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決断と行動

シャワーを浴びると、汚れと一緒に悩みも流れていくというけれど、そんなこと一度だって感じたことはない。

魔力で適温に温められたお湯に包まれて、私はそう考えた。


今日は嫌な一日だった。苦痛だとすら言える。アイブズとの婚約は取り消されてしまった。

こういう日があると、翌日もまた同じなのだろうと理由のない不安に襲われる。


本当は、アイブズと会うのを少しだけ楽しみにしていた。それなのに寝坊してしまったのは、楽しみがいつも裏切られるからだ。


第一、外に出るためには、王家の関係者とすれ違わなくてはならない。

すると、必ず悪口を言われる。新しく入ってきた使用人にも、


「あれが例の」


なんてわかったようなことを言われて、自分が何者かなんて説明する機会も与えられない。


悲しい。それ以上に悔しかった。

王家なんて滅んでしまえと思うけど、そうなったところで、何が変わるのかという気もする。

王家にいた人たちが別の場所に行って私を馬鹿にするだけだ。


力が欲しい。権力だ。

王の顔を思い出した。醜い顔だと思った。

民衆の前では決して見せない表情だ。

私の前だから、醜くてもいいと、こんな小娘になんと思われようとかまわないと判断したに違いない。


アイブズも笑っていた。口の端で嘲るように。


王宮での怒りを思い出す。なぜ私は落ち込んでいたのだ。

あんな奴らのために、自分の精神を犠牲にする必要はない。

気高さとは力から生まれるのだと思った。

蔑まれ、落ち込んだ心に気高く振る舞う余裕はない。


手っ取り早く力を得るには何かに選ばれることだ。

元々力のある存在に認められることで、自分の価値を知らしめる。

それは人間であってはいけない。人とは醜いものだからだ。あの王のように。



聖剣に認められたい。認められてやる。

そのために、取りに行こう。

王に罵倒された時とは違って、私は冷静だった。


聖剣は、王宮の一階、広間に堂々と置かれている。

一つは来客に王権を見せつけるため。

もう一つは、油断しているため。

王位を継ぐもの以外、聖剣を台座から抜けないと思っている。


魔法がかかっているのかもしれない。なんらかの方法で血筋を読み取り、選ばれた者以外を拒む魔法。

けれど、本当にそうだろうか?


あれは意思を持っているのだ。

権威主義の汚れた意思。

だから利用してやろう。王子だと思わせれば私の勝ちだ。

これは騙すということじゃない。

最も王子らしい者こそが、本物の王子なのだ。


服を着た。膨らんだスカートでもワンピースでもない。

王子に相応しい、ブルーのスーツ。

上着にボタンはなく、胸元は開いている。そこから覗く白いシャツが、高潔さを象徴しているかのようだ。

鏡で姿を確認するとよく似合っていた。そのことに自信を深める。


その勢いのまま、王宮に向かった。

改めて王宮を見ると、前には壮観に見えた装飾も、品の悪い成金趣味だということが分かる。

私はああはなるまい。王子とは、高貴な者、気高い者のことだ。


私はまるでパーティーの列席者になったようなつもりで背筋を伸ばす。もう転ぶことはない。

疑う者もいないだろう。婚約破棄は、正式な手続きを踏んで決まったわけではない。王やアイブズ以外は、ただの噂だと聞き流すに違いない。


そうだ、ただの噂なのだ。私がプリンセスらしくないなどと、そんな噂を間に受けて怒鳴り散らす王などくだらない。

たとえそれ真実だとしても、確かめもせずに。


ふざけるな。

いつの間にか、聖剣の前に立っている。

辺りに人はいない。嘘のようだ。

聖剣が、この場をあつらえたかのようだった。


私は聖剣に触れた。冷たい。ただの金属だ。

柄を握りしめる。

抜けないと、そう思った瞬間、輝きが胸の中にまで昇ってきた。


選ばれるとはこういうことなのだ。

そう直感した。


もう後戻りは出来ない。

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