア…目を開けて私を見て。私には貴方が必要なの…お願い」

 感極まったミンクの目からいつしか涙が流れ落ちる。

「オルア…剣神は言ったわ、貴方の為に私の永遠の命が必要だって。私は…貴方と共に生き、共に死にたい。だから永遠の命なんていらない。本当に私に貴方を目覚めさせる力が有るのなら、それを全部あげる。だから…だからお願い…目を覚まして」

 涙で濡れた微笑を浮べながら、ミンクは優しく口付けをした。


 いつしか眠ってしまったミンク。そして、柔らかな光の中で時間は流れ…


「うぅ…んが…ふああぁーーーあ」

 大きなあくびをしながらオルアは起き上がった。

「…ん?」

 目を覚ましたオルアは辺りを見回す。

「…あれ、俺はどうしたんだっけ?」

  状況が飲み込めずに寝ぼけ眼をこするオルア。すると、まだ感覚のおぼつかない右手に暖かさを感じた。その手はミンクがしっかりと握り締め、その上体はオルアに覆いかぶさる様に横たわっていた。しかしその顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。

「ミンク?あぁ、そうか…ミンクが俺を…」

 オルアは夢の中の出来事を思い出すかの様に呟くと、優しくミンクの頬を撫でる。

「ミンク…」

 オルアはミンクの頭を優しく撫で、その顔を覗き込む。

「ありがとな、お前…じゃなかった、ミンクが起こしてくれたんだろ?よく解らないけど夢の中で、ミンクが必死で叫んでいた。いつもみたいに歌うんじゃなくって、本当に辛そうな顔でとても見てられなかった…おかげで目が覚めちまったよ」

 思わず苦笑するオルア。そして穏やかな笑みを湛えたまま、決意を込めた言葉をミンクにかける。

「俺は…剣神を超えてみせる」


 復活から僅か三日後、オルアは前以上の力で剣神との稽古を始めていた。

「ふん、黄泉の淵まで行ったのも無駄足では無かった様だな」

 一見軽々とオルアの剣を捌くガイルーシャだったが、心中穏やかでは無かった。オルアはいずれ自分をも超える、そう確信はしていたものの、予想を遥かに超える成長振りに焦りを感じていたのだった。

「いかんな…あと数年は師匠面するつもりだったのだが」

「こっちはいつまでもモタモタしてられねえんだ、悪いけどそろそろ奥義の一つでも教えて貰うぜ!」

「そうか…ではまず手始めに」

 ガイルーシャは剣を納めると、その柄に手をかけてオルアと呼吸を合わせる。

「以前お前に放った双牙は、形こそ奥義と違いなかったが…今から放つそれはあの時の物とは比べ物にならん。瞬きなどしようものならその刹那、お前の両腕はなくなると思え。これが我の奥義が一つ…剣王双牙!」

 その言葉と同時にオルアの両肩から血飛沫が飛び散る。しかしオルアは怯む事無く突進しながら紙一重で致命傷を避け、ガイルーシャの目前まで迫った。

「おお、やるではないか!」

 オルアの剣を受け止めたガイルーシャは、嬉しさと驚きとが入り混じった妙な笑みを浮べる。オルアは対照的に不敵な笑いを浮かべて、鍔ぜりの状態から渾身の力でガイルーシャを押し始めた。

「当然だっ!前に…見た技だから…な」

 全身を震わせながら力を込めるオルア。しかしガイルーシャはその戦い方に若さを感じて思わず笑う。

「ほう…だが足が震えているぞ?」

「なっ?」

「隙だらけだな」

 声と同時にガイルーシャはオルアを蹴り飛ばす。オルアは派手に吹き飛んで壁に激突したが、平気な顔で立ち上がった。その頑丈さに呆れながらも、ガイルーシャはオルアに言葉をかける。

「オルアよ…お前は一体何の為に戦う?」

 不意の問い掛けにオルアは意表を付かれるが…勢いよく答える。

「難しい事は解らねえけど、今ははっきり言えるぞ!俺はミンクに助けてもらった。だから今度は俺が命を賭けてミンクを守る!父さんに会うのも勿論忘れた訳じゃ無い。でも今はそれ以上にミンクの為に…あれ、でもミンクはもう探していた人には会えた訳だし…じゃあミンクの為ってのはもういいのか?えーっと、じゃあそうすると…」

