Test, Coffee, and You.
どうも、伊倉です。こんちわ。
また短編を書いてみたんで投稿させてもらいます。
楽しんでいただけたら幸いです。
是非感想やアドバイスなどもよろしくお願いします。
「む~、分からない~…」
「はいはいはい、どの問題だ?」
だんだんと暖かくなってきた5月のある休日。
高2になったばっかりの俺、伊崎啓太朗はファミレスで勉強-今は数学-を教えてやっていた。
向かい合って数学を教えている相手は、同級生の女の子である赤野瑞希という子。少し茶色いストレートの髪を肩まで伸ばしていて、目はパッチリしている。
確かに可愛らしいけれども、毎日のようにバカなことをしてつるんでいるせいか、赤野を『好き』なんて思ったことは残念ながら一度も無い。
もし、赤野が黙っていれば好きになっていたかもしれないが。
高校に入った去年に彼女とは同じクラスになり、『あかの』と『いさき』という苗字も手伝って席も隣。今年も同じクラスで席もまたまた隣。しかも家も最寄り駅が同じという近さ。
そんな奇遇が重なって、よくつるむようになった仲だ。
俺らが通っている高校は俺や赤野からすれば少し遠いところに位置しているので、テスト前などは学校で勉強しようにも学校まで行くので疲れてしまってそれが出来ない。
なので、2人でファミレスに集まって勉強会をしているのだ。
…いや、図書館でやったこともあるんだけど、あそこは喋っちゃいけないからさ、気が滅入っちゃう。
で、何で俺が赤野に勉強を教えているのかと言うと、理由は非常に単純だ。
赤野が俗に言う『バカ』で、対する俺はそれなりに勉強が出来るから。
…普通は逆じゃないか?頭がいい女の子がバカな男の子に教えるっていう感じで。
「むきー!私はバカじゃないっ!」
「え?口に出てた?」
「バカじゃないって!伊崎よりちょびっとだけ勉強が出来ないだけ!」
ちなみに、前回のテスト順位は、全体が250人いる中で俺は14位、赤野は223位。この順位を見れば力の差は歴然だ。
「はいはい、そーでしたねー。で、問題とけた?」
軽くあしらうと、赤野は頬を膨らませる。
「…解けない。」
「そーかそーか。予想通りだったが。じゃあ解説してやろう。」
俺が笑顔で毒を吐くと赤野は何か言い返そうとしたようだが、教える側と教えられる側という立場を考えたのか、開きかけた口を閉じた。
なんだか悔しそうにしている。
そんな表情をチラッと見て、俺は微笑を浮かべて解説をしてやる。
「…ってわけ。どう?分かった?」
「伊崎、天才…」
「そりゃどうも。じゃ、今と同じ解き方で解けるはずだから、その下の問題もやってみなよ。」
(自分で言うのもアレだが)鮮やかすぎる俺の解説を聞いた赤野は、俄然やる気になって他の問題に取組み始める。
赤野はバカだけど、ちゃんと聞けば出来るようになるタイプだからな。授業中に寝てなきゃいいのに。
そう思いながら俺はアイスコーヒーが入っているグラスを右手に持ってそれをストローを通して飲む。苦味でいい感じに頭が冴えてきた。
っし、赤野も頑張ってるんだから、俺もいっちょ頑張るか!
気合を入れなおして、(もちろん、赤野がやっているやつよりレベルが高い)問題集を開いて、問題を解き始める。
それから少し時間が経つが、2人とも無言できっちり勉強していた。
赤野のシャーペンの音を聞いていると、スラスラと動いているようだからそれなりに問題は解けているのだろう。分からなかったら俺にすぐ聞いてくるのにそれもないし。
…おっ、ここはこうすれば解けそうだ。
解法を閃いた俺は、ノートに数式を書いて計算をする。
すると不意に、目の前からコトリと何かを置く音がした。集中していた俺はその音が気になって目線だけそこへとやる。
見てみると、赤野がストローでアイスコーヒーを飲み、それが入ったグラスを左手でテーブルに置いたところだった。
そうか、赤野もアイスコーヒーを頼んだったんだな。
…
左手?
突然、そこがひっかかった。
待てよ、俺はさっき右手でグラスをつかんでそのまま右手でグラスを置いたわけだから、グラスは俺から見て右側、赤野からすれば左側。
で、赤野は左手でグラスをつかんだということは、元々赤野の左側にあったグラスってこと。つまり、俺の右側にあったグラス。
…えっ、前者と後者のグラスって、同じ!?
確認のためにもう一つあるはずのグラスをテーブルの上に探してみると、俺からして左側、赤野からすれば右側にアイスコーヒーが入った全く同じグラスがあった。
ちょ、ちょっと考える時間をくれ。
ということは、俺のグラスを、赤野は使った…!?
しかも、ストローがささっていて俺はそれを使ったんだぞ!?で、赤野もストローを使ったということは…!?
