帰宅
帰宅した後しばらくして、王家に侵入した盗人として追われるのではないかと不安になった。
元々勢いで聖剣を盗もうとしたのだ。その時は不安は心の奥底に追いやられていたのだろう。実際手に取ってみたときも、剣に選ばれたときも、義務感や高揚感の方が優っていた。
ベッドの中は暖かかった。五月の気温は夕方になると下がる。王宮の冷たい雰囲気は尚更私を心細くさせた。そんな空気に当たってきたのだ。帰宅後不安になるのは当たり前だった。
それに、実際聖剣は盗まれていないはずだ。私は剣の力を手に入れた。それは剣に選ばれたということで、もうあの聖剣の中に意識は宿っていない。
だが、だからといってそのことに気づけるものはいない。
ならば王宮に追われるかもしれないという不安は杞憂なのだ。
私のやるべきことは不安になることではなく、聖剣の意思に従うことだ。それは王子であり続けることだとも言える。
あの時後戻りできないと感じたのは、王宮から追われる身になったということではなく、王子として役割を与えられたということが原因だろう。
ベッドの上で仰向けに転がる。滑らかなシーツの感触が、私の心を一瞬身体感覚へと引き寄せる。疲れていた。無意識のうちに聖剣を探した。
手をもぞもぞと動かすが、剣は見当たらない。
当たり前だ。剣は私の内にある。
だが、手に持てる剣も欲しかった。力を手に入れた証として、それがあればいいと思った。
本物である必要はない。鈍刀で十分だ。
力は私が所持している。
明日、街に出よう。そして剣を買いに行こう。
私は目を瞑り、明かりを消した。
魔力で照らされていた部屋は暗くなった。
眠りに落ちゆく意識の中で、私は考える。
明かりも、自動扉も、風呂も魔力で供給されている。
ふと、この魔力が尽きたらどうなるのかと思った。人類は他のエネルギーを十分にコントロールできていない。
火を起こすことはできるが、その熱エネルギーを保持し、各家庭に輸送することはできないように。
考えていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
翌日カーテンから差し込む日差しを見て、それが分かった。
「街に出たい? それにリリア様、その格好はなんですか?」
アリサは目を丸くしていた。不思議なものを眺めるように私を見ている。
「プリンセスに向いてないっていつも言われてるだろう? だからこれからは王子様を目指すことにしたんだ。王子様には剣が必要だと思ってさ」
聖剣のことは隠して言った。
アリサが微笑む。
「あらあら、面白いことを考えるのですね。でも、リリア様らしいかもしれない」
アリサは婚約破棄のことには触れなかった。知らないということはないだろう。どうでもいいと思っているのかもしれない。
今はそのことがありがたかった。
「わたしもお供しますわ。街は騒がしいですから、お一人では心配です」
その言葉とは裏腹に、面白いものが見られそうだから着いていきたいと、アリサの表情が語っていた。