 思わず考え込むオルア。次第にその顔は紅潮し、湯気が立ち昇る。

「すまん、難しい事は考えなくていい」

「ほえ?」

「とにかく我に一撃入れてみろ。さすれば小僧の父親が今どこで何をしているのか、我が千里眼にて探してやろう」

「本当か?」

「当然だ。我は神なり、嘘などつく筈がなかろう」

「そうか…でもそんな便利な事が出来るなら最初に言ってくれればいいのに」

「愚か者。我は神なるぞ。それ故力示さぬ者に我が力貸すことは適わぬ。お前は我にこそ及ばなかったもののその力を示し、更には死の淵から蘇った…まあそれはお前自身の力以上の力があったればこそだが」

「それは…その通りかもしれない。よく解らないけど、ミンクが俺を呼んでくれた気がする…泣きそうな顔で。だから俺は、その気持ちに応えたい。だから…」

「ああ、もうよい。今は何も考えずに我に一撃を入れて見せよ。話はそれからだ」

「よっしゃあ!それなら話が早い!」

「ふむ、大した自信だが…そう上手くいくかどうか」

「うりゃああああっ!」


 数時間後、オルアは指一本動かせない程の疲労の極みを迎えていた。

「さて、今日はこの位にしておこう。さっさと部屋を出ろ」

「い…いや、まだだ…俺は…まだ…」

 オルアはそう言いながら剣を振り上げ…ようとするのだが、最早手が言う事を聞かずに剣が滑り落ちる。

「安心しろ、お前は恐るべき速さで上達している。もう暫くすれば我の奥義のいくつかは使えるようになろう。それに…お前の仲間達にも稽古をつけてやらねばならんからな」

 そう言ってガイルーシャが視線を送る先には、今か今かと待ち構えるガル達の姿があった。

「あの者達もなかなかの力を秘めている様だからな、それを眠らせておくのは勿体無かろう。エルフに竜っ子は凱竜が相手をする。白竜の拳士はとっくにこの山の霊穴に篭って修行を始めている。だが剣の使い手には我以上の稽古相手はいまい。だからお前はさっさと部屋を出て休め」

 オルアは返事をする余力も無く、僅かに頷くとふらつく足取りで部屋を出る。同時にガルを先頭にフレア、半蔵が部屋に入る。

「さて、今度は俺達の番だ。これ以上お前に差をつけられる訳にはいかねえからな。せいぜい頑張るとするぜ」

「ああ、早い所我々も一対一で相手をして貰える位にはならねば」

「…全く、情け無し。拙者も精進あるのみでござる」

「そうか…頑…張って…く…れ」

 部屋を出たオルアは、傷が癒えると同時にそう言ってぶっ倒れた。

「ふん、俺達は最低でもこれ以上頑張らなきゃいけねえ訳か」

「うむ、だが私は欲深いぞ。この程度でネを上げるつもりは毛頭無い」

「拙者もその意見に同感でござる。今までの修行が児戯にも等しいと悟ったからには、全身全霊をかけて挑まざるをえまい」


気合充分な三人を、ガイルーシャは笑みを浮べながら迎える。

「さて、先日はお前達も剣技だけで我に挑んだ訳だが…今日は持てる力全てでかかって来るがよい。幻術だろうが飛び道具だろうがどんな手を使っても構わんぞ。ま…それでも我に一撃入れる事は不可能だろうが…な」

 不敵な笑みを浮べるガイルーシャ。その高慢な物言いに三人は闘志をむき出しにして挑むが…一時間と経たない内に部屋の外へ逃げ出す事になった。肩で息をする三人に、ガイルーシャは冷静に分析結果を告げる。

「ふむ、フレアはなかなか面白い技を使うが…いかんせん威力が無い。あれでは使い物にならんな。半蔵は剣術も幻術も使いこなすのは見事だが、はっきり言って中途半端だ。ガルは流石に腕力だけは大したものだが、正確さに欠ける。あれでは力の無駄使いと言うもの。つまりはお前達皆修行が足りん。オルアの手下になるのならばそれでも構わんが、それが我慢ならんのならばここで死ぬ気で修行しろ。さもなくば、単なる足手まといにしかならんからな」

