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召喚された時に舞台衣装を着ていた私は、そのまま男として逃げ切ることにした

作者: 青木薫

目にとめていただきありがとうございます。舞台衣装っていいですよね!と思って書きました。たまには短めあっさりで。

誤字報告どうもありがとうございます!

「おおっ!成功だ!」

「聖女様が召喚された…!」

「聖女様万歳…って…え?」

「お、男?」

「聖女じゃなくて、せ、聖人?」


 眩しいほどの光がおさまると、周りに教会の人っぽい服装の人々がいるのが見えた。あ、これ異世界転移だ、と思った。


「な、なんだと?聖女召喚ではなかったのか?」

「いえ、王太子様、我らは確かに聖女様を」

「ええいっ、黙れ!どう見ても男ではないか!」

「し、しかしっ」


 うん、揉めてるね。そして原因は私の姿だね。


 私は全然有名じゃない女性歌劇団の男役で、流行の「異世界転生もの」の初演を明後日に控えて最後のリハーサルをしていた。


 「魔法竜騎士」と属性てんこ盛りの役柄の私は、最後の見せ場で、悪の宰相の銃弾に倒れて大階段をゴロゴロと転がり落ちたのだが、下に着いた途端に怪しい緑色の光に包まれ、今に至る。


 リハーサル中だったから、衣装は魔法竜騎士のそれで小道具の剣も下げている。メイクもかつらもバッチリ男役。そりゃあ男に間違えられるだろう。


 ワーワー言っている彼らの目的を知るために、さっと立ち上がり、芝居がかった仕草で剣の柄に手を掛ける。


「何が目的で、私を呼んだ?すぐに答えよ、さもなくば」


 靴は舞台用の10cmのシークレットブーツだから、今の私の見た目の身長は178cm。周りのおそらく教会の人たち=神官とかだからか、みんな小柄で私に見下されている。


「ひっ、な、なんだこいつは!ドラゴンを倒せる美しい聖女はどうしたんだ?」

「王太子様、こちらへ!」

「ええいっ!聖騎士、何をしている!!早く此奴を何とかしろ!」

「し、しかしっ!」


 さっきから同じようなことしか言ってないぞ、この人たち。


 自慢じゃないが、新作の脚本を書くために異世界転生モノを短編から長編まで300本以上読んだ私にはこれまでの情報だけで何となくわかる。これは、ドラゴンを倒すために聖女を召喚した神官と王子様。そして王子様はあまり賢くなくて、ドラゴン退治の後は聖女を嫁にとか思ってここに来ていたってところだろう。


 なのに現れたのが男でぶち切れてると。あーこの格好で良かった、と心から思った。そして周りを見渡すと、先ほど聖騎士と呼ばれた者だろうか、私と同じくらいの背の人が壁際から王子様の近くに駆け寄ってきた。


「ケ、ケイン、此奴は」

「…大丈夫です王太子、この方は…」


そう言って私を見つめる。ん?もしかして私を見定めている?そして1人だけ落ち着いているのを見るに、この人だけがまともそうだ。


「ケインとやら、私はドラゴンを倒すことができそうか?」


柄から手を離すことなく、頭を傾け、左手で首を撫で、そのまま顔に滑らせる。人差し指で唇を押さえ、目を細めて挑戦的に相手を見る。色っぽいとファンのみんなから評判の角度だ。


 ケインと呼ばれた男は、一瞬驚いた顔をしたが、


「…ええ、あなたの魔力、戦闘力はドラゴンを一撃で倒すことができるでしょう」


と答えた。周りの人たちはおお〜っとどよめき、王子様だけがフガフガ言っている。


「いいだろう。私は太陽系第3惑星、グリーン・アースからこの世界に召喚されしドラゴンスレイヤー、エドゥアルド。お前たちの願いを叶えよう。ただし、その後は報酬を受け取って自由にさせてもらう、それが条件だ」


 劇での役柄は「魔法竜騎士」だったけど、ここではなんとなく「ドラゴンスレイヤー」のほうがカッコいい気がして、なり切ってドラマチックにそう名乗る。名前は役柄のままだ。思いつかなかったし。


