5話 休憩
「人間は嫌いだが、人間の作る飯は美味い!特にこの肉は美味いな!
涼音、もっとないのか?」
木々で日陰になっている神社の階段でファミチキを食う鬼に、溜息をつきながらコンビニ袋からもう二個取り出すと赤五郎に手渡す。
「よくもまぁー、こんな暑いのにチキンなんて食べれるわねー
アタシは断然!白くま君よ!」
そう言ってカップに顔を突っ込んで白くま君を頬張る白い狐、現世かぶれの妖怪二人を横目に再び大きなため息をつくと、赤五郎の数段上の石段に腰かけて私も大好きなバニラアイスのモウを取り出す。しかしだいぶ溶け始めている…。
何故私達がこんな場所で油を売っているかと言うと、大怪我をしたまま幽世に帰ったら「親父に大目玉食らう上に、手下に示しがつかない!!」と、ごねられたので、傷が完全回復するまで食事で英気を養いつつ、時間を潰していると言うわけである。
昼近い時間になり、どんどんと気温が上がって来てさっさと帰りたいと言うのに…。
「それで、なんで赤五郎はあのヤバそうな祓い屋に喧嘩売りに行ったの?」
冷たいアイスに舌鼓を打ちつつ、赤五郎に話しかければ食べ終わったファミチキの袋をクシャリと握りつぶす。
「世話をかけたことは悪いと思ってる。
思っているが、あの祓い屋は許しておけなかったんだよ涼音」
珍しい。と思わず思う。赤五郎は喧嘩っ早いところのある短気ではあるが、後を引かないさっぱりとした性格だ。根に持つようなタイプではない赤五郎が何故そこまで?
「あの祓い屋に何かされたの?」
「……知ってるか、和車屋の女郎の躑躅半年前に年季が開けて現世に戻ったんだ。」
「あぁ、確か花鬼さんの妹分だった人じゃない?2回くらいかな、蔵さんの店で会ったことあるけど…躑躅さんがまさかあの祓い屋に…」
そう聞けば、赤五郎は俯く
「…俺は躑躅の馴染みで…とは言っても躑躅には良い人が既に居てな…。まぁ、結ばれなかったんであいつは現世に来たんだが…。まぁ、その話は良い。
二ヶ月くらい前だったか?祓い屋がこの辺りに越してきた。って話は聞いていたんだが、そのすぐ後に躑躅と連絡が取れなくなったと、躑躅と仲の良かった女郎が話していてな、現世に行くついでに見てきて欲しいと頼まれたんだ。俺達鬼は時々現世に行くからな、それで躑躅の住んでいた廃屋を見に行ったんだ。 だが、そこはもぬけの殻…その上、並みの小物じゃ近づけねぇーように札が貼ってあった。」
「難を逃れた可能性は?」
思わずそう問えば、赤五郎はゆっくりと首を振った。
「俺もそう思ったさ、そう思って山に住み着いてる妖に聞いたら、祓われちまったと言われた。あの祓い屋が越してきてから、吹き溜まりや、妖がい付いているところを容赦なく祓って回っているんだと、話を聞いた小物共も山から下りられないと嘆いていた。
祓い屋が必要ってのも馬鹿な俺でもわかる。 妖の中にも人間に害を及ぼす輩も多い。だがな、手あたり次第祓うってのは納得できねー。 躑躅の事もあったし、思いっきり叩きのめしてこの土地から追い出そうと思ったんだがな…」
「逆に叩きのめされたと…」
「我ながら情けねぇー…躑躅の仇もとれなかった。」
「くだらなーい」
食事が終わったのか、前足で口の周りを拭いながら白の間の抜けた声が響いた。
「白月、止めなさい」
そう注意すれば、フンと白は鼻を鳴らす。
「まぁ、他のもんからすればくだらねぇーわな。
惚れた女の仇もとれず。叩きのめされた上に、涼音に頭下げさせて助け出されてちゃー 、俺もまだまだだ!」
そいって赤五郎は立ち上がって大きく伸びをする。
「傷も治ったし、そろそろ帰るか!
悪かったな涼音、この礼は必ずするからな」
そう言ってニカリと笑う赤五郎の顔は晴れやかだ。逆に私の心にはもやもやとしたものが渦巻く
「赤五郎は憎くないの?もう本当に敵討ちはしなくていいの?」
そう問いかけながら赤五郎を見上げると、一瞬驚いたような顔をする赤五郎に私は今どんな顔をしているのかと思う。
「涼音、これは俺の敵討ちだ。
だが、叩きのめされちまったならもう俺の負けだ。
これ以上は恥ってもんよ、憎しみが消えたかって言われるとそれは嘘になるが、組のもんや涼音の手を汚させるって方が俺はもっと許せねーよ。
だからこれで終いだ。」
真っ赤な鬼は夏の眩しい太陽に負けず劣らずの良い笑顔で笑った。 そこまで言われたら、私はこれ以上何も言えないじゃないか…。
そう思って私も立ち上がる。
「赤五郎、ただの短気のボンボンだと思ってたけど、意外としっかりしたいい奴じゃん」
そう言ってニヤリと笑って見上げると
「なんだ、涼音?
俺に惚れちまったか? しかたねぇーな、俺の女に「お断りします」」
「相変わらずつれない奴だなお前は」
そう言うと二人しておお笑いする。
「涼音、帰ろー暑いぃー」
げんなりした白を見て、ハイハイと言いつつ食べたゴミを回収していると石段の上から涼やかな風が吹き下ろしてくる。
3人で見上げれば、階段の上から真っ白な神事の服を着た男神が一人降りて来た。