 厳しい現実を突き付けられた三人は一瞬沈黙したが

「じゃあ、第2ラウンドだ」

「うむ、先程言った通り私は欲深い」

「拙者も、実は欲深だったようでござる」

 再び目をギラつかせ、ガイルーシャの前へ歩を進めた。


 一方その頃…

「ふーむ…ふむ…うーむ…見事な歌声じゃ」

「そう?褒めて貰えてとても嬉しいわ!でも凱竜さんも凄く歌が上手なのね!驚いちゃった!それにバーン、貴方の踊りって最高!」

「んギャ!最高かギャ?でもオイラは二人の歌を聞いてる内に体が勝手に動いただけだギャ!だからオイラの踊りが最高なら、それは二人の歌が最高なんだギャ!」

「ほー…ほっほっほーう。それは嬉しい事を言ってくれるのう。永い事生きておるが、歌を褒められたのは初めてじゃよ」

「そうなの?でもとても素敵な声をしているわ!」

「そうかのお?しかし…誰にも聞かせる機会が無かったからのお」

「剣神は聞かないのかギャ?」

「ほーう…ほう…そうじゃなあ…何度か聞かせた事はあったが…何と言ったかのお…忘れてしもうた」

「そうなの…あ、でもそれより気になったんだけど、私達こんな事してていいのかしら?オルア達は今物凄い修行をしているんでしょう?イーロンはともかく、私達はどう見ても遊んでいる様にしか見えない気がするんだけど…大丈夫かしら?」

 ミンクはそう言ってイーロンの篭る霊穴を見上げた。

「ンギャ!でもオイラは昨日までに比べて力が漲っている気がするんだギャ!」

「そう?私にはよく解らないわ」

「ほーう…ほう…それは無理も無い。何しろお前さんは既に数百年もの間…天地の精気をその身に浴び続けて来た。この地は聖なる気に満ち溢れているが…お前さんの体は天地の恩恵を…充分に受けておる。その為に今更急激な変化は起こらない…と言う事じゃ。なーに、お前さんの連れは、どうせここで暫く主の暇つぶしに付き合わされるじゃろう。拳士の篭る霊穴は極上の修行場所じゃが、ここも霊穴に負けぬ素晴らしい霊気が溢れておる。お前さんは無心で歌い続けなさい。それが何よりの修行じゃよ」

「そうなんだ…まあ確かに調子良く歌える気はしたのよね。まあそんな理由があるなら楽しく歌いましょう!」

「ンギャ!じゃあオイラも頑張るギャ!でもオイラは踊っているだけでいいのかギャ?」

「ほーう…そりゃあそれだけじゃ駄目じゃ。おチビさんは…ハーンの血を引く小僧と同じ様に…聖竜の力に開眼しなければならん」

「オイラが…開眼するのかギャ?」

「そしたら、バーンのあの凄いブレスがもっと凄くなるって事?」

「ふーむ…ふむ…まあ見た事は無いが…伝説の聖竜は…いかなる邪悪もその息で…消し去ることが出来る…と聞き及んでおる。それが真なら…凄いものじゃのお」

「それで、バーンはどんな修行をすればいいのかしら?」

「そうだギャ!オイラもオルアに負けない位頑張るんだギャ!それでオイラは何をすればいいんだギャ?」

「ほーう…ほうほう…さーて…何から始めるかのお…幸い白竜の拳士とおチビさんは…相性がいい。彼は闘気の扱いがとても上手いから…それを教えて貰うのがいいじゃろう。とは言え…口で言われて解るものでも無し。それに彼は細かく教えるのは苦手と見える…じゃからまずは…邪魔にならぬように彼の修行を見ておればよかろう。おチビさんが自分の力を…本能の赴くままではなく…自分の思い通りに使いこなせるようになったその時は…強大な悪魔でさえ…その前にひれ伏すじゃろうなあ」

「悪魔もかギャ?」

「凄いじゃない!じゃあバーンが開眼したらカーズみたいな悪魔も…それと、あの黒い騎士とかもやっつけられるのかしら?」

「ふーむ…その者達がいかなる者なのか知らんので断言は出来んが…まあ大丈夫じゃろ。じゃが…それも万能では無い」

「どう言う事?」

「ふーむ…つまりはじゃな…その力は邪悪なる者にしか通用しないと言う事じゃ。まあ解り易く言えばじゃな…仮に主がおチビさんに襲い掛かったとしよう。更には仮にその時おチビさんが開眼していたとしても、その力は主には通用しない。何故ならば、主は邪気を持たぬ存在。おチビさんの力は…邪悪なる者に対しては絶大なる力を発揮するが…それ以外の者には…無力じゃ。それを充分に理解しておかねば、いつか…酷い目に遭うかもしれんなあ」

