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【引越し先で完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜  作者: MINORI
【二の章】

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29:名乗ります そして 泣かれます

 白い竜の赤眼は、深いルビーの赤で、恐ろしいというよりも不思議と親愛の情を感じた。

 赤眼が透明な幕に覆われ、潤み、光沢を増してゆく。

 その眼に、暁は引き込まれた。


 赤い竜の名を記憶にないのに思い出したように、目の前の白い竜の名を自分は確かに知っているから。


 天狼が話してくれたように彼のかけた護法が解けたのか、スウが解いたのかはわからない。もしかすると彼らの導き手を思う深い心情のせいなのかもしれないが、この白い竜には自分の姿が確実に見えているらしい。


 目の前の白い竜の名を、暁が口から零した。

「――――ハク」


 呼びかけられて、白い竜は、その赤い瞳から透明な涙を流した。

 瞬きもせず暁のみを見つめ続けて、全身の輪郭を無くし人型に変化すると歩を進め静かに近寄ってきた。


 長い間待ち続けたただ一人の相手から、その人にしか呼ばれない愛称で自分を呼ばれて、今、彼の感情は爆発しているということは、ソウやスウを見てきたからわかる。


 わかる、わかるが。またこれだよ・・・。と暁は手元の掛け布を引っ張りハクに向け差し出した。


「せめて、これ巻いて・・・」

 ソウに続いての真っ裸である。

 それだけバキバキの体であれば恥ずかしいも何もないのかもしれないが、どうやら竜とは羞恥心の面で完全に相違があるようだ。


 真っ白い雪みたいな長い髪が(くう)に散り、白い竜―白漣(はくれん)―は周りの静止になど耳も貸さず、寝台の上の暁に飛びついた。

 暁の膝に居た瑠璃をころりと端に転がし、背後のクッションの上の蘇芳を張り手で倒すその冷静さは見事言えよう。

「・・・宵姫(よいひめ)

「――――姫っ・・・?!」

 肋骨骨折の痛みを超える衝撃にさすがの暁も声を上げた。


 この世界に来てから様々な呼び方をされてきたが「姫」呼びにはさすがにどうかと思う。

 当初はそんなに長い期間この世界には居ないだろうと考えて、誰にどのような呼び方をされても意に介さなかった暁ではあったが「姫」呼びまで飛び出した今、呼び名の統一化を図ろうと瞬時に決意した。


「・・・(あかつき)って呼んでもらっていいかな?いろんな呼び名で呼ばれるとなんというか、変な感じで、スウもみんなも、いいか?」


 瑠璃は転がされたことに文句はありそうだが、嬉しそうに暁の方に飛びついて「うん!」と大変良い返事をくれた。


 が。


 凍り付いている。

 張り手を食らった、スウが。

 今まさに抱き着いている、ハクが。

 そして、少し離れて控えていた、赫羅が。


「・・・?」

「どうしたんだこいつら、固まったな」

 首を傾げる暁に瑠璃が肩口で訝し気に呟く。


 ハクの張り手で天井を仰いでいたスウが、のそのそとベッド上を移動して、ハクの背中に乗り上げ暁に顔を突き合わせた。

 銀色の真剣な目が暁を射てくる。


「お前の名を、呼んで、いいのか?―――教えて、くれるのか?」


 何故そのようなことを問われるのか、今の暁には理解が出来なかった。

 だが、その意味を聞かなくても名前を教えることに()()()()躊躇はなかった。


 この世界で名前を伝えることが何を意味するのか、それを知らぬまま、暁は口を開いた。


「ああ、そういえば、名乗ってなかったな。オレの名前は、(あかつき)真行寺(しんぎょうじ) (あかつき) という。こっちの世界の家名と名前の順序がわからんな・・・真行寺が家名で、暁が名前にナリマス」




 暁が「今更感が強い」と少々バツが悪そうにそう名乗ると、赤竜―ソウと、白竜―ハクはこれ以上開かないというほどに目をむいた。




 彼らの頭の中に記憶の中の一番大切な人の声が響いていた。


『名を持つと、この世界のものとなる―――』


 けっして名を明かしてくれなかった彼らの導き手であった一番星。一番星はいずれこの世界を去る定めにあると、その名を最後まで教えてくれることはなかった。

 だからこそ、その悲しみを打ち払う為に、みんなが皆それぞれに違う名前で一番星を呼んでいたのだ。


 その一番星の姿を顕現したものが今、目の前にいる。

 そして、あろうことか、その名を今、教えてくれたのだ。


 一番星とは色と性別は違っても同じ姿と記憶の断片を持つ目の前の相手が、名で呼んで欲しいと言ったことは、彼らにとり衝撃以外の何物でもなかった。




 暁はこの世界のものになってくれるというのか?

