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Fedel Eye's  作者: 藤山 博
プロローグ
1/7

第一話 観察屋

「今日も良い天気だなぁ―」

 軽井山かるいやまの頂上で背伸びをしている少年が発した。

 丈はわすか150cm程度で小柄、到底縛れない程の短髪、頭には「V」と書かれた帽子。

 腰には複数のアクセサリー、右眼には黒い眼帯。

 わりと動きやすそうな服装の少年は、軽井山の頂上に一人いた。

「空も青いな―、空気も悪くないし、今日は『巡察』の必要もないかな」

「……ってそんな事は言ってられないか」

 少年は、すっと立ち上がり、空高く飛んで行った。いや、飛んだというよりも……、ただのジャンプ。

 普通の人間では信じがたいほどの跳躍力。空を飛んだと錯覚するほどに。

 そう、ボクの視界から、少年はすぐに姿を消した。と、少年のいた付近には落書きだらけの小屋、窓から顔を出している小さな弧狸こだぬきが、呟いていた。



 ――ここは下街。

 軽井山から見下ろした位置にある小さな街。

 この街は、一見広く見え人口も多く、活気のある街ではない。確かに建物が道並みに建ち、高層ビルも多い。

 しかし、今は一年程の前ならば確かに人口も多く、活気のあった街。しかし、疑わしい厳選なる抽選というものに当選してしまった当街は、激変した。

 ある管理下に置かれたこの街は、まるで別物。決して草木は枯れ、砂漠のような姿になったわけではない。見た目は今も昔もそう変わりはない。違うのは……



「ん、何かやな匂いがするぞ」

 下街をピョンピョンと跳び跳ねながら移動していた少年は、何かを感じた。

「あ!」

 少年は叫んだ。少年が視たのは、刃物を持ったヤクザ風の男と細身の男だ。

 刃物を持った男は、何かを話している様子。

「お前、何度言ったら分かるんだ?」

 彼は、刃物を突きつけながら話す。細身の男は、刃物を前に言葉が出ない。

 ただ、涙を流しながら……。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 言わんばかり頭を下げ続けている。いきなり刃物を叩きつけられたのであれば、当然驚くであろう。  しかし、ただそれだけの事で、ここまでビビッてしまうものなのだろうか……?

 彼は、何も話さない態度にうんざりした様子。そして、ズボンの左ポケットから何かを取り出した。

 彼が取り出したのは腕時計。彼は、腕時計についている小型のボタンを押すと、小さい液晶画面が浮かび上がってくる。液晶画面には、『50』と数字が表示されている。

「へ―、50点か」

 彼がそう言うと同時に、どこからか声が轟く。

「はい、ストップ!」

 ――上空、彼の頭上から一人の少年が降りてきた。右眼に黒い眼帯を付けた少年だ。

「なんだ、ガキか。ガキはとっとと家にかえんな!」

 彼は、突然頭上から降ってきた事には驚いた様子だが、少年の姿を見て大きな溜め息をついていた。

 そして、少年を罵倒する。少年が頭上から降ってきた不可思議な事実については、すでに頭にはない様子。見た目がガキな時点で、彼は調子に乗っている様子。当然といえば当然なのか。

 しかし、「見た目で判断するのはよくない。」という言葉は、今の彼に一番合うだろう。

「もう大丈夫だから、早く逃げて」

 彼の言葉を全く聞いていなかったのように、少年は細身の男に逃げるよう話しかけていた。

 細身の男は、慌ててその場から立ち去る。それを見た彼は、怒号する。

「おい! 誰が帰っていいと言ったんだ?あぁ―?」

「もういいよおっさん、あんたの相手はここにいるから」

 が、すぐ様少年が切り返す。

「あんたさぁ、カツアゲか知らんけどよく出来るよな。

 『観察計』を拾って調子に乗っちゃった系?