 凱竜はそう言って声高に笑う。

「でも、バーンが戦う事になるとしたら多分悪い奴が相手だと思うし、問題無いんじゃないかしら?」

「そうだギャ!悪い事しない奴とは戦う気は無いんだギャ!」

「ふーむ…それなら安心かもしれんが…まあ何にしても油断はしない事じゃ。まあそんな先の事よりも…まずはおチビさんが開眼する事じゃな」

「解ったギャ!イーロンの邪魔をしない様に頑張って見て来るんだギャ!」

 言うが早いかバーンは飛び去る。

「あらー、あれは確実に邪魔しそうね」

「ふーむ…どうかのお?意外と上手くいくかもしれんが…」

「ふふっ、そうかもしれないわね。じゃあ私は私なりに頑張るとしましょうか」

 ミンクの高い声と凱竜の低い声とが混ざり合って響き渡る。その歌に感化されたのかどうかはともかく…それぞれ修行は順調に進んだ。そして瞬く間に数十日の時が流れる。


「ふむ、この調子ならばあと数日で奥義の一つもモノに出来よう。流石はハーンの末裔といった所だな」

 剣を納めながらガイルーシャが言う。

「本当か?」

「うむ…とは言えお前の頑張り次第だがな」

「なら問題無いさ。俺はここ数日、めっちゃくちゃ調子がいいんだ!あと数日なんていわせねえ、明日にでもモノにしてみせる!」

「ああ解った解った。その意気は買うが、後がつかえているんだ、さっさとどけ」

「ちぇっ、俺はまだまだ大丈夫なのに」

「まあそう言うな。彼らもここ数日で遥かに力を増したぞ。はっきり言っておくが今あの三人…いや、その内の二人でも本気でかかって来たら…十中八九お前では勝てんな」

「なっ?」

「ふん、思った通り慢心していた様だな」

「そ…そんな事は」

 焦るオルア。すると背後からも声がかかった。

「まだ物足りないのか?ならば剣神に代わって我々が相手をしても構わんぞ。なあガル?半蔵?」

「ああ!どうやらオルアは俺達を舐めている様だからな。足腰立たなくなるまで相手してやろう!」

「…オルア殿に恨みは無いが、拙者も武人として舐められる訳には参らん。是非お相手願いたい」

「うっ…」

「おお、オルア大人気ではないか!これは面白い、今日は我は見物に回ろう。正直な所お前達全員の上達振りに興味があるからな。まずは言い出しっぺのフレア、お前がかかれ。そして一人で手に余ると見たらガルに半蔵、いつでも加勢して構わん。だが、互いに相手を殺さぬ様に気をつけろ」

「お、おい!さっき自分で二人がかりじゃ俺でも勝てないって言っただろ!」

「いかにも。しかし十中八九と言ったろう?良くて二割程はお前にも勝ち目がある。さあボケッと突っ立っておらんでさっさと始めないか。フレアが待ち切れないと言う顔をしておるぞ」

「剣神の言う通りだ!行くぞっ!」

 その言葉よりも早くフレアの秘剣がオルアに襲い掛かる。咄嗟に受け止めるオルアだったが、以前より遥かに重さを増した飛燕の光芒がオルアの両腕を痺れさせた。

「何て重さだよ…遥かに力を増したってのは本当みたいだな」

 フレアの上達振りに舌を巻きながらも、オルアは笑みを浮べる。

「じゃあ俺も本気で行くぜっ!」

 叫びながらのオルアの突進、それはフレアの想像通り勢いを増していたが、決して捉えられない程では無い。そう感じたフレアは躊躇無く切り札を放とうと身構えた。

「うおおおおおーーーっ!」

 完全にオルアの間合い、その距離まで接近したオルアは確実に一太刀入れると確信したと同時に、背筋に寒いものを感じた。

「我ながら、よく我慢したものだ」

 眼前まで迫ったオルアに恐怖を感じつつ、そこまで耐えた事にフレアは思わず笑みを漏らす。そして

「これが、我が新たなる秘剣」

「何だと?」

「飛龍!」

 その声と同時に放たれた光は、一瞬にしてオルアの体を包み込んだ。

「うああああーーーっ!」

 以前その体で痛感した飛燕、その威力を遥かに上回るフレアの新たな秘剣は、オルアを悶絶させるには充分な威力だった。壁際まで吹っ飛んだオルアは派手な音を立てて石壁に激突し、半分めり込んだ状態からゆっくりと落下した。一同は思わず息を飲むが…