 神官たち?はコクコクと頷いているし、王子様を睨むと「よ、よかろう…」と小声で承認したので、ニヤリと笑って見せる。


「ではケイン、武器と案内を」

「はっ!」


 私はケインに案内され、転移陣を使ってドラゴンの巣に向かった。ケインは鑑定のスキルを持っていて、先ほど言った「魔力と戦闘力は十分」というのは本当だったので、あっという間にドラゴンを倒した私は戻ってたんまり報酬をもらった。


「では、もうお前たちに会うことはないだろう。良い国を作るがいい」

「あ、ありがとうございました」


 呆然とする神官たちに見送られて出たのは大きなお城だった。神殿とかかと思ったけど違った。


「さて、魔力も戦闘力もあることはわかったけど、これからどうするかなぁ」


 取りあえず宿屋を探すか、と考えていたらケインが追いかけてきた。


「エドゥアルド様、お待ちください」

「あ、ケイン。さっきはいろいろ黙っててくれてありがとう。助かったよ」

「!」


 にっこり笑ってお礼を言ったら、ケインの顔が赤くなった。うん?


「その…この後はどうなさるおつもりですか?」


ケインの質問に、まあ取りあえず寝るところを見つけるつもりだから、いい宿屋があったら紹介してくれないかと頼むと


「それならば、私の家はどうでしょうか。あ、決して変なことをするつもりはなくてですね…」


と言われて驚いた。随分といい人だ。


 他に頼る人もいないしとノコノコついて行ったら、さすが聖騎士、立派な屋敷で使用人たちのお出迎えがあった。うーん、私って見る目ある。いや、聖女効果かな。


 その後、ドラゴンの巣から帰って来たままなのもなんだというので、お風呂を準備してもらった私は、ケインの妹の服を借りて着替えをした。ケインの妹だけあって背が高いのか、私にも十分着られる服で良かった。


 メイクもかつらもない、やや背が高いだけの普通の女性の私を見てケインは


「せ…聖女様…」


と呟いていたけど、ドラゴンスレイヤーだよと答えておいた。


 さっぱりして、美味しいご飯を用意してもらって、食べながら聞いたところ、ケインは最初の鑑定の時点で私が女であることがわかっていたけれど、王子様の愚かさに呆れていたため黙っていたこと、ドラゴン退治の後はどうにかして私を元の世界に戻す努力をしようと考えてくれていたことがわかった。


 申し訳無さそうに、でも真剣に「多分戻るのは難しいと思うが、精一杯努力する」と言うケインの人柄に惚れた私は


「ねえ、ケイン。私、本当はエミって名前なの。もし戻れなかったらこのままケインのところにお世話になってもいい?さっきもらった報酬は全部ケインにあげるから」


と聞いてみた。ケインは真っ赤になって


「も、もちろんです、え、エミ殿…そして、報酬は自分のためにとっておいてください」


と言った。大金だからどこかに預けようとケインが言うのを聞きながら、本当にいい人だなぁと思った。


 多分元の世界には戻れないので、このままケインのところにお世話になると思う。聖女効果?でケインもそんなに私に対して悪感情はもってないようだし、転生モノでこの展開ならきっと私達はうまくいく。それだけの努力もするつもりだ。だってケイン、いい人だもの。


 お世話になりっぱなしも申し訳ないから何かして稼がなくてはならないけど、ドラゴンは退治してしまったので、魔力の別な使い道を探そう。治癒とかできたら役に立ちそうだ。練習すればできるかな。


 それにしても、召喚された時に舞台衣装で本当に良かったな、と思う私だった。

お読みくださりどうもありがとうございました。楽しんでいただけましたか?つい真面目になってしまうので、短いコメディも書けるように頑張りたいです。

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― 新着の感想 ―
サクッと読めたのに凄い充実した読書時間になりました。良作を公開して下さり有り難うございます! 舞台衣装の麗人のまま、異世界純情ボーイを押し倒しても、エエンヤデ?(笑)
理想のタイプに「自分に無い要素を求める人」にとっては、「魔力、戦闘力が高い上に、気性がさっぱりとした異邦人の聖女」なんてご褒美以外のなにものでもないでしょうね。 きっと男女問わずモテモテですな。 まぁ…
きっと義妹にはお姉さまと呼ばれることだろう。
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