 まぁ、それ拾ったら調子の乗りたくなる理由を分かるけどよ。

 どうせなら、『巡察』していない時にやれよな」

 少年は、黒い眼帯を外し、奥にある澄んだ『緑の眼』で彼を『観る』。

「『制裁』の時間だ!」

 彼は、右手に持っていた刃物をギュッと握りしめ、少年に襲いかかる。

 殺意。少年だろうと容赦はしない。殺らなければヤバイ。

 少年に観られた彼の表情から、そう分かる様子。

 彼に対して少年は、銀色のアクセサリーを一つ取り出した。腰に身に付けていたものだ。

 手に取ったアクセサリーは、小型。何の変哲もない棒状のような物。

「やっぱり、あんた前科ありか。しかも、35点。他の『観察屋』にも裁かれている。

そして、今から『制裁』……、あんた終わりだな」

 少年は、彼を観ながら話を続けた。

「前科ありのあんたならもう分かっているよな?」

「『観察屋』!」

 彼が『観察屋』と口にすると、少年はニヤリとする。

 少年は、手にしたアクセサリーをしまおうとした、その時。

「『観察屋』なんかにビビるわけねーだろぉ! んの前に殺ってやるっ!」

 少年の言動に対して、彼は立ち止まっていた。

 しかし、吹っ切れた様子で、再び少年に襲いかかる。

「第十八条!」

 少年は声を張り上げた。さらに、続く。

「『制裁に対して、観察屋への一切の抵抗を禁ず』」

「あんたのルールに反する行為、第三級犯罪だぜ?」

「うるせぇ―!」

 そして、止まらぬ彼の刃物が突き刺さる……。

「なっ、ハァ?」

 刃物は少年ではなく、棒状のアクセサリー。

 立てると僅か5cm程の小型。刃物の切っ先は、中心を捉える。余程の自身がない限り、少年の様な防ぎ方は決してしないだろう。止めた刃物を振り払う少年。反動により、彼は地面に倒れる。少年は、アクセサリーを右手で、サッサッと軽く払った後、腰に戻した。両の瞳の色が異なる少年の右眼は、再び眼帯の中に姿を隠す。

「制裁完了!」

 そして、『制裁』が完了したことを彼に告げ、立ち去ろうとした。

 しかし、少年は振り返り口を開いた。

「あんたにはもう関係ないけど、一応、報告するか」



 ◇ ◆ ◇

対象者:

 ・刃物の男(第三民)

裁状:

 ・民間人の脅し

 ・第三級犯罪

制裁:

 ・ライフ-10点

  残りライフ、25点

 ◇ ◆ ◇



 ――綺麗な星が一面に広がる。雲一つなく、赤月が高揚よく輝く、時は、夜。

 星空の下にある小屋の中、少年と弧狸がいた。

 弧狸は二足歩行をしており、少し変わっている。少年の方は、弧狸が作るご飯をたらい上げていた。

 テーブルには、十を超えるお皿が積まれていて、ざっと十人前はある。

「ハル、もっと落ち着いて食べたら?」

 弧狸が話す。二足歩行するだけでなく、言葉も。

 『ハル=ジオン』、少年の名だ。

 ハルは、仕事をした後は腹が減るのと言いたそうだが、ご飯を食べながらでは、言葉にはならず、弧狸タヌ―には理解出来なかった。

 ご飯の片付けが終わり一段落した頃、タヌ―はハルに話しかける。

「今日はどうだったの?」

 満腹で寝転んでいたハルは起き上がり、答える。

「今日の『巡察』は、第三民が一人いたくらいだなぁ。

点数も少なくて、今日でいなくなっちゃったけどね」

「第三民……、一般かぁ。一年前は『50点』あるはずなのにね。下街の事分かってなさすぎだよね」「いや、分かっててやっているんだと思うよ。『観察計』を持ってニヤついてたからね。んでもそんなに興味あるものなのかなぁ、管理下の街を観察し、悪事を働く者には制裁を。『観察屋』ってかなり大変だけどなぁ、んでもそれが楽しいから続けているんだけどね!」


 少年ハル=ジオンと弧狸タヌ―、二人は……、いや、一人と一匹は、『観察屋』。

 『観察屋』は、とある大事件を発端とて誕生した。

 大事件の後、世界『レイス・フェデル』を区切り、1つ1つのエリアを『観察屋』に『観察』させることを始めた者がいた。即ち管理下に置くことで、全てを『観察』するように。

 その者は、世界中の全てを『観る』事が出来る存在、世界『レイスフェデル』の神。『観察屋』が『観察』させることで、一切の悪事を許さないようにする。そのため、多数の『観察屋』も誕生させたのだ。

 『観察屋』は、何かしらの悪事を観たとき、『観察計』を通じ、報告をすることで、全管理システム『マザー・フェデル』が管理する。

 世界に存在する生物は、おおよそ第一民、第二民、第三民と分別されるが、基本的には、50点を割り振られている。

 悪事の裁状により点数の増減はあるものの、与えられた点数が30点を下回ると、世界『レイス・フェデル』で生きる価値なしと判断されてしまう。

 全てにおいて管理下のもとにある世界『レイス・フェデル』。

 そして、『観察屋』として人生を歩む少年ハル=ジオンと弧狸タヌー。

 ちょっと妖しいコンビは、明日もまた『巡察』をする日々を送っていく。


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