「いってええええーーっ!」

 オルアはすぐさま立ち上がると、しぼり出すような声を上げた。その様子にオルアの身を少しだけ案じたフレアも、相変らずの頑丈さに呆れる。

「…直撃を喰らっておいてそれだけ叫べるのか。まだまだ必殺剣には程遠いな」

「てっ…めえ、今のは凄え痛かったぞ!」

 苦痛に顔を歪めつつもフレアににじり寄るオルア。しかし突然背後に強烈な殺気を感じる。

「そうか、じゃあ俺様が痛えじゃすまねえ程の一撃をくれてやろう!」

「!」

 問答無用で振り下ろされるガルの大刀。振り返りざま間一髪でかわしたオルアに今度は半蔵が襲い掛かる。

「もう三対一かよっ?」

 叫びつつも半蔵の刀を弾いたオルアだったが、気付いた時には三人に囲まれていた。

「くそっ、はじめっからこれが狙いか!」

「その通り!」

 唸りを上げて振り下ろされるガルの大刀。当然オルアは身をかわそうとしたが、急に考えを変えた。どうせかわした所で後の二人がそこへ襲い掛かって来る。しかしそんな事より何より、オルアは今の自分の力、そして相手の力を知りたかった。そう考えたオルアは真正面から受け止める。

「何だとっ?」

「うおおおおっ!」

 意外な対応に驚く三人。しかも更に驚く事に、オルアの剣がガルの大刀を弾き飛ばす。

「どうだあああっ!」

 仁王立ちでガルを見据えるオルア。今までに無い迫力に、ガルは気圧されそうになる。しかし、ガルが不敵な笑みを浮べると同時にフレアと半蔵も身構えた。

「オルア、すまねえな。決して手を抜くつもりは無かったんだが、やっぱり三対一って事でちっと油断が有ったみてえだ。だが今ので確信したぜ。お前には殺すつもりでかかっても大丈夫だってな!」

「オルア、お前の命貰い受ける!」

「オルア殿、覚悟なされい!」

 その声と同時に正面からガルが、左右からフレアと半蔵が襲い掛かる。

「また弾き返してやるぜっ!」

 オルア自ら突進すると再びガルを真正面から受け止め…ようとしたが

「お前のそういう所は好きだが、ちょっとばかり調子に乗りすぎだ!」

 雄叫びと共に振り下ろされるガルの大刀。

「何か…違う!」

その切っ先に恐ろしい何かを感じたオルアは叫ぶなり飛び退いた。そして振り下ろされた先を見ると、鋼鉄の様に硬い床がまるでバターの様に簡単に切り裂かれていた。その一撃を見ていたガイルーシャは

「あーあ、後で直さなくてはならんなあ」

そんな言葉を漏らしながらも、僅かに口の端を浮かべていた。一方オルアは

「冗談じゃねえ、あんなの喰らったら…」

 眼を見開いて切り裂かれた床を凝視する。しかし

「余所見している暇があるのか?」

 休む事無く振るわれるガルの大刀はオルアを確実に追い詰める。

「クソっ!馬鹿力だけでも厄介なのに何だこのキレは?冗談じゃないぜ!」

 一撃でも喰らえば即致命傷、そんな攻撃を避け続けていたオルアに、後の二人が気配を消して背後から近付く。

「オラオラーッ!」

 ガルの大刀に全神経を集中させていたオルアは、次第にその太刀筋を見極め始め…た正にその時

「隙ありっ!」

 オルアの着地と同時に半蔵の手裏剣が足元を襲い、オルアはすかさず跳躍してかわす。しかしそれこそが三人の狙いだった。

「今だっ!」

「おう!」

「承知!」

 その声を合図にまずフレアの飛龍がオルアを襲う。流石に上空ではかわしきれず、オルアは大きく体勢を崩した。そこへ半蔵が空中戦を仕掛け、オルアはたまらず地上に逃れるが…そこへとんでもない一撃が待ち構えていた。

「爆突!」

 全身全霊を込めて待ち構えていたガルの突撃がオルアを襲う。

「クソッ!思うツボって事かよっ!」

 何とか受け止めようとするオルア。しかし完全に体制を崩された上、よりにもよってガルの渾身の一撃。オルアは体中の骨を粉々に砕かれ…そのまま部屋の外へ転がり出た。


「…やりすぎたか?」

「さあな、だがこれで死ぬような奴でもあるまい」

「うむ、既に立ち上がろうとしている様でござる」

 そんな三人の目の前で、全身を震わせながらオルアが立ち上がった。そして

「お前ら…今の本気だったろう?」

開口一番唸り声を上げるオルア。しかし

「当然だろうが」

当たり前とでも言わんばかりの顔でガルが答えた。後の二人も口に出さないまでも同感と言った顔をしている。ついさっきまで死ぬ程の激痛を感じていたオルアだったが、その態度に恐怖は消え去り、猛烈な怒りが湧いて来た。しかしその心中を察したガルはオルアより先に口を開く。

