第二話 開幕
――下街、とある一室。
灯りがない暗闇の中、PCの前に座っている男がいる。
男は、ヘッドホンとマイクを付けており、話をしている様子。
ネット通話だ。
「先日、追放処分となったやつがいる。
ライフが追放処分対象値になるとか、ぶっちゃけ考えられないな」
「そうね。今の時代、とても犯罪なんて出来ないわ。
もし、罪を犯すとしたら」
「うむ、『観察屋』のせいで、動きにくくなったものだ。
見つからなければ、罪に問われることもないが、それは今も昔も同じか」
会話をしているのは、ダンとアスカだ。
とある大事件後、『観察屋』と呼ばれる者を世界中に配置された。
『観察屋』は、世界を各エリアに分け、それぞれ担当のエリアを持ち、『観察』することを義務付けられる。選抜された『観察屋』は一切の拒否が出来なかったという。
中には拒否をした者もいるらしいが、その者はなぜか行方不明となったようだ。選抜はランダムにて行われたという噂だが、真相は明らかになっていない。
――なぜ、『観察屋』が配置されたのか。
犯罪が多い世の中、何とか平和に安全に暮らせる世界にならないのか……、追求した末、抑制するために、『観察屋』による『制裁』の制度が出来上がったようだ。
「アスカ、例の準備は進んでいるのか?」
「ええ、5人の有志たちが揃ったわ」
「そうか、ようやく行動に移す段階まで来たというわけだな。
有志を集めるにはそれほど時間かからなかったが、
『計画』に使用する物、その準備に手間取ってしまった」
「そうね、いよいよ始めるときが来たのね」
「あぁ、『ダン・プロジェクト計画』開幕だ」
ダンとアスカの会話は終わる頃には、日付が変わっていた。
そして、下街はかつてない事件に覆われる。
「ちょっと! ハルってば!」
「ん、んん?」
軽井山の頂上、ハルの小屋。タヌーがハルを叩き起こしていた。
「どうしたのさ……」
「巡察の時間っ! 過ぎちゃうよ?」
「あっ!」
ハルは慌てて起き上がる。
『観察屋』は、毎日、巡察をする時間は決まっている。巡察をするのは、下街の一部なのだが、一人でも『観察屋』が巡察をしないと、一部のエリアだけ観察をしなくなるため、それは大問題である。
もともと巡察をする時間も特定の時間帯のため、24時間下街全てを観察しているわけではないので、
それはそれで問題と言わざるを得ない。が、ある程度のところで妥協しているのが現状だ。
「んー、今日はいいや。巡察なしで」
「えぇ?」
「リカが巡察してくれたみたいだ」
ハルは、『観察計』を見ながら話す。
『観察計』……、相手を観察するために用いる『観察屋』の基本道具の一つ。だが、ハルは、右眼で観るだけで観察し相手のライフを知ることが出来る。
その為、観察をするために『観察計』は使用することはない。
『観察計』には別の使い道がある。それは、『観察屋』同士で通話が出来る機能だ。
特に、近隣エリアの『観察屋』と連絡を取り合うのに重宝する。
ハルは、『観察屋』リカ=シャーロットからの留守電メモを聞いていた。
留守電には、「どうせ寝てるんでしょ?ついでに観といたから!」と怒声の口調で残されていた。
今日の巡察はしなくてよくなったハルは、再び、寝ようとした。
しかし、その時。
「ハル、これ見て!」
タヌーはテレビを見て話す。
ハルも一緒にテレビを見る。
「なんだ、唯の自殺じゃないか」
「いや、これ見てよ」
テレビをよく見ると、事件が起きた現場には、腕時計が残されていた――『観察計』だ。家の中とかならば、『観察計』を置いておく事などあると思うが……、現場は、下街中央の公園。
『観察屋』に何かあったのは明らかだ。
報道によると、現場には、『観察計』しかなく、それ以外は何もなかったとのこと。犯人を捜す手がかりは一切なく、警察はすでに手詰まりだと報告しているという。
「『観察屋』を襲ったのかどうか分からないけど、
必ず見つけて『制裁』するしかないな」
「そうだね。でも、手がかりがないみたいだけど、ハル、どうする?」
「手がかりはきっとあるさ、現場に」
ハルは、小屋を飛び出し、下街へと降りて行く。
『観察屋』が襲われる事件、それは突然始まった。
しかし、これは始まりに過ぎなかった。
ハルの大切な人がいなくなってしまうなんて、ハルはこの時、知る由もなかった。