プリンセスは転ばない
夢の中でこれは夢だと気づくことがある。
煌びやかな王の間、真紅の玉座に腰掛けたお父様が差し出すのは純金製の王冠。
「お前ほどプリンセスに相応しい者はいない」
そうお父様は言うけれど、私はそれが嘘だと知っている。
私は王女ではないし、王女らしくもない。
伯爵家の娘に生まれただけの、出来損ないだ。
いつもそれを言うのはお父様。
付け加えれば、屋敷の使用人とか、第五王子のエアリースとか、第六王子のシステとか、彼の彼女のリプルとか。
一つ一つ誰に言われたか、数えているわけじゃない。
でも自然と覚えてしまうくらい、私は蔑まれている。
「だからお前に王冠を授けよう」
夢の中のお父様は、私の気持ちを知らないみたいに続けている。
「王冠を持つということはどういうことか、やがてわかるだろう」
やがても何も、曖昧なことを言われたって困ってしまう。
だから訊いてみる。
「どういうことなのですか?」
お父様は答えない。
夢を見ている私に分からないことは答えられないらしい。
これじゃ意味がない。会話が成り立たないからだ。
もう早く目が覚めてくれればいいのに。
私の思いが伝わったのか、王宮が崩れだす。
雨漏りがしている。
やがて滝になった。
嫌な予感がした。
水の夢は危険だと、相場が決まっている。
天井が崩れ落ち、私は下敷きになった。
「いたたた」
思わず呟いた。
目を覚ました時、一人部屋のシルクのベッドから落ちていた。
腰が痛い。心配したようなことは起こらなかった。
ピンクのワンピースは濡れていない。
当たり前だ。
私はもう十六歳の立派な女の子。
寝起きにノックされたってきちんとした佇まいでいられる。
お父様が入ってきた。
年頃の女性の部屋によく入れるものだ。
まだ朝だというのに。
午前十一時は朝のうちだ。
「今日は第一王子のアイブズと会う日だったが、まだ準備はできていないのか?」
お父様が言う。
見りゃわかるでしょ、そう言いたい気持ちを堪え微笑んだ。
「ちなみに約束は三十分後だが……」
慌てて準備を整えたにしてはいい出来だと思った。
ストレートの長い髪もきちんととかして、お気に入りのリボンで一つにまとめたし、スカートだってお姫様らしく膨らんでいる。
鏡を見て改めてバッチリだと感じた。
王宮は、伯爵家から少し離れたところにある。
入り口に立つと、誰もいないのに両開きの扉が開いた。魔法によりプログラムされた自動扉。
私とお父様は中に入る。
流石に壮観だった。
あたり一面に宝石だから何だか散りばめられていて、カーペットもインクをこぼしたような目が覚める赤。
しかも滑りにくいときたものだから、靴の踵が引っかかって転んでしまう。
お父様は苦笑していた。
私も泣きたくなった。
泣きたくなったけど笑った。
そうするとみんなも笑った――今まではそうだった。でも、さすがは王宮、誰も笑わない。
悲しくなった。笑ってくれる方が楽なのに。
気を取り直して王の間へ続く階段を登る。
アイブズは第一王子。一番王位に近い存在だ。
そんな彼と婚約関係にある私はプリンセスから一番遠いけど。
階段を登り、戸を開けるとアイブズがいた。
その隣に彼の父親、つまり王様だ。
王様は私を見るなり叫んだ。
「なんて見すぼらしい!王女らしくないとは聞いていたが、ここまでとは。貴様など、我が息子に相応しくないわ!」
呆然とした。何が悪いのか分からなかった。
服装も、立ち振る舞いもきちんと学んだ通りにやっている。
たとえ問題があったとしても、
理由も告げず、そこまで言われる筋合いはない。
おそらく、理由などないのだろう。
プリンセスらしくないと噂になってしまったら、もう終わりなのか。
怒りがふつふつと湧き上がってきた。
王だから、独断できるのか。王だから、偉いのか。
ならば私が次の王だ。
まずは王子からだろう。
この城には、聖剣が眠るという。
剣に選ばれるのは、血ではない。
それを思い知らせてやる。
プリンセスらしくないのなら──
プリンスになってみせる。




