17:会談という飲み会?2
ソウがテーブルの上に地図を広げた。
地図の中央には一番大きな大陸があり、海を挟み、それの左右に大きさに差はあれど、中央の大陸よりも少々小さい大陸が描かれ、その他小さな島国などが数多く点在していた。
前の世界の世界地図に似ているな。と暁はそれをじっと見渡した。
中央の大きな大陸は、ユーラシア大陸に似た形をしていて、左の大陸はアフリカ大陸?、右の大陸は北米と南米か?。世界地図の不思議な共通点にどういうことかと眉が寄る。
ソウが中央にある大きな大陸を指差す。
「これが、アルタイア大陸。6神の竜が住まい守護する大陸だ。メインはこの大陸だが、左右の大陸も他の島も、竜が守護することには変わりがない。国で分ければ大小それなりの数に分かれるものの、大まかな勢力分布は3つに分かれる。簡単に言うとその分類を『界』と呼んでいる。・・・創世の頃は、世界はそんな風に分かれてはいなかったのにな」
はじまりは何だったか・・・。
悔しそうな顔をして、ソウが語りだした。
◆ ◆ ◆
はじめの6体の竜が世界に色を付けた後、様々な生き物が世界に生まれた。
その中でも「人族」は生まれたばかりの世界の中で、他の種族の生き物と比べて生き抜く術が極端に少く、このままでは消滅することは目に見えていた。
相手の牙に対抗する強固な外皮も、相手を倒すための鋭い爪も持たず、世界で生き抜くための『魔力』も持っていない。
対して、竜族は世界最強を誇る。
生物としての生存能力の高さもだが、その魔力量も多量で「はじめの竜」6神と、それに近い力のある竜は単体生殖が可能。分裂または別の個体を自ら生みだし、種族を増やすことも可能だ。竜の血を持つということは、この世界の生態系では最上位クラスに位置することになり、強者としてこの世界に生きることが可能となる、最強のカードだ。
そんな竜たちは「人族」に憐憫の情けとして力を貸すことにした。
力のある竜が、人族に自らの血を自らの意思で与えれば、その人族は竜の眷属となり、竜の持つ強力な魔力をその身に宿すことが出来るのだ。
滅びを待つだけだった「人族」に竜の血は光明を与えたが、それと同時に闇も生んだ。
竜の血を受け種族を守ることが出来るようになった「人族」は、種族の存続の為に竜の血を繋げる事を主命とし、竜の血を持つ者同士で婚姻し、子を産み、竜の血を持つ者を後世に残し続けたが、「魔力を持つ者」と、「魔力を持たざる者」とに「人族」の種類を二分することになってしまったのだ。
◆ ◆ ◆
竜の血を祖先にもつ血筋は、今の世でも普通の人間にはない魔力を有するそうだ。
「世界には魔力持ちはまあまあ多い。『はじめの竜』の俺達は滅多に血を与えたりはしなかったが、高位竜族の一部は、結構血をばらまいたからな。その家系の者たちは今の世でも魔力を持っていて、気付けば竜族に次ぐ力を得て、人数でいけば世界で一番の勢力となった」
魔力=魔法だ。
魔力がないと、魔法は使えない。
ソウは説明を続けてくれる。
竜の血を祖先に持たない者たちは、魔力の代わりに、『魔術』を生み出した。
魔術は、才能と努力で空気中の『魔素』を取込み、魔法陣の術式を憶えれば、魔法の使用が可能となる。
「魔力持ちは特権意識が高く、魔術師と、魔力も魔術も持たない人間を自分たちより下に見る。命には何の貴賤もないというのにな。」
「オレが前に居た世界も、人が人を区別して住む世界分かれている国は、あった」
「・・・徹底的にか?同じ人族同士で、主従が分かれ、殺すことも厭わない程にか?」
湖畔で刃の声を掛けてきた時の冷たい目で、ソウは暁を見てきた。
「・・・民族紛争で戦争が起きたり、貧富の差で、問題が起きたりは」
あった。と呟く暁に、ソウは諦めたように酒を煽り、天を見上げた。
「———更に人族は、魔法にも種類をつけて、世界を3つの『界』に分けてしまった。危なっかしくてほおっておけない俺達は、自分の特性に近い地域を守護するようになった。白魔法エリアの『神界』と黒魔法エリアの『魔界』、それ以外の『中間界』とに分かれていて、この深樹海がある南西海岸付近は青竜である俺が守護している地域で、中間界にあたる」
白魔法は癒しや光関連の力。
黒魔法は攻撃や防御。
自然関連の水・火・土なんかは、白黒魔法のどちらでも使えるそうだ。
「白魔法使い達はやたらと黒魔法使いを嫌う。闇だなんだと風潮して、黒魔法エリアの人間を魔族と呼び、自分たちを神族と呼ぶ。阿呆らしい」
夜が来なかったらどう寝るっていうのか?
