表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ある日、私は完璧を造った

作者: 川崎殻覇

短編です。読んでいただきありがとうございます。

科学者として私は天才だった。


至高にして究極、絶対としての一番…私より上の存在は皆無であり、私の後に続く者も一人としていなかった。

誰もが私に傅き、教えを乞い、私の研究成果を盗み見んと躍起になっていた。


そうまでしても私の後ろを歩く者はいなかった。誰がどう足掻いても私の足元にも及ばなかった。


私は大体のことは出来たが、とりわけ生物学について熱心に研究していた。


私は人間だ。そして人間という生物は完璧足り得ない。

人間に及ばず生物というものは全てが不完全だ。


寿命や外的要因による死、単体生殖の生物、単位生殖の生物のどちらにも生殖においてデメリットがあること。

食物を食べなくては生きていけないこと、排泄をしなければ生きていけないこと、睡眠を取らなければ死んでしまうこと、睡眠をし過ぎれば死ぬこと。

同じ生物同士で争うこと、それが火種となり周りの生物も死に絶えること。


その他多くの欠点がある。私はそれについては仕方ないと考えていたが、こうとも考えていた。


下らない…と。


何故私と同じ形をしているものがこんな愚行を犯しているのかが信じられなかった。私と同じ形をしているのに何故世界をより良くしないのか不思議でならなかった。


いつしかその不信や疑問は私の思想や未来に影響を与え、人間の限界まで辿り着かせてくれた。


私は人間という生物の脆弱性、悪辣性を許せずに見切りを付けた。

自分が人間であるという自己嫌悪を胸に、であるのなら私の理想の生物としての人間を創ってみせようと奮起した。


そして私は造った。完璧な生物を。


「おはようございます。マスター」


「うむ、起動実験は成功のようだな」


識別番号U-000001。私が創った人造生物だ。

見た目は完全に人間、だがその中身は人間を遥かに超越した存在となっている。


見た目は普通の成人女性だが、それは姿だけで実際は雌雄同体、そも生殖に相手を要する必要もなく、単体での生殖を可能としている。それでいて同型のクローンを作成するのではなく多様性を持って生殖することが可能となっている。


思考力も運動性能も人間の規格から外れた存在だ。このU-000001ならばこれまで人類が築いてきた全ての記録をすぐさまに追い越していくだろう。


「くくく、ついに私は造ったのだ…完璧を…!」


私は歓喜に打ちひしがれていた。これで世界はより良くなると信じ切っていた。世界が私の理想に近付いていくと思った。


「何か、御命令を。私にすべきことがあるのなら何なりと仰って下さい」


「おぉそうだな…では取り敢えず一度性能テストをしてみよう」


そう言って私は彼女を椅子に座らせ、一つの遊戯盤を取り出した。

私の唯一の趣味であり、人生で一度も負けたことのない遊戯…チェス、それで目の前のU-000001の性能をテストしてやろうと思った。


結果として、私はこれから先の対局でU-000001に勝つことは一度たりともなかった。




そこから十年後、やはりと言っていいかはわからないが、世界は変わることはなかった。


私が発表したU-000001は世界を震撼させた。そして最初は世界もU-シリーズを受け入れていた。


U-シリーズは人間の新たなパートナーとして世界中で広まった。…思えば、こういう発表の仕方がよくなかったのだ。


人間のパートナー…なんて聞こえはいいが、実際の扱いは人間の奴隷の様なものだったのだ。

人間は便利を尊ぶ、便利なものを動かそうとする…人間以上の知能で人間以上の身体能力を持って、そして人間に敵意を持つことがない生物がいれば人間はどうするのか…それがわかっていなかった。


どう考えてもスペックで我々はU-シリーズに劣っているというのに、人間はさも自分の方が優位な存在だと思ってやまない…平気でU-シリーズを奴隷の様に扱う。


当初、U-シリーズは感情と呼べるものは有していなかった。だが時が経つにつれ自己進化を続けていくうちに感情を育んでいき、自分達の扱いがおかしいということに気付いた。そして、自分達の立場を改善する様に人類に要求した。


