旅立ち
誰にも告げず、旅立つことにした。
反対されるだろうというのが主な理由だ。
それに、魔王を斬りにいくなんて言えるはずもない。
聖剣のことは隠すしかないのだ。
魔王に打ち勝つのは意志の力。聖剣ではない。
だが、聖剣に選ばれてもいないものが、なぜ意志の力を持っていると言えるのか。
旅に賛成だとしても、魔王を斬るのはやめておけとなるに決まっていた。
昼に堂々と通れば誰も不審に思うまいと、そう考えて城門をくぐる。
その直後、話しかけられた。
「どこへ行くのですか? リリア様」
振り向くと、アリスが立っている。メイド服とドレスの中間みたいな白い服を着ていた。
「黙っていなくなっちゃうなんて、寂しいですわ」
見透かされていた。
というか、なぜ知っているのだ。
「どうして分かったんだ。また街に出るだけかもしれないだろう」
思わずそう訊いた。
すると、アリサは自分の口元に手をやってほほほと笑った。
「あら、冗談でしたのに。リリア様はどこまで行くつもりだったのですか?」
「魔王を斬りに行くのさ」
もう、隠しても仕方がない。どうせアリサはついてくるだろう。
彼女に背中を向け、歩き出した。
予想通り、足音が聞こえる。
アリサが隣に並び、当然のように話しかけてくる。
「街の外は危険ですわ。なにか武器を持たなくては」
私は自分の髪を結んでいるリボンに手をやる。アイブズに初めて会った時にもつけていたお気に入りのやつだ。
引っ張ると、するりと解けた。肩のあたりで切り揃えた髪が、ふわりと跳ねる。
「このリボンを使うよ。魔力を込めれば武器にもなるだろう」
「いいアイデアですわ。魔力とは意識の力。長い間身につけていたものならば、力も宿りやすいでしょう」
「アリサはどうするんだ? ついてくるんだろう?」
アリサは腰につけたポーチを開いた。フリルがついている。メイド服も、これも彼女の趣味だ。
ポーチから取り出したのは、細く短い銀色の棒だ。彼女が上から下へ振り下ろすと、畳まれていたのだろう、三倍ほどの長さになった。
指先から、肘くらいまでの長さの棒は先端が違っているように見えた。
「これを使いますわ」
そう言って、アリサが棒を振り回す。
正直言って、危なかった。
「でも、反対しないんだね」
「何がですか? 旅なんて面白いじゃないですか」
いや、と言いかけてやめた。
魔王を斬りに行くことを反対しないのかと訊きたかったのだが、わざわざ掘り返さない方がいいだろう。
アリサが握った右手を空に向けて伸ばす。
「いざ魔王退治に、レッツラゴー、ですわ」
アリサが前に出る。
置いていかれそうになった私は、慌てて歩速を速めた。
結局、何もかも見透かされていたのだと思った。