真昼の昼寝と、夜の眠りの違いをあいつらは理解していないと、子供みたいにじたばたと手足を動かし、テーブルに突っ伏したソウの頭を暁は「よしよし」と撫でてやった。
「どこの世界も同じだな」と思う。同じカテゴリーの種族をどこ世界でも何故か優越を付け、「持つ者」と「持たざる者」に分けてしまう。
「人間って、馬鹿だよな。だけど、それと同時にそうでない人間も確実にいるのは確かだけど」
「アカツキ」
お前。お前。と呼ばれ続けていたので、初めて名前を呼ばれて、暁の目が2ミリ程見開かれた。
「お前は、優しすぎる」
「・・・初めて言われるが」
「だからこそ心配だ・・・。『俺から離れるな』『この宮からは絶対にでるな』と言ったのには理由がある。グリーゼには、気をつけろ。あの女は・・・俺が過去に一度だけ、血を与えた人間の末裔だ。かなり血が薄まっていたはずだが、あれは突然変異でかなりの魔力を持っている。あの女は本当に強欲で、今よりももっと強い力を得るために、俺に媚び、血を得るために、この神殿の神子になった」
物凄い勢いで言い切ると、ソウは立ち上がった。その勢いで椅子が音をたてて倒れた。
「グリーゼは、俺の血を得て、自分の魔力を上げる事しか眼中にない。『光の聖女』の腰巾着だ。水の神子とはいえない・・・」
「本当に、嫌いなんだな」
「嫌いどころの話ではない。この世から抹消してしまいたい女ナンバー2だ」
これは大分酔っているなとは思ったが、「ナンバー2」ということは「ナンバー1」がいるということだ。自分も大分酔ってきたのか?つい気になって「抹消したいナンバー1は?」と暁はソウに聞いてしまった。
「アルラキスだ。俺はあの女が世界で一番大っ嫌いだ。『アステル』と同じ姿を持って、アステルの生まれ変わりだと、アステルをまねる。自分はアステルだを言い切るが、中身は真っ赤な偽物で、言動がまるで違う。見るだけで吐き気がする。俺の『アステル』はあんな女とは絶対に違う!!」
アルラキスって「光の聖女」とか言われていなかったか?
聖女といえばラノベに良く出てきた神の使いの聖なる乙女だろう。これはもう本当に完全に泥酔に近いな。天下の竜神が「とぐろ」ならぬ「くだ」を巻きだしてしまった。
自分のことは棚上げし、そんなことを思った暁ではあったが、自分とて日頃の酒量は完全に超えており、言わなくていい、常ならばそんなことはないうっかり発言を続けてしまう。
「同じ顔が3人説の3人目がいるのか?凄いな」
「違う!絶対に違う!!あの女は『説』のカウントに絶対に含めない!!お前は『アステル』と色と性別が違うのに、アステルの姿で、アステルではないという。世界に3人いるそっくりさんの一人で別人と言い切るが、俺のアステルと言動が似てる。アステルと別人とわかっているのに、言動が似ているお前とともにいると、胸の辺りが、温かくなる気がする・・・」
酔っぱらいの青竜がトコトコと近付いてきて、椅子に掛けたままの暁の前に膝をついた。
「グリーゼに、あの女には近づくな。今は、創主の護法があるからいいが、どの状況で効力が切れるかわからん。お前の黒髪に気付いたら、あいつは何をしでかすかわからない」
「・・・」
この竜は、なんで自分に跪いているんだろうと、ぼんやり考える。
「あいつは、魔力はそれなりにあるし、アルラキス似ているとか言ってたってことは、顔の認識はあったということだ。お前の顔は見えていたということだ」
暁の事が心配でならんと、手まで握られているのに、振りほどく気にもならない。理由はわかっている。
「・・・疲れた―――」
本当に、口が疲れた。
「オレは、今まで生きた転生人生の中でこんなに話をしたことがない。もう、限界だ」
「ならもう寝るか?寝るなら一緒に寝るぞ」
「・・・耳まで疲れて幻聴が―――」
何て言った?と尋ねようとした時だ。先刻の再現か、またもソウの肩に暁は担ぎ上げられてしまった。
「お前は創主の匂いが濃くて、他の竜を呼ぶ。一晩一緒に寝て、俺の匂いを付けたら、俺の眷属と間違えられて安全だ。竜は匂いに敏感だから、他の竜の匂いがあれば、近寄らないから一石二鳥だろう?」
「———本当に、何言ってんだ?」
この酔っぱらいは想像の斜め上を行き過ぎて、もはや何を言って、何でそんな結論に達しているのか、いろんな世界で色々な変わり者を見てきたが、こいつは一味も二味も違いすぎる。なんとか肩から降ろしてもらおうと頑張ってはみるものも、こちらも酔っぱらいである暁の力は微々たるもので、ソウはびくともしない。
「竜の執着は物凄いから、下手にちょっかい掛けたら、喧嘩どころでは済まないからな。はっはっはっ」
「どうでもいい!そんなこと!!降ろせったら降ろせ!!」
感情がない。とはどこへやら。
自分史上初の雄たけびを上げる暁に、ソウは本日最高の笑顔で竜の神髄を説いた。
「竜の執着はすごいぞ。
一度自分の宝と決めたら、腕の中から離さない。絶対にな」
・・・酔っぱらいのせいで、2話分位の長さになってしまいました。お付き合い頂いた方にお礼申し上げます。