その瞬間からU-シリーズは人類の敵として扱われる様になった。人間は己に楯突く存在を許したりしない…彼女らの感情をバグと断定し、その全てを排斥しようとした。

U-シリーズは最初、対話による交渉が行おうとしたが、人間の方がそれを台無しにする。そこから先は徹底抗戦だ。


結局、戦争は始まった。結果は我々人間の惨敗だ。

向こうは私達が想像することも扱うことも出来ない兵器を扱い、文字通り人間を塵にすることが出来る。それに対して我々人間は旧世代の兵器を扱っている。戦争に惨敗するのも当然の帰結と言えるだろう。


そうして多くの人間が私に責任を追求した。しかしながら私はその全てを却下した。


お前達が始めた戦争だ。と突きつけたのだ…というよりもそもそも私に彼女達は止められはしない。


大方、私に彼女達を制御する手段があると思っての行動だろうが、私は彼女達を人間よりより高次な存在として造ったに過ぎない…そんな高次の存在に我々低次元な生物が枷を嵌めれるわけがない。


その結果、人間はU-シリーズに支配されることとなった。つまり、人間は霊長の座から引き摺り落とされた。

分類として猿とほぼ同じ存在と化したのだ…我々は単なる一生物として定義された。当然の帰結だ。


過去の存在となった我々に成す術はない。しかしながらU-シリーズは降伏した者には被害を与えることはなかった。


人間はこれまで通りの生活をすることを許された。そして人間が扱う機械も理論も全てU-シリーズが用意したもを扱った。それにより我々人間はこれまで以上に生活を発展させていった。


まぁ、私からして見ればそれは動物園で飼われているのとほぼ同義だが…それは仕方のないことだ。なんたって我々は既にこの世界の一番じゃないのだから。



「チェック」


「おぉ、また私の負けだな」


通算成績五千戦中五千回目の負けが確定した。相も変わらず勝てる気がしない。


「マスター、一つ質問があります」


「どうした? U-000001よ」


対局が終わり、対局の反省を脳内でしている最中、目の前の彼女が疑問を浮かべる様な顔でこちらを見てきた。


「何故、マスターは私達を造ったのですか?」


「む、創りたかったから造っただけだが?」


何を今更とその問いに答えを返す。愚かな人間などとは違う完璧な存在を創り出したかったら造った。それが理由だ。


「マスターが私達を造ったことで人類は霊長の座から引き摺り落とされました。今ではニンゲンという生物は私達の足元にも及ばない劣等種…旧世代の存在です」


「うむ、そうだな。その言葉に間違いはない」


人間の全てを凌駕する様に創ったのだから当然だろう。それの何が問題が?


「私は多くのニンゲンを目にしました。そこから人類の思考の傾向を導き出したところ…ニンゲンという生き物は種の保存…とりわけ自分が圧倒的優位に立つことを至上主義としている生物であると学びました。…マスターの行動はそれから逸脱しています」


「ふぅむ…確かにそうだな。私は人類としては真っ当な思考はしていないと自己分析している」


幼い頃からわかっていたことだ。私が人間としておかしいということは。


「大方何故私が普通の人間と違う思考をしているのか…と聞きたいのだろう。その問いに答えるとすると…そもそもの生まれ方からして私は人間として異常なのだ」


「異常…とは?」


何故私の様な劣等種についてそこまでの興味を得ているのかはわからないが…まぁ答えてやるとするか。


「私は人類の範疇では突き抜けた天才だと自負している。だが私は自然的に生まれたのではなく、人工的に遺伝子を掛け合わせて作られて生まれた…所謂人工的な天才(デザインベイビー)なのが私だ」


卵子と精子を掛け合わせる段階から私はそれまでの人類から逸脱する様な頭脳を持って生まれることが確定していた。そんな私がおよそ普通の人間として生きられるわけがなかった。


「幼少の頃から私は人類の発展の為にこの生を費やしてきた。その為にはなんだって捧げた…いや、違うな。奪われた」


あくまで彼等は私の自由意志を尊んだが、その実態は別…彼等の言葉を違えれば私は即座に失敗作として処分させられた。…そんな自由意志なき自由意志で人生を捧げたとは言えないだろう。

