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アクアリウムの街で

作者: 藍沢紗夜

 突然の雨は空鯨が大量に水を噴き上げたことが原因らしかった。天気予報で空鯨の群れが列島を横断するという話は聞いていたのに、いつも持ち歩いている折り畳み傘が今日は運悪く鞄に入っていなくて、自分の確認不足を嘆いた。そういえば、一昨日使ってから家で干しっぱなしだった。


 仕方なく鞄を頭の上に乗せて歩く。学校指定のスクールバッグは、肩が痛くはなるけれど、防水性に優れている。とはいえ、雨を防げるほどの大きさはない。まだ家までは五分以上歩かなければならないのに、と憂鬱になっていると、不意に雨が止み、視界になにか短く細いものがふよふよと浮かんでいるのが入った。

 見上げると、そこにはオオガサクラゲが、私を雨から守るように頭上で笠を広げていた。視界に入っていたのはこの子の触手だったようだ。

「傘の代わりになってくれるの?」

 問いかけに返事はない。クラゲには口がないし、聞くところによると脳もないらしいから、理解してもいないのかもしれない。意思疎通を諦めて歩き出すと、クラゲはふよふよと揺めきながら付いてきた。どうやら問いの答えはイエスのようだ。


 そうして歩いているうちに、空鯨たちが去っていったようで、次第に雨は止んだ。クラゲはすっと動き出し、私の目の前に来て止まった。

「ありがとう。おかげでびしょ濡れにならずに済んだよ」

 クラゲはふよふよと上下に浮かんでいる。その仕草はなんだか得意げにも見えた。

 私は手を伸ばしてクラゲを撫でてやった。心なしか嬉しそうに、と思うのは都合のいい妄想かもしれないけれど、触手を絡めてきたので慌てて振り払う。びりびりとした感覚が腕を覆って、私は苦笑いした。帰ったらすぐに薬を塗らなければ。


 去っていくクラゲを見送って、ふたたび帰路に着く。カラフルな魚たちが泳ぐ青空には、大きな虹が掛かっていた。

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