お前は良い「聖品」になる
ここは異世界。まず今日起きた部屋が見たことのない《私の部屋》だった。今の今までなぜか違和感なくこの神社まで歩いてきて…、この神社もそう、近所にこんな神社はなかったのに……。
神主は満面の笑顔で、この静寂な場に不釣り合いな大声で続ける。
「お前の魂は良いな! 良質! 素晴らしい匂いだ!」
気持ち悪い。こいつの笑顔、この醜い仮面には既視感がある。《性品》と呼ばれ、上納された自分自身を思い出す。
「お前ならとても良い《聖品》になる! 神に魂を捧げられることを喜ぶが良い!」
また《せいひん》!? 突然いろんなことが起こったが、一周回って冷静でいる自分に気付いた。
夢のような世界だけど、しっかりと現実だとわかる。明らかに今までいた世界とは異なる場所。そして状況。神主のテンションとは真逆で無表情な自分。
この神主風の男の言うことを信じるなら、たぶん私は殺されるんだろうね。今度は精神だけじゃなく物理的に死ぬんだな、と直感で分かった。そして神主は言う
「だがその前に、念のため我が品定めをしておくとしよう」
目だけが笑っていない神主がこちらに近付いてくる。金縛りのように硬直していた私は「わー!」っと大声を出してその呪縛を解いた。立ち上がり、神主を睨みつける。
「これは驚いた。お前、《力》があるのか。魂が良質過ぎるのも厄介ですねー」
その《力》なのかはわからないけど、立ち上がった時、空気の重さが元いた世界と違うと感じた。目に見えない重い煙がまとわりついているような感覚。ゆっくりと手を動かして確認する。やっぱりそうだ、その煙に意識を集中するとより重く、水の中で動いてるような感じになる。それとも、もしかしたら時間がゆっくりになっている…?
私は大きく息を吸い、その煙のような水のようなものを前方へとおもいっきり押し出した。