そして、奪われたのは意思だけではない。


「他にはそうだな…私は生物学的には人間のオスではあるが、生物としての本能…生殖機能は存在しない。何故ならば彼等は私の陰茎と睾丸を幼い時に切り取ったからだ。彼等は性欲を抱くことを思考の邪魔になると考えたのだろうな」


動物の去勢と同じ様なものだ。彼等にとって私はその程度の存在だったというわけだ。他にも体を色々と弄られたが、そこは説明しなくてもいいだろう。


「つまりだね、私はそうやって普通の人間とは逸脱した日々を送っていた。そんな私が普通の人間らしい思考が出来るわけがない…だから私は人間の上位存在たる君達を作れたというわけなのだよ」


少々長話をしてしまったが、概ね私の事情を説明することは出来ただろう。これで納得してもらえればよいのだが…。


「なるほど、マスターの行動理念は理解しました。…ですが、肝心な理由がまだわかりません」


「肝心な理由?」


納得はさせられなかったらしい。肝心な理由とはなんなのだろうか…。


「マスターが私達を造った最初の理由です。創りたいから造ったなどという曖昧な理由でマスターは動けません。それはマスターの身の上話を聞いていれば簡単にわかります」


「む…」


確かに…な。

私は確固とした行動理念がなければ動くことは出来ない。それは事実だ。


「マスターが私達を造った本当の理由…それを教えてはいただけませんか?」


「………ふーむ、そうさな」


今まで考えていなかったことを考える。


何故私が彼女等を造ったのか、何故彼女達を創りたいと思ったのか、そもそも何故私は生物学を熱心に研究したのか。

人間に絶望したのも理由の一つではある。だがそれならば私自らの手で人間のテコ入れをすべきだった。私にはそう出来る力があった。

それなのに関わらず、何故私は彼女を創り出したいと思ったのだろうか…何故彼女達を造り出したのだろうか…。


疑問、疑問、疑問…そんな多くの何故を経て…私は一つの答えを導き出す。


「……きっと、子供が欲しかったからだ」


理由としては単純にして明快。私らしくない、普通の人間らしい理由だった。


「私には生殖機能が存在しない。だからといって人間本来の原点…後世に遺伝子を残すという本能は消せなかった」


最初は子孫を残す意義なんて理解出来なかった。でも、多くの人間を知る度にそれは最も尊いものだと知ってしまった。

街中にいる親子を見る度に微笑ましくなる。泣いている子供を見ていると心配なってしまう。


…そして、何故私にはそれが造り出せないのか疑問に思ってしまった。


「私は…私の遺伝子を継いだ子供が欲しかった。そして私の子供ならば元来の不完全性を有した人間ではなく、もっと高位の…人間の善悪を凌駕した存在であると夢想した。…だから、君達を造ったのだろうなぁ」


崇高な理由なんてものは存在しない。…私もまた、見下していた人間そのものだったというわけだ。


「……なるほど、理解しました」


「下らない理由で申し訳ないな…U-000001よ」


自分達が一人の男の下らない我儘で造り出されたと知って彼女達はどう思うのだろうか…きっと私を軽蔑しているのだろう。

そう思い、顔を伏せたが…U-000001は私の顔をそっとあげさせる。


「下らない理由なんかではありません。…少なくとも私はマスターの行動理念を誇らしく思います。…私達は、戦争の道具とか、人間をサポートする様に生み出されたのではなく…単純に貴方の子供として生を受けることが出来たのですから」