 二人は声もなく滝のように涙を流し始めた。




「え・・・と、どうした?」

「どうしたも、こうしたも・・・あるかっ?!」

「――――――っ」

 ハクなど声も出ない様子である。


「俺の愛しの君は、名だけは絶対に、教えて――――くれなかったんだ!!」

「私の宵姫もです・・・」


 全部別人に思えるが全て同じ人物を指しているというのは、本当に面倒くさい。

 早く話を纏めてしまおうと暁は続けた。


「オレはあなたたちの大切な人とは違う人間だ。最初の記憶、というか、オレの転生の最初?人格?らしいけど、ドラマでも見た感じで印象的なところの記憶があるというか、う~ん説明が難しい」

 どらま?と全員が頭にクエッションマークをだしているのに気付き「まあ、いい」と、暁は最後に結論だけを言い切った。


「あなたたちの呼ぶ「愛しの君」とも「宵姫」とも「星の君」とも、オレは別人格の別人だ」

 

 胴回りには相変わらずハクがしがみ付き、その上にはスウ、肩には瑠璃。ちょっと離れたところに赫羅。

 彼らはみんな一様に子供みたいな純真な目で暁をきょとんと見つめてくる。

 これは、あの青の宮の地獄の飲み会でソウに話した自分のことをもう一回話すしかないのだろうか。

「・・・オレの、今までを話した方がいいのか?」

「「「「 話して欲しい 」」」」 






 ◇ ◇ ◇


 大きな寝台とはいえ大男3人を含む5人(うち仔竜1匹)が全員乗り上げての長話は無理だと、絨毯敷きのフロアにクッションを敷き詰め、全員で車座になり食事を取りながらの、暁は自分の今までを話した。


 自分は100回目の転生体で他の世界から天狼の世界にゲートで渡り、そして天狼によりこの世界に飛ばされたこと。

 毎回黒い竜に殺され、その都度別の世界に転生し、また黒い竜に殺されること99回。

 初回の記憶以外の全ての転生の記憶は自分の中にあり覚えていること。

 この輪廻の輪を断ち切り良い意味での死を迎えるために、初回の記憶が必要な事。

 死ぬ前の希望として可能であれば、心と感情を持ってみたいこと。


「黒い竜に、人間・・・じゃなくて、アカツキが殺される・・・?」

 瑠璃が表情を陰らせたが「あれ?」と続けた。

「感情がないって嘘だろ。アカツキ笑ったり怒ったりしてるぞ」

「俺もそう思う」

 瑠璃の言葉に頷くスウに暁は苦笑した。

「こっちきてからそうみたいだ。瑠璃とアイに言われるまで、気付かなかった。笑ったり怒ったりしてるのか、オレ?」

「今も、笑っていますよ」

 暁を見つめて、ハクが幸せそうに笑う。


「今までの99回の転生は、記憶は繋がっていて殺されるところも、そこから次の世界に生まれるところも、つなぎ目なく全部覚えていて、人格も、ひとつだと・・・思う。でも、最初のはじめの記憶はなくて、みんなが言う導き手?一番星?は、自分だったとしても自分ではない。と思う。人格が、違うみたいな・・・」

「魂が違うのかもな?」

 スウの言葉にハクが声を上げる。

「そんなはずは?!こんなに―――――」

「人は生まれてからの成長と共に、精神も成長して性格や考え方なんかも変化していくだろう?魂も、同じかもしれない。俺たちが知っている一番星の魂と、それから色々な世界を99カ所も渡って成長してきた、今のアカツキとは、変化があって当たり前かもしれない」


 スウの言葉は、暁のどこか深い所にゆっくりとしみ込んできた。


 胸のあたりがじんわりとあたたかくなってくるのが分かる。

 もしかしてこれが、心とか、感情とかいうものなのかもしれない。


 胸のあたりに手を当てて、そんなことを考えていた暁の頭をスウがぽんぽんしてきた。


「折れたところが、痛むのか?」

「骨折とは別なところになんかが、じわりと」

 そっか。っとスウがにかりと笑う。


「しかし・・・アカツキ、許しがたいことを言ったな」

 スウは暁の手を取って眉を寄せそんなことを言いだした。

「はい?」

「お前、初回の記憶を取り戻して、死ぬ気なのか?」

「その前に生贄にされて死にそうだけどな」


「「「「 そんなこと!! 」」」」

 暁を除くすべての竜の言葉が重なった。


「許すわけがないでしょう!!」

「許さない!!」

「許さん!!」

「許しません!!」



 全員一致のお言葉の後、ハクの叫びが室内に響き渡った。



「あんの()()()()()()妄言など、竜の鉄槌を持ってぶち壊します!!」

  

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