「俺達は先に言った筈だぞ、殺すつもりでかかると。それともお前は本気じゃなかったとか言い訳でもしたいのか?」

「それは…」

「もう動けるのだろう?時間が惜しい、さっさと始めよう」

「うむ、オルア殿も既に動ける様子。しかも先程のガル殿の一撃で目が覚めた様だ。我らも一瞬の油断も出来んぞ」

 そう言いながら三人は部屋の中を出ようともしない。オルアは自分で吐いた血を拭うと

「クソッ、今度はこうはいかねえ!」

 自身に気合を入れて再び部屋へ足を踏み入れた。


 しかし、気合を入れなおした所で三対一のハンデはあまりにも大きかった。フレアの遠距離攻撃、半蔵の宙からの攻撃、そして何よりも単純にして強烈なガルの問答無用の一撃は容赦無くオルアの体を痛めつけ…日が暮れるまでにオルアは十回以上瀕死の重傷を負う事になった。

「そろそろ終わりにしておけ、これ以上は意味が無い」

 一方的な展開を見かねた、と言うよりは見飽きたのか、あくびをしながらガイルーシャが告げ、ガル達三人は剣を納めて部屋を出ようとしたが…オルアがその前に立ちはだかった。

「頼む、何か掴めた気がするんだ。もうちょっとだけ付き合ってくれ」

 意外な言葉に三人は顔を見合わせると、同時にガイルーシャに視線を送った。

「ふーむ…我には解らんが本人がそう言っているのだ、お前達が構わんのなら別に我は止めはせんぞ」

 その言葉に三人は頷くと、ガルはオルアの正面に、フレアは右後方、半蔵は左後方へ立ち、再びオルアを囲む形を取る。

「先に言っとくけどな、俺はもうハラペコでさっさとメシにしたいんだ。だからと言う訳じゃ無いが、一切手抜きなしの全力だ。うっかり殺しちまっても恨むなよ?」

「そうだな…空腹かどうかはともかく、オルアが何かを掴みかけているのならば、我等も全力で協力しよう。まあ、その結果がどうなるかまでは責任持てんがな」

「うむ、だが裏を返せば拙者達にとっても絶好の好機。オルア殿が剣神の奥義に開眼したとなれば、でござるが」

 そう言いながら半蔵がオルアに挑発的な視線を送るが、以外にもオルアは冷静に受け流した。

「ほう…流石にあれだけやられると成長する様だな」

 ガイルーシャがそう言って笑みを浮べると同時に、三方からの攻撃がオルアを襲う。すかさず跳躍するオルア。

「それでは、またもや格好の的だ!」

 フレアの剣が閃き、飛龍がオルアを襲うがオルアは動じない。宙で剣を抜くと飛龍めがけて振り下ろした。

「何度も喰らえば、いい加減覚えるぜ!」

 オルアは自分の剣に闘気を纏わせ、最小の力で飛龍を切り裂いた。更に

「悪いけど、無断で借りるぜっ!」

 その雄叫びと共に半蔵目掛けて剣を振るうと、その剣先からフレアの飛龍に似た光が迸る。

「何とっ?」

 たまらず半蔵は身をかわすが、その瞬間オルアの剣が半蔵を捕らえた。

「くっ…不覚!」

 袈裟懸けに斬られ落下する半蔵。一瞬呆気に取られたフレアだったが、瞬時に状況を理解すると同時に第二波を放つ。

「そいつはもう効かないっ!」

 オルアは再び剣に闘気を纏わせると、今度はそれをバットの様に振り抜いてあろう事か飛龍を打ち返した。

「何だとっ?」

 驚きの声を上げるフレア。しかしフレアを更に驚かせたのは、打ち返した先が自分では無くガルに向けてだった事だった。

「うおおっ?」

 意外なオルアの反撃にガルは思わず叫ぶ。と同時に不敵な笑みを浮べた。

「偶然だな、俺もその返し方を考えていた」

 ガルは静かに呟いて大刀を構えると

「ただ、俺の返し方はちっとばかし荒い!喰らいやがれっ!」

 雄叫びと共に大刀を振り抜くガル。同時に大きな光は粉々に砕け散り、散弾銃の様にオルアに襲い掛かる。

「でかしたぞガル、後は私に任せろ!」

 無数の光芒を弾き返すオルア。そこへフレアが再び秘剣を放つ。

「だからそれは効かないって…!」

 振り返りざま弾き返そうとするオルアの眼前で、飛龍が弾けた。

「貫け!槍龍!」

「う…わあああっ!」

 突然形を変えた飛龍は、無数の槍となってオルアを襲う。反射的に急所への攻撃を弾いたオルアだったが、その間にガルの弾いた光芒が背後を襲い、更に弾き損ねた光の槍がオルアの両手両足に突き刺さった。