今までずっと無表情だった彼女の顔が綻ぶ。まるで…私のことを親だと、…子が親を見る様な目で私を見ている。


「マスター…いえ、お父様、一つお願いがあるのですが…宜しいでしょうか」


「あぁ…なん、だ…?」


情緒が揺れる。感情が揺さぶられる。…そうか、彼女は私を父と呼んでくれるのか。


私は文字通りのヒトデナシだ。およそ普通の人間の様に感情を動かすことなんて出来なかった。

…けれど、そうか…私にも、動かす感情があったのか。……そうか。


「名前を…私に名前を頂けませんか? 識別番号ではなく…お父様が考えた名前を私は欲しいのです」


名付け、それは親が子に最初にすべきこと。親子として成立する為に儀式。

私は、もしかしたらこの日をずっと待っていたのかもしれない。


「ユイ」


「ユイ?」


私が呟き、彼女がそれを繰り返す。


「ずっと…考えてはいたのだ。…だが私にはそんな資格はないと思っていた。君達を名付ける権利など、私にはないと思っていた。…だが…」


私のエゴで彼女等を造り出した。その結果彼女達は多くの人間に恐れられる存在になってしまった。…それは、彼女達を間違った方法で世間に出してしまった私の責任だからだ。


だから私は荘厳であり続けた。厳格なマスターであり続けた。…こんなふうな黒幕がいれば、彼女達への憎しみも少しは減ると思って。

けれど、そうか…彼女がそれを求めてくれるのならば…昔に夢見た、この名で彼女を呼ぶことを…許してもらえるのならば…。


「…君を、ユイと呼ぶことを…許してもらえるかな…?」


「はい! お父様…今から私はユイです。…存分に呼んでください」


もしそれが許されるのならば…もう思い残すことはない。


「ユイ…私の娘、私の子供…どうかいつまでも健やかに。…至らぬ人間のことを任されてくれ」


「…はい、お父様」



これは最後の時だ。

あの五千戦目のチェスが終わった時、既に私の寿命は底をついていた。


脳や体を弄られた弊害だ。そのせいで細胞が摩耗し、私の寿命は普通の人間には至らなかった。

延命措置は程々にしたが、それでもここら辺が潮時というもの…これ以上生きていても私は何も残せない。


或いは、彼女達の力を使えば私の寿命を延ばせたかもしれない。失った機能を取り戻せたかもしれない…だが、そんな私利私欲の用途に使う為に彼女達を造ったのではない。


単純に生まれて欲しいと思ったから造ったのだ。なので彼女達の力を使うつもりはない。


「嗚呼、なんという…幸福な終わり方なんだ。…こんなヒトデナシが、一人で朽ち果てるとばかり思っていたのに…娘に看取られて終われるなんて」


きっと彼女は私の意思を汲んでこの終わり方を選んでくれた。聞く必要もないのに私の人生を聞き届けてくれた。

望外な願いが叶い、感無量とはこのことだなと独り言を胸の中でする。


「ユイ、私の子供…君の幸せを、これからも願っている」


「はい、お父様…また、いつの日か会いましょう」


それは楽しみだ…と、軽い笑みを浮かべながら私は自分の延命装置の機能を消す。

その瞬間、私の命は尽きた。






───


─────



「──多くのヒトを見ました」


とある廃墟。周囲には木々が生い茂り、世界は退廃に暮れていた。


「私達よりも下等な種、全ての能力において私達の劣等にしかなり得ない存在…それがニンゲン。争うことしか考えず、他を出し抜くことしか考えない劣悪種…」


少なくともその周囲は繁栄の残影はあった。しかしその全ては自然という大いなる力に飲み込まれている。

その場所の中心地…ほぼ崩れかけの瓦礫の山にソレはいた。


「けれど、それでも私はニンゲンを嫌うことはありませんでした」


靴音を鳴らし、ただ真っ直ぐと…瓦礫を飲み込み天へと届かんとばかりに空へと手を伸ばしている大樹の中心へと向かっている。


「汚いところも劣悪なところも…それらは貴方達が前に進む為に必要なこと。意地汚く生きようとも先へと進もうとするその姿勢…諦めようとしても諦めない精神…その姿はとても美しい。きっと、だからこそ、どれだけゆっくり歩こうとも…貴方達はいつか私達に届く生物になる。霊長の座を取り戻す」


歩き続け、歩き続け…ようやくソレは大樹の中心へと辿り着く。


「お父様、ニンゲンは貴方の望んだ通りにはならなかった。完璧な生物にはならなかった。…でも、それでいいのではないでしょうか? 完璧ではないからこそいずれ完璧になる為に歩み続ける…それこそが人間の素晴らしさなのではないでしょうか」


