覚醒
ゆっくりと動く世界で見る。波となって動く煙。水の中のようなボコボコとした音。目だけで驚き、ほぼ動かない神主の顔。今いる矢代所の奥にある扉。そこまで見た時、轟音と共に世界が動き出した。
「ぐはぁっ…!!」
波が神主を直撃し扉まで吹き飛ばす。その衝撃で扉の錠が外れ、半開きになった。
「ぐ、うぅ…」
神主は仰向けに倒れ呻いている。逃げるなら今かな……そう思い振り向こうとしたが、その半開きになった扉の隙間、薄明かりに浮かぶ影とともに、切実な呻き声が響き、直後、白い塊が転がるように這い出てきた。
「うー! ううー!」
女の子だ。十六歳くらいかな? その子は口を布で縛られ、手足も拘束具のようなものが装着されている。目と目が合い、言葉にならない声で必死に訴えてくる。助けてくれと。
再び空気が重く、時間がゆっくりとまとわりつく。私が集中することで時の流れが変わる。これが《力》なのだろう。その時間の中で私は考える。神主はまだ倒れているがすぐにでも起き上がってきそうだなとか、この《力》をもっと有効に使うには? 神主と自分の実力差は? この女の子を助けるべきか。あるいは、すぐに逃げるべきか。
集中している間は《力》が途切れないようで、まだまだ深く思考することができそう。ちょっと楽しくなってきたかも。
まずは私の《力》を整理しよう。この時間をゆっくりにする力、これはそうだな、思考を加速して戦術を練ることができるから《タクティカル》。空気中の何かを動かして衝撃波のようなものを押し出す《力》は…《ウェーブ》。安直だけどわかりやすさは重要だ。他にもできることがあるかもしれないが、試している時間はない。思考は加速してるけど、私の身体はゆっくりとしか動かないから。
さて、現状を踏まえて次に私が行うべき行動、女の子を助けるか、否か。