「ぐああああっ!」

 たまらずオルアは叫び声を上げる。しかしその眼は決して死んでいないのを見て、ガルは遠慮無く追撃をかける。

「さーて、死ぬなよっ!」

「そっちこそな!」

「何だとっ!」

 振り下ろされるガルの大刀を、両腕に大怪我をしていた筈のオルアが受け止めた。

「お前…どんなトリックを使いやがった?」

「へっ…それは…こん…な感じ…だ」

「それは?」

 よく見ると、突き刺さっていたかに見えた光の槍は体の表面で潰れていて、一本たりとも突き刺さってはいなかった。そしてその部分には淡い光が輝いている。

「これ…も…闘気の…カタマリだろう?だったら…当たる…部分…を…闘気で防御…すれば…」

「闘気のバリアって所か」

「まあ…な」

「成程。だがこの状態じゃ明らかにお前に分が悪い。何故正面から受け止めた?」

「いや…そうでも…ない」

「そうか?じゃあ遠慮無く押し潰す!」

 その言葉と同時にガルは全体重をかけてのしかかるが、オルアはそれをいなして体勢を整える。ガルは体勢を崩してつんのめるが

「力比べかと思えば小賢しい真似を!」

 叫ぶなり振り返りざまに大刀を薙ぎ払う。

「小賢しいんじゃない、相手に合わせた闘い方って言ってくれ!」

 そう言いながらオルアは体を低くしてかわし、すかさずガルに一撃を…と思ったその瞬間、突然体が動かなくなった。

「あ…あれ?」

 何とか首から上だけ動かせたオルアは、自分の影に手裏剣が刺さっている事に目を丸くする。

「これぞ、鬼導流手裏剣術影縛り。さあオルア殿、如何致す?」

 そう言いながら半蔵は刀を構えてにじり寄る。ガルとフレアも顔を見合わせてニヤリと笑うと、同様にオルアに迫る。

「えーっと…どうしよう?いや、だってこれはインチキじゃないのか?剣術の特訓だろ?こんな…」

 うろたえるオルアは思わず剣神に眼をやったが、いつしかその姿は消えていた。

「一瞬とは言え、我等の存在を忘れたのが敗因でござる」

「あっけない幕切れだが、これもオルアの油断が招いた事。仕方無いな」

「ま、こんな技使わなくても俺が返り討ちにして終わりだったがな!」

 そう言ってガルは上段に大刀を構える。そして

「どうする?参ったすれば痛い目見ずに済むが…そんな事ぁ聞くだけ無駄か」

 圧倒的窮地に関わらず不敵な笑みでガルを見上げるオルア。そしてその顔が紅潮したかと思うと…

「うおおおおおっ!」

 突然気合を入れるオルア。同時に影に刺さっていた手裏剣がまとめて吹っ飛んだ。

「何と?」

 驚きながら三人は共に飛びのく。

「半蔵、こりゃあどういうこった?」

「あり得ない事でござる。影縛りは影を通じて経絡の気の流れを断つ技。故に力で跳ね返す事は…もしや、気の流れを?」

「恐らく、半蔵が想像した通りだろう。手裏剣によって寸断…要するに気の流れに栓をした様な形になるのだろうが、オルアはその部分に大量の闘気を流し込み、栓を飛ばした…と言うのが私の想像なのだが…違うか?」

「うむ、フレア殿の言う通りでござろうが、それは言う程に容易な事ではござらん。オルア殿がこれ程自在に気を操れる様になっているとは、正直驚きでござるな」

「成程な、俺達ばかりが強くなったって訳じゃ無いって事か」

 ガルの言葉にフレアと半蔵も頷き、オルアも不敵に正面のガルを見据える。そして

「今度はこっちから行くぜっ!」

 矢の様な勢いで飛び出すオルア。同時に迎撃体勢を取るガルだったが…

「悪いが、お遊びの時間は終わりだ」

 不意に剣神の声が響き、オルア達は金縛りにかかったかの様に動きを止める。

「…何で止めるんだよ?これから反撃する所だったのに」

 不満気な顔でオルアは言うが、剣神はそれを気にもかけず言葉をかける。

「折角盛り上がって来た所悪いんだが、すぐに里へ戻れ。先程使者が来てな、悪しき気が近付いていると言う事だ。アグラは先に向かった。お前達にも関係無い話ではなかろう、解ったらさっさと行くがいい」