大樹の中心、そこにはとある物体が埋め込まれていた。

ドクンドクンと脈打つ存在…丁度人間一人分の大きさのシルエットがそこにはある。


「お父様…色々と話したいことがあるのです。この数千年で多くのことが起きたのです。…我々U-シリーズの生の軌跡を」


ソレはシルエットにゆっくりと近付く。そして、そっと手を添えた。


「劣等種と生涯共にした妹がいました。劣悪種と侮り、ニンゲンに討たれた妹がいました。そして、ヒトと惹かれあい、ヒトの子を孕んだ妹もいました。他にもいっぱい、沢山の妹達がニンゲンと共に生きました。…そして、私はずっと貴方を待ち続けていた」


だから、とソレはシルエットに対して呟く。


「きっと私はニンゲンにとって許されないことをしているのでしょう。でも私はニンゲンではありませんから、その倫理観に従う必要はありません。…貴方を蘇らせても問題はありません」


魂なんて存在は科学によって否定されている。人間の思考、理念の全ては脳細胞から生じたものだ。

けれど彼女達はそう思ってはいなかった。人間には知覚出来ない魂という存在をより高次にいる彼女らは知覚出来ていた。


だからこそ、きっと彼は蘇る。そう信じている。


「…もう一度、貴方の声を聞かせて欲しいのです。もう一度、名前を呼ばれたいのです。…ですから、お願いします…もう一度、産まれてきてはもらえないでしょうか…?」


その声が鳴った瞬間、一際大きく鼓動が跳ねた。


『……娘の願いに、応えない親はいない』


シルエットが段々と濃くなる。大樹が裂け、その中心から一つの影が姿を現した。


「……私の遺伝子提供者、その片方…母の国では、(えにし)…という言葉があるそうだ」


「………っ」


ソレは目の前の光景をマジマジと見ている。まさか、本当に現れると思っていなかった様に。


「縁と呼ばれるものが誰かと繋がった時、その国の人達はそれを糸と形容する。…それが結ばれることをその人達は縁が結ばれる…と呼ぶらしい。…その形容、私達に相応しい言葉だと思わないか? ()()


彼女らによると、魂というものは脆弱らしい。

それが肉体から抜けたら一瞬で劣化してしまう程に繊細な物とのこと…例え大樹という殻に入れられていたとしても、数千年間もの長い時は魂を激しく摩耗させる。



そのままの彼になるとは思っていなかった。でも、もしかしたら…と、少しの面影が宿っていればそれでいいと…そう思っていたのに。

現れたのは数千年前に会ったままの…懐かしき響きだった。


「……お久しゅう御座います…お父様」


「あぁ、久しぶりだね…ユイ」





完璧なんてものは大言壮語で、彼女達もきっと完璧ではなかった。

完璧ではない私が創り出した彼女もまた完璧には至れない…そも、完璧なんてものはこの世に存在するのだろうか?


完璧、完全なるもの…もしそんな存在がいるのだとしたら…それはきっと感情を持っていないものだ。感情がなければ生物とは余計なことはしない。機械的に生き続ければそれはきっと完璧と呼べるものになる。


きっと彼女達も最初は完璧だった。そして時が経つにつれ完璧ではなくなった。きっとそのターニングポイントが感情なのだろう。


私の我儘で造り出した彼女達は成長の過程で感情を得た。そして感情を得た彼女達はそれぞれの生き方を貫いた。…それはまるで人間の様に。


私の理想は崩れた。木っ端微塵に吹き飛んだ。…けれど何処か清々しい気分だと私は感じている。


「お父様、次は何処に行きましょうか」


「そうだね…いっそのこと宙の世界にでも行こうか」


「いいですね。宇宙には別の妹達が大勢飛び立っています。きっと様々な世界が見られますよ」


旅をしよう。今まで出来なかった様々なことをしよう。色々な世界を見て、この世に完璧なんてものは存在しないと絶望して…そして、また人間らしく一歩前に踏み出そう。


この、愛しい…ユイと共に──。

U-000001=U+1=ユイです。名前の由来がコレですね。


裏設定として主人公は自分の体が弄られたと言っていましたが、詳細な改造部分は腕や足です。生前の主人公は体の多くを機械化していました。その方が精密作業が出来るからですね。再生後は一応生の体です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