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【引越し先で完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜  作者: MINORI
【一の章】

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24/39

22:生贄ってオレがですか?

 びっくりした。

 そして、嬉しかった。


「人間!痛いことはされていないか?腹は減っていないか?」


 目の前に突然瑠璃が現れて、飛び付かれて、顔を擦り付けてくる。今まで何に対してももそんなこと思った事もないが、可愛いと思った。

「それはオレが聞きたい・・・傷は、大丈夫なのか?って、傷・・・ないな、治癒早いな、瑠璃」

「?———お前が治してくれたんだろう、人間?」

「オレ?まさか、それはないと思うけど」

 二人してお互い逆に首を傾げた。


「・・・あの青い花、やっぱりお前が持ってきてくれてたんだな」

「・・・へㇸ」

 顔を見合わせ笑っていると、すぐ側から物凄い殺気を感じた。今この場の状況を思い出した暁は、瑠璃を背中に隠しアイに向き直った。

 そこには、この10日間で見たことのない顔をしたアイが髪を逆立て、暁が背に庇った瑠璃をその眼差しで射殺せる程に睨みつけていた。


「———黒竜(こくりゅう)の眷属・・・!?」


 その瞳孔は縦に開き、彼が青竜の眷属の高位竜であることを知らしめる。


「っこの子は、オレの命の恩人だ。傷付けることは―――」

「いのち!そうだ!お前の命が大変なんだ、人間!!」

 暁の言葉に割って入った瑠璃が、庇う彼の右肩によじ登り顔を突き出し声を上げる。


「お前!ここにいたら捕まって、生贄にされるぞ!?」


 生贄。

 その一言に、アイの殺気が一瞬で消え、別の怒気を孕んだ。






「色が黒いことはひとまず置いておきます」

 そう言って、アイは「コト」の顛末を話すように瑠璃に頼み込んだ。


 同じ竜同士だからだろうか、嘘をついているかどうかは分かるらしい。

 そして、瑠璃の語りだした話は、暁には正直腑に落ちなかった。


 あの水の神子様とやらが、ソウの言うところの「偽物アステル」さんと共謀し、オレが異世界から現れることを予測し、攫って生贄にして力を得ようとしていると・・・。

 そして、なになに?

 やはり、姿は見えていなかったと?「偽物アステル」さんからの伝え聞きをそれっぽく言っただけだって?凄いね、あのグリーゼさんとやら。女優になれる。

 


「私への実験でわかった通り、アカツキ様がご自分の「黒色」を自己申告しない限り、周囲の者は貴方の髪色が黒であることは認識できず、姿すら見ることはできない。これが創主様の護法なのでしょうね」

 アイが納得いったように呟いたが、その言葉に今度は瑠璃が首を傾げた。

「人間が見えない?月のない夜みたいな真っ黒な髪に、満月の夜空の群青色の目で、こんな綺麗な人間、俺は見たことがないぞ」

「瑠璃には、最初からオレがそのまま見えてるんだな」

 綺麗なんて言葉は女性への褒め言葉だとは思うが、そこを突っ込むと話が逸れそうなので暁はあえてそこはスルーすることにした。

「・・・黒竜は、我々と少々成り立ちが違いますから、護法の効き方と解除のルール付けがまだはっきりはしないですね」


「黒竜は」というアイの言葉にひっかかりを感じた。

 瞬間瞬いた自分に気付いてか、アイは小さく息をついたもののそれには触れず言葉を続けた。


「長の悪い予感は当たっていたようです。神殿サイドがどう動いてくるか予想が出来ない今、長が戻られるまで、アカツキ様はこの部屋からは絶対に出ないでください。そして、ないとは思いますが、私以外のものと対峙した場合、()()()、ご自分の色をお話にならないでください」

 ・・・「絶対に」に掛けた圧力が凄い。今まで感じた中で最大のアイ君の恐ろしい圧力に、ひとまずは「はい」と頷くしかない。


「先程もお話ししましたが、長は、今日明日中には戻られると思います。『生贄』なんてありえないことを言い出している()()()()に必ずや青の竜神としての鉄槌を下すことでしょう」



 しかしいきなりの「生贄」って何でだ?いきなり凄いワードが降ってきたものだ。

 異世界人って、生贄にすると御利益があるものなのか?

 異世界転生など99回もしてきたが、そんな事を聞くのは初めてだ。

 自分を殺しても何も出てきやしないぞ。


 もはや呆れ返って月を眺めだした暁の側で、二人の竜は論義を交わしている。


 瑠璃が「あいつ等全員魂が腐っている」と言えば、「長の指示で泳がせてはいたものの許容範囲の限界値を超えている」とアイが頷く。

「全員消し炭も残らず燃やしたい」と瑠璃が言えば、「一度氷柱か水責めのした後にしてください」とアイが続ける。


 ・・・黒竜は排除するって言ってたわりに、仲が良いデスね。妙に反りが合っているようにしか見えません。

 そんな二人を見ながら、暁はふと考えた。




 自分に対する執着が想像を超えてくる天狼が黙っている?・・・ああ、転生には関われないと言っていたから、静観するしかないのかもしれない。

 それとも、早いとこ結果を出して、自分をあの「次元圖書館」という彼の世界に戻す為の布石をうったのだろうか。


 いや、それはないなと、暁は思う。。

 掴み所のない人(神?)ではあったが、誰かをを使ってまでそんなことはしないだろう。

 天狼は、確実に自分で動くタイプだ。


 自分の『初回の記憶』に関しては、「動かない」というより、「動けない」と言った方が当たっている気がする。

 この考えが正しいのだとしたら、瑠璃が言っていた自分を生贄としたいものは・・・長い間、99回も自分を殺してくれた、あの「黒い竜」に繋がるのかもしれない。



 この時暁の頭にはそれが一つの仮説として立った。



 その時だ。藤色の桜に似た花の花弁が、また視界をかすった気がしたのだ。


 天狼は『初回の記憶』があるこの世界の6匹の竜に会う必要があると言った。

 会えば、鍵がパスワードが見つかると。



 暁は静かに立ち上がると月を見つめた。

 月は下弦の月を超え、刃の様な二十六夜月に近付いている。


「人間!!」

 ひょい!と瑠璃が右肩に飛びついてきた。

「人間と一緒にいていいって、あの竜が言った!青い竜なのに意外と話が分かるヤツだな!!」

 満面の笑顔で頬にすりよる瑠璃の額を暁は撫でてやった。一緒にいられるのは暁にとっても嬉しいことだ。

 何故かこの仔竜は自分のなかにするりと入ってくる。

 スイ以外にはなかったことだ。


「意外と話がわかるらしい」アイに視線を向けると、彼は苦笑を向けてきた。

「アカツキ様の守護は多い方が良いですし、その黒竜がいると、貴方の笑顔が増えますので」


「笑顔?」


 自分の笑顔。というとスイ曰く、口元が2ミリ上がるという、あれか?

 それがどうした。と暁が思ったのを気付いたのか、アイは軽く頭を振った。

「その仔が現れてから、アカツキ様はとても嬉しそうですよ」

「おれが来たのが嬉しいんだな。人間!」


 首元に尻尾を巻いて甘えてくる瑠璃に、暁は目を瞬かせるしかなかった。

 

 嬉しい・・・?


 それは、「感情」と言われるものだということは知識としてだけ知っていた。


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