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道中

強くなるにはトレーニングだ。

鉄球が相応しいと思った。


アリサが投げる鉄の塊を私が受け止める。

リボンで、だ。


渦を巻いたリボンで弾き落とす。あるいは、一度キャッチして投げ飛ばす。棒状に固めたリボンで打ち返すのもいい。


そんなことを考えているとアリサに顔を覗き込まれる。


「どうしたのですか?」


「強くならなきゃと思ったんだ」


「リリア様はもう十分お強いですわ」


しかし私はそう思っていない。先ほどの魔物もおそらくアリサが倒したのだろう。私には戦闘経験がない。また魔物に襲われた時、無事で済むとも限らなかった。


こうして外に出てみると、王宮での暮らしが懐かしい。陰口を気にしないでさえいられれば、好きなことができたし身の安全も保証されていた。


今は違う。身の安全は保証されていない。いつ魔物に襲われ大怪我をするかも分からない。


だが陰口がないのは良かった。心の中に漂っていた言葉の群れが消滅し、静かになったのは久しぶりだ。それにアリサと一緒にいられるのは嬉しい。

一人では孤独に押しつぶされていただろう。小さい頃から、誰かがいつもそばにいた。一人きりで部屋にこもっていても、外に出ればすぐ会いたい人に会えた。


こうして思い返してみると、私は恵まれていたのだと思った。しかし、それすらも感じなくさせてしまうほど、悪口というのは厄介なのだとも、同時に思った。


「ところでリリア様、目的地はお決まりですか?」


「当たり前だろう。魔王のところだよ」


「一番近い魔王まで360万歩ほどありますが」


考えていなかった。というか、考えて然るべきだったのだが。野宿、というわけにはいかないだろう。魔物や食事の問題もある。


街から街へ渡り歩き、徐々に魔王に近づいていくしかない。


「ここから一番近くの街はどこかな」


「城下町ですわ。リリア様が暮らしていた」


私はため息をつく。そんな話をしたいんじゃない。


「今、アサテ村になりましたわ」


「君は地図みたいだな」


思わず突っ込んだ。街じゃなくて村だというのは本質的な問題ではない。ここは地図くらいがちょうどいいだろう。


だがアリサは笑わない。笑いどころではないからだ。


「とりあえず、アサテ村を目指すということでよろしいですか?」


「ああ、そうしよう」


「アサテ村には食べると一粒食べると1万歩歩ける木の実がなっているらしいですわ」


「じゃあ360粒食べれば魔王の元に辿り着けるわけか」


「食べられれば、ですけどね」


「でも面白そうだね。そんな木の実、聞いたことないや」


「食べますか?」


そう言ってアリサが差し出したのは人差し指ほどの赤い果実だ。先端が細くなっていて、太い方には緑のへたがついている。


「そりゃ食べてみたいけど、君を置いてってしまうことになるかもしれない」


「大丈夫ですわ。のんびり屋さんのリリア様のことですもの、一万歩くらいすぐ追いつきます」


なんだかトゲのある言い方だと、そう思ったが好奇心には逆らえない。アリサの手から赤い果実を受け取り齧り付いた。


辛かった。というか、すごく、辛い。

冷たい水が欲しい。氷の入ったやつだ。

のどか痛かった。


「あら、走り出さないのですね」


当たり前だろうとか、こんなことのためにわざわざ持ってきたのかとか言いたいことはいろいろあったけれど、声にならなかった。


「アサテ村、見えてきましたよ」


果たして、アサテ村には氷があるのだろうか。

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