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11:青竜1

 初夏も近い真昼の時に、天啓が降りた。

 天からの光が空を切り裂いた。あの光は、創主のなんらかの啓示だ。


 それは一瞬にして理解できたものの、胸に突き刺ささるような、痛みと痺れ、そこからじわりと広がる、温かい()()()が、長い長い間失っていた、胸の空虚を埋めていくような感覚を感じ、青竜は湖に伸びた光の柱を茫然と見つめていた。


 深樹海の一番深い場所とされる森の中央部『秘された竜の涙』の(ほとり)の少々小高い丘陵に、湖を望める6神の竜を祀る神殿が静かに存在している。祭祀に関わる高位の神職と選ばれた神子しか足を踏み入れることが出来ない祭祀場には、6神にならった6本の石柱が大樹に負けない高さで円形に配置され、その頂点には彼らのつかさどる世界の色を帯びた丸い宝玉が飾られている。


 青い宝玉の飾られた石柱のその宝玉の上に、青竜は立ち尽くし、視界の先に輝く「光の柱」を瞬きもできずに見つめ声を無くしていた。




「っ青竜様?!」


 息を切らして走りこんできた神官服の女性祭祀は石柱の上の青竜に声を上げた。

「天啓です!光の柱が、竜の涙に!!」

「———騒がしい」

 青竜の低い声に女性祭祀はひゅっと息を飲んだが、ひとつ息をつき呼吸を整えると神に仕えるものの矜持を思い出したように礼を取り口を開いた。

「申し訳ございません。水の神子様に、創世の神より、『渡り人』様が泉に現れるとのお告げありました。竜の涙への光の柱がその御印です。今すぐお迎えに参りたいと―――」

「・・・無能」

 相変わらずの自分への点数稼ぎだ。今ここで見えていることを先に知ったと偉ぶり告げるだけの、誰でも出来る神託を下すことしかできない自分に仕える不出来な水の神子を思い出し、青竜は冷たい目で祭祀を見下ろし言い放つ。


「我がいく。何人も近づけるな―――・・・ぬしらは、神殿内に控えるように。我が言葉を破りし者は、この地にあることを許さん」

 

 祭祀場の石畳に平伏する祭祀に構わず、青竜は軽く飛び上がると翼を広げ竜体へと変化し、光の柱に向かった。





◇ ◇ ◇


「最初、空から見えたお前の姿は、見えてはいたが、見えていなかった。『黒きもの』ではないと認識障害を掛けられたような・・・恐らく、創主に何か、護法を掛けられているのだろうな・・・」

 

 青竜と名乗ったそのままずばりの「青い竜」は耳元まで割れた大きな口で器用に笑んでそう告げてきた。

 笑うとかえって恐ろしい顔になることを彼は自覚していないのだろう。

 この極限の状況でも暁はそんなことを呑気に思っていた。

 護法。とはその言葉通りだろう。天狼からはマーキングと祝福の他に「お守り」も貰っている。

 「魂を守る」お守りと言っていたが、「黒きもの」が忌み嫌われるこの世界で、「黒い」自分を守ることも可能な便利アイテムでもあるということだろうか?

 だけれども、すでに認識障害の効力は切れてしまったらしい。安い護法だなあ。と暁は息をつく。

 すぐ切れる護法より、髪色を変えていけとか、もっと簡単でバレにくい対応を取ってくれることは出来なかったのだろうか。


 どういうスイッチで切れてしまうかわからないが、あの人も論外頭が足りないなと、天下の「さいしょの神様」を捕まえて暁はそんなことを思う。「この場をどう逃げたものか」と冷静に状況を分析しながら周囲を目線だけで見回す。

 現実ここでダッシュして逃げても足で踏まれて終わるだろう。

 青竜の足元を見てから、暁は顔を上げた。


「あんたが言う『鍵』がなんなのかオレにははわかないし、オレは違う世界からここに来たばかりで、この世界の何もわからない。なんにもできないと思う。他を当たってくれ」


 この世界に来てからまだ小一時間もたっていないのに、前の世界での1か月分くらいの言葉を話していると思う。

 正直、口が疲れてきた。

 と不意に思い出したことがあった。


 自分の『初回の記憶』のパスワードを解くためには、6匹の竜と会う必要があると、天狼が言っていなかったか?

 6匹の竜の絵本に出てきたのは6色の竜だ。

 その中には、青い竜が、いた・・・。


 目の前の竜がそうか。

 この面倒な竜との問答にもパスワードのヒントがあるのかもしれない。もしかしたら相手のいう『鍵』とやらも絡んでくる可能性がある。

 しかし、面倒だ。

 スイ以外の誰かとこんなに話したことはないし、竜となんて、いつも殺されるだけの間柄で、色が違うといっても竜は竜だ。苦手意識が先に立つのは致し方ないだろうと暁は考える。


「人間・・・大丈夫か?」

 腕の中の瑠璃がおずおずと小さく尋ねてきた。

 同じ竜でも、何故だろうか。この子は大丈夫だ。

 自分を助けてくれたからだろうか?でもそれだけではない気がするのは気のせいか?


 大丈夫だ。との意味も込めて、暁は瑠璃の頭を撫でてやった。


「瑠璃とオレはここを離れる。見逃してはくれないか?」

 一縷の望みをかけ尋ねてみるが、答えは予想通りだった。

「それは出来ない」


 青竜は、何故だか遠くを見るような、相手の気持ちもわからない自分でも見てわかるほどの、寂しいだけでは言い尽くせない慟哭の色をその眼に映していた。

「———我のただひとつの・・・アステルを・・・手にするためならば、どんな取るに足らんものでも取りこぼすわけにはいかん。それも、創主の遣わしたものであれば、なおさらだ」


 アステル?聞いたことのない言葉に首をひねっていると、瑠璃が呟いて教えてくれた。

「夜明けの東の空に輝く一番光る星の名前だ」

「また一番星か・・・」

 いい加減にしてくれと本当に思う。

 腕の中の瑠璃の体の温もりを感じ、この子を助けるための一手だけでも何かないかと、奸計をめぐらし一つの計略を思いつく。


「あんた、人型に戻れる?」


 急にそんなことを言い出した暁に青竜は大きな首を傾げた。

「何を言い出す?人型に戻ったところで、我の力はかわらんぞ」

「ずっと上を見上げて話すのはこちらの首が疲れるし、オレは竜が苦手で怖い。大型竜のあんたを前にしてまともな話もできやしない」

 ここまで十分怖がりもせず話しているだろう。との瑠璃のツッコミには構わずに暁は続けた。


「ひとつ話し合いをさせてもらいたい。取るに足らないオレでも、あんたには必要なんだろう?お互いの対価は、等価交換でお願いします」



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