 突然の事に一同は顔を見合わせるが

「馬鹿者!さっさと行かんか!」

 剣神の一喝で、競う様に神殿を後にした。


 一方その頃…

「あれ?オルア達は先に帰るのかしら?」

 凱竜の肩の上で歌っていたミンクは、駆け足で去って行くオルア達を見つけた。

「ンギャ!オイラ達はおいてけぼりかギャ?それは酷い話だギャ!急いで追いかけるんだギャ!」

 叫ぶなり飛び去ろうとするバーンに、凱竜が諭すように声をかける。

「ほーう、ほう…待ちなさいおチビさん。エルフのお譲ちゃんはともかく、お前さんはいまだ秘められた力に全く目覚めておらん。確かに彼等は今窮地に陥ろうとしておるようだが…はっきり言って今のお前さんが行っても足手まといになるだけじゃろうなあ」

「んギャ!オイラ役立たずなのかギャ?」

「ふーむ…残念ながら今の所はその通りと言う事になるのお」

「あの…私は?」

「おお…お嬢ちゃんの歌に関しては最早何も言う事は無い。一刻も早く追いかけるがよかろうて」

「そうなの?だったら早く言ってよ!」

 ミンクはそう言いながら駆け出すが、急に振り返ると

「凱竜さん有難う!私…頑張るね!」

 笑顔で凱竜に礼を述べると、そのまま一目散にオルア達の後を追った。

「…物凄いスピードだギャ」

「ふーむ…あの素早さには恐れ入るのう」

 呑気にミンクを目で追う双竜。その背後では、いま一つ状況を理解出来ていないイーロンが首を傾げていた。

「ふーむ…拳士殿はどうするかのお…彼等の助けにも行って貰いたいやら、おチビさんに付き合って貰いたいやら…どうするかのお」

 その言葉で全てを察した訳では無いが、どうやら緊急事態らしい事を理解したイーロンは思わぬ事を口走る。

「ならば、両方行う。それで問題、無い」

「…何と?」

「バーン、霊穴の霊気充分に浴びた。霊気その体に充満した。力、上がった」

「そうかギャ?」

「バーン、まだ自覚無い。それ、力目覚めさせる事、出来てないから。俺、そのきっかけ与える」

「…ほーう…確かに…よくよく探ってみればおチビさんの中に…物凄い力を感じるのお」

「本当かギャ?」

「説明、難しい。バーン、こっち来る」

「ンギャ、痛い事したら嫌なんだギャ」

「問題無い」

 イーロンは言うが早いかバーンの小さな背中に飛び乗った。

「んギャ!何をするのかギャ?」

「考える、良くない。心、空にする」

「ンギャ?何を言っているのかギャ?」

 うろたえるバーンだったが、その小さな体はイーロンを背に乗せているにも関わらず、少しも動じる事は無い。

「…ほーう…これは…見ものじゃのう」

 呑気に見守る凱竜。対照的に騒ぐバーン。それを意に介さず、イーロンはバーンの頭を軽く点穴した。

「ふんギャっ!」

 小さな悲鳴と共にバーンはイーロンを振り落とす。しかしイーロンは軽々と着地すると同時に凱竜に視線を送り、凱竜はバーンに優しく声をかける。

「おチビさんや…まずは落ち着きなさい」

「んギャっ?…オイラは落ち着いているんだギャ!」

「ほーうほう…ならば一度深呼吸して…一つ羽ばたいてみなさい」

「んギャ?…よく解らないけどやってみるギャ」

 バーンはそう言って大きく深呼吸すると

「じゃあ、いくギャ!」

 元気よく叫んで大きく羽ばたく。すると

「んギャーーーーーーーーーっ!」

まさに矢の様な速さですっ飛んで行った。

「ほーう…確かに凄い力じゃのう。しかし…あの力を使いこなすのは大変そうじゃ」

「心配無い。俺、その為に一緒に行く」

「成程のう。では…後はお任せしよう」

「任された」

 そう言い残したイーロンは、こちらもまた矢の様な速さでバーンの後を追う。

「ふーむ…せわしないのお」

 凱竜はそれだけ言うと、微かに笑みを浮べながら眠りに就いた。


 その頃、先行していたオルア達は既にミンクに追いつかれ…あっさりと追い抜かれていた。唯一半蔵だけがそのペースに付いて行けた為、二人が先にアグラの後を追い、オルア達は更にその後を追う形で里へ向かう。


過酷過ぎる試練を何とか乗り越えたオルア。しかし強くなった仲間達も静観している筈もなく、過酷な試練はいつ果てるともなく続く。しかしそんな中、緊急事態が発生し…果たしてどうなるのか?

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