決意
ベッドに潜る。
そのときになってやっと、剣を買うのを忘れていたことに気がついた。
改めて、明日また買いに行くこともできる。
しかし王子様とは見た目の問題ではないと、そう感じたのだから剣は必要ないのではないか。
だが、服装を変える気はない。
これは矛盾している。
人間の心とはそういうものだといってしまえばそれまでだが、自分のこの気持ちがどこからくるのか知りたかった。
王家で求められるプリンセスらしさは、服装をはじめとして、立ち振る舞い、話し方、知識、教養、その他あらゆる場面で試される。
その中には、民衆と距離を取るというものもあった。
街の人たちにとってプリンセスが親しみやすいものであってはならないというのが、その理由だ。
なら王子様もそうなのか。
そうだろう。少なくとも、王家にとっては。
アイブズのことが頭に浮かぶ。
彼は仕立て屋の婦人と親しげに話していた。
あれは、民衆に近付いているといえる。
あれも王子様としてのあり方なのか?
しかし、王家は街にとっては苦しい選択をすることもある。
洪水などが起きた際には、住民の避難を待たず、門を閉ざす可能性だってある。
およそ100年前に、そのような事態があったらしい。
アイブズはそのことをどのように納得しているのだろう。
住民と親しければ親しいほど苦しむに違いない。
城門を開けたままであれば避難が済んだ人々も危険に晒すことになるのだからと、そう思えばいいのか。
これはアイブズだけの問題ではなかった。
私も、伯爵家の令嬢なのだ。
王家の決定に関与する力は与えられていないとはいえ、有事の際には自動的に守られる立場にいる。
このことに自覚的になったのは、街に出たからだろう。
王家を変える、というのは私にとってあまりにも大きいことだ。
それに、納得できない部分はあってもそれを全て否定すればよくなるというものでもない。
王は憎たらしい。
だがそれを理由に行動してしまっては、私のなりたい王子様とはいえない。
聖剣は王子様が持つものだ。
ならば、私のうちにある聖剣の声に耳を澄ますことが王子様への近道だろう。
目を瞑る。
剣は、魔王を斬れと言っている気がした。
魔王。
魔法のエネルギーが結晶化した存在。
それはいくつもあって、もし全てが活性化してしまえば、この世界は終わりだろう。
実際には、自然の自浄作用とでもいうのか、魔王はこの世界に出現すると同時に凍結される。
それは巨大な水晶のように見えるらしい。
危険はない。危険なのは、道中の魔物だ。
街の外には魔物が出る。
人の意識が薄いところで、奴らは活発に活動する。
危険があるのはありがたかった。
王子様としての試練を、この世界が与えてくれているのだ。
明日、旅立とう。
アリサや、お父様にそのことを言うべきだろうか。
いずれにせよ、反対されるに違いないと思った。




