34:現れしもの
自分は赤い竜の一族に名を連ね、赤竜の主たる蘇芳様の右腕として共に長い時をこの世で過ごし、竜の習性は身を持って、深く深く理解している。
『自らの宝』と定めたものへの渇望とも言える執着心。
それは世に生きる他の生物とは比べ物にならない程に、強く根深い。
それはもう「執着」の一言で片づけられない程のものだ。
『宝』を奪われるような事態になった場合、同じ一族だろうと血を分けた竜であろうと、本気の殺し合いとなる。
竜の種族の中でも、「赤竜」は更にその傾向が強く蘇芳様は、顕著だ。
蘇芳様は、世界に生まれ落ちた時に定めた「宝」を辛抱強くただひたすらに求め、待ち続けていた。
今まで長く共に過ごし、そのことを痛いほどに理解している赫羅であったが、今日、その考えを改めなければいけないと、思い知った。
蘇芳様だけでなかった。
はじめの竜達の執着は、尋常ではない超絶した域にある。
「アカツキが可愛いが過ぎて!美し過ぎて!尊いっ!!………私は、もうっ、どうにかなりそうです!もう、世界なんてどうなろうとも構いません!どうなっても知ったこっちゃないです!アカツキがっ、私の腕の中で眠っている姿を見るだけで、アカツキが側に居るだけでっ、私の心臓は今にも止まりそうです!」
意味不明の雄叫びをあげ赤面した顔を両手で覆って、広い広間の大理石の床をゴロンゴロンと転げ回わる………この方は、私の知る白竜様と同一人物で、間違い無いのだろうか?
アカツキ様がいらっしゃるまで、寡黙で冷静沈着、必要以上の言葉を発さないクールビューティーと信じて疑わなかった白竜様が、―――何処の乙女かと聞きたくなる勢いできゃーきゃー叫んでおられる。
信じがたい光景を前に、赫羅は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
これは、見ないふりをした方が良いのだろうか?
主に目を向ければ、「素は実はこっちだから放っておけ」と蘇芳様が首を振る。
放っておいても、大丈夫なんですかね?これ……。
最早怖いんですが。
「うるっさいぞ、白!!今直ぐ心臓止めて脱落しろ!。アカツキの事は心配するな。俺が責任を持って幸せにする。なんと言っても、アカツキが最初に来たのは俺の所だからな!俺が最初に念入りにマーキングしたんだ!!」
自信満々に胸を張る青竜様は一見普段と変わらないように見受けられますが、青の宮から赤の宮に毎晩文字通り飛んできて、アカツキ様のベッドに真っ裸でダイブされてますよね?
いつもキリリと軍服を着こなす立派な方でしたのに……。惜しい方を亡くしました。
「創主のたまたまを引当てただけで偉そうにっ―――――!」
あ、蘇芳様の飛び蹴りが青竜様の鳩尾にクリティカルヒットしました。
流石の青竜様も痛そうです……。鳩尾を押さえてしゃがみこんでおられます。
「簡単に刺客に入りこまれて危うくアカツキを奪われそうになっておいてよく言うな、青いの?!毎晩毎晩アカツキの寝床に飛び込みおって!即刻自分の宮に帰れ!修繕改修が終わるまで自分の宮に引っ込んでいろ!お前は出禁だ!!今晩こそ俺がアカツキと寝るんだ!」
蘇芳様。
今日だけで普段の1年分位お話しになってますね。
そんなにアクティブに動いて話せるなら、私に執務を振らないで、ご自分で処理していただきたいです。
「駄目ですよ。今日は私がアカツキと共寝するんです!ここからです!ここから!私に振り向いてもらって、愛でるのです!もう我慢の限界です!!私のモノにして宜しいですかね?!」
白竜様が、エロ乙女と化している。
あの、ノーブルだった白竜様は何処へ消えてしまわれたのか………。
「「宜しくない!!エロ竜はとっとと自分の宮に帰れ!!!」」
蘇芳様と青竜様の声がタイミングから発生まで揃った。
結局お二人は仲が良いですよね?
私が見る限りタイプも似ているので、ご意見が衝突るすることも良くおありになる。
世界の神たるは三竜様が、宮中に轟く咆哮をあげわちゃわちゃとじゃれ合う?姿は、微笑ましくもあり、怖くもある。
宮が――――――――壊れないと良いのですが。
自分の住まいでもある赤の宮が破壊されないことを赫羅が祈りだしたその時。
ばりん!と空気が音を立てて、赤の宮全てを包んでいた赤の竜の結界が粉々に消え去った。
これは、三竜の覇気からのモノではない。
外部からの攻撃でもない、内からの―――――巨大な力が、赤の宮の主である蘇芳の作った強力な結界を粉砕したのだ。
「これはっ――――――――?!」
白竜ー白蓮が、いつもの冷酷な顔つきに瞬時に戻り立ち上がる。
「―――――あの野郎かっ!!」
青竜ー蒼天が血相を変えて走り出す。
「――――――――今更だっ!」
赤竜ー蘇芳が、二人と肩を並べる程の体躯に変化し、背に竜の翼を広げると、一気に空を切った。
三竜が向かう先は、ただ一つ。