い、いやいやいやっ!それって間接キスとかいうやつじゃないのか!?ええっ!?
「お~い、伊崎、大丈夫?」
気がつくと、目の前の赤野が俺のことを覗き込んでいた。頭の中が混乱中していて大丈夫じゃない!
「…はっ!だ、大丈夫だ。えっと、どこか分かんないとこでもあるのか?」
大丈夫じゃないけど、何とかごまかす俺。
「ううん、順調だよ~。」
赤野はニッコリと笑い、再び問題集と格闘を始める。
だけど、俺の心は既に数学から離れてしまった。今さっき見た、赤野のその笑顔のほうへ。
なんなんだ、この感情は?
いつもならスルーできるような赤野の笑顔が、今は何故だかスゴイ気になっているぞ…!?
さっきのコーヒー事件の後から赤野を必要以上に意識しすぎている自分がいることにはとっくに気づいているけど、落ち着こうとしても落ち着けないのだ。
ちょ、ちょっと待て、落ち着くんだ伊崎啓太朗。
とりあえず深呼吸だ。深呼吸は落ち着けるってよく言うじゃないか。ということで早速実践。
スー、ハァー。スー、ハァー…
………
『ドクドクドクドク…』
ダメだ。落ち着けない。
深呼吸をしたけど、心臓の鼓動の音を聞いた瞬間に意味がなかったと悟った。
鼓動はいつもよりスピードが早い。これも、赤野のせいか…?
もしや、もしや、もしかして俺は、赤野に恋してる?
いや、赤野に限ってそんなことは…
じゃあ何なんだ?この鼓動の速さは。この胸の高鳴りは。
単にさっきのコーヒー事件があったからか?明日にはまた何ともなくなっているのだろうか?
…
結局その日はそれから2時間ほどファミレスで勉強したが、赤野のことを考えてしまい全然集中できずにお開きとなった。
そして、帰り際に見た赤野の笑顔がまた、俺の心を捉えて離さない。
「ふぅ…」
家に帰った俺は部屋に入ると鞄を乱暴に投げ、自分はベッドへとダイブする。
ベッドにダイブしたのとバッグが着地したのは同時だったようで、大きな音がした。
「啓太朗!うるさい!」
「ごめーん!」
下でTVを見ていた母親が俺に対して大声で注意してきたので、ベッドに寝転んだまま大声を出す。
…
それにしても、あの感情はなんなのだろうか?
あのコーヒー事件以降、俺は間違いなく赤野を意識しすぎている。
いや、いつもは俺とバカな事をしてつるんでいる赤野を『女』として見る機会が無かったわけではない。
例えば、去年の泊まりの学校行事のときの風呂上りの赤野とか(不覚にもドキッとしてしまったがそれだけである)、
体育の授業の際に半袖半ズボンのジャージを着ている赤野とか(今はそんなことない。だけども白い赤野の素肌を見たときに高1のときはドキドキしていた)、
階段を上るときに先に走っていってしまう赤野とか(大して長くないスカートなのでたまに見えてしまうのだ)、その他もろもろ…
って、どうして俺はこんなにアイツのことを知っているんだ?
次から次へとそういう思い出が出てくる。
…これは、俺がアイツをよく目で追っている証拠だな。つまり、普段から意識していたと。
それが分かった瞬間、心のモヤモヤがカンペキになくなった。
俺は、あいつに恋してたんだ。
その事実を認めるのには随分時間がかかったけど、認めてしまえば自然に受け入れられる。
そうか、俺が、赤野に『恋』ねぇ…
絶対無いと思ってたことに苦笑しながら、俺はベッドから起き上がって財布の中の小銭を探る。
気づいたら即、行動だ。
俺は恋愛ってのにオクテだから、こうでもして自分を鼓舞してやんないと。
500円玉を見つけ、それを指の上に乗せた俺は、高くそれを弾く。
「もし表だったら―」
高く高く弾かれた500円玉は、今度は床へと落ちてくる。
「俺はアイツに告白する。」
500円玉は床に音を立ててぶつかり、クルクルと回転するが、やがて回転数が少なくなっていって…―
その2週間後。
テストも無事に終わり、平穏な日々に戻った俺はいつものように下足箱で靴を履き替えて下校する。
ただ、テスト前と変わったことがひとつ。
「啓太朗、早く行こうよっ!」
赤野-今は『瑞希』と呼んでいる-が、俺の彼女になってくれたことだ。
「はいはいっ、じゃ、帰るとするか。」
待っている瑞希の下へ駆け寄り、その手を握って歩き出す俺ら。
テストの結果もこの前より良かったし、瑞希も良かったみたいだし。
そして何より、俺の告白はOKされて瑞希が彼女になってくれたし。
伊崎啓太朗 7位/250人中
赤野瑞希 138位/250人中