ロボットに乗ってみました。
「凄い……。実物のサイクロプスを見れるだなんて夢のようだ」
サイクロプスを見上げる一の声が興奮で震える。
一にとってこのサイクロプスは特別な機体だった。期間限定のイベントに何度も挑戦して作製に必要なレアパーツを苦労して集め、造り出した後は何度もゲームをプレイしてサイクロプスでの戦い方を研究して、これまでに多くの戦いを共に勝ち抜いてきた。そんな大切な相棒が現実のものとなって目の前に現れたのを見て興奮するなというのが無理な話である。
そしてマスターギアのプレイヤーにはロボットに強い憧れを持つ者が多く、一もまたロボットに強い憧れを持っていた。だから彼がサイクロプスに乗ってみたいと思うのもある意味当然の流れと言えた。
「サイクロプス……乗ってもいいかな? 僕の機体だから乗ってもいいよね? でもどうやってコックピットに登ったら……え?」
ウィィン。
一が辺りを見回しているとサイクロプスが片膝をついてその巨大な左手を一に近づけてきた。
「この手に乗れっていうの?」
恐る恐る一が左手に乗ると、サイクロプスはゆっくりと立ち上がって一が乗っている左手をコックピットがある自分の胸部に持っていき、胸部の装甲を展開してコックピットを解放する。
「これがサイクロプスのコックピット……?」
コックピットの中はパイロットシートがあるだけの小さな空間で、漫画やアニメのロボットのコックピットに見られるレバーや計器類は影も形も見られなかった。一はやや拍子抜けした表情でとりあえずパイロットシートに座ってみる。すると……。
ガシャン! ブゥン……。
「えっ!?」
一がパイロットシートに座った途端、コックピットのハッチが閉まり、前後左右の壁に天井と床が格納庫の風景を映し出した。一がまるでパイロットシートごと宙に浮いている感覚に戸惑いながら辺りを見回していると、彼はサイクロプスが自分の動きを真似てわずかに機体を動かしているのに気づく。
「サイクロプス? もしかして僕が考えている通りに動くの?」
それから一はサイクロプスのコックピットの中で色々と実験をしてみた。
コックピットを開けろと口で言ったら言われた通りにコックピットを解放する。機体を動かしてみようと考えたら、イメージした通りに機体が動く。そこまでやって一は、どうやらこのサイクロプスが文字通り「自分の体のように動く」のだと理解した。
「サイクロプスが僕の思い通りに動くのだったら、このリンドブルムも?」
そこまで言うと一はサイクロプスの視線を通じて天井にある第一格納庫のハッチを見る。
「……リンドブルム。第一格納庫のハッチを開けて」
ガコン……。
サイクロプスのコックピットの中で一が呟くようにリンドブルムに呼びかけると、鈍い音をたてて天井にある格納庫のハッチが開く。解放されたハッチから星空を見た一は、その胸に興奮と不安を渦巻かせながら静かに、だがはっきりと自分の願いを口にした。
「……サイクロプス。発進するよ」
『………!』
パイロットからの命令を受けてサイクロプスのカメラアイに光が宿り、背中と両足にあるバーニアが火を噴き、鋼鉄の巨人は宇宙へと